サントリーニ特集後編は、各生産者を取り上げながら、今のサントリーニの多様な姿に迫ってみたい。生産者の数も限られる小さな島ではあるが、それぞれが独自のスタイルと哲学をもったワインを作っているのが、この島の魅力である。
先ずはサントリーニという産地を語る上で、特に重要な造り手を挙げよと言われたらまず名前の上がる二人、ハリディモス・ハツィダキスとパリス・シガラスから始めよう。
サントリーニのぶどう畑は細かく細分化されて所有されており、全体で概ね1,200の栽培農家がいる。全ての農家は1911年に設立された唯一の協同組合であるサント・ワインズに加盟しており、長らくこのワイナリーが島を代表する生産者でもあった。
他のギリシャの産地と同様に、少しずつ状況が変わってきたのは近年になってからである。彼らのようなスター生産者の登場がその大きなきっかけとなったのは論をまたない。
ハリディモス・ハツィダキス
(コンスタンティーナ・ハツィダキス)
観光客で混雑するサントリーニ空港でUberを捕まえて約20分、一面クルーラ仕立ての畑を過ぎ、ワイナリーに到着する。周りにはほとんど何もない。大きな洞窟を改装したワイナリーに入ると、テイスティング中の観光客のグループと、説明するスタッフが目に入り、ここが観光客の多い島であったことを思い出させられる。生産量は現在6-7万本とそれほど大きいわけではないし、ギリシャ国内でも海外でもよく知られたワイナリーであるにも関わらず、こうやってセラードアにも力を入れているのを見ると、サントリーニがワイン産地として特殊な立ち位置にあるのがよく分かる。
サントリーニのブータリ・ワイナリーの醸造家だったハリディモスが、妻のコンスタンティーナと共に1997年に設立したのがハツィダキス・ワイナリーだ。コンスタンティーナの実家はサントリーニに放棄された樹齢の古い畑を所有しており、この畑を元にワイナリーの歴史が始まった。当初からオーガニックでの栽培を行い、島で初めての有機栽培の認証を得たぶどう畑である。
その後ワイナリーは少しずつ拡大していったが、自社畑の有機栽培や天然酵母での醸造を100%行うという点でサントリーニでも先駆的であり、今でもこれは非常に珍しい。近代化したスタイルのワインが多いこの島において貴重であり、軽いフィルターの使い方なども含めナチュラルワインの文脈からも語ることができるワインだとも思う。
また、ブータリに勤めていた頃からマヴロトラガノの可能性に着目し、独立した1997年に島で初めてのマヴロトラガノ単一のキュヴェをリリースしたのもハリディモスだ。