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ワイナリー訪問記 <1> Martin & Melanie Muthenthaler in Wachau, Austria.
これまで、ワイナリーを訪問した際のレポートは、各産地の特集記事に組み込む形で公開してきましたが、今回から、(特にすでに特集記事を組んだことがある産地に関しては)レビューカテゴリーの中で「ワイナリー訪問記」として分離します。 産地を知ることは、地図を広げて俯瞰する仕事である。 一方で、ワイナリー訪問は、地図に足を置く仕事だ。 同じWachauと書かれていても、Loibenの光とSpitzer Grabenの冷気は違う。 同じRieslingと書かれていても、ドナウ川のほとりで育つものと、森へ向かって谷が細くなっていく場所で育つものでは、背筋の伸び方が違う。 その真理を五感で知るために、私は時に不便なところでも、迷いなく足を運ぶ。 車を運転しない私は、海外でワイナリーを訪問する際も、可能な限り公共交通機関で移動する。 ワイン産地において、車を持たない人間は、ときどき文明の外側に置かれる。 タクシーは走っていない。バスは来ない。電車は、こちらの都合など当然知らない。 それでも私は、この不便さをそこまで嫌っていない。 便利すぎる移動は、土地を素早く通過さ

梁 世柱
1 日前


再会 <104> 約束の言葉
Savage, Chenin Blanc “not tonight josephine” 2022. *本稿は、一年半以上前に一度抜栓し、再栓して冷蔵庫に置いていたワインとの、印象深い再会をもとに書いています。Savageは南アフリカの醸造家ダンカン・サヴェージが率いるワイナリーで、この希少なキュヴェは南アフリカ最古のマスカット・アレハンドリアから造られた、至極のデザートワインです。 時間は、まっすぐ進むものだと私たちは思っている。 朝が来て、夜が降りる。 その繰り返しの先で、季節は移ろい、約束は古び、熱を持っていたものは少しずつ冷めていく。 最初の驚きも、その夜にしかなかった空気も、手の中にあった確かな感触も、進むほどに遠ざかる。 前へ進むことは、失うことでもある。 振り返れば、過去は小さくなっている。 あのときの光はもうなく、誰かの声も、部屋の明るさも、窓の外の暗さも、記憶の奥で静かに形を変えている。 人はそれを、懐かしさと呼ぶ。 美しい言葉だ。 けれどその美しさの中には、もう戻れないものを、せめて柔らかく包もうとする諦めが混じっている。

梁 世柱
6 日前


出会い <103> 陸の孤島と秘宝 (期間限定無料公開)
Botanica Wines, The Mary Delany Chenin Blanc 2024. 本稿で登場する「出会い」ワインは、去る4月に都内で開催された、南アフリカ在住のMWであり、世界的な南アフリカワインの権威として知られる、Cathy Van Zyl MWによるマスタークラス内で紹介された。 南アフリカワインの推進力を担うような、クールでトレンディーなラインナップは、まさに最先端。 出会いコラムにて、複数回に分けて選抜して紹介していこう。 南アフリカのワイン地図には、中心から眺める者には見えにくい場所がある。 見えないのは、遠いからではない。 名声の光が、そこまで届くようには設計されていなかったからだ。 Skurfberg(スカーフバーグ)は、その典型である。 ケープタウンから北へ、湿った緑が少しずつ後退し、風景が乾き、砂と岩と低い灌木の言葉へ変わっていく。 Olifants River流域、Citrusdal Mountainの山あい。 大西洋からそれほど遠くないにもかかわらず、感覚としては陸の孤島に近い。...

梁 世柱
5月2日


再会 <103> 敬愛の対象
Grace Wine, Cuvée Misawa 2021. 日本の地で、カベルネを用いて赤ワインを造る。 その事実だけを聞けば、ワイン愛好家の中には、すぐに地図を頭の中で折り畳み、別の地図を広げる人々も多いだろう。 ボルドーである。 より正確に言えば、「ボルドーのようなもの」を期待する。 香り、骨格、熟成の気配、優美な古典の舞い。 その期待は理解できる。 世界のワインが長きにわたり、ボルドーという巨大な文法のもとで夢を見てきたことは否定できない。多くの産地にとって、それは憧れであり、規範であり、ときに呪いでもあった。 だが、本物のボルドーがこの世界に変わらず君臨している以上、他の土地がその複写を目指すことには、どこか根本的な空虚感がある。

梁 世柱
4月21日


高級ビールを嗜む <4> Teenage Brewing
酒はカルチャーである。 そして、ホンモノのカルチャーは境界線を越えて、人の心に響く。 埼玉県ときがわ町にあるクラフトビール醸造所、Teenage Brewing。 クラフトビールにはめっぽううるさい私の心を、強烈に捉えた。 日本国内産ビールでは、Humans Beer以来の衝撃だったと言っても良いだろう。 「自由で現代的なアプローチで新しい驚きと記憶を創る一杯。」 Teenage Brewingは、ただ美味しいビールを造ろうとしているのではなく、「心が動く体験」という、「その先」を最初から思想に組み込んでいる。

梁 世柱
4月19日


出会い <102> 銘醸地の共通チャレンジ
Tiberini, Maturato 2024. 現在、世界各国の銘醸地、特に赤ワインで名高い産地において、白ワインへの挑戦という共通する変化が起きている。 背景にあるのは、気候変動によるアルコール濃度の高止まりと、食のライト化に伴う「重たいワインの人気低迷」だ。 伝統が深く根ざしている産地であればあるほど、変化を受け入れることは容易ではないはずだが、それでも多くの産地が前を向いているのは、素晴らしいことだと思う。 ただし、その挑戦はまだまだ日の目を見ていないのが現実だ。

梁 世柱
4月7日


再会 <102> 熟成プレスティージュシャンパーニュ
Louis Roederer, Cristal 2002. シャンパーニュはワインだ。 当たり前のことなのだが、シャンパーニュがワインであるという前提を忘れると、扱い方を間違ってしまうことがある。 特に、慎重になるべきなのは、熟成に関して。 シャンパーニュには様々なタイプ/カテゴリーがあるが、ポテンシャルに基づいて、ブルゴーニュ方式で大枠の整理をすると以下のようになる。

梁 世柱
3月31日


Not a wine review <8> 内モンゴルのミルク酒
またまた、私の探究心をこれでもかと刺激してくる珍酒に出会った。 乳酒だ。 中国の内陸部やモンゴルには、家畜の乳から造った伝統的な酒があることは知っていたが、当然日本でそう簡単に見かけるものでは無いので、これまで味わうことはできずにいた。 実は、乳酒は日本とも不思議な関係性がある。 あの国民的ドリンクである、「カルピス」の原型だとされているのだ。

梁 世柱
3月28日


出会い <101> 見落としていた名ワイン
Poderi Sanguineto I e II, Vino Nobile di Montepulciano Riserva 2021. 特定の産地に対して、本当の意味で専門性を高めるために、どうしても必須となる環境がある。 それは、同産地のワインを、ヴィンテージなどの諸条件を相当程度揃えた上で、大量に、一気に比較テイスティングできる環境だ。 正確かつ深い座学と、ごく小規模であっても条件を揃えた比較テイスティングを何度も何度も繰り返せば、高水準の専門性に至ること自体は可能だが、時間もコストもかなりかかってしまうだろう。 どちらにしても、数多くのワインを、限定されたいくつかの「線」に乗せてテイスティングすることが大切で、逆にいうとそれ以外の形式でのテイスティングは、全てが「点」になって、コンテクストの整合性と正確性がどうしても犠牲になる。

梁 世柱
3月24日


Wine Memo <39>
Yamazaki Winery, Pinot Noir 2013. 先日の「再会」でドメーヌ・タカヒコのナナツモリ2015年を紹介したが、同じタイミングで飲んだもう一つのワインも、実に刺激的で興味深いものだった。 山崎ワイナリーは、北海道三笠市にある。 山崎ワイナリーのワインからは、かねてから非常に実直で職人気質な性質を感じてきたが、ヴィンテージから13年経過したワインを飲めたのは幸運だった。 北海道のワイン産地といえば、どうしても余市に人気が集中しているし、その後を追う仁木にも勢いがある。

梁 世柱
3月21日


再会 <101> 熟成したジャパン・ナチュラルの旗手
Domaine Takahiko, “Nana-Tsu-Mori” Pinot Noir 2015. 絶対に教えたくないお店。というのが数店舗ある。 大体決まって、最高のワインが熟成された状態でストックしてあるお店、もしくは希少なワインが普通にオンリストされてしまっているお店、だ。 そのようなお店の所在がワイン通にバレてしまうと、限りある在庫が一気に吸い尽くされてしまうし、何より私自身があえて頻繁には訪れないようにしている。 さて、今回の再会は、久々に行った「そういうお店」の一つで起こった。 店内の看板に目を向けた瞬間、固まってしまった。 なんと、ドメーヌ・タカヒコのナナツモリがグラスで出ている。しかも2015年ヴィンテージだ。

梁 世柱
3月18日


出会い <100> プロセッコのヴァリエーション
Malga Ribelle, Valdobbiadene Sui Lieviti “Vitale” 2023. 世界各国各地の様々なワインが、どのように世界市場の中で成長して行ったのかを見ると、イタリアを代表するスパークリングワインであるプロセッコが、まさに偉業とすら言える発展を成し遂げたことがわかる。 高級路線で着実に前進していったシャンパーニュが、このスパークリングワイン市場における最初の覇者であったが、価格が上がっていくにつれて、シャンパーニュをグラスワインとして提供できるレストランやバーの数も減って行った。 その空いた穴に、見事に入り込んだのが、プロセッコだった。 フランスの各種クレマン、イタリアのフランチャコルタ、スペインのカヴァなども、当然このポジション争いには参戦したのだが、プロセッコのカジュアルな飲み口と、圧倒的な物量作戦に、押し負けたと言って良い。

梁 世柱
3月10日


再会 <100> アンフォラとの親和性
Petrolo, Boggina A 2023. アンフォラという古代の貯蔵・輸送容器が、ワイン産業に再び姿を現したのは、90年代半ばに北イタリアのゴリツィアで、オレンジワインの復興が始まったことがきっかけである。 改革の旗手であったヨスコ・グラヴネルが、ジョージアのワイン造りから着想を得て、アンフォラを導入したのだ。 以降、オレンジワインの波及と共に、アンフォラを使用するワイナリーも劇的に増えた。 今では、クラシック、ナチュラルを問わず、セラー訪問をしてアンフォラを見かけても、全く驚かなくなったほどだ。 これだけ広く普及すると、アンフォラという容器の効果もまた、より客観視できるようになる。

梁 世柱
3月3日


Wine Memo <38>
Sassotondo, Ciliegiolo San Lorenzo 2023. 以前からトスカーナ州の地葡萄の中に、どうも気になるものがあった。 イタリア語で「小さなさくらんぼ」の意味をもつ、チリエジョーロだ。 淡く明るいルビーの色調、品種名通りのチェリーのアロマ、ほのかなスパイスのニュアンス、軽快でしなやかなボディ、快活な酸、心地よく輪郭を整えるタンニン、フローラルな余韻。 チャーミングという表現は、こういう品種のためにある、と思わされることも多い、実に魅力的な葡萄だ。

梁 世柱
3月2日


出会い <99> 復活中の古代品種
Fattoria Bellosguardo, Valdarno di Sopra Foglia Tonda “Pipillo” 2024. 凝り性であると同時に飽き性でもある私にとって、同じ品種のワインをひたすらテイスティングし続けることは、楽しさと退屈さが表裏一体となってしまう。 毎年恒例のトスカーナ州訪問の7日目。 すでに数えきれないほどのサンジョヴェーゼをテイスティングし続け、流石に集中力(と楽しさ)が限界に達してきたタイミングで、このワインと出会った。 目が覚めた、とはまさにこういうことを言うのだろう。 イタリア全土で僅か50haしか栽培されていないという絶滅危惧種フォリア・トンダに、強烈な衝撃を受けたのだ。

梁 世柱
2月25日


再会 <99> スーパータスカンの今
Querciabella, Camartina 2021. スーパータスカンは、ある意味「旬を過ぎた」ワインとも言える。 1968年にボルゲリの地でサッシカイアが誕生し、伝説的な1985年ヴィンテージによって、スーパータスカンという存在を一躍メインロードへと乗せたのだが、最初期のスーパータスカンは、実はボルゲリよりもキアンティ・クラシコの地で多く誕生していた。

梁 世柱
2月17日


出会い <98> オレンジワインのお気に入り品種
Stefano Legnani, Bamboo Road 2024. ¥3,500 オレンジワインという存在を認識し始めてから、15年以上の月日が流れた。 白ワインとして造られた時とは、そもそも全くと言って良いほど表情を変えてしまうのと、マセレーションの期間、温度、酸素とどれだけ接しているか、など最終的な味わいに影響を与える変数も多いため、なかなかオレンジワインという製法と品種の組み合わせで、一貫した個性を見出すのは容易ではない。 だが、ようやく「掴めてきた」という感覚がある。 以前のクラシックなオレンジワインは、マセレーションが強く、まるで抽出しすぎた紅茶のように、個性が逆に分かりにくかったが、現代的なオレンジワインには、同品種間である程度一貫した個性が生じる程度には、調和がある。 つまり、今なら「オレンジワインにするならこの品種が好き」といった文脈で話をすることも、可能になってきたのだ。

梁 世柱
2月10日


Not a wine review <7>
テキーラ、と聞けばどういうイメージが真っ先に思い浮かぶだろうか? 現代は、少し昔ほどのパーティー飲み文化も無くなってきているので、親指と人差し指の間をライムで軽く湿らせてから塩を乗せ、それをひと舐めし、テキーラを一気に飲んだあと、ライムをかじる、という一連の「テキーラショット」という「パーティー作法」(別名:若かりし魂への点火)を知らない人も増えているだろうか。 もしくは、マルガリータやテキーラサンライズといったど定番カクテルの材料としても知られているだろうか。 少なくとも、高価なスコッチやブランデーのように、ゆったりと嗜む、というイメージをテキーラに対してもっている人は、かなり少ないと考えられる。

梁 世柱
2月4日


再会 <98> 褪せない伝説
Miani, Chardonnay 2023. もう何年前だったか忘れてしまったが、少なくとも15年以上前のことだ。 当時愛読していたワイン専門誌の表紙を、イタリアのMianiというワインが飾った。 まだまだ時代的には、「超低収量合戦」が繰り広げられていた頃だ。 紙面に掲載されていた、ブルーベリーと見間違えるほど小粒に凝縮したMianiの葡萄は、強烈なインパクトとして目に焼きついた。 すでに入手困難なワインとなっていたため、探し出すのには苦労をしたが、アメリカ中のネットショップ在庫にアンテナを張って、ようやく入手したMianiを口にした時の感動は、忘れられない。

梁 世柱
1月26日


出会い <97> 今こそ見直したい、協同組合産ワイン
Cantine Diverse di Monserrato, Vermentino di Sardegna 2024. ¥3,100 協同組合(生産者組合)と聞くと、一般的なワイナリーとしてのイメージはどうだろうか? おそらく一般的には、「当たり障りのないカジュアルワインを大量生産している。」といったとこだろう。 そもそもそのような形式のワイナリーの実態とは、何なのだろうか? フランスではドメーヌ、英語圏ではエステートなどと呼ばれる、自社畑、自社醸造、自社瓶詰め出荷型のワイナリー(以降、ドメーヌ型と表記)は、その形態でビジネスを始めるための設備投資に、そもそも相当なお金がかかる。 そして、単独で売り上げを立てないと、投資分を回収できないため、リスクも高い。

梁 世柱
1月21日
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