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SommeTimes 2023年 ベスト・パフォーマンス賞

2022年末に、「権威の礼賛」からの解放、を2023年のテーマとして掲げた。

 

今年の現地訪問は、イタリア・トスカーナ州とカンパーニャ州、ポルトガルのダオン、バイラーダ、ヴィーニョ・ヴェルデ、ドウロの合計6産地。(ワインとは関係ないが、台湾の茶産地を含めると9産地。)

 

トスカーナ州以外は初訪問であったこと、一般的には知名度がそれほど高くはない産地であったことも相まって、まさにテーマ通りの「発見」に満ちた一年となった。

 

また日本国内においても、積極的に世界各地のマイナー産地中心にテイスティングを繰り返し、改めて「ワインの世界地図」に巨大な変化が起きていることも確信した。

 

また2023年は、ロシアによるウクライナ侵攻を発端としたエネルギー高が継続していたこと、世界的なインフレーション、そして歴史的な円安、という三重苦で、輸入ワインの価格が大幅に高騰したことによって、これまで以上に「その他」のワインにとってはチャンスの年になったと言えるだろう。



2023年度のSommeTimes Best Performance Awardも、その傾向を如実に反映している。

 

昨年と同様に、この賞は、単純な「最も素晴らしい」という判断基準では、選出していない。

 

選出されたワインは、それぞれが何かしらのメッセージを宿し、そのメッセージが「未来を切り開く」ものであると、筆者が確信したものとなる。

 

選出は各カテゴリーで1ワインのみ。特に価格の上限は設けていないが、ワインをテイスティングする際には、ヴァリューパフォーマンスに対する意識が、常に強力に働いていることはご理解いただきたい。


なお、本年は海外での試飲(その多くが未輸入ワイン)も多かったが、ベスト・パフォーマンス賞への選出は、日本国内で入手可能なもの(もしくは輸入の目処が立っている)に限定している。

 

では、発表に移ろう。

 


白ワイン部門

Entre Pedras, D.O. Pico Arinto dos Açores 2021.

Pico, Portugal.

(国内輸入元:Racines / 国内販売価格:税抜6,900円)



本年度、未知のワイン産地として最も印象に残ったのが、ポルトガル・アソーレス諸島のピコ島であることは間違いない。表土がほとんどない、剥き出しの火山岩に葡萄樹を突き刺して育てる、というなんとも豪快で無茶苦茶な葡萄畑で生まれるワインもまた、異質そのもの。果実味はほぼ行方不明となり、純粋なミネラルの塊と化した液体が、隅々まで溶け込んだ塩味と共に押し寄せてくる。異様だが、偉大な唯一無二の個性。テロワールが強すぎて、葡萄品種ごとの差も最小限に止まっている。

 

 

赤ワイン部門

Nomads Garden, Pinot Meunier 2022.

Victoria, Australia.

(国内輸入元:kpOrchard/ 国内販売価格:税抜3,200円)



「オルタナティヴ品種」先進国となりつつあるオーストラリアから登場したこのピノ・ムニエには、まさに度肝を抜かれた。ピノ・ムニエ自体は同国で長い栽培歴のある品種で、高品質なワインも過去に散見されていたが、フルーティーで底抜けにチャーミングな果実味、シルクのようなテクスチャー、踊るような酸の軽快さには、オーストラリア・ニュー・ジェネレーションズの約束された未来と、底知れない可能性を感じずにはいられない。ヴァリュー・パフォーマンスという意味でも、本年トップレベルの一本だ。

 

 

スパークリングワイン部門

Giz, Cuvée de Noirs “Late Release” 2017.

Bairrada, Portugal.

(2024年、国内輸入開始予定)



バイラーダはポルトガルの中でも、歴史的にスパークリング・ワインの銘醸地として名高い産地だが、超新星ルイシュ・ゴメシュが率いるGizによるこの一本は、開いた口が塞がらないほどの衝撃度。古い混植畑(Vinhas Velhas)を混醸でスパークリングワインに仕立て、ヴィンテージ・シャンパーニュ並みの長期熟成を経てリリース。驚異的な奥深さを伴ったミネラルの多重奏、濃縮した果実のパワー、悠久の余韻。その圧巻の個性も含めて、シャンパーニュではないスパークリング・ワインの中で、本年最も印象に残った一本だ。来年には国内輸入も予定されており、日本デヴューした際には真っ先に飛びつくべき極上のワインだ。

 


ロゼワイン部門

Valentin Valles, Lundi 2022.

Rhône, France.

(国内輸入元:BMO/ 国内販売価格:税抜5,500円)



南ローヌ/プロヴァンスにおけるナチュラルワイン生産者の雄といえば、エリック・ピフェリン率いるラングロールの名が真っ先に挙がるかと思うが、今「Eric’s Children」と呼ばれるエリックの弟子達が、大躍動しているのだ。そんな「エリックの子供たち」の中でも、大出世株と言えるのが、ヴァランタン・ヴァルス。そのワインの精度は年々高まっており、特に2022年ヴィンテージは、「ついに師を超えたか」とすら思わせられるほどの高みに到達した。グルナッシュ、サンソー、シラーという伝統的な南仏ロゼを、現代的なナチュラルワインとして昇華させた大傑作。

 

 

オレンジワイン部門

JNK, Jakot.e 2016.

Vipavska Valley, Slovenia.

(国内輸入元:Diony/ 国内販売価格:税抜8,000円)



本年も多種多様なオレンジワインをテイスティングしたが、他を圧倒する、といっても過言ではないほど強烈な印象を残した一本がこのワインだ。よりフラットな特性のフリウラーノから引き出された、重厚な旨味。凝縮した果実味とほのかな熟成風味のハーモニー、力強くグルーヴする酸、ど迫力のベースを奏でる巨大なミネラル。「新しいワイン」から、「偉大なワイン」へと脱皮しつつあるオレンジワインの未来を強烈に照らす、問答無用の超傑作ワイン。

 

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