代わり映えしないフィレンツェの街並み。
街中に張り巡らされた、妙に洗練された路面電車。
荘厳と佇むサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂。
見覚えのあるホテル。
苦々しい記憶が徐々に蘇ってくる。
再訪を強く望んできたのに、私の心には嬉しさなど一欠片も宿っていなかった。
そう、トスカーナは4年前の私に、随分と長引いた敗北感を刻んだ地だったからだ。
トスカーナワインに関する知見と経験が根本的なレベルで足りなかった当時の私に、高貴なサンジョヴェーゼは分厚い壁となって立ちはだかった。
不安げにスワリングを繰り返すグラスの中に、確かにあったはずの真理。
私はそこへついぞ到達できぬまま、帰路についた。
ワイン人として次のステージへ進むために、私が乗り越えねばならない試練を残したまま、4年という時間だけが、無情に刻まれ続けてきた。
久々に降り立ったフィレンツェに私がもち込んだのは、覚悟だった。
再び敗北を味わうことになったなら、求道者として大きな回り道を強いられると。
サンジョヴェーゼ
長らくの間、私はイタリアに数多くある地場黒葡萄品種の中でも、ネッビオーロを別格視してきた。そして、サンジョヴェーゼは個人的な序列の中では、常に第二位だった。
ピエモンテ州のワインに、より馴染みがあった。ネッビオーロの方が、サンジョヴェーゼよりも理解しやすかった。バローロやバルバレスコのテロワールと、ネッビオーロの関係性の方が、明確に思えた。
それらしい理由は様々あったと思うが、トスカーナ再訪を終えた今、私は確信に至っている。
私がサンジョヴェーゼを次点とし続けた本当の理由は、私自身の無知にあったと。
そして、サンジョヴェーゼはネッビオーロと並び立つ、真に別格の存在であると。
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