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Ferreira ~南向き斜面のグラン・クリュ・ポート~ <ポート特集:Part2>
ポルトガル第二の都市ポルトで、ポート・ワインハウスのロッジ(貯蔵庫)を訪れて感心したのは、そのワインツーリズムとしての圧倒的な完成度と豊かさだ。 ポート自体が造られているのは、基本的にDouroだが、硬く分厚いシスト土壌の母岩を掘って広大な地下セラーを造ることは現実的ではなかったことから、歴史的にポートは船で(今はもちろんトラック)ポルトへと運ばれ、巨大な貯蔵庫での熟成を経て出荷されてきた。 ポルトを横断するドウロ川の南側に位置するヴィラ・ノヴァ・デ・ガイアには、高名なポート・ハウスのロッジやショップが軒を連ね、ギュスターヴ・エッフェル(パリのエッフェル塔で知られる)が設計した美しいマリア・ピア橋と並んで、ポルトの街を象徴する景色となっている。 今回の旅でロッジを訪問(Kopkeも訪れたが、ロッジ見学をしたのは系列ブランドのCálem)したのは、ポートの名門Ferraira。 1751年にフェレイラ家によって創立されたFerreiraは、19世紀に入るとドナ・アントニア・アデレイデ・フェレイラの辣腕によって名実ともにポート最上の一角へ

梁 世柱
2023年12月22日


Kopke ~北向き斜面のグラン・クリュ・ポート~ <ポート特集:Part1>
歴史深いポート最上のエリアとして名高い、ドウロ川中流域のCima-Corgo。 ドウロ川沿いの超急斜面に切り開かれた、壮大なテラス状の段々畑は圧巻そのもので、この風景がユネスコ世界遺産に登録されているということに、誰も異論など抱かないだろう。 このような場所を訪れるたびに、(少なくとも筆者が携帯しているカメラでは)写角に全く収まりきらない雄大な景色を、目と記憶にしっかり焼き付けるようにしている。 さて、本レポートの主役となる、最古参(1638年創業)のポート・ハウスであるKopke(コプケ)について語る前に、Douroにおける葡萄畑の格付けを解説しておこうと思う。 詳細は下の表にまとめてあるが、興味深い点をピックアップしておこう。 1948年、アルヴァロ・モレイラ・ダ・フォンセカによって確立されたDouroの葡萄畑格付けは、ワイナリー単位ではなく、葡萄畑そのものが対象となっているため、基本的にはブルゴーニュ方式だが、その範囲と評価方法はシャンパーニュ地方にかつて存在したエシェル・デ・クリュのそれに近い。 ...

梁 世柱
2023年12月21日


100年前からの贈り物 <ポルトガル特集:ダオン後編>
SommeTimes上で別府岳則氏が2021年にポルトガル特集記事を寄稿した際、氏はポルトガルのことを、「一周遅れでトップを走っているように見えるランナー」と表現した。 「一周遅れ」とは、パーカリゼーションを含む近代化に乗り遅れたことを意味し、「トップを走っているように見える」とは、結果的に古い伝統や混植畑を守ってきたことが、世界でも稀な価値となったことを意味する。 私にとって、今回の旅の大きな目的の一つは、現在のポルトガルワインが、氏が半ば疑問形で投げかけた「トップを走っているように見える」という状況通りなのか、それとも「本当にトップを走っている」のかを、自らの目と鼻と舌で確かめることだった。 先に結論を言おう。 私が体感したポルトガルワインの今は、もはや周回遅れでも、トップを走っているように見えるだけでもなく、真のトップランナーそのものであった。 全体像 ダオンもまた北部ポルトガルの通例に漏れず、葡萄畑は伝統的に多品種混植で仕立てられていたが、19世紀後半以降はフィロキセラ禍、モノポリー、クローン技術の進化、作業効率の重視、そして単一品種ワイ

梁 世柱
2023年12月4日


復活した銘醸地 <ポルトガル特集:ダオン前編>
初めての国を訪れる時は、いつも不思議な高揚感に包まれる。 雲のように掴みどころがないのに、カーテンの隙間から差し込む光のように、いつの間にか一点へと集約していく、どうにもチグハグな感情。 約1日かけた長旅を終え、私はついに降り立った。 ヨーロッパ最後の、ヴェールに覆われたワイン王国、ポルトガルに。 深夜にポルト空港へと到着し、慌ただしく迎えの車に乗り込む。 想像していたより、遥かに綺麗に舗装された、滑らかな道が続く。 長旅による眠気と疲れ、体の節々を襲う鈍痛、周囲を覆う暗闇、車内を流れるポルトガル・ミュージック。 初めて目にするはずの風景を楽しむこともなく、車は淡々と走り続けた。 単調で抑揚のない時間が、私の緊張をなだめていく。 1時間半後、ようやく最初の目的地に到着した。 かつてローマ街道の要所として栄えた古都Viseu(ヴィゼウ)、そして、ポルトガル屈指の銘醸地として名高い、Dão(ダオン)だ。 注:日本ではDão=ダンと表記されるケースが多いが、現地の発音を重視し、SommeTimesでは一貫してダオンと表記する。 南のブルゴーニュ...

梁 世柱
2023年11月29日


サントリーニの今 <ギリシャ・サントリーニ特集:後編>
サントリーニ特集後編は、各生産者を取り上げながら、今のサントリーニの多様な姿に迫ってみたい。生産者の数も限られる小さな島ではあるが、それぞれが独自のスタイルと哲学をもったワインを作っているのが、この島の魅力である。 先ずはサントリーニという産地を語る上で、特に重要な造り手を挙げよと言われたらまず名前の上がる二人、ハリディモス・ハツィダキスとパリス・シガラスから始めよう。 サントリーニのぶどう畑は細かく細分化されて所有されており、全体で概ね1,200の栽培農家がいる。全ての農家は1911年に設立された唯一の協同組合であるサント・ワインズに加盟しており、長らくこのワイナリーが島を代表する生産者でもあった。 他のギリシャの産地と同様に、少しずつ状況が変わってきたのは近年になってからである。彼らのようなスター生産者の登場がその大きなきっかけとなったのは論をまたない。 ハリディモス・ハツィダキス (コンスタンティーナ・ハツィダキス) 観光客で混雑するサントリーニ空港でUberを捕まえて約20分、一面クルーラ仕立ての畑を過ぎ、ワイナリーに到着する。周りにはほ

別府 岳則
2023年10月28日


アシルティコと小さな島 <ギリシャ・サントリーニ特集:前編>
首都のアテネからプロペラ機で約40分。エーゲ海と点在する島々をしばらく眺めていると、あっというまに飛行機はサントリーニへの着陸準備を始める。小さなプロペラ機は強い風に左右にふらふらと揺さぶられながらなんとか着陸し、タラップを降りると6月だというのに真夏のような強い日差しと、先ほど飛行機を揺さぶった強風が出迎えてくれた。 世界の白ワインの中でも、特にその特異性と品質の高さで知られているのが、このサントリーニのアシルティコである。どのボトルを飲んでも共通するのは、その強靭なミネラリティ、そして高い酸とアルコール。この産地がワールドクラスの白ワイン産地であることに、今さら異論を挟む余地はほとんどないだろう。 クルーラという世界でも例のない特殊な栽培方法や、ほとんどが自根の樹齢100年を軽く越すようなブドウ樹が、今でも多く残されていることなども相まって、サントリーニはギリシャを代表する高品質ワインの産地として世界で知られることとなった。また、アシルティコは今ではエーゲ海の島々を飛び出し、ギリシャの大陸側でも広く栽培されるようになり、こちらもまた品種として

別府 岳則
2023年10月13日


道の交わる地 <カンパーニャ州:サンニオ地方特集>
omnes viae Romam ducunt. 全ての道はローマに通ず。 古代ローマ帝国時代に、ヨーロッパ中の主要都市からローマへと道が繋がっていたことから、17世紀の詩人ラ・フォンテーヌが、「起点や手段に関わらず、全ては一つの真理へと集約していく」ことを意味するものとし...

梁 世柱
2023年9月30日


決別の先へ <Alsace Grand Cru特集:Part.3>
気候変動と温暖化が猛威を振るう中、アルザスの輝かしいGrand Cruは、その栄名に見合った魅力を発揮し続けることができるのか。 私がAlsace Grand Cruの特集を組んだのは、極私的な疑問がきっかけだった。 改めてアルザスと真摯に向き合い、膨大な数のGrand Cruに関する記憶と記録を辿り、現在の酒質を確認し続ける中、私は確信に至っている。 このままではダメだ、と。 いや、正確に言うと、今この瞬間はまだ、問題ないどころか、品質は限りなくピークに近い領域へと到達している。 端正な辛口、という古い価値観に縛られさえしなければ、現在のAlsace Grand Cruは総じて、歴史上最高品質にあるとすら言えるだろう。 しかし、おそらく、いやほぼ間違いなく、ここがピークだ。 これ以上温暖化が進めば、いかにGrand Cruといえど、決壊したダムのように、急速に崩れていくことは避けられないだろう。 Part.2の冒頭では、糖度を基準にした追加表記に関して深く言及したが、本稿では認可品種の再選定と、アッサンブラージュの是非について、追求していく。.

梁 世柱
2023年9月12日


太陽の丘 <Alsace Grand Cru特集:Part.2>
最大アルコール濃度規定が大きな壁として立ちはだかっている。 Part.1で述べたアルザス最大の問題点に対して、いくつかの解決策が実行、模索されているが、その中でも残糖度に準じた追加表記の義務化は、大きな議論を巻き起こしている。 個人的に、追加表記の導入自体は正しいステップだと心から思うのだが、問題はその中身だ。 現状を再確認するために、相当数のアルザス産ワインで、過去5年間のヴィンテージを中心にアルコール濃度を調査したが、リースリングとミュスカは上限の13%(もしくは特例の13.5%)、ゲヴュルツトラミネールとピノ・グリも上限の15%(同様に15.5%)と表記されているケースが、大多数を占めた。 つまり、大前提として、アルザスにおいて、規定範囲内での完全辛口発酵が極めて難しくなっている事実が、改めて確認できたということだ。 この大前提をもとに、追加表記に関してより深く考えてみると、様々な問題点や疑問点が確かに浮かび上がってくる。 Sec(~4g/L) demi-sec(4~12g/L) moeulleux(12~45g/L) ordoux(45g

梁 世柱
2023年9月1日


揺れ動くヒエラルキー <Alsace Grand Cru特集:Part.1>
フランスとドイツの国境に位置するアルザス地方は、私にとっては特別な場所だ。 ワインを学び始めた時、当時はまだまだフランスワインが世界のスタンダードであったため、私も例外なくフランスからスタートした。 しかし、何かとすぐに脇道へ逸れたがる性格故か、最初に私が興味をもったのは、ブルゴーニュでもボルドーでもシャンパーニュでもなく、アルザスだったのだ。 そう、私のワイン人としての歩みは、アルザスと共に始まったと言っても良い。 初めて激しく心を揺さぶられた「グラン・ヴァン」も、アルザスのワイン(Marcel DeissのSchoenenbourg)だった。 Alsace 何が私をアルザスへと導いたのか、あまり記憶が定かではないが、おそらくその「歴史的背景」がそうさせたのだろう。 アルザスの歴史を辿ると、いかにこの地が権力者たちの争いに、深く、そして理不尽に巻き込まれてきたかが分かる。 西暦870年に、東フランク王国(後に神聖ローマ帝国、ドイツ帝国、現在のドイツへと繋がる一大国家)の一部となったアルザスは、最後にして最大の宗教戦争と呼ばれた「三十年戦争」終結

梁 世柱
2023年8月15日


テロワールと葡萄 <Languedoc特集:後編>
優れたテロワールから、凡庸なワインが生まれることは少ない。 凡庸なテロワールから、優れたワインが生まれることも少ない。 時折、テロワールの高き壁を突破したかのような造り手に出会うこともあるが、そんな天才がそこら中に転がっているわけなどない。 ワインという飲み物と、常にセットで語られるこのテロワールというものの正体は、温情のかけらも無い、徹底的に非寛容な存在なのだ。 ラングドックの重要AOP 前編では、筆者が私見に基づいて改変した、ラングドック地方のAOP格付けをご紹介した。 わざわざ公式なものを改変した理由はただ一つ、「テロワールは嘘をつかない」と私が信じているからだ。 より優れたテロワールに、適切な葡萄が植えられていれば、(ある意味極論ではあるが)よほど稚拙な仕事をしない限り、その偉大さは必ずワインに宿る。 ブルゴーニュの特級畑モンラッシェなどは、その良い例だろう。 モンラッシェという偉大なテロワールを前にしては、多少の実力差など、誤差程度の変数にしかならない。 後編となる本編では、格付けでリストアップしたAOPの中から、特に重要度が高いと判断

梁 世柱
2023年7月31日


未来の担い手 <Languedoc特集:前編>
ワイン王国フランス。 おそらく、ワインを学んできた人々の大多数が、最初にその知識を深めた国だ。 もちろん、生産量世界一位の座をもう一つのワイン王国であるイタリアと毎年のように競いあっているフランスが、世界で最も重要なワイン産出国の一つであることには、疑いの余地もない。 また、ニュー・ワールド諸国で栽培されている主要葡萄品種のほとんどが、「フランス系国際品種」(そのオリジンはさておき)に該当するという点においても、フランスが世界的なワインの「基準」となっていることも事実。 さらに、テロワールの横軸(差異)と縦軸(優劣)の両方において、「格付け」、「原産地呼称制度」というアイデアを高次元で先導してきたのもフランスだ。 このように、ワインという飲み物を世界規模で理解する(イタリア、スペインなど、特定の国に専門化した場合はその限りでは無い)のであれば、確かにフランスは避けて通れない。 世界的銘醸地とされるシャンパーニュ、ボルドー、ブルゴーニュの名声は天よりも高く、ロワール、アルザス、ローヌ、プロヴァンス、ジュラなどもじっくりとその地盤を固めてきた。 まさ

梁 世柱
2023年7月14日


アルゼンチン テロワールと品種の探求(後編)
前編の最後にお見せしたこの写真から、後編を始めようと思う。 アルゼンチンの今の品種の多様性を端的に表しているこの写真だが、実はそれに留まらない。全てウコ・ヴァレーのワインだが、品種名の下にはその生産地区の名前が書かれているところに注目してほしい。 セミヨン(トゥプンガト)、シュナン・ブラン(ビスタ・フローレス)、ソーヴィニヨン・ブラン(トゥプンガト)、アルバリーニョ(サン・パブロ)、ベルデホ(サン・パブロ)、カベルネ・フラン(サン・パブロ)。 これが今のアルゼンチンを表すもう一つの多様性、つまりテロワールである。 アルゼンチンのワインにテロワールを感じたことがあるだろうか? メンドーサはどこでも一緒だと思っていないか? ウコ・ヴァレーの名前を聞くことはあっても、その特徴とはなんだろうか? そして、アルゼンチンにグラン・クリュは存在するのだろうか? メンドーサ 前編でも説明したようにアルゼンチンは4つの産地に大別されるが、最も重要な産地はクヨだ。なぜか。 単純な理由である。アルゼンチンのブドウ畑の95%がここにあるのだ。 さらにクヨはラ・リオハ、サ

別府 岳則
2023年6月28日


アルゼンチン テロワールと品種の探求(前編)
ワインの世界におけるアルゼンチンの存在は、我々が思っている以上に大きい。2021年の国別のワイン生産量では1,250万hLで7位。オーストラリア(1,420万hL、5位)やチリ(1,340万hL、6位)とほぼ並んで南半球最大の生産量を毎年争っている。 1,060万hLで8位だった南アフリカも含め、これだけ生産量がある国なら、そのワインも一般的には多様だ。 例えばオーストラリアは、フルボディで甘いシラーズの画一的なイメージから、完全に脱却したと言っていいだろう。ヨーロッパがすっぽり入るだけの巨大な国土に散らばる、産地や品種の多様さは枚挙にいとまがない。 チリはいまだにスーパーマーケットの棚の大きな部分を占める、低価格なヴァラエタルワインの産地ではあるが、フンボルト海流とアンデスに挟まれた特殊な気候条件や、北のアタカマ、南のイタタやビオビオなどのテロワールへの理解も少しずつ進んできている。新しい品種なら、特にイタタやビオビオのパイスやサンソー、マスカットが注目だ。 南アフリカ?今更言うまでもなく、日本のマーケットで今最も注目されている国の一つだろう。

別府 岳則
2023年6月13日


葡萄樹と共に <トスカーナ特集:Montalcino編 Part.2>
E掴めそうなのに、手をすり抜けていく。 蜃気楼のように、神秘と現世を往来し、奇跡の残り香だけが、かろうじてその実在を示唆する。 グラスに注がれた美麗なルビー色の液体は、まだ私に真実を語ってくれない。 ならば、確かに存在しているものを、先に理解するべきなのだろう。 今回のAnteprima展示会(新ヴィンテージのお披露目)には、モンタルチーノは含まれていなかったが、私は前倒しでトスカーナ入りし、モンタルチーノで数日間過ごすことにした。 久々のイタリアというのもあり、次の機会をどうしても待てなかったのだ。 本章は、モンタルチーノという産地の解説でも、Brunello di Montalcinoというワインのレヴューでもない。モンタルチーノで訪れた造り手たちと私が話したことの、純粋な記録となる。 Stella di Campalto (Podere San Giuseppe) モンタルチーノを訪れると決めた時、真っ先にアポイントメントを取ったのが、ステッラ・ディ・カンパルトが率いるPodere San Giuseppe(銘柄名:Stella di Ca

梁 世柱
2023年5月31日


名声と呪縛 <トスカーナ特集:Montalcino編 Part.1>
あくまでも個人的には、としておくべきだろう。 私がこれまでにテイスティングしてきた膨大な数のサンジョヴェーゼの中から、仮にトップ10を選ぶとしたら、少なくとも上から3つは確実に、Brunello di Montalcinoがランクインする。むしろ4位から下は候補があり過ぎて、選定が難航するのは間違いない。つまり私は、Brunello di Montalcinoに対して、頭一つも二つも抜けた評価を、個人的にはしてきたことになる。 他者の評価や、世間的な名声ではなく、自身の体験に最大の重きを置く普段の私なら、Brunello di Montalcinoこそがトスカーナ最上のサンジョヴェーゼである、と断言してもおかしくは無いのだが、私はまだ確信にも核心にも至ってない。 なぜBrunello di Montalcinoに、これほどまで心惹かれてしまうのか。 なぜBrunello di Montalcinoが、Chianti ClassicoとVino Nobile di Montepulcianoを上回っていると感じることが多いのか。 実はその理由が、私

梁 世柱
2023年5月25日


儚く、美しいワイン <トスカーナ特集:Montepulciano編>
なぜかいつも忘れられている。 Vino Nobile di Montepulcianoは、そういうワインだ。 トスカーナ州のサンジョヴェーゼから造られる三大赤ワインの一つでありながら、最も語られることが少ない、地味な存在。 ワインのプロフェッショナルであっても、同州のサンジョヴェーゼを選ぶなら、Chianti ClassicoかBrunello di Montalcinoのどちらかから、真っ先に探す人が大多数だろう。 場合によっては、一部のサンジョヴェーゼ系スーパー・トスカンの影にすら隠れている。 日本語に直訳すると、「モンテプルチャーノの高貴なワイン」という実に覚えやすい名称だが、横文字のままだと、どうにも長い。 Vino Nobile di Montepulcianoにとって、Montepulcianoは地名を意味しているが、他州には同名の葡萄品種があり、生産量もかなり多いため、なんともややこしい。 確かにライバル産地に比べると、生産者の数も生産量も少ない。 さて、これらはVino Nobile di Montepulcianoが忘れられがち

梁 世柱
2023年4月29日


飛躍の時 <トスカーナ特集:Chianti Classico編 Part.3>
Chianti Classico Collectionでの二日間を終えた時、私は不思議な高揚感に包まれていた。 極限まで集中したテイスティングを、連日8時間近く休みなく続け、舌も足も思考も、疲弊しきっていたはずなのに、私は妙に興奮していたのだ。 4年前の辛酸を晴らすべく、地道に研究を重ねてきたChianti Classico。 その答え合わせをひたすら繰り返した2日間。 確信に変わった数多くの仮説。 新たな発見。 未知のワインとの出会い。 新世代の躍動と、ベテランのプライド。 複雑に絡み合う思惑。 そして、思い知らされたChianti Classicoの偉大さ。 会場で見聞きした全てが、私を刺激し続けていたのだ。 Chianti Classico編最終章を執筆するにあたり、私は今、安堵感と共に、寂しさに似た感情を抱いている。 2020年代のワイン産業 新型コロナ禍の本格化と共に幕を開けた2020年代。様々なワイン関連ニュースも飛び交ったが、その中でも最もインパクトが大きかったのは、間違いなくボルドーの話題だろう。 2021年後半にC.I.V.B(

梁 世柱
2023年4月14日


キアンティの頂 <トスカーナ特集:Chianti Classico編 Part.2>
膨大に積み重ねられてきた歴史の最先端を生きている我々は、先人達が苦難の末に辿り着いた偉業にフリーアクセスできる。 ワインの世界においても、偉業とすべき成果は数多存在しているが、その中でもいつも私が心惹かれるのは、中世を生きた先人たちが会得した、優れたテロワールを見定める秘術だ。 現代では銘醸地となった地の多くが、その最初期は決して大きな産地ではなかった。 そして不思議なことに、最初期、つまりオリジナルの葡萄畑があるエリアは、現代においても、最上の地であることが多い。 歴史深いChianti Classico。 そのオリジナルたるエリア。 知る必要がある、理解する必要がある。 Chianti Classicoの真髄に、一歩でも近づくためには。 Chianti Classicoの領域 Chianti Classicoは、トスカーナ州内のサンジョヴェーゼ銘醸地としては、最も北側に位置する産地の一つとなる。 単純に最も冷涼と考えたいところだが、実際には複雑かつ多様なマイクロ気候が形成されているため、その理解は誤解を招きやすいだろう。 南北に47km、東西

梁 世柱
2023年4月1日


大いなる前進 <トスカーナ特集:Chianti Classico編 Part.1>
代わり映えしないフィレンツェの街並み。 街中に張り巡らされた、妙に洗練された路面電車。 荘厳と佇むサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂。 見覚えのあるホテル。 苦々しい記憶が徐々に蘇ってくる。 再訪を強く望んできたのに、私の心には嬉しさなど一欠片も宿っていなかった。 そう、トスカーナは4年前の私に、随分と長引いた敗北感を刻んだ地だったからだ。 トスカーナワインに関する知見と経験が根本的なレベルで足りなかった当時の私に、高貴なサンジョヴェーゼは分厚い壁となって立ちはだかった。 不安げにスワリングを繰り返すグラスの中に、確かにあったはずの真理。 私はそこへついぞ到達できぬまま、帰路についた。 ワイン人として次のステージへ進むために、私が乗り越えねばならない試練を残したまま、4年という時間だけが、無情に刻まれ続けてきた。 久々に降り立ったフィレンツェに私がもち込んだのは、覚悟だった。 再び敗北を味わうことになったなら、求道者として大きな回り道を強いられると。 サンジョヴェーゼ 長らくの間、私はイタリアに数多くある地場黒葡萄品種の中でも、ネッビオーロを

梁 世柱
2023年3月16日
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