SommeTimes上で別府岳則氏が2021年にポルトガル特集記事を寄稿した際、氏はポルトガルのことを、「一周遅れでトップを走っているように見えるランナー」と表現した。
「一周遅れ」とは、パーカリゼーションを含む近代化に乗り遅れたことを意味し、「トップを走っているように見える」とは、結果的に古い伝統や混植畑を守ってきたことが、世界でも稀な価値となったことを意味する。
私にとって、今回の旅の大きな目的の一つは、現在のポルトガルワインが、氏が半ば疑問形で投げかけた「トップを走っているように見える」という状況通りなのか、それとも「本当にトップを走っている」のかを、自らの目と鼻と舌で確かめることだった。
先に結論を言おう。
私が体感したポルトガルワインの今は、もはや周回遅れでも、トップを走っているように見えるだけでもなく、真のトップランナーそのものであった。
全体像
ダオンもまた北部ポルトガルの通例に漏れず、葡萄畑は伝統的に多品種混植で仕立てられていたが、19世紀後半以降はフィロキセラ禍、モノポリー、クローン技術の進化、作業効率の重視、そして単一品種ワインをより求めた時代背景などが相まって、少しずつそのような葡萄畑は減少してきた。
政治的モノポリーが弱体化し、緩和解体されていく中で、葡萄畑におけるモノポリーが逆方向へと進行したのは、皮肉な出来事と言わざるを得ないだろう。
少なくとも単一品種への植え替えが加速した1970年代以降、過去約50年間の間、再植樹された葡萄畑が混植であったケースは極めて少ない。
Quinta dos Roquesが、2017年の大規模な山火事によって焼失してしまった葡萄畑を、垣根仕立てで畝毎に異なる品種を植える、という現代的アプローチの混植畑として甦らせたようなケースがもっと増えれば、と個人的には願うが、外側から見た混植混醸のただならぬ価値と、現地で日々葡萄と向き合う造り手の間には、それなりの温度差があるのも確かだろう。
Quinta dos Roquesの現代的混植畑
株仕立ての古い混植畑と、現代的な垣根仕立てで整備された畑とでは、作業効率に雲泥の差が生じる。
慢性的な働き手不足が解消されない中、葡萄畑が混植ばかりだと、ワイン産業自体が成り立たない、というのもまた、動かざる事実なのだ。
とはいえ、現在ダオンの全体像がやや掴みにくくなっている原因は、このように伝統的な混植(及び混醸)と、単一品種、そしてブレンドワインが大いに混在していることにある。
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