ワインの世界におけるアルゼンチンの存在は、我々が思っている以上に大きい。2021年の国別のワイン生産量では1,250万hLで7位。オーストラリア(1,420万hL、5位)やチリ(1,340万hL、6位)とほぼ並んで南半球最大の生産量を毎年争っている。
1,060万hLで8位だった南アフリカも含め、これだけ生産量がある国なら、そのワインも一般的には多様だ。
例えばオーストラリアは、フルボディで甘いシラーズの画一的なイメージから、完全に脱却したと言っていいだろう。ヨーロッパがすっぽり入るだけの巨大な国土に散らばる、産地や品種の多様さは枚挙にいとまがない。
チリはいまだにスーパーマーケットの棚の大きな部分を占める、低価格なヴァラエタルワインの産地ではあるが、フンボルト海流とアンデスに挟まれた特殊な気候条件や、北のアタカマ、南のイタタやビオビオなどのテロワールへの理解も少しずつ進んできている。新しい品種なら、特にイタタやビオビオのパイスやサンソー、マスカットが注目だ。
南アフリカ?今更言うまでもなく、日本のマーケットで今最も注目されている国の一つだろう。濃厚なカベルネやピノタージュのイメージで止まっている人は、もう多くないのではないだろうか。スワートランドの古木のシュナン・ブランやセミヨンからウォーカー・ベイのピノ・ノワールやシャルドネに至るまで、その多様さに触れる機会は非常に多い。
ではアルゼンチンは?
アルゼンチンのテロワールや品種の多様さについて、触れたことはあるだろうか?
残念ながら、プロフェッショナルも含めてほとんどの日本人の答えはノーだろう。アルゼンチンのワインと聞いて思い浮かぶのは、フルボディでアルコールの高いマルベックかフルーティーなトロンテス。それ以上の例が出てくることは稀だと言っていいと思う。ソムリエやワインエキスパートの試験の前に、低価格なマルベックとトロンテスを飲み込んでそれっきり、という人も少なくないのではないだろうか。
でもそれは、オーストラリアでは濃厚なシラーズ、チリでは低価格なカベルネやシャルドネ、南アフリカではフルボディのカベルネやピノタージュしか知らないようなものだ。そういった画一的なイメージで産地を語れる時代は、もう遥か昔の話ではないだろうか。
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