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その畑には、奇跡が宿る <オーストリア・ヴァッハウ特集後編>

格付けは、旧時代の遺物なのかも知れない。


多様性の尊重が声高に叫ばれるようになってから、その思いが私の脳裏から離れなくなった。


確かに、時代は順位を、優劣を、忌避している。


他者よりも優れていることが絶対的な価値では無い。

ありのままの個性を磨けば良い。

そもそも、その順位や優劣は、誰がどの価値観に基づいて決めたのか。


まるで呪いのように繰り返されるそれらの言葉に抗うのは、実に骨が折れることだ。


実際、テロワールが導き出す優劣は、この上なく残酷なものである。


複雑性と調和が格を決める。そこに個性が認められる余地はあったとしても、最終的な価値判断は、厳格なリアルとして佇む。


生産者の常軌を逸した努力によって、ワンランク上のテロワールへと到達できることは稀にあったとしても、最低ランクの葡萄畑が、特級畑クラスへと昇華するような奇跡は起こらない。


やはり、前時代的ではあるのだろう。


だが、私は頑固者だ。


勝ち負けの無くなったスポーツになど、全く興味はない。

美味い料理は美味いし、そうではない料理の中には、不味いものもある。


全てを個性と多様性の名の元に許容してしまう世界線の先には、衰退と停滞しか見えない。


だからこそ、抗おう。


テロワールの優劣という価値観は、ワイン趣味の真髄であると、主張し続けよう。




Wachauのテロワール格付け

特集後編では、まだÖTWによる公式格付けが導入されていないWachauの単一畑に対して、SommeTimes独自の格付けを「事前提唱」という形で公開する。

 

なお、少なくとも最上位クラスの葡萄畑は、ほぼ網羅した形となるが、会場内で試飲できなかった葡萄畑に関しては、筆者が以前テイスティングしたことがある場合でも、本記事内では一切言及しないこととする。

 

また、会場では可能な限り、各葡萄畑で複数生産者のワインをテイスティングし、品質の一貫性も確認しているため、代表例として特に高品質と感じたワインを、全て紹介する(あまりにも長大になるため、テイスティングコメントは割愛させていただく。)こととする。

 

WachauのSmaragdは特に、パワーが重視されていた時代の名残りもあるため、本記事での評価基準には、力強さに加え、フィネス、バランスといった要素も含めている

 

総じて、西洋的価値観に基づいた品質評価ではなく、アジア的感性が多分に反映された結果となったと言えるだろう。

 

各最終評価の目安は、以下の通りとなっている。

 

SS:特級畑相当の中でも、最上位に位置する

S:特級畑相当

A:一級畑相当の中でも、最上位に位置する

B:一級畑相当

 

基本的には、Gneiss(片麻岩)を中心とした岩石の多い土壌ではリースリングが、Loess(レス:黄土)及びLoam(ローム:粘性土)が主体となる土壌ではグリューナー=ヴェルトリーナーが品質的に優位となるとされているが、今回の検証からは、その「定説」に反する結果も多々見受けられた。これは、同じ葡萄畑内でも区画(特に標高)によって、土壌組成が変化することが多いという、斜面ならではの特性が主な理由と考えられる。

 

同じ葡萄畑でも、品種によって評価が分かれたケースもあるため、できる限り品種とテロワールが紐付いた評価として、理解を進めていただきたい。

 

まず、Wachauを全体論として見るなら、西部が最も冷涼で、東側はより温暖とはなるが、実際には標高や斜面の向きなども密接に関わってくるため、(東西の位置はあくまでも目安として)葡萄畑ごとの把握が最終的には重要となる。

 

そして、最終的に検証結果を地図と照らし合わせて俯瞰した際に何よりも驚いたのは、特級畑相当とした葡萄畑が、例外なく各ゾーンの中で一箇所に固まっていたことだ。

 

テロワールは嘘をつかない。

 

結局は、そういうことなのだろう。

 

 

Zone 1(西部西側)

Mühldorfの町から南東へ進むと、Wachauの最西端に入る。西部エリアは、西側と東側でテロワールの特性が異なるため、2つのゾーンに分けて考えた方が正確と言えるだろう。先述した通り、この最西部はWachauの中でも最も冷涼なエリアとなる。特級畑相当の葡萄畑は4つあり、全てが一つの斜面に連なっている。



Brandstatt

Grape: Riesling (S), GV (S)

Surface: 13ha

Elevation: 311~471m

Orientation: 西〜南西

Soil: Loess(レス)、Loam(ローム)

Wachauのほぼ最西端に位置するBrandstattは、西方向を向いた斜面であることから、最も冷涼な畑の一つとして知られている。限界的生育条件特有の、極めて高いテンション感と集中力、奥行きのあるレイヤー、偉大な複雑性が、驚異的な完全性の元にまとまっている。正真正銘の特級畑相当であり、西部にある特級畑相当群の中でも、最もSSクラスに肉薄した品質領域にある。

レスとロームが主体となるため、グリューナー=ヴェルトリーナーが優勢の畑ではあるが、斜面上部のリースリングも傑出した品質となる。


代表例

Riesling

Veyder-Malberg, Riesling Ried Brandstatt

Martin Muthenthaler, Riesling Ried Brandstatt


GV

Högl, GV Smaragd Ried Brandstatt

Martin Muthenthaler, GV Ried Brandstatt



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