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飛躍の時 <トスカーナ特集:Chianti Classico編 Part.3>

Chianti Classico Collectionでの二日間を終えた時、私は不思議な高揚感に包まれていた。


極限まで集中したテイスティングを、連日8時間近く休みなく続け、舌も足も思考も、疲弊しきっていたはずなのに、私は妙に興奮していたのだ。


4年前の辛酸を晴らすべく、地道に研究を重ねてきたChianti Classico。

その答え合わせをひたすら繰り返した2日間。


確信に変わった数多くの仮説。

新たな発見。

未知のワインとの出会い。

新世代の躍動と、ベテランのプライド。

複雑に絡み合う思惑。

そして、思い知らされたChianti Classicoの偉大さ。


会場で見聞きした全てが、私を刺激し続けていたのだ。


Chianti Classico編最終章を執筆するにあたり、私は今、安堵感と共に、寂しさに似た感情を抱いている。



2020年代のワイン産業

新型コロナ禍の本格化と共に幕を開けた2020年代。様々なワイン関連ニュースも飛び交ったが、その中でも最もインパクトが大きかったのは、間違いなくボルドーの話題だろう。


2021年後半にC.I.V.B(ボルドーワイン委員会)が発表したレポートは、ボルドー全域の75%がサスティナブル認証を取得(公式な続報はまだだが、2023年時点ではさらに増加しているのは確実)という驚異的な成果と共に、世界に衝撃を与えた。


ボルドーワイン委員会が行ってきたような取り組みは、世界各地で進んできたものではあったが、ボルドーの成功は殊の外大きな意味をもっていた。


そう、世界で最も名高い銘醸地の一つであるボルドーが、しかも気候条件、産業条件共に、サスティナブル化が決して簡単ではない部類に属しているボルドーが成功したという事実には、他の伝統産地が繰り返し続けてきたあらゆる「言い訳」を、容易に論破できるだけの力があったのだ。


ボルドーの成功をきっかけに、世界各地でやや停滞していた取り組みが一気に加速していくのは、もはや疑いようも無かった。


2023年2月。ボルドーの衝撃から1年と半年足らず。


その余波がトスカーナにも届いていることを、はっきりと感じることができた。


4年前に訪れた時は、オーガニックの話題に顔をしかめる造り手も少なく無かったのだが、今回は明らかに違った。


とある造り手が私に語った、Chianti Classicoにおけるオーガニック比率54%という最新情報は、キアンティ・クラシコ協会による公式な発表が無いため、確定的な情報ではないが、実態はその数字を超えた状況にあると推察できる


では、Chianti Classicoにおけるオーガニック及びサスティナブル推進の変遷を辿っていこう。




伝統の守り手として

最初の取り組みは、1987年に始まった。


キアンティ・クラシコ協会が主導した、来るべき大規模な再植樹に向けた研究は、クローン、台木、密植率、葡萄樹の仕立て方法、などの複数のテーマに別れていた。


16年もの歳月を費やして行われたこの研究の中でも、特筆すべき成果は、ウイルスフリー・クローンの選定である。総数239の候補から選抜された、サンジョヴェーゼ24種、カナイオーロ8種、コロリーノ2種のウイルスフリー・クローンは、エスカなどの深刻なウイルス感染に悩まされてきたこの地にとって、救いの神そのものであると同時に、オーガニック/サスティナブル推進の強力な土台ともなったのだ。


この研究は、2006年にキアンティ・クラシコ協会が発表したサスティナブル推進プロジェクト「Chianti Classico 2000」へと繋がり、化学合成農薬の削減、生物多様性の促進、土壌と水資源の保護、という目標を十分に実現可能なものへと押し上げた。


一方で、規模はずっと小さいが、Chianti Classico 2000プロジェクトと同レベルに重要な取り組みが、1995年に始まっていた。


現在は独立したUGAとなったPanzano(かつてはGreve in Chiantiの一部)で、「L’Unione Viticoltori di Panzano in Chianti(パンツァーノ・ワイン生産者組合)」という生産者団体が結成され、Panzanoエリアの全面オーガニック化という目標に向けて動き始めたのだ。


2008年には、かねてからパンツァーノ・ワイン生産者組合に、オーガニック転換のアドヴァイスを行なっていたルッジェーロ・マッツィッリを所長として、私立研究所Spevisが始動。


Spevisによるタイムリーなサポートの元、2020年にはPanzanoにある葡萄畑の、約90%がオーガニック化に成功した。


Chianti Classico 2000プロジェクト、PanzanoとSpevisの連動による圧倒的な成果、そして、ボルドーの一大サスティナブル化という衝撃。


誇り高きChianti Classicoの造り手たちが、迷わずこの道を進んでいくために必要だったバックアップ体制と成功例が揃ったのだ。


参考までに、2021年12月にキアンティ・クラシコ協会が発表したデータには、Chianti Classico認定畑約6800haのうち、約2050ha(おおよそ30%)がオーガニック化したとある。


それから一年以上が経った現在、オーガニック比率54%という筆者が耳にした数字は、(少なくとも、認可待ちのグループを含めればほぼ確実に)非現実的なものでは無いと十分に考えられるが、公式のアナウンスを待って、SommeTimesでも補足レポートを行う予定だ。




北部UGAs

本章では、UGA詳説の後編として、6つのUGAを「北部」とした上で進めていく。


北部に該当するUGAは以下の通りとなる。

Greve(グレーヴェ)

Lamole(ラモレ)

Montefioralle(モンテフィオラッレ)

Panzano(パンツァーノ)

San Donato in Poggio(サン・ドナート・イン・ポッジオ)

San Casciano(サン・カシアーノ)



かつてはGreve in Chiantiとしてひとまとめにされていたゾーンは、Greve、Lamole、Montefioralle、Panzanoへと分割された一方で、Tavarnelle Val di Pesa、Barberino Val d’Elsa、そしてPoggiobonsiの旧ゾーンは、San Donato in Poggio UGAへと統合された。


南部ではCastelnuovo Berardengaが分割(西側のVagliagliと東側のCastelnuovo Berardenga)されたのみだったのに対し、北部ではより大きな改変が行われたことになる。


特にGreve in Chiantiの4分割は、今後南部(特にGaiole)の更なる分割のモデルケースとなる可能性が十分にある。



北部UGAs内のオリジナル・キアンティ

1716年にコジモ三世が定めたChiantiの範囲は、実は正確には分かっていない。


参考までに、当時の布告に書かれていた文言を和訳しておく。


『キアンティに関しては、このように定められ、その通りになる。SpedaluzzoからGreveまで、そこからPanzanoまで、そしてRaddaの全域を含み、それには3つの地域、すなわちRadda、Gaiole、Castellinaが含まれる。そこからシエナの州境まで続く。』


布告にあった文言から、オリジナル・キアンティ(Chianti Storico)の大部分が南部の3地域(Radda、Gaiole、Castellina)にあったことは確実だが、北部に関しては釈然としない。


ただし、文言の前半を現在の地図と照らし合わせながら丁寧に追っていくと、おおよその範囲が予測できる。

記事の続きは…

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