最大アルコール濃度規定が大きな壁として立ちはだかっている。
Part.1で述べたアルザス最大の問題点に対して、いくつかの解決策が実行、模索されているが、その中でも残糖度に準じた追加表記の義務化は、大きな議論を巻き起こしている。
個人的に、追加表記の導入自体は正しいステップだと心から思うのだが、問題はその中身だ。
現状を再確認するために、相当数のアルザス産ワインで、過去5年間のヴィンテージを中心にアルコール濃度を調査したが、リースリングとミュスカは上限の13%(もしくは特例の13.5%)、ゲヴュルツトラミネールとピノ・グリも上限の15%(同様に15.5%)と表記されているケースが、大多数を占めた。
つまり、大前提として、アルザスにおいて、規定範囲内での完全辛口発酵が極めて難しくなっている事実が、改めて確認できたということだ。
この大前提をもとに、追加表記に関してより深く考えてみると、様々な問題点や疑問点が確かに浮かび上がってくる。
Sec(~4g/L)
demi-sec(4~12g/L)
moeulleux(12~45g/L)
ordoux(45g/L~)
という4階層の追加表記の中で、特に問題があるのはSec(*)となる。
そう、最大アルコール濃度規定と、このSec表記規定が、完全なミスマッチを起こしているのだ。
温暖化が激化する現在の気候条件のもと、最大アルコール濃度規定を守りながら、Secとして表記するためには、フェノールの熟度を無視して、糖度だけを指標にかなり無茶な早摘みを行う必要が出てくるだろう。
このミスマッチは、熟度が上がらない、つまりランクの低い葡萄畑であれば大した問題にはならないが、Grand Cruにとっては、極めて重大な問題となりえる。
フェノールが足りない、ドーナツのように中身のないGrand Cruなど、誰が喜ぶのだろうか。
この問題を解決するためには、少なくとも、リースリングとミュスカに関しては、Sec表記に限って、アルコール濃度の上限を引き上げるべきだと考える。
また、ゲヴュルツトラミネールとピノ・グリに関しては、そもそもこの追加表記が必要なのか、という疑問も湧いてくる。
この二品種に関しては、現状でも上限いっぱいのアルコール濃度に達しつつ、相当な残糖が残る中で、わざわざ販売が難しくなるdemi-sec以上の表記を義務付けられるのは、かなり酷なことだ。
15%以上の発酵も、バランスを考えれば現実的ではないため、上限の引き上げも有効な手段とはならないだろう。
アルザス産のゲヴュルツトラミネールとピノ・グリの中でも、特にGrand Cruのものは残糖があって当たり前、と認識が書き換えられれば簡単に解決する話ではあるのだが、ドイツのリースリングが何十年かけても、いまだにそのイメージを塗り替えきれてないことを鑑みれば、どうしても超長期戦は避けられないだろう。
総合的に考えれば、ゲヴュルツトラミネールとピノ・グリは、追加表記を義務ではなく任意とした方が良いと思うのだが、なかなかそうもいかないのが、アルザスのリアルだ。
(*)余談だが、今年に入って、Sec以外は葡萄品種をラベルに明記できないという、愚案中の愚案が提出されたとのことだが、数多くの小規模生産者たちからの猛反発にあって、採用されるかは不透明となっている。もしこのような規定が導入されたりでもしたら、アルザスにとって、終わりの始まりを意味すると、筆者は考えている。
51のGrand Cru
前編では、Alsace Grand Cruが抱える問題の本質は、その数では無く広さであると述べたが、「理解がなかなか進まない」という点においては、数が巨大な壁として立ちはだかる。
それもそうだ。
理解をする、というのは名前を覚えることとイコールでは決してない。
ただ暗記されただけの名称が、記号としての機能を果たしきれないのは、当然のことである。
例えば、
『MusignyはChambolle-Musigny村にあるGrand Cruの一つ。』
という情報が、実体験、もしくはMusignyのテロワールとティピシテ、およびMusignyを手掛けている生産者の把握といった、より詳細な情報による肉付けを無しにしては、ほとんど意味をなさないことは、十分に理解できるかと思う。
上記の情報だけで、実際の味わいを想像できるのは、実体験をした人だけだからだ。
とはいえ、51もあるAlsace Grand Cruの全てを、その詳細も含めて理解し、記憶するのは簡単ではないし、実際のワイン生活においてどこまで役に立つか、という意味でも疑問点は多々残る。
こういう時には、体系的に整理し、取捨選択をしつつ、可能な範囲から理解を進めていく、という明確なタクティクスが必要だ。
以降、51のAlsace Grand Cruを全て解説していくが、まずは土壌タイプごとに、以下の11カテゴリーに整理していることを理解した上で、最初の取捨選択を行なっていただきたい。
1. 花崗岩土壌
2. 花崗岩・片麻岩土壌
3. 片麻岩土壌
4. 火山性土壌
5. 砂岩土壌
6. 石灰質土壌
7. 石灰岩・砂岩土壌
8. 泥灰土・石灰岩土壌
9. 泥灰土・石灰岩・砂岩土壌
10. 泥灰土・粘土質土壌
11. 泥灰土・砂岩土壌
この11カテゴリーの中で、最も重要性が高いのは以下の4カテゴリーとなる。