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テロワール表現のスイートスポット
今回のオーストリア訪問では、世界各国から集結した複数名のMWやMSを含むトップワインプロフェッショナル達や、現地のトップ生産者達と、ひたすら一つのテーマに関する議論が繰り返された。 どのようなプロセスによって造られたワインが、客観的かつ論理的に観測可能な形で、テロワールを最も精密に表現しているのか、というテーマだ。 私からこの議題をもちだしたこともあったが、多くは極々自然発生的に会話がこの議論へと繋がっていた。 つまり、今最先端でワインを追求しているプロフェッショナルたちの関心が、大いにこのテーマに対して集まっている、ということだ。

梁 世柱
2024年6月8日


ノイジードル湖西側の至宝、ルスター・アウスブルッフ
ノイジードル湖東側、Illmitz(イルミッツ)周辺で造られる貴腐ワインの魅力に関しては、別稿にてレポートしたが、西側のRust(ルスト)にもまた、ヨーロッパのワイン史にその名を残す偉大な貴腐ワインがある。 Ruster Ausbruch(ルスター・アウスブルッフ)だ。 東側にはKracherやNittnausなど、貴腐ワイン生産者としてはかなりの規模となる大手がいるため、知名度や入手のし易さにおいては大きくリードされているが、より希少となるスター・アウスブルッフにもまた、異なった魅力が宿っている。

梁 世柱
2024年6月7日


出会い <61> 辛口フルミントの聖地
Vino Gross, Iglič 2021. 世界は広い。そしてワインの世界もまた、広大だ。 日本は世界で最も成熟したワイン市場の一つであるため、レーダーの範囲をかなり広げてさえいれば、知られざる銘醸と出会える可能性も高いが、マイナー産地ならまだしも、マイナー品種ともなると、さすがに運と導きの比重が大きくなる。 オーストリアに来てから、グリューナー=ヴェルトリーナー、リースリング、ブラウフレンキッシュ、ツヴァイゲルトなどの「メジャー系」ワインを堪能しつつも、ゲルバー・ミュスカテラー、ノイブルガーといった「マイナー系」品種も数多くテイスティングしてきたが、数多くの興味深い発見の中で一つ、少し疑問符が浮かぶ品種があった。 フルミントだ。

梁 世柱
2024年6月2日


ノイジードル湖の魔法
世界三大貴腐ワインといえば、ドイツのTBA、ハンガリーのトカイ、そしてフランス・ボルドーのソーテルヌだが、オーストリア・ブルゲンラントのノイジードラーゼーを含めて「世界四大」とされてことかったことに、何か特別な理由があるのか、かねてから興味があった。 ノイジードラーゼー(本稿ではノイジードル湖の東側を意味する。西側のRuster Ausbruch DACは条件が異なる。)は前述した3産地と同じく、(ほぼ毎年と言えるほど)安定して貴腐ワイン造ることができる場所だからだ。 このような場所は、ワイン産地として形成されているという意味では、世界にこの4ヶ所しか無いのだから、四大となっていないことに違和感が生じる。 確かにノイジードラーゼーの価格は安いが、ソーテルヌにもトカイにも安いワインはある。 甘口ワイン産地としての歴史は500年以上もあるので、「格式」という意味でも問題はない。

梁 世柱
2024年5月30日


出会い <60> 魅惑のソレラ
Ktima Ligas, Spira NV. テロワールと葡萄品種の相性は、高品質ワインにとって最も重要な条件だが、唯一無二の絶対的なもの、というわけでもない。 例えテロワールが(最高の産地と比較して)劣っていても、スタイル的に品質が頭打ちになりやすいタイプのものでも、創意工夫次第では限界突破を果たせることが、確かにある。 とはいえ、非常に稀なケースではあるため、工夫すれば良い、というシンプルなものでもないのが難しいところ。 今回出会ったワインは、ギリシャのPellaという産地で造られている。 おそらく、Pellaのことを知っている人は、ギリシャ在住者でもない限り、ほとんどいないと思う(私も同様)が、ギリシャ第二の都市であるテッサロニキから近く、南隣は高名なNaoussaと書けば、少しはイメージが湧くだろうか。

梁 世柱
2024年5月19日


串10本に、10種のワインでペアリング <後編>
東京・根津にある比内地鶏焼き鳥の名店「照隅」にて開催した、「10種の串それぞれに全く異なるワインを合わせる」、というコンセプトのペアリングワイン会。 ストーリーを形作っていった前半の5串に続いて、後編では最後のクライマックスと収束に向けての流れを解説していく。 6串目 マッシュルーム Wine:Trinchero, Tajo‘ 2019. Piedmont, Italy. Grape: Nebbiolo 50%, Freisa 50%. 5串目の鴨ムネ肉に対して、あえてピノ・ノワールのロゼを使うことによって、テンションを落として「じらしていた」ため、次の6串目ではしっかりとギアを上げていくべきだと判断した。 大きく肉厚なマッシュルームに鳥脂を塗って焼いた一本には、焼いたキノコ類に対する鉄板中の鉄板であるネッビオーロを選択したが、ここでも少し捻りを利かせている。

梁 世柱
2024年5月18日


RAW WINE Tokyo 2024
2024年5月12日と13日、東京にて、ナチュラルワイン・ファンが長年待ち焦がれたイヴェントが初開催された。 名著として知られる「自然派ワイン入門」(訳:清水玲奈)の著者、イザベル・ルジュロンMWが主催するRAW WINEは、この分野における最も重要な展示会の一つであり、近年は世界各地で開催されてきたが、世界最大級のナチュラルワイン市場である日本にはなかなか上陸してこなかったのだ。 クリーン・ナチュラルからワイルド・ナチュラルまで、あらゆるスタイルのナチュラル・ワインをテイスティングしつつ、数多くの造り手(RAW WINE Tokyo 2024には、世界各地から約100の作り手が集結した。)と直接話ができるこの様な展示会が日本で開催されたことに、一人のナチュラルワイン・ファンとして、これ以上ない喜びと興奮を覚えた。 溢れんばかりの熱気に包まれた、超満員の会場。 日本各地からの来場者に加え、台湾、韓国、シンガポール、インドネシアなどから、RAW WINE Tokyo 2024のために来日した人々も多くいた。 まともに歩くのも困難

梁 世柱
2024年5月15日


欠陥的特徴の経過観察 <2>
先日、海外から来たナチュラルワインを専門領域とするプロフェッショナル3名と、様々なワインを共にした。 中には入手困難な人気ワインも含まれていたのだが、そのワインは残念なことに、抜栓後30分ともたず、強いネズミ臭が生じてしまった。 抜栓直後は楽しめたが、ネズミ臭発生後は、完全に失速。 ボトルの半分を残して、次のボトルをオーダーすることになり、その後は誰もその欠陥ワインに手を伸ばすことはなかった。 3名は口を揃えて、「失望したよ。もうしばらくこの造り手のワインを買うのはやめておこう。」と話していた。 これは今、少なくともナチュラルワイン・プロフェッショナルの間で起こっている「リアル」だ。 どれだけ有名な造り手であろうと、どれだけ人気が高かろうと、どれだけ入手困難だろうと、ネズミ臭が発生したら無条件アウト。 例え長年に渡って築き上げてきた名声があったとしても、数回のネズミ臭で、その信頼はいとも簡単に崩壊する。

梁 世柱
2024年5月11日


Advanced Académie <36> ブルゴーニュ・クリマ・ランキング Volnay
ブルゴーニュにおける葡萄畑のランキング企画となる、Advanced Académieの本シリーズ。 ご存知の通り、ブルゴーニュには超広域Bourgogneから始まりGrand Cruに至るまで、多階層の格付けが存在していますが、同階層内でも優劣が生じます。 本シリーズでは、以下のような形で、すべての特級畑、一部の一級畑(単一としてリリースされることが多いクリマ)、一部の村名格畑(特筆すべき品質のものを抜粋)をランキングしていきます。 SS:最上位の特級畑クラス S:平均的な特級畑クラス(一部の一級畑も該当) A:特級畑に肉薄する最上位の一級畑クラス(一部の特級畑も該当) B:際立って秀逸な一級畑クラス(一部の特級畑も該当) C : 秀逸な一級畑クラス(一部の村名格畑も該当) D:平凡な一級畑クラス(一部の村名格畑も該当) 一部のクリマに関しては、生産者による品質の落差が大きいため、(A~S)のようにランクを跨いだ評価となります。 第8回はVolnayをテーマと致します。 全体的に豊満なワインが多いCôte de...

梁 世柱
2024年5月11日


串10本に、10種のワインでペアリング <前編> 特別無料公開
先日、東京・根津にある比内地鶏を使った焼き鳥の名店 「照隅」 にて、 ペアリングワイン会 を開催した。 「10種の串それぞれに全く異なるワインを合わせる」 、というコンセプトの元、SommeTimesでも公開してきた ペアリング理論...

梁 世柱
2024年5月8日


エネルギーとテロワールの最大公約数 <Gorizia特集:後編>
Gevrey-ChambertinとChambolle-Musignyの違いを溢れんばかりの情熱で語り合う一方で、West Sonoma CoastとSanta Rita Hillsの違いには興味を示さないどころか、「カリ・ピノ」などと愛称まで付けてひとまとめにする。 まだ「カリフォルニア」と州単位になっているだけマシな方で、これがチリ、NZ、オーストラリア、南アフリカなら、もはや国単位となってしまうことは避け難い。 熱心な愛好家であっても、良く知らない産地のワインは、何も考えずに一括りにしてしまうものだ。 確かに広範囲に適用されるテロワールのようなものもあるが、本質は常にディテールにこそ宿るのだから、より深い理解へと到達するためには、範囲をどんどん狭めていく必要がある。 しかし、残念ながら私自身を含む大多数の人の感応力は、一切の手がかりなしに、狭範囲に宿ったテロワールのエッセンスに辿り着けるほど、優れてはいない。 だからこそ、特定の産地のワインを深く理解する上で、気候、地勢、土壌、葡萄品種といったテロワール情報の整理と精査は

梁 世柱
2024年5月5日


Wine Memo <25>
Mayer-Fonné, Riesling Grand Cru Schoenenbourg 2016. ¥7,500 アルザスのグラン・クリュは本当に難しい。 まず、51という数は明らかに多すぎる。しかも、(個人的な意見としては)その半数近くが、品質的にはグラン・クリュのステータスがかなり疑わしいのだから、信頼性がどうしても低くなる。 ブルゴーニュのグラン・クリュ群と比較するなら、アルザス・グラン・クリュの半数はプルミエ・クリュ相当といったところだろう。 平均的な面積(約34ha)が広すぎるのも問題だ。ブルゴーニュでは基本的に斜面中腹だけがグラン・クリュ認定されているのに対し、アルザスは斜面上部から下部までもれなくグラン・クリュとなるのが通例。

梁 世柱
2024年5月3日


出会い <59> 不可能を可能に
Lightfoot & Wolfville, Kekfrankos 2020. ¥4,000 ビオディナミ農法の難易度とリスクは、テロワールの条件によって大きく変動する。 同農法ではカビ系病害への対策が鬼門となるため、一般的には乾燥した地域では容易かつ低リスクとなる一方で、湿度と雨量が上がるほど、飛躍的に難度とリスクが跳ね上がる。 特に生育期に雨が多く湿度が高いエリアでは、「不可能」という声も良く聞く。 不可能というのは、概ね正しいだろう。 ビオディナミ農法の効果は、土壌の地力と葡萄樹の免疫力向上に集約されるため、基本的には品質向上を確約するタイプのものではない。

梁 世柱
2024年4月28日


難敵ウフマヨ
私は高級なコース仕立て料理としてのフレンチよりも、古典的なビストロ料理の方がどちらかと言うと好きだ。 NYでソムリエ修行をしていた時代、仕事場から自宅へと向かう帰り道にあった、深夜3時頃まで開いているビストロ/ワインバーに足繁く通っていた影響もかなりあるだろう。 疲れた体には、山盛りになったムール貝の白ワイン蒸しや、オニオングラタンスープが最高に染み渡ったものだ。 フレンチビストロの定番とされる名料理は数多くあるが、今回のペアリング研究室で題材とするOeuf mayonnaise「通称、ウフマヨ」は、殿堂入りの大クラシック。 ゆで卵(固ゆでから半熟まで様々なヴァリエーションがあるが、クラシックは完熟の一歩手前くらいの塩梅)に、マヨネーズとディジョンマスタードを合わせて水やレモン汁で軽く伸ばしたソースをかけるだけ、と言うシンプル極まりない料理だが、何度食べても飽きない、強力な魔力がこの料理には宿っている。 しかし、ペアリングとなると、この愛おしいウフマヨは、途端に最強クラスの難敵へと変貌する。

梁 世柱
2024年4月27日


Advanced Académie <35> ブルゴーニュ・クリマ・ランキング CDB最南部
ブルゴーニュにおける葡萄畑のランキング企画となる、Advanced Académieの新シリーズ。 ご存知の通り、ブルゴーニュには超広域Bourgogneから始まりGrand Cruに至るまで、多階層の格付けが存在していますが、同階層内でも優劣が生じます。 本シリーズでは、以下のような形で、すべての特級畑、一部の一級畑(単一としてリリースされることが多いクリマ)、一部の村名格畑(特筆すべき品質のものを抜粋)をランキングしていきます。 SS:最上位の特級畑クラス S:平均的な特級畑クラス(一部の一級畑も該当) A:特級畑に肉薄する最上位の一級畑クラス(一部の特級畑も該当) B:際立って秀逸な一級畑クラス(一部の特級畑も該当) C : 秀逸な一級畑クラス(一部の村名格畑も該当) D:平凡な一級畑クラス(一部の村名格畑も該当) 一部のクリマに関しては、生産者による品質の落差が大きいため、(A~S)のようにランクを跨いだ評価となります。 第7回はCôte de Beaune最南部をテーマと致します。 このエリアには、まだまだマイナ

梁 世柱
2024年4月24日


再会 <59> どこまでも心地よい北海道ピノ
10R winery, 上幌ワイン “風” 2022. 好適品種がどうかの判断はとても難しい。 数値的に何か明確な指標があるわけでもないので、「葡萄がちゃんと熟す」という基準そのものが、実に曖昧なのだ。 私自身がその判断を行う際は、以下の4要素を基本的な考慮対象としている。 ・フェノールの熟度(不必要に未熟な味わいが生じていないかどうか) ・ミッドパレットの充実度(スカスカの味わいになっていないかどうか) ・果実味と酸とアルコール濃度のバランス(この判断が一番主観的となるだろうか) ・余韻の長さ(短く弱い余韻はあまり良くない) また、収量とその安定性、農薬への依存度といった味わい以外の要素も、現代では考慮対象とするのがスタンダードとなりつつある。

梁 世柱
2024年4月21日


Chablisの現状
フランスにおける冷涼産地の象徴的存在だったシャブリは、気候変動による影響を強く受けている。 ブルゴーニュ委員会のイベントで来日していた複数の生産者の話も踏まえ、簡潔に現状をレポートしていこう。 まず、何よりも気になるのが味わい(ティピシテ)の変化だろう。 シャブリといえば、やや細身な果実味と鋭角な酸、強靭なミネラルがトレードマークだったが、これらには確かに変化が起きている。 果実味は少しふくよかになり、酸は少し落ちた一方で、ミネラルの表現力は健在、というのが現状に対する平均的な評価となるだろうか。 果実味と酸に関しては、収穫時期を早めることで、ある程度の対応はできるため、それぞれの要素を「単体」として見る限りは、それほど大きな違和感は無いとも言える。酷暑の2018年、冷涼な2021年のようにイレギュラーなヴィンテージもあるが、そもそもブルゴーニュにとってイレギュラーはノーマルのようなものだったのだから、今更驚くようなことでもない。

梁 世柱
2024年4月19日


2つの国、1つの文化 <Gorizia特集:前編>
イタリアのフリウリ・ヴェネツィア=ジュリア州とスロヴェニア領内に跨る街、ゴリツィア(*)は、いつか必ず訪れようと思っていた場所だった。 (*):スロヴェニア語ではGoricaゴリツァ。以降、両領土を合わせてGoriziaと表記。 もちろん、Gorizia周辺で造られる極上ワインの数々に心惹かれて、という理由もあるが、私にとってのGoriziaは、自身のルーツとも重なる部分が多い場所なのだ。 少し、私のファミリーヒストリーを語ろう。 私自身は日本で生まれ育ったため、アイデンティティの比重はかなり日本人よりだが、私の祖国は朝鮮(一つのKorea)である。 そしてその祖国は、米ソ冷戦に巻き込まれる形で、南の大韓民国と、北の朝鮮民主主義人民共和国へと分断された。 ここから先は、私の祖父母(母方)の話となる。 祖父母は、ソウルで出会い結婚した。 1942年、祖父は日本軍からの徴用令状を受け、広島への赴任を命じられたが、邑長(日本で言うところの町長)が手を回してくれたおかげで、幸運にもそれを回避することができた。その代わりに2

梁 世柱
2024年4月18日


出会い <58> ニュイ的ジャーマン・ピノの真打
Steintal, Spätburgunder Schlossberg G.G. 2021. 冷涼気候の中でも、特別に日当たりの良い区画だけが生み出せる、エレガンスの極地。 そして、ピノ・ノワールという品種において、その魔力が最大化されるのは、ブルゴーニュのグラン・クリュをおいて他に無かった。 過去形、なのは正しい。 もちろん、今でもブルゴーニュのグラン・クリュが特別な存在であることは変わらないのだが、酷暑と旱魃のヴィンテージが気候変動によって劇的に増えた現代では、エレガンスの最大化という一点において、疑問を抱かざるを得ないワインとなることも多い。 常軌を逸した高価格だけが、今のブルゴーニュの問題では無いのだ。 私自身、かつては遥かに手頃な価格と高い確率で出会うことができた「ブルゴーニュの魔法」を諦めきれず、ブルゴーニュ・オルタナティヴの探求に心血を注いできた。

梁 世柱
2024年4月15日


PIWI品種はワイン産業を救うのか
近年、 PIWI品種 の是非がワイン業界関係者を問わず、議題として挙がることが格段に増えたと感じている。 PIWI (ピーヴィーと発音する)は、ドイツ語で 「真菌耐性付き葡萄品種」 を意味する Pilzwiderstandsfähigen Rebsorten...

梁 世柱
2024年4月14日
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