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再会 <67> マニア向けの極上バローロ
Pio Cesare, Barolo “Mosconi” 2018. ¥23,000 ワインの探究と固有名詞の数々は、切っても切り離せない関係にある。 ワインでしか用いられない特殊な専門用語も多々ある上に、それらを理解していないとアドヴァンスな話には全くついていけなくなったりもする。 その最たる例と言えるのは、葡萄畑名だろうか。 世界中に無数に存在する葡萄畑名は、それ単体では、基本的に「識別記号」として機能している。 このことは、人の名前に当てはめてみるとわかりやすいかも知れない。

梁 世柱
2024年9月1日


出会い <66> 聖地のニュースター
Daniel Jaunegg, Sauvignon Blanc “Muri” 2021. 近年の日本における学校教育の実態を聞いて、私は開いた口が塞がらなくなった。 どうやら子供達に、徹底的に「競争」を避けさせている学校が数多くあるらしいのだ。 勝者と敗者を同時に生む競争の弊害に関しては、理解できる部分ももちろんある。しかし、運動会の徒競走で順位を決めないなどは、正直あまりにも極端に思えてならない。 切磋琢磨、という言葉はもはや死語なのだろうか。 そういう私自身も、旧時代の遺物として揶揄されることになるのかも知れないが、私は純然たる事実をここに書き記そう。 今の私は、絶え間ない競争の果てに在る、と。

梁 世柱
2024年8月25日


再会 <66> 北海道生まれ、最高のVin de Soif
Domaine Ichi, op.10 Petillant Naturel Rosé 2023. Vin de Soif(ヴァン・ド・ソワフ)という言葉に明確な定義があるわけでないが、一般的には、フレッシュかつフルーティーで、アルコール濃度が低く、極めてドリンカビリティに長けたワインのことを指す。 ワンフレーズで言い表すなら、「超グビグビ系ワイン」、といったところだろうか。 グビグビ、はサラサラでもスルスルでもゴクゴクでも構わない。どちらにしても、似たようなものだ。 この言葉自体がナチュラルワインを示唆しているわけでもないのだが、低亜硫酸醸造の方が、Vin de Soifらしい性質を遥かに実現しやすいというのもあり、実際にはナチュラルと呼べるカテゴリー内に入っていることが非常に多い。 そんなVin de Soifは、私にとって極めて重要な役割をもったワインである。

梁 世柱
2024年8月18日


出会い <65> 新世代のスタイリッシュなナチュラルワイン
Peltier Ravineau, les Bois brûlés 2023. ¥3,800 世代が変わればワインの味も変わる、というのは、ワインの世界では延々と繰り返されてきたことだ。 基本的には、だいたい10年単位で一世代と括ることができるので、私がワインを学び始めてから20年ちょっとの間に、その前の世代とさらに前の世代を遡って体験したことを踏まえれば、少なくとも四世代分、様々な産地の変化を見届けてきたことになる。 もはや多少の変化では驚きすらしなくなってきたことには、少々の寂しさと物足りなさを覚えもするが、それは仕方のないことだろう。 近年の世代交代で見られてきた変化の全体感を捉えると、オーガニック化と、テロワール重視への大幅な醸造技術のシフトという二つの傾向が真っ先に挙がる。 そしてその変化は、クラシック、ナチュラル関係なく、あらゆるジャンルのワインに及んでいる。

梁 世柱
2024年8月11日


Wine Memo <27>
Laurent Bannwarth, Riesling Bildstoeckle 2019. ソムリエとしての修行を始めて間もない頃。今から20年ほど前の話だ。 私は順当に、“当時は”ワイン界の中心にいたフランスの銘醸地、つまりブルゴーニュ、ボルドー、シャンパーニュから学び始めていたが、ワインの教科書を読み進めるうちに、とある産地に強く興味をもった。 フランスのアルザス地方だ。 理由は大したものではない。フランスなのにドイツ語が飛び交うだとか、度重なる戦争でフランス領とドイツ領を行き来したとか、ワインのボトルがドイツと同じ細長いタイプだとか。 その背景にある悲惨な歴史と理不尽に奪われた命には興味をもたず、ただただアルザスの特異性という結果だけが私を惹きつけた。

梁 世柱
2024年8月9日


再会 <65> 大ピンチを救ってくれた、思い出のワイン
La Biancara (Angiolono Maule), Sassaia 2022. ¥3,700 約12年前の年末、私は大ピンチに陥っていた。 当時NYのワイン業界では無名に等しかった私を、なぜか新プロジェクトのワインディレクターとしてヘッドハントした、今は亡き大恩師でもあるシェフ、デイヴィッド・ブーレーは、紛れもない天才中の天才だったが、いわゆる「サイコ」としても知られていた。 無理難題を突如押し付けてくるのは日常茶飯事、その荒波をなんとか乗り切りながらの仕事は、今思えば刺激的で充実したものだった。 ところが、年末が近づいてきたある日、ブーレーは私に「Mission Impossible」と思えるような超難題を放り投げてきた。 当時働いてレストランは、フレンチの要素を取り入れた高級和食店。 そして、和食店の年末年始といえば、おせち料理にも関連した難食材や料理が多く出てくる。 普段なら、そういう料理に対するペアリングは日本酒でかわしてしたのだが、ブーレーは、「子持ち昆布のお浸し」というスーパーワインキラーに対して

梁 世柱
2024年8月4日


出会い <64> 古代型ワインの妙
Atipico, Under the Plum Tree 2023. ¥5,800 人類最古のワインカテゴリーは何なのか。 とても興味深い疑問だが、考古学である以上、どのような見解にも頻繁に「おそらく」という枕詞がついて回る。 しかし、少なくとも白ワインが最も古いカテゴリーではない、という見解は極めて信憑性が高い。 現時点で見つかっている考古学的証拠からは、紀元前3500年頃に、最初の白ワインらしきものが現代のイランで造られ始めたと考えられている。 また、紀元前460年に、「医学の父」とも呼ばれる古代ギリシアのヒポクラテスが、白ワインを患者に処方したと記録しているため、確定に限りなく近い証拠という意味では、白ワインの最古の記述はヒポクラテスの処方記録となるだろう。

梁 世柱
2024年7月28日


Not a wine review <3>
Rockland Distilleries, Ceylon Arrack. (免税店価格:約4,900円) 一週間に渡って、ワインジャーナリストにとっては無縁の国を訪れた。 スリランカだ。 半分はヴァケーションも兼ねた旅であったが、紅茶の世界三大銘茶とされるスリランカの茶産地「ウバ」(他の二つはインドのダージリン、中国のキームン)を訪れることが、この旅の目的。 未知の異国故の様々な小トラブルにも見舞われつつ、腹を下す覚悟をしながら(日本の衛生感覚ではありえないような)ローカル店でスリランカカレーを堪能したり、アーユルヴェーダ(インド・スリランカの伝統医療だが、スパの一環としても楽しめる)でリラクゼーションの深淵に没入したり、激しくバウンスするジープに揺られながらサファリで40頭近い象の群れに遭遇したりと、ワインジャーナリストとしての旅では決して味わえない非日常を過ごすことができた。 ウバでの体験はまた別稿にてレポートさせていただくが、今回のレヴューシリーズで紹介したいのはスリランカのアラック。

梁 世柱
2024年7月21日


再会 <64> 飲み頃観測の難しさ
Rall, AVA Syrah 2020. ¥11,800 ワインの飲み頃予測に、完璧な方程式は無い。 産地(もしくは特定の葡萄畑)と葡萄品種だけで予測が成り立つなら簡単だが、実際にはヴィンテージ、造り手の特徴(特に収穫時期と醸造関連)、輸送環境、管理状況などの様々な変数が関わってくるため、極めて複雑なマトリックスとなってしまう。 ワインファンなら、せっかく手にしたボトルを最高の状態で楽しむために、飲み頃予測に「神の数式」が存在すれば、と願うのはいたって普通の思考だと思うが、百戦錬磨のトップ・プロフェッショナルであっても、本当の意味での正確無比な予測は100%に限りなく近いほど不可能と言える。 私自身も、この法的式の探究には真摯に取り組んできた一人だが、正直に申し上げると、私は数年前に諦めている。

梁 世柱
2024年7月7日


出会い <63> 環境のアロマ
Marzagana Elementales, Vita 2022. ¥8,000 ふと疑問に思った。 きっかけは、焼肉店でたらふく食べた後の、自分の衣服だった。 美味しかった記憶がすぐに蘇ってくるような、焼肉の匂いが染み付いていた。 そんなことは当たり前、と誰もが思うだろう。 そう、香りは揮発し、染み付くのだ。 生育期の葡萄畑を歩き回り、その畑から造られたワインを飲む、という経験をしたことがある人であれば、畑とワインのアロマの間に明らかな共通性を感じたことがあるのではないだろうか?

梁 世柱
2024年6月30日


再会 <63> Johannes Zillinger Part.2
Johannes Zillinger, Numen Rosé SL 2020. 偉大なロゼの探求。 私が長年取り組んできた研究テーマの一つだ。 夏に、よく冷やしてカジュアルかつリーズナブルに楽しむ。 そのシチュエーション自体は私も楽しんでいるのだが、それだけ、となると流石に違和感を隠せない。 白ワイン、赤ワイン、スパークリングワインなら、カジュアルなものから、徹底してシリアスなものまで当然のように幅広く存在し、マーケットでもしっかりと棲み分けがなされている。 オレンジワインもおおむね同様の形となりつつある。 しかし、ロゼだけはシリアスなものが極端に少ない。

梁 世柱
2024年6月23日


Not a wine review <2>
伝統深い飲み物が他文化との交流によって変化する、という現象は現代のトレンドなのかも知れない。 中には、極めてワイン的な変化をした一部の日本酒のように、(ワインとその文化に対する)憧れやコンプレックスが根底にあるとしか思えないものもあるため、全てを手放しで称賛することはできないが、新しい価値観が創造されること自体は、実にポジティヴな動きだと思う。 しかし我々は、この「新しさ」が革命なのか、進化なのか、を冷静に判断すべきではなかろうか。

梁 世柱
2024年6月22日


出会い <62> ティピシテを超えたブルゴーニュの偉大さ
Pierre-Henri Rougeot, Saint-Romain 2020. ¥9,300 気候変動、温暖化によって、伝統産地のワインが様変わりしつつあることは、SommeTimesでも度々取り上げてきた。いや、問題視してきた、と言って良いだろう。 単純な味わいの変化、という意味であれば、時代の嗜好によって、(特に1980年代以降は)これまでも10年単位で変化し続けてきたので、いまさら騒ぐようなことでもないのだが、今起こっている変化は人為的なものではなく、自然環境自体の変化がもたらしたもの、という点に大きな懸念がある。 つまり、テロワールとダイレクトに繋がったティピシテ(簡単に説明すると、「らしさ」となる。)が変わってしまっているということだ。 ワイン趣味が深まるほど、我々の多くはワインに「らしさ」を求めるものだ。 それが伝統産地の、比較的クラシックな表現のワインであれば尚更のこと。

梁 世柱
2024年6月17日


再会 <62> Johannes Zillinger Part.1
Johannes Zillinger, Parcellaire Blanc No.1 2021. オーストリアは、世界でも有数のナチュラルワイン銘醸地だ。 北海道とほぼ同じ国土面積、大阪府とほぼ同じ総人口。オーストリアはとても小さな国であるため、ここでいうナチュラルワイン銘醸地としての姿は、物量によるものではなく、圧倒的な質の高さによって獲得した評価である。 特に、Steiermark(シュタイヤーマルク)とBurgenland(ブルゲンラント)には、世界最上クラスと目されるナチュラルワイン生産者達が名を連ねる。 ルドルフ・シュタイナーがオーストリア(オーストリア=ハンガリー帝国)の生まれであることも、かの国でビオディナミ農法に真摯に取り組む造り手が相対的に多い理由の一つとなっているかも知れないが、それ以上に生真面目でやや内向的な(ここが重要なのです)国民性が、モノづくりの質を限りなく高めていると考えた方がしっくりとくる。

梁 世柱
2024年6月9日


出会い <61> 辛口フルミントの聖地
Vino Gross, Iglič 2021. 世界は広い。そしてワインの世界もまた、広大だ。 日本は世界で最も成熟したワイン市場の一つであるため、レーダーの範囲をかなり広げてさえいれば、知られざる銘醸と出会える可能性も高いが、マイナー産地ならまだしも、マイナー品種ともなると、さすがに運と導きの比重が大きくなる。 オーストリアに来てから、グリューナー=ヴェルトリーナー、リースリング、ブラウフレンキッシュ、ツヴァイゲルトなどの「メジャー系」ワインを堪能しつつも、ゲルバー・ミュスカテラー、ノイブルガーといった「マイナー系」品種も数多くテイスティングしてきたが、数多くの興味深い発見の中で一つ、少し疑問符が浮かぶ品種があった。 フルミントだ。

梁 世柱
2024年6月2日


再会 <61> ネクスト・ステージ
Botanical Life, vin-shu plus rouge 1 ~terra~ 2022. ¥3,800 良いところも、そうとは言い切れないところも含めて、ワインに対して全面的に正直であることは、私がジャーナリストとして何よりも大切にしているポリシーだ。 そのワインの良い部分だけを探そう、というアイデア自体を否定しているわけではないが、建前とお世辞を並べただけの上っ面な賞賛は、少なくともジャーナリズムではないと私は思う。 しかし、状況によっては、ある程度譲歩せざるを得なくなることも確かにある。 記事化が確定している訪問先のワインに、疑問符が多く付いてしまった時などは、まさにそうだ。 そのような経験はいくつか思いあたるが、(後悔という意味で)最も印象に残っているのは、兵庫県にあるBotanical Lifeでの出来事。

梁 世柱
2024年5月26日


Wine Memo <26>
Florian Herzog, Neuburger 2022. 約10年ぶりにウィーンを訪れている。 美しい建築物の数々、スペース感たっぷりでゴミ一つ落ちていない街並み、至るところから聞こえてくるヴァイオリンのしらべ、隣国のドイツよりも遥かに美味しい料理、ゆったりとしたペースの人々、問題なく通じる英語、そして尽きることのないワインとビール。 世界各地に好きな街があるが、ウィーンは私にとって不動の、「移住したい街ランキング」第一位だ。 成田とウィーンを結ぶ便は、ロシア上空を回避するため、14時間の長旅に。 乗り継ぎが無い分、だいぶマシな方だが、やはり現地のホテルに到着した頃には疲労困憊になっていた。 とりあえずシャワーを浴びて、一息つこうとでも思っていた矢先、先にウィーン入りしていた友人から呼び出しが入る。

梁 世柱
2024年5月24日


出会い <60> 魅惑のソレラ
Ktima Ligas, Spira NV. テロワールと葡萄品種の相性は、高品質ワインにとって最も重要な条件だが、唯一無二の絶対的なもの、というわけでもない。 例えテロワールが(最高の産地と比較して)劣っていても、スタイル的に品質が頭打ちになりやすいタイプのものでも、創意工夫次第では限界突破を果たせることが、確かにある。 とはいえ、非常に稀なケースではあるため、工夫すれば良い、というシンプルなものでもないのが難しいところ。 今回出会ったワインは、ギリシャのPellaという産地で造られている。 おそらく、Pellaのことを知っている人は、ギリシャ在住者でもない限り、ほとんどいないと思う(私も同様)が、ギリシャ第二の都市であるテッサロニキから近く、南隣は高名なNaoussaと書けば、少しはイメージが湧くだろうか。

梁 世柱
2024年5月19日


再会 <60> 南ローヌの伏兵
Domaine de Marcoux, Lirac Rouge “La Lorentine” 2021. ¥4,900 南ローヌは世界的な銘醸地だが、(少なくとも日本では)あまり理解されていない産地でもある。 この地ではChateauneuf-du-Pape(以降、CDP)の名声がずば抜けて高いため、南ローヌはCDPと「その他」のような構図になってしまっているようにすら思えるが、そのCDPですら、品種構成も土壌組成も極めて複雑なため、理解は容易ではない。 世界的な食のライト化に伴って、より軽いワインを好む風潮が強まっているのも、南ローヌにとって向かい風となっている。 最も名高いCDPは、難しい上に高価だから、気軽に試すことも難しい。 おそらく、CDPに次いで認知されているのはGigondasだと思うが、ワイン愛好家であっても、Gigondasを飲んだことがある人はかなりの少数派となるだろう。 さらに、今回の再会ワインであるLiracの赤ともなれば、ほとんどの人にとって未体験のワインとなる可能性は高い。

梁 世柱
2024年5月12日


Not a wine review <1>
Rampur, Double Cask.(免税店価格:約15,000円) 今週は「出会い」、「再会」のシリーズをお休みして、イレギュラーなレヴューをお届けしようと思う。 私は専門分野としているワインと日本酒以外にも、日常的にありとあらゆる酒類を嗜んでいるが、中でもビールとウィスキーへのこだわりが強い。 今回はSommeTimesでは初のレヴューとなるウィスキー、しかも、インド産のウィスキーが主役。 行きつけのインド料理店で、インド産ウィスキーを使ったハイボールは何度か飲んでいたので、生産していること自体は知っていたのだが、それほど良い印象をもっていたわけではなかった。 しかし、このRampur, Double Caskを飲んだ瞬間、私はインドウィスキーに対して決定的に誤った認識をもっていた事に気づかされたのだ。

梁 世柱
2024年5月5日
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