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出会い <91> 北海道で華開くドイツ系品種
山田堂, Yoichi Blanc 2024. ¥2,800 寒冷地である 北海道 が、 1970年代 から ドイツ・オーストリア系品種 に目をつけたのは、英断だった。 1976年のパリスの審判 をきっかけに、世界各地で爆発的に フランス系国際品種 が広まることになったのだが、その大波が本格化する前に、 ミュラー=トゥルガウ、ケルナー、バッカス、ツヴァイゲルト(レーベ) などの葡萄が北海道に導入されたのは、運命のいたずら、とすら言えるのかも知れない。 パリスの審判から、ロバート・パーカーJrの台頭という一連の流れの中で、2010年代に入るまでは、パワー型ワインの全盛期となったため、繊細な北海道のドイツ・オーストリア系ワインがセールスに苦しんだことは想像に難くないが、耐え忍んだだけの価値はあったと、私は思う。

梁 世柱
3 日前


出会い <89> 無添加甲州の可能性
Kitani Wine, 甲州 キュヴェ・タカシ 2023. ¥2,800 日本が誇る地品種(厳密に言うと中国からの渡来品種ではあるが)である 甲州 は、まだまだ完成系と言える姿を示していないと、私は考えている。 中央葡萄酒(Grace)の三澤甲州(旧キュヴェ三澤 明野甲州)のように、逸脱した領域に踏み込み始めたワインも登場してきてはいるが、それでもまだ、甲州という葡萄はあらゆる進化の可能性を残しているのではないだろうか。 映画「ウスケボーイズ」のモデルとなった人物としても知られるシャトー・メルシャン元工場長の浅井昭吾(ペンネーム:麻井宇介)氏が、フランス・ロワール地方のミュスカデから着想を得た、甲州に シュール・リー製法 を用いるという手法を、1985年に他の日本ワイナリーへ公開して以降、そのスタイルは確かに現代に至るまで甲州ワインの地盤を固めているが、まだまだ見えていない「その先」があるはずなのだ。

梁 世柱
9月10日


再会 <89> 正規価格なら、世界最高レベル
Terre de Ciel, Raisin Chardonnay 2024. ¥3,400 市場原理とは、ワインの世界においてなんとも憎らしいものだ。 特定のワインに人気が集中し、需要とバランスの供給が崩れ始めると、入手困難→抽選販売(もしくはかなり重い抱き合わせ販売)→二次市場での価格高騰、というお決まりのパターンを辿る。 しかし、こういう現象が起こった際に、私は造り手が蔵出し価格を上げること自体は、手放しで大歓迎している。 二次市場価格が高騰してしまうほどの人気を得るということは、並大抵の努力で実現できることではない。

梁 世柱
9月3日


出会い <88> 食用ブドウのデザートワイン
ひるぜんワイン, 岡山 ピオーネ 2023. ¥2,300 飲食店に行く醍醐味の一つは、 「発見」 にあると私は思う。 料理そのものが美味しいか、自分の好みに合うかどうか、という発見ももちろんだが、ワイン人としては、飲み物面での発見に、心踊らされるのは当然のことだろう。 特に、普段の私なら選ばないようなものや、そもそもレーダーにすらかかっていなかったものと出会うと、その飲食店での体験は、深く記憶に刻まれることとなる。

梁 世柱
8月27日


リスキー過ぎる生ワイン
ジャーナリストとして、深く首を傾げるワインと出会った時、そのことに言及すべきかどうかは、実に悩ましい問題だ。 失敗は誰にでもある。 どれだけ熟達した造り手でも、人間である以上は、時に間違った選択をしてしまうことも、当然あるのだ。 そう思っているからこそ、私は基本的には、静観という立場を取るようにしているのだが、事態の重さ次第では、やはり書くべきではないか、と思い立つこともある。 今回は、そのケースに該当すると思っていただきたい。

梁 世柱
7月19日


出会い <79> デラウェアに見る、根付くことの意味
Agri-Coeur, Dela Logique 2023. ¥5,500 ハイブリッドという言葉を聞いた時、一般的にはどういう印象を抱くだろうか? 現代的、先進的、最新技術。 おそらく、そのようなフレーズが並ぶだろう。 しかし、ワインの世界においては、真逆とも言えるイメージがついて回る。 そう、ワイン用葡萄におけるハイブリッドは、ヨーロッパの伝統的なワイン用葡萄であるヴィティス・ヴィニフェラ種よりも遥かに劣る、という定評が完全に固まっているのだ。

梁 世柱
4月7日


Wine Memo <30>
Tsukuba Winery, Twin Peaks Marselan 2022. ¥4,900 温暖化 を見据えて、 ボルドー を名乗れる品種として新たに認可された6種の葡萄。 黒葡萄は、マルスラン、トゥリガ・ナシオナル、カステット、アリナルノア。 白葡萄は、アルヴァリーニョとリリオリラ。 トゥリガ・ナシオナルとアルヴァリーニョは比較的良く知られた品種だが、その他はかなりマイナー。 黒葡萄のカステットは元々ボルドー近辺の絶滅危惧種。マルスランとアリナルノアは交配品種。白葡萄のリリオリラも交配品種だ。

梁 世柱
2024年11月23日


Wine Memo <28>
金井醸造場, Vino da Manriki+Tenjin 朝焼2020. 今から 約12年前 、私がまだNYにいた頃の話だが、当時は現在でいう 「オレンジワイン」 の解釈がまだまだ固まっていなかった。 オレンジワインという言葉自体は徐々に浸透してきていたものの、その時代においては、 ジョージアとゴリツィア周辺 (イタリアとスロヴェニアの国境地帯)のワインのみがオレンジワイン(もしくはアンバーワイン)とみなされていたし、 醸し発酵白ワイン (skin fermented white wine)という通称も現役だった。 さらにややこしかったのは、 グリ葡萄を使用したオレンジワイン 。 フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州の銘醸、 La Castellada がリリースした Pinot Grigio (グリ系葡萄であるピノ・グリージオに、長期のマセレーションを施したワイン)は、NYのマーケットでも大きな衝撃と共に、流行に敏感なソムリエたちの話題を独占していたが、あくまでも同州の伝統的なワインである Ramato (偶発的にマセレーションが長期化した

梁 世柱
2024年9月6日


再会 <66> 北海道生まれ、最高のVin de Soif
Domaine Ichi, op.10 Petillant Naturel Rosé 2023. Vin de Soif(ヴァン・ド・ソワフ) という言葉に明確な定義があるわけでないが、一般的には、 フレッシュかつフルーティーで、アルコール濃度が低く、極めてドリンカビリティに長けたワイン のことを指す。 ワンフレーズで言い表すなら、 「超グビグビ系ワイン」 、といったところだろうか。 グビグビ、はサラサラでもスルスルでもゴクゴクでも構わない。どちらにしても、似たようなものだ。 この言葉自体がナチュラルワインを示唆しているわけでもない のだが、 低亜硫酸醸造の方が、Vin de Soifらしい性質を遥かに実現しやすい というのもあり、 実際にはナチュラルと呼べるカテゴリー内に入っていることが非常に多い 。 そんなVin de Soifは、私にとって極めて重要な役割をもったワインである。

梁 世柱
2024年8月18日


再会 <61> ネクスト・ステージ
Botanical Life, vin-shu plus rouge 1 ~terra~ 2022. ¥3,800 良いところも、そうとは言い切れないところも含めて、ワインに対して全面的に 正直 であることは、私がジャーナリストとして何よりも大切にしているポリシーだ。 そのワインの良い部分だけを探そう、というアイデア自体を否定しているわけではないが、建前とお世辞を並べただけの上っ面な賞賛は、少なくともジャーナリズムではないと私は思う。 しかし、状況によっては、 ある程度譲歩せざるを得なくなる ことも確かにある。 記事化が確定している訪問先のワインに、疑問符が多く付いてしまった時などは、まさにそうだ。 そのような経験はいくつか思いあたるが、(後悔という意味で)最も印象に残っているのは、兵庫県にある Botanical Life での出来事。

梁 世柱
2024年5月26日


再会 <59> どこまでも心地よい北海道ピノ
10R winery, 上幌ワイン “風” 2022. 好適品種 がどうかの判断はとても難しい。 数値的に何か明確な指標があるわけでもないので、 「葡萄がちゃんと熟す」 という基準そのものが、実に 曖昧 なのだ。 私自身がその判断を行う際は、以下の4要素を基本的な考慮対象としている。 ・ フェノールの熟度 (不必要に未熟な味わいが生じていないかどうか) ・ ミッドパレットの充実度 (スカスカの味わいになっていないかどうか) ・ 果実味と酸とアルコール濃度のバランス (この判断が一番主観的となるだろうか) ・ 余韻の長さ (短く弱い余韻はあまり良くない) また、 収量とその安定性、農薬への依存度 といった味わい以外の要素も、現代では考慮対象とするのがスタンダードとなりつつある。

梁 世柱
2024年4月21日


Wine Memo <22>
安心院ワイン, 小公子 2021. ¥3,920 同じ言葉と文化を話す同朋として、もちろん日本ワインの発展を心から願っている。 しかし、 その想いと、ワインに対する評価は明確に切り離すべき だと私は思う。 少なくとも、私のようなプロフェッショナル側の立場であれば。 私にとって日本は、世界に数多くあるワイン産地の一つであり、それ以上でも以下でもない。 日本ワイン愛好家には冷たいと思われるだろうし、実際に良くそう言われもするが、色眼鏡をかけまくって、自信満々で日本ワインを海外の専門家に紹介した結果、微妙な反応が返ってきた時なんかは、なんとも行き場のない気持ちになるものだ。 新興産地としてワイン産業が発展しつつある国のソムリエやジャーナリストと話をしても、明確な根拠なく自国のワインを褒め称えることは稀である。 彼らは皆、自国で形成されつつあるワイン文化が、すでに世界的な銘醸地として知られている伝統国と比べてどれほどのレベルに至っているかを、実に冷静に見極めているのだ。

梁 世柱
2024年4月4日


再会 <47> 魂に染みるワイン
Beau Paysage “Kurahara le bois” 2014. 正直に言おう。 私がSommeTimesで「再会」のシリーズを書き始めてから、このワインをテーマとする機会は幾度となくあった。 それでも第47回目の投稿まで時間がかかったのは、単純に 気乗りがしなかったから だ。 その理由もいくつかある。 このワインに対する 私と世間の評価には、大きな隔たりがある と感じてきたこと。 このワインに対する 私の正直な意見に、不快感を覚える人が少なからずいる であろうこと。 このワインを神聖視する人たち対して、 私の真意が正しく届くことは決してないのではないか 、と心のどこかで思ってきたこと。 気乗りがしない、と言う状況は今もさして変わらないが、海外のワインメーカーたちと、このワインを一緒に飲む機会が最近あったので、勢いに任せて、意を決した形だ。 さて、まずは誤解を恐れず、単刀直入に書こう。 私はこのワイン、つまり日本ワインの中でも最も希少価値が高いものの一つとされる Beau Paysage に対して、ある種の 畏敬の念 を抱き続けてきたが

梁 世柱
2023年10月15日


Wine Memo <10>
Ito Farm, Hanamusubi Petillant 2022. 私は物持ちがかなり良い方だ。 特に、家具や家電を壊れてもいないのに買い替えることには、かなり抵抗がある。 日本に戻ってきてから10年が過ぎたが、今ある家具や家電のほとんどが、一度も買い替えられることなく(壊れた洗濯機を除く)、元気に役割を果たしている。 趣味のギター関連機材に至っては、20年以上使い続けているものも数多くある。 大豪邸に住んでいるわけでも、倉庫があるわけでも無いので、何か大きな物を買う時は、以前にあったものを捨てねばならない。 もちろん、過去には捨てたこともあるのだが、 その捨てられたものがどこへ行ってどのように処理されるのか 、と考えると、どうにも自分の行いが正しいと思えなくなってしまうのだ。 現代風に良く言えば SDGs 、昔風に悪く言えば 貧乏くさい 考え方だが、私は「捨てない」方が心地良い。 同じ目線で、 ワインのことを見る のもまた面白かったりする。

梁 世柱
2023年8月10日


Wine Memo <9>
domaine tetta, Bonbons Color é s 2021. その個性は、消すべきか、活かすべきか。 個性を研ぎ澄ました先にある オリジナリティ か、平均化の成れの果てとしての 999/1000 か。 人間社会に当てはめると、実にリアルな問題として浮かび上がってくるこのテーマは、ワインの世界でも、 ようやくまともに議論がされるようになった のではないだろうか。 そして、その議論の構造もまた、人間社会と酷似している。 個性を尊重する社会に!(品種やテロワールの個性を大切に!)と声高に叫びながらも、現実での個性派は生きづらさ(売りやすさ、分かりやすさ)という呪縛から逃げきれていない。

梁 世柱
2023年7月11日


Wine Memo <8>
Fermier, Kerner 2022. 私がNYでソムリエ修行を始めて間もない頃は、とにかく手探りで勉強をしていた。 元々は必要に駆られてのことだったが、幼少からの「ハマり症」が功を奏したのか、分厚いワイン教本を読み漁る日々は苦痛ではなく、むしろこの上なく私の知識欲を満たしてくれた。 もちろん、当時まだ学生だった私には、ワインスクールに通うような余裕は全くなく、ひたすら独学で学んでいた。 今は私自身が教育者となり、「あの頃にスクールで体系的に学べていれば」と思うことも少なからずあるが、(随分と遠回りにはなったものの) 教えて貰わなかったこと自体は、結果的に良かった と思っている。 自分で考え、感じ取り、理解する力 を、ゆっくりと養うことができたからだ。 今回は、私がNYの日本酒バーで働いていた頃のエピソードを、一つ紹介しようと思う。 当時はまだ、ワインの勉強を始めたばかりのタイミングで、フランスやイタリアの超有名産地くらいしか、知識が蓄えられていなかった。 ある日のディナーで、そんな私のセクションに訪れたのは、ワイン関係の仕事をしているらしき

梁 世柱
2023年6月21日


Wine Memo <7>
Cantina Riezo, Nerello Mascalese Bianco 2022. 出会い <26> 脱フレンチコンプレックス でも紹介した、 長野県高山村 にある Cantina Riezo 。 湯本ご夫妻 のイタリア好きが高じて、以前紹介した アリアニコ など、絶妙にマニア心をくすぐるワインを手がけているが、 主力商品はシャルドネ 。 高山村のテロワールは、 日本屈指のシャルドネ (味わいの路線としては、 上質なシャブリに近い )を生み出すことができると筆者自身も確信している。 派手さは無いものの、ミッドパレットの充実度が高く、テロワールとの確かな適合を感じられる素晴らしいワインなので、もし見かけたら入手してみていただきたい。 今回ワイナリーを訪問した際には、Cantina Riezoの葡萄畑を湯本さんたちと歩きながら、そんなシャルドネを横目に、私はイタリア品種に関する質問を繰り返したのだが、何よりも印象に残ったのは、ご夫妻の 「冷静な判断力」 だ。

梁 世柱
2023年6月9日


Wine Memo <6>
Grain-mur, Brise d’ é t é 風薫る 2022. 日本ワイン、特に長野県や北海道のワインを飲む時に、単純な銘柄や味わいとは 別のちょっとした楽しみ がある。 その楽しみとは、 裏ラベルに小さく書かれた「製造者」の欄 にある。 極小生産規模のワイナリー(ワインレーベル)にとって、大変お金のかかる醸造設備を整えるのは簡単ではない。 また、醸造設備をもてたとしても、経済的なことを考えれば、少量生産ではなかなか難しい。

梁 世柱
2023年5月26日


出会い <37> 日本らしさ、長野らしさ
Vino della Gatta SAKAKI, 赤獅子 2022. ¥4,200 日本でのワイン造りが、猛スピードで広がっていることをご存知の方も多いだろう。 特に、 長野県と北海道 では、毎年のように新しい造り手が数多くデビューしているため、追いかけ続けるのも大変だ。 だからこそ、発見に満ちた地方(?)巡業は楽しいし、長野県東御市にある「 東御ワインチャペル 」のような、地元産ワインに密着した専門ショップは、私にとっての「駆け込み寺」であり、ここを訪れるのは、ある意味での「聖地巡礼」のようなものだ。 そして、今回の訪問でも、素晴らしい出会いに恵まれた。 ワイナリーの名は、 Vino della Gatta SAKAKI 。 日本の中では年間の降水量が少なく、晴天率も国内随一となる「 中央高原型内陸盆地性気候 」、 平均10度を超える昼夜の寒暖差 、長野では一般的な火山灰由来の粘土質土壌である「黒ボク土」ではなく、 「砂礫土壌」が主体 、といったテロワールの特徴が見られる 長野県坂城町 に、葡萄畑が拓かれている。

梁 世柱
2023年5月21日


出会い <36> 食用葡萄の地酒
Rita Farm & Winery, 花火 田舎式スパークリング ニューマスカット. ¥2,500 日本酒を学び始めて間もない頃、どうしても好きになれなかった酒があった。 コシヒカリで造った純米酒だ。 ご存じの方も多いとは思うが、一般的に日本酒は 酒造好適米 という特殊な米から造られる。ワインで言うところの、 ヴィティス・ヴィニフェラ種 (ヴィニフェラの全てが醸造用というわけではないが)と同じような「 専用原料 」だ。 山田錦、雄町、五百万石など様々な酒造好適米が存在しているのだが、コシヒカリはその仲間では無く、普通の食用米となる。 そして、専用原料では無いコシヒカリで造られた日本酒には、 ミッドパレットが無い 。どうにも 構造が緩く、ふわふわ していて、 余韻も短い 。 昔ながらの価値観では、到底高く評価できるタイプの味わいとはならなかったのだ。 今なぜ、この昔話を持ち出したかというと、「 過去を恥じているから 」に他ならない。 そういう時代だった、と言ってしまえばそれまでだが、私自身、 固定された価値観に縛られていた のは間違いない。しかも

梁 世柱
2023年5月7日
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