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SommeTimes’ Académie <154>(イタリア・ヴァッレ・ダオスタ州2: 白ワイン後編)
前回は、イタリア北西部、フランスとスイスに接するアルプスの山岳地帯に位置する、ヴァッレ・ダオスタ州の入口として、Blanc de Morgex et de La Salleを学びました。 モンブランの麓にある高標高の畑。 プリエ・ブランという土着白葡萄。 Blanc de Morgex et de La Salleは、ヴァッレ・ダオスタという山岳州の特徴が、分かりやすく現れる白です。 今回は、ヴァッレ・ダオスタにおける、他の重要な白ワインに関して学んでいきます。 骨格となるのは、前回と同じくValle d’Aosta D.O.C.。 その中では地理的表示と、品種表示の両方が認められていますが、今回は1つの重要な品種表示と、2つの地理的表示について扱っていきます。

梁 世柱
3 日前


再会 <111> ハイプのリアル
Tony Bornard, Le Ginglet 2022. 嫌な予感ほど、よく当たるという。 それが、経験則に基づいた「予測」なのであれば、なおさらのことだろう。 Tony BornardのLe Ginglet 2022を久しぶりに開けた時、抜栓直後の香りそのものは、この地でこの葡萄でこの造り方をしたからこそ立ち現れる、いわゆる「薄ウマ系赤」の魅力に満ちていた。 無添加ナチュラルワインにしばしば見られる、少し不穏な揺らぎはあったが、まだ決定的に壊れているわけではなかった。 だが、舌の奥に、嫌な影があった。 私は同伴者につぶやくように告げた。 「これは、30分以内に飲み切った方がいい。」 もちろん、そんなことは言いたくない。 ワインを前にして、タイマーをセットするような飲み方は、正直あまり美しいとは思えない。

梁 世柱
5 日前


ジェノヴェーゼとのイタリアン縛りペアリング
夏になると、私はバジルが爽やかに香るペスト・ジェノヴェーゼを多用する。 この料理の故郷は、イタリア北西部のリグーリア州、ジェノヴァ周辺。 海と山が近く、平地の少ない土地で、オリーブオイル、香草、野菜、魚介を巧みに使う料理文化が育ってきた。 その象徴が、ペスト・ジェノヴェーゼだ。 本場の味を考えるなら、リグーリアで栽培されるBasilico Genovese DOPというバジルが最重要とされ、そこへ松の実、にんにく、パルミジャーノ・レッジャーノ、羊乳チーズのフィオーレ・サルド、粗塩、エクストラ・ヴァージン・オリーブオイルが加わる。 バジルの鮮烈な香りを中心に、にんにくは刺激を、松の実はやわらかな厚みを、チーズは塩気と旨味を、オリーブオイルは滑らかさを加える。 それぞれが存在感を保ちながら、最後にはちゃんとバジルのところへ戻ってくる。

梁 世柱
7 日前


SommeTimes’ Académie <153>(イタリア・ヴァッレ・ダオスタ州1: 白ワイン前編)
今回から、イタリア北西部、フランスとスイスに接するアルプスの山岳地帯に位置する、ヴァッレ・ダオスタ州のワインについて学んでいきます。 イタリアの中でも非常に小さな州ですが、高標高、急斜面、冷涼な気候、フランス語圏文化、そして独自の土着品種が重なる、特殊なワイン産地です。 ヴァッレ・ダオスタのワインを理解するうえで、最初に押さえておきたいのは、D.O.C.の構造となります。 この州には、Valle d’Aosta / Vallée d’Aoste D.O.C. (以降、Valle d’Aostaのみを表記)という大きなD.O.C.があります。 1985年に認定されたこのD.O.C.の中に、Blanc de Morgex et de La Salle、Enfer d’Arvier、Torrette、Nus、Chambave、Arnad-Montjovet、Donnasといった地理的表示、さらにPetite Arvine、Petit Rouge、Fumin、Cornalinなどの品種表示が収められています。

梁 世柱
8月18日


出会い <110> 牧歌的なマイナー産地ワイン
Keltis, Sivi Pinot 2020. シーンの最先端に立っているワインバーへ行き、ソムリエにセレクトを委ね、近い経験値で語れる仲間たちと飲む。 発見と検証が、同じ瞬間に高い密度で揃うのだから、これほど効率の良い学びはなかなか無い。 定期的にどこかで集まる海外の仲間たちとの時間には、非日常的な充実があるものだ。 今回紹介するワインは、ウィーンでの「そういう場」に現れた一本。 スロヴェニアのKeltisが造るSivi Pinotである。 オレンジワインという言葉が、ずいぶん気軽に使われるようになって、かなり時が経った。 白葡萄を醸造する際に、マセレーションと初期発酵を同時進行させる。 製法的にはオレンジワインの核心的要素だが、世間はむしろ、オレンジ色をしたワインという誤解の方ばかりを気にしている。 もちろん、入口としてはそれでもいいのだが、扉の向こう側で見た世界を素直に受け入れないと、迷い人のまま成長しない。

梁 世柱
8月15日


ラタトゥイユとクラシックペアリング
フランス料理と聞くと、だいたいの人は少し身構える。 芸術作品よろしく盛り付けられた美しい皿。 複雑だということだけはよくわかる料理説明。 そして、食べ終わったあとも解決されない謎の香り。 だが、ラタトゥイユはその反対側にいる。 南フランス、なかでもニースとプロヴァンスを代表する料理の一つで、トマト、なす、ズッキーニ、パプリカ、玉ねぎ、にんにくといった夏野菜を、オリーブオイルとハーブで煮込む。 材料だけを見れば、驚くほど素朴だ。 高級な肉もなければ、フォアグラもない。トリュフを削る必要もない。 夏の畑で元気になりすぎた野菜たちを集めて、鍋の中でなんとか話し合いをつけてもらう。 それが、ラタトゥイユである。

梁 世柱
8月14日


A Place for Rosé (期間限定特別無料公開)
「日本では、ロゼワインが定着しない。」 「今年こそは、ロゼワインブームがくる。」 もう何年、この言葉を聞いてきただろう。 春になると、ワイン業界は思い出したようにロゼを売り始める。 桜が咲き始める。 そうだ、ロゼはピンク色だ。 よし、合わせよう。 発想としては、小学校低学年の色合わせと大差ない。 売り場には桜の写真が並び、SNSでは花見の風景にロゼのボトルが紛れ込む。 「桜色のワインで乾杯を」と一斉にプロモーションが展開される。 そして桜が散る。 ロゼも消える。 桜の開花から散るまで、せいぜい数週間。 その短い期間へロゼの需要を押し込み、自分たちの手で「期間限定商品」に仕立て上げたあと、 「日本ではロゼがなかなか定着しませんね」などと言っている。 これでは、そもそも定着させる気があるのか疑いたくなる。 もちろん、花見でロゼを飲むこと自体には何の問題もない。 満開に咲いた桜の樹の下で、良く冷えたロゼを開ければ、色彩的にも気分的にもよく似合う。 ただ、それを主な販売理由にした瞬間から、いろいろとおかしくなる。 国、産地、品種、テロワール、歴史、造り手

梁 世柱
8月12日


SommeTimes’ Académie <152>(イタリア・トレンティーノ=アルト・アディジェ州5: Trento)
トレンティーノ=アルト・アディジェ州編の最終回となる今回は、トレンティーノの中でも特別な存在感を放つ、Trento D.O.C.について学んでいきます。 Trento D.O.C.は、瓶内二次発酵によって造られる、スパークリングワインの原産地呼称です。 つまり、技術的な方向性としては、タンク方式が主流となるProseccoではなく、むしろChampagneやFranciacortaに近いワインとなります。 ただし、Trento D.O.C.をChampagneの代用品として理解する必要はありません。 Trento D.O.C.には、山岳地帯の瓶内二次発酵スパークリングという確かな個性が宿っているからです。

梁 世柱
8月11日


再会 <110> 褪せない輝き
Elio Altare, Langhe Arborina 2005. 10年以上の時を経て、久しぶりに再会したワインは、以前とは違う顔をしている。 いつまでも変わらない若々しさ、なんてものを求める方が、冷静に考えればどうかしている。 ワインはボトルの中で年を取る。 こちらも、その間に少々年を取る。 味覚は変わり、時に衰え、興味の居所が変わることもある。 かつて心を奪われた輝きが、再会の瞬間にそのまま残っているなんて期待は、やめておいた方がいい。 それでも、ときどき不思議なことが起きる。 少し峠を過ぎていてもなお、褪せない輝き。 そんな矛盾に、出会うことはある。

梁 世柱
8月8日


焼きとうもろこしとの、意外なペアリング
夏になると思い出す。 お祭りに漂う、あの懐かしい香りを。 少し焦げた焼きそば。 炭火の上で転がされる焼き鳥。 そして、大好物だった焼きとうもろこし。 あの甘く香ばしい匂いが漂ってくると、まだ姿が見えていなくても、だいたいどこに屋台があるのかわかったものだ。 さて、今日は焼きとうもろこしの話をしよう。 焼きとうもろこしと一口に言っても、食べ方は幅広い。 塩、バター、味噌、チーズ、スパイス。 あるいは、メキシコの屋台料理であるエローテのように、マヨネーズ、ライム、チリ、チーズまで総動員すれば、焼きとうもろこしは一気に国際派になる。 だが、日本の夏という文脈で考えるなら、やはり甘辛い醤油ダレを塗り、香ばしく焦がしながら焼くタイプには、特別な存在感がある。 とうもろこしそのものが、すでに十分に甘いのに、なぜさらに甘いタレを塗るのか。 それは、塩気と旨味を加えることで、とうもろこしの甘さをより鮮明にするためでもある。 さらに、火に当てると魔法がかかる。 醤油と糖分が高温で焼かれ、メイラード反応にカラメル化も重なることで、格別な香ばしさが生まれる。 中心に残

梁 世柱
8月7日


OIV登録の、その先
今回、竜眼が晴れてOIV(国際ブドウ・ワイン機構)の品種リストに登録された。 その背景には、多大な努力を重ねてきた人々がいることを、私は理解している。 栽培家、醸造家、ワイナリー、そして協会。 そこには、長い時間をかけてでも前へ進めようとする忍耐と、この葡萄の名をなんとしてでも日本の外へ届けたいという願いがあり、簡単には数字に置き換えられない多くの想いが重なっている。 だから最初に、はっきり書いておきたい。 私は、その努力を非難するつもりはない。 OIV登録という出来事を嘲笑するような意図も一切ない。 むしろ、一つの品種を国際的な舞台へ押し上げるために必要だった仕事には、十分な敬意を払っている。 そのうえで、少しだけ温度を下げて考えてみたい。 OIVに登録されることは、その葡萄に何をもたらすのか。 そして、何をもたらさないのか。 祝うことと、意味を検証することは両立する。 このエッセイで確かめたいのは、その実寸だ。

梁 世柱
8月5日


SommeTimes’ Académie <151>(イタリア・トレンティーノ=アルト・アディジェ州4: Trentino赤)
前回は、Alto Adigeの赤について学びました。 Alto Adigeの赤では、Schiavaの軽さ、Lagreinの濃さ、Pinot Noirの繊細さが、同じ山岳地帯の中で並んでいることに特徴がありました。 一方、Trentinoの赤に目を向けると、中心はもう少し絞られます。 まず重要になるのは、Trentinoを代表する地場黒葡萄、Teroldego。 次点で、香り高くやわらかな Marzeminoの名が挙がります。 さらに、Merlotを主体としたカジュアルな赤ワインとしての Casteller D.O.C. があります。

梁 世柱
8月4日


出会い <109> 日本ワインの特異点
奥出雲ワイン, 小公子 Unwooded 2025. 日本の地品種とされる文脈で語られる葡萄の中で、私が最も高く評価しているのは、小公子である。 これはあくまで私の主観だ。 だが、その主観を、今回ばかりはあまり引っ込めるつもりがない。 日本ワインは今、「日本らしさ」という言葉に真正面から向き合っている。 淡い。 軽い。 繊細。 寄り添う。 日本という国が紡いできた、独特の美意識。 アイデンティティの確立において、これほど重要な意味を持つものもないだろう。 実際に、その方角にしか現れない美しさが、確かにある。 ただし、すべてをその言葉で包んでしまうと、見えなくなるものもある。

梁 世柱
8月1日


セヴィーチェとワインの夏感ペアリング
南米を代表する魚料理の一つ、セヴィーチェ。 個人的にも、深い思い入れがある。 アルゼンチンを訪れたとき、数日間ひたすら続いた重い肉料理とポテトに、胃腸が悲鳴を上げていた。そして、移動先のサンティアゴ(チリ)で食べたセヴィーチェには、本当に癒やされたものだ。 一般的にセヴィーチェは、生の魚介をライムやレモンの果汁で和え、玉ねぎ、唐辛子、香草などを加えて仕上げる。 だが、単なる魚介のマリネではない。 セヴィーチェの「らしさ」は、生の魚と鋭い酸が触れ合う、その短い時間にある。

梁 世柱
7月31日


SommeTimes’ Académie <150>(イタリア・トレンティーノ=アルト・アディジェ州3: Alto Adige赤)
前回まで、トレンティーノ=アルト・アディジェ州編では、Alto AdigeとTrentinoの白について学んできました。 Alto Adigeの白では、標高差と谷の複雑さが、多品種の白ワインをパッチワークのように展開させていました。 一方、Trentinoの白では、Nosiolaを中心に、谷、湖、風、斜面などが具体的にまとまった地形が、品種ごとの個性を支えていました。 では、Alto Adigeの赤はどう理解すればよいのでしょうか。 ここで大切になるのは、「北イタリアの冷涼な赤」として一括りにしないことです。 Alto Adigeの赤には、軽やかで淡い Schiava があり、奥深く濃密なLagrein があります。 そして、冷涼な斜面で繊細さを得るPinot Noirがあります。 同じAlto Adigeの中に、軽さ、濃さ、繊細さが並んでいる。 この振れ幅こそが、Alto Adige赤の入口になります。

梁 世柱
7月28日


再会 <109> 問いの先へ
Domaine Hase, Pino Fan Rouge Z 2021-2022. 日本市場には、ブルゴーニュファンが非常に多い。 ワインに深く入り込んだ人間なら、一度はその森に迷い込んだことがあるだろう。 ヴォーヌ・ロマネの名を聞けば襟元を正し、シャンボール・ミュジニーという音の響きだけで、まだ飲んでもいないワインに心を持っていかれる。 その中心にいる葡萄が、ピノ・ノワールだ。 だから日本でも、ピノ・ノワールは特別な憧れを背負ってきた。 ブルゴーニュとは違う、日本独自のピノ・ノワールを夢見て、冷涼産地の可能性と繊細でエレガントな赤ワインを結んだ。 言葉にすれば、美しい。 だが、畑は言葉ほど優しくなかった。

梁 世柱
7月25日


生ハムメロンとペアリング
生ハムとメロン。 どちらも単独で十分に成立している食材だが、並べてみると、最初から仲が良さそうにはどうも見えない。 一方は、豚の腿肉に塩を施し、長い時間をかけて水分を抜いたもの。 もう一方は、果肉の大半に水分を抱え、甘い果汁を滴らせる夏の果物。 乾いた肉と、熟れた果実。 塩と糖。 熟成と瑞々しさ。 ずいぶん方向の違う二人を、イタリア人はなぜか同じ皿に座らせた。 この組み合わせの背景には、古代ギリシャからローマへ受け継がれ、中世以降のヨーロッパにも大きな影響を与えた「四体液説」があったといわれている。 当時の医学では、人間の健康は「熱い、冷たい、乾いた、湿った」という性質の均衡によって保たれると考えられていた。 食材にも同じ性質が割り当てられ、偏りの強いものは、反対の性質を持つ食材と組み合わせる必要があるとされた。 水分が多いメロンは、「冷たく湿った」食材であり、そのまま大量に食べるのは身体によろしくない。一方、塩漬けにして乾燥、熟成させた肉は、「熱く乾いた」性質を持つ。そこで両者を同じ皿に置き、互いの偏りを打ち消そうとした。

梁 世柱
7月24日
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