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再会 <108> 超現代的リースリング
Weingut Hermann Dönnhoff, Niederhäuser Klamm Riesling Kabinett 2022. トレンドは、一直線には進まない。 ある方向へ勢いよく進み、やがて飽和する。 すると、人々は突然その価値に疑問を抱き始める。 あまりにも使い回された「絶対」は、やがて退屈に変わる。 だから流行は揺り戻す。 しかし、その揺り戻しは、単なる逆走ではない。 過去へ戻るように見えて、実際には少し違う場所へ着地している。 一度獲得した知識や技術、美意識を身体のどこかに残したまま、かつての価値をもう一度見直す。 だから、二度目に現れる「昔」は、最初の昔とは別物だ。

梁 世柱
3 日前


ガスパチョの夏感を活かすペアリング
夏の定番料理として知られる、ガスパチョ。 よく冷えたガスパチョを口に含んだ瞬間に感じるのは、火を通さない野菜だけが持つ、少し荒い生命感だ。 トマトの酸味、きゅうりの青さ、ピーマンの青苦さ、玉ねぎの辛み、にんにくの強さ。 そこにオリーブオイルのなめらかさと、ヴィネガーの鋭い酸が重なる。 ガスパチョは、単なる冷たいトマトスープではない。 むしろ、サラダが液体になった料理だ。 夏野菜を噛む代わりに、飲む。 冷たさはすっと身体に入り、酸は乾いた喉を刺激し、青い香りが鼻の奥に抜けていく。 ここには、夏の食欲を無理に奮い立たせるような強さはない。 むしろ逆だ。 暑さで気だるくなった身体を、少しずつ軽い方向へ戻してくれる。 火を使った料理のように香ばしさで引っ張るのではなく、生の野菜が持つ水分と酸で、食卓に涼風を運んでくる。 ガスパチョは軽やかだが、決して単純ではない。 爽快感の中に潜む、少しだけ攻撃的な尖り。 そこをしっかりと捉えないと、ペアリングは成功しない。

梁 世柱
4 日前


難しい言葉の甘い香り
ワイン業界は、なぜこんなにも難しい言葉を愛してしまうのか。 ミネラル。テンション。エネルギー。 透明感。躍動感。垂直性。 そしてテロワール。 もちろん、それらの言葉がすべて無意味だと言いたいわけではない。 むしろ、私はその多くを日常的に使っている。 ミネラルという言葉に助けられたことは何度もあるし、テンションという一語でしか掴めない質感もある。 エネルギーという表現でなければ伝えきれない、液体の中の妙な動きも確かに存在する。 そして、テロワールは幻想ではなく、現実に作用しているものだと信じている。 だからこれは、外側から石を投げるための文章ではなく、かなり内側にいる人間としての、自戒である。 問題は、難しい言葉そのものではない。 本当の問題は、その言葉が誰に届くのかを、こちらが考えなくなった瞬間から始まる。

梁 世柱
5 日前


SommeTimes’ Académie <147>(イタリア・アブルッツォ州5: Tullum)
アブルッツォ白の支流 Terre Tollesi / Tullum D.O.C.G.で知る、PecorinoとPasserina アブルッツォ州の白ワインを学ぶとき、まず押さえるべき呼称は Trebbiano d’Abruzzo D.O.C. です。 ただし、この州の白はTrebbianoだけではありません。 より小さな範囲の中で、PecorinoとPasserinaという別の白葡萄に光を当てるD.O.C.G.があります。 それが、Terre Tollesi / Tullum D.O.C.G. です。 Tullumは、キエーティ県Tolloに限られた小さなD.O.C.G.。 決して目立つ存在ではありませんが、アブルッツォの土着白品種を理解するうえでは、見落としたくない存在です。

梁 世柱
7 日前


出会い <107> 地場ワインの特設ステージ
Garofoli, Verdicchio dei Castelli di Jesi Classico Superiore “Serra Fiorese” 2021 長い年月、食卓を共にしてきた、同郷のワインと食を組み合わせる。 クラシックペアリングの大原則がもつ魅力は、美食的完成度だけではない。 郷土ペアリングという強固な文脈は、時に、ややマイナーなワインにさえ、強い光を当てる。 何かのきっかけがなければ、強い興味も関心も持たなかったかも知れないようなワインが、当たり前のように目の前にある。 そういう状況を、簡単に生み出すことができてしまうのだ。

梁 世柱
7月5日


水茄子を美味しく味わうペアリング
初夏を彩る食材の一つ、水茄子。 その魅力は、名前の通り、水にある。 もちろん、ただ水分が多いというだけではない。 水茄子を口に入れた瞬間に感じるのは、夏そのものが弾けるような瑞々しさだ。 皮は薄いが、張力がある。 パリッとしたファーストアタックのあと、食感はすぐにやわらかくなる。 もう一段深く噛むと、細胞の奥に抱え込んでいた水分がジュッとあふれ、青い香りとほのかな甘みが舌の上に広がる。 どこか火を待っている気配がある普通の茄子とは、あまりにも異なる野菜だ。

梁 世柱
7月3日


親愛なる純米酒愛好家へ
日本酒の世界には、純米酒以外を認めない人々がいる。 皮肉を込めて、あえて純米酒原理主義者と呼ぼう。 純米酒が好きだというだけなら、何の問題もない。 米と米麹と水だけで造られた酒の「純粋さ」に魅力を感じる。 醸造アルコールを使った酒よりも、純米酒の旨味、ふくらみ、やさしさを好む。 その気持ちは十分すぎるほど理解している。 そもそも、酒の好みは自由だ。 純米酒だけを飲む自由もある。 純米酒だけを扱う店があってもいい。 純米酒に造り手の思想を見出し、そこに深く共感する飲み手がいてもいい。 私が問題視しているのは、そこではない。 問題は、純米酒への嗜好が、いつの間にか他の酒を裁くための木槌に変わることだ。

梁 世柱
7月2日


SommeTimes’ Académie <146>(イタリア・アブルッツォ州4: Trebbiano)
奥深いグラデーションで魅せるアブルッツォの白 アブルッツォ州のワインにとって、Montepulcianoから造られる赤やロゼの存在感はとても大きなものですが、この州にはもう一つの重要な存在があります。 Trebbiano d’Abruzzo D.O.C. です。 Trebbianoという名前には、どうしても軽く、時に薄い日常的な白、あるいは大量生産的な白という印象がつきまといます。 実際、イタリア各地でTrebbianoの名を持つ葡萄やワインは広く見られ、すべてが個性的な白として語られるわけではありません。 しかし、Trebbiano d’Abruzzoは、それだけで片付けるには惜しいほど、優れたポテンシャルを有するワインです。

梁 世柱
6月30日


再会 <107> プレミアムカジュアルという違和感
Domaine Atsushi Suzuki, Passetoutgrain 2019. 現在、北海道余市において、Domaine Takahikoに次ぐスター生産者は?と問われると、多くの人がこの名を挙げるだろう。 Domaine Atsushi Suzuki。 北海道余市町登町に拠点を置く小規模ワイナリーで、造り手は鈴木淳之。 Domaine Takahikoで研修を積んだのち、2010年代半ばに独立した。 畑と醸造の規模は大きくないが、その経歴と、注目度の高い余市という産地性も相まって、日本ワイン愛好家の間では早くから注目されてきた存在だ。 畑は余市町登町にあり、ケルナー、ツヴァイゲルト、ミュラー・トゥルガウ、ピノ・ノワールなどを栽培している。 冷涼な気候を背景に、力強さよりも調和を重視したワイン造りが特徴的だ。 醸造所には、かつてリンゴの貯蔵庫として使われていた札幌軟石の石蔵を改装した建物が用いられており、余市という土地の農業的な背景ともつながりを持つワイナリーである。

梁 世柱
6月27日


カキフライと変化球ペアリング
カキフライは、オムライス、ハンバーグ、ナポリタンなどと並ぶ、日本の洋食を代表するメニューの一つ。 実は、牡蠣という食材そのものは、日本で古くから親しまれてきた。 一方で、パン粉をまとわせ、油で揚げ、レモンやタルタルソース、ウスターソースと一緒に食べるカキフライは、明治以降の洋食文化の中で育った料理だ。 タルタルのふわっとした感触の直後にくる外側の衣は、サクッと香ばしい。 内側はふっくらと熱を帯び、噛んだ瞬間に、牡蠣の旨味と潮の香りがじゅわっと広がる。 カキフライの魅力は、そのドラマチックな食感と風味の展開にこそあると私は思う。

梁 世柱
6月26日


水を差すジャーナリズム
どんなワインを造っても、それは造り手の自由。 どんなワインを好きだと言っても、それは飲み手の自由。 どんなワインにこだわって販売しても、それは売り手の自由。 その通りだ。 まったく、その通りだと思う。 ワインは、解答の用意された試験ではなく、誰かの好みを裁判所に引きずり出すような飲み物でもない。 それぞれがもつ「選択の自由」に外側から手を突っ込み、「これは正しい」「これは間違っている」と乱暴に決めつけることは、たしかに傲慢だ。 だが、問題はその先にある。 自由は、否定されるべきものではない。 しかし、自由を印籠のように掲げれば、すべての問いから逃れられるわけでもない。

梁 世柱
6月25日


SommeTimes’ Académie <145>(イタリア・アブルッツォ州3:Cerasuolo)
中部イタリアを代表するロゼの名品 アブルッツォ州の赤ワインを語るうえで、最も重要な葡萄は Montepulciano です。 そして、そのMontepulcianoから造られるワインの代表格としては、Montepulciano d’Abruzzo D.O.C. が挙げられますが、アブルッツォ州において、この葡萄にはCerasuolo d’Abruzzo D.O.C. という全く別の重要な表現があります。 Cerasuolo d’Abruzzoは、Montepulcianoから造られるロゼ(イタリア語では、ロザート)です。 ただし、淡く軽やかなロゼを想像すると、少し違います。 色はしっかりと濃く、果実味が豊かで、ロゼでありながら赤ワインに近い厚みを感じることもあります。 つまりCerasuolo d’Abruzzoは、淡く爽やかなロゼではなく、Montepulcianoの色、果実味、軽いタンニンを受け止めた、力強いロゼです。

梁 世柱
6月23日


出会い <106> 名声の中に
Ramiro Ibáñez, UBE Caserío de Miraflores Alta 2024 ここ十数年、スペインワインの地図はずいぶん忙しくなった。 かつてはリオハ、リベラ・デル・ドゥエロ、プリオラート、リアス・バイシャスあたりを押さえておけば、ひとまず話が通じた。 だが今はそう簡単ではない。 世界を驚かせたビエルソの赤、地中海の熱と野性を抱えたカタルーニャ、高標高と古木が生むグレドスの赤、火山島が育む強烈な個性をまとったカナリア諸島。 次々と新たなスター産地候補が、スマッシュヒット的に登場している。 しかし、日本ではまだ話題になりきっていない、隠れた存在が一つある。 アンダルシアだ。

梁 世柱
6月20日


バインセオと夏系ペアリング
バインセオを知っているだろうか。 バインセオは、南部ベトナムを代表する、非常にポピュラーな料理。 日本では、ときに「ベトナム風お好み焼き」のように紹介されるが、見た目も食べ方もたいして似ていないので、個人的にはあまり好きな呼び方ではない。 バインセオはまず、米粉を溶いた生地を薄く焼き、豚肉や海老、もやしなどを包み込む。 生地にはターメリックが加えられることが多く、鮮やかな黄色に焼き上がる。 薄く焼かれた米粉の皮は、パリッと香ばしく、軽い。 そこに豚肉の脂、海老の甘み、もやしのみずみずしさという異要素が、完璧な調和で重なる。

梁 世柱
6月19日


SommeTimes’ Académie <144>(イタリア・アブルッツォ州2: Montepulciano後編)
Montepulcianoの別解 前編では、アブルッツォ州の赤ワインの入口として、Montepulciano d’Abruzzo D.O.C. を見ました。 広域D.O.C.であるMontepulciano d’Abruzzoは、カジュアルな文脈の中でも、軽快な赤から熟成によって厚みを見せる赤まで、表情の幅が広いことに特徴があります。 一方で、アブルッツォ州には、より小さな範囲で定められたMontepulciano系も存在しています。 北部の Colline Teramane Montepulciano d’Abruzzo D.O.C.G.。 新しく独立した Casauria D.O.C.G.。 キエーティ近郊の小さな Villamagna D.O.C.。 この三つは、同じMontepulcianoを、より限定されたテロワールの中で捉えることができる原産地呼称です。

梁 世柱
6月16日


高級ビールを嗜む <5> West Coast Brewing
日本は、豊かなビール文化を育んできた国だ。 だから、ビールにおける「日本らしさ」そのものを否定するつもりはない。 暑い日に、よく冷えたラガーを喉へ流し込む。 焼き鳥の煙に混じる脂の香り、枝豆の表面でざらつく塩、仕事を終え、食事へと入る瞬間を整えるための一杯。 あの速度、あの潔さには、確かに日本の生活と深く結びついた美しさがある。 ただ、今回はそういうビールの話ではない。

梁 世柱
6月14日


ポルケッタとのクラシックペアリング
近年、日本のイタリア料理店で見かける機会が増えた料理の一つが、ポルケッタだ。 ポルケッタは、イタリア中部を代表する豚肉料理。 豚肉を開き、塩、コショウ、ニンニク、ローズマリー、フェンネル、セージなどのハーブを擦り込み、大きな塊のまま、ゆっくりとローストする。 地域によっては丸ごとの仔豚を使うこともあれば、豚バラや肩肉を巻き込んで仕上げることもあるが、日本で一般的に提供されているのは後者のスタイルだ。 豚肉の甘み、脂の厚み、焼き目の香ばしさ。 そこに、ハーブの清涼感、フェンネルの甘く青い香り、ニンニクの温かい刺激が重なる。 だからポルケッタは、決して軽い料理ではない。 だが、鈍重な料理でもない。 噛むたびに、肉と脂の力強さと、香草の涼しさや少し乾いた甘さが交互に現れる。 この複雑さこそがポルケッタらしさであり、ペアリングを面白くしている理由でもある。

梁 世柱
6月13日


対話:ナチュラルワインと現場のリスク
ヨーロッパのある国で、二十年以上ナチュラルワインを専門に扱ってきたというワインプロフェッショナルに出会った。 綺麗に整えられた、長く豊かな顎髭、細身の長身、そして、屈託のない笑顔。 その人には、長い時間をワインと共に過ごしてきた者だけが持つ、穏やかな確信があった。 知識を誇示するのではなく、経験が身体の奥で熟成し、必要なときだけ言葉になる。 そんな空気感のある人だった。 他愛のない自己紹介を済ませたあと、話題はやがてナチュラルワインにおける欠陥へ辿り着いた。 様々な欠陥の話が出たが、議論の中心になったのはネズミ臭だった。

梁 世柱
6月11日


SommeTimes’ Académie <143>(イタリア・アブルッツォ州1:Montepulciano前編)
Montepulciano d’Abruzzo D.O.C.で知る、山と海の赤ワイン アブルッツォ州のワインを学ぶとき、まず中心になるのは Montepulciano d’Abruzzo D.O.C. です。 アブルッツォを代表する赤ワインであり、イタリア全体で見ても知名度の高いD.O.C.の一つと言えます。
濃い色調、明るく豊かな果実味、シンプルで分かりやすい味わい、手の届きやすい価格帯。
そうした印象から、日常的な赤として広く親しまれているワインです。 ただし、Montepulciano d’Abruzzoは、単に「安くて濃い赤」だけで終わるワインではありません。 アドリア海側の明るさと、アペニン山脈へ向かう内陸の冷涼さが交差する、丘陵地と高台の畑。 その広がりの中で、Montepulcianoは、果実味だけでなく、酸、タンニン、熟成による厚みも見せます。

梁 世柱
6月9日
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