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再会 <64> 飲み頃観測の難しさ
Rall, AVA Syrah 2020. ¥11,800 ワインの飲み頃予測に、完璧な方程式は無い。 産地(もしくは特定の葡萄畑)と葡萄品種だけで予測が成り立つなら簡単だが、実際にはヴィンテージ、造り手の特徴(特に収穫時期と醸造関連)、輸送環境、管理状況などの様々な変数が関わってくるため、 極めて複雑なマトリックス となってしまう。 ワインファンなら、せっかく手にしたボトルを最高の状態で楽しむために、飲み頃予測に「神の数式」が存在すれば、と願うのはいたって普通の思考だと思うが、 百戦錬磨のトップ・プロフェッショナルであっても、本当の意味での正確無比な予測は100%に限りなく近いほど不可能 と言える。 私自身も、この法的式の探究には真摯に取り組んできた一人だが、正直に申し上げると、私は数年前に諦めている。

梁 世柱
2024年7月7日


革命の狼煙 <Montepulciano特集 2024年版>
モンテプルチアーノ を訪れる度に、私はなんとも言えない複雑な感情を抱いてきた。 Vino Nobile di Montepulciano という歴史的大銘醸が、品質において Chianti ClassicoやBrunello di Montalcino と同じ領域にあることは疑いようもないと常々感じてきたが、人気、知名度、価格など、品質以外のあらゆる点で、三大サンジョヴェーゼの一角とは言い難い現実があった。 消費者目線から見れば、過小評価によって低止まりした価格にありがたさも感じる部分はあるが、一人のワインプロフェッショナルとしては、モンテプルチアーノの偉大なワインが 真っ当な評価を受けていない ことに、苛立ちにも似た感情を覚えてきた。 確かに、Vino Nobile di Montepulcianoには、Chianti Classicoのような「集の力」も、Brunello di Montalcinoのような「わかりやすさ」もない。 あまりの不人気ぶりに、三者を品質的に同列と考えている私自身のテイスティング能力を疑ったことさえあ

梁 世柱
2024年3月30日


再会 <55> 微笑んでしまうワイン
A.A.Badenhorst, Kalmoesfontein White Blend 2021. ¥6,800 思い出が甦ってきてついつい笑ってしまう、そんなワインがある。 ワイン産地では、大なり小なり楽しい思い出はあるものだが、大抵の場合、適度に緩く、明るい国民性や地域性を通しての体験が、そうさせるものだ。 そしてなぜか、私にとって「笑ってしまうワイン」の多くが、 南アフリカ にある。 一年半前に初めて訪れた南アフリカでは、数多くの造り手たちと、談笑と爆笑のひと時を過ごした。かなり暗く辛い歴史がある国だが、少なくともワインに携わっている人々は、肌の色に関係なく、笑顔でいっぱいだった。 地域によっては、造り手たちも、試飲会の後半にでもなるとすっかり酔っ払っていて、ブースを飛び出してはしゃぎ回っている。 最初は驚いたが、すぐに慣れた。私自身は間違いなく「おとなしい」部類の人間だが、声を上げて歌い、踊っている彼らをみるのは、なんとも清々しいものだ。 異文化の中に身を置くことでしか体験できないグルーヴ が、そこには確かにある

梁 世柱
2024年2月26日


再会 <53> 聖地をも超える特異
Sadie Family Wines, Mev. Kirsten 2021. ¥22,000 大航海時代以降、ヨーロッパワインの歴史を彩ってきた ヴィティス・ヴィニフェラ種 は、世界各地へと旅立っていった。 16世紀半ば に、 アメリカ大陸 へと リスタン・プリエト (ミッション、パイス、クリオージャなど、国によって呼び名が異なる。)が渡って以降、最初期は新大陸を目指す長い航海の最終経由点であった、イベリア半島やカナリア諸島の葡萄が持ち出されていったが、やがて西ヨーロッパ諸国の広範囲から、様々な葡萄が選ばれるようになった。 特にボルドー品種、ブルゴーニュ品種、ローヌ品種、そしてアルザス品種(リースリングとミュスカ・ブラン・ア・プティ・グランを意味するが、共に原産地はアルザスではない)などのフランス系及び準フランス系品種はニューワールド各国で勢力を増し、やがて国際品種として確固たる地位を築いた。 各地のテロワールに即した栽培、醸造技術も飛躍的に進歩し、中にはそれぞれの品種のオリジンたる「聖地」をも、(視点次第では)凌駕したとすら言え

梁 世柱
2024年1月28日


Wine Memo <14>
Holism, Garnacha 2021. ¥4,800 昨年南アフリカを訪問した時に得た知見は、3ヶ月に渡って大ヴォリュームでお届けした 南アフリカ特集記事 でレポートしたが、実は 大きな心残り が一つあった。 巨大なテイスティング会場では、毎日特定の品種にターゲットを定めて、(午前中はシャルドネ、午後はピノ・ノワールといった感じで)同品種のみをひたすらテイスティングして回る、というサイクルを繰り返していたのだが、どうしても時間の関係上深掘りしきれなかった葡萄品種と産地の組み合わせがあった。 Piekenierskloof(ピーケニアズクルーフ)のグルナッシュ(ガルナッチャ) だ。

梁 世柱
2023年11月10日


再会 <44> 地球の裏側で再会 Part.2
Olifantsberg, Grenache Blanc 2021. ¥4300 日本に輸入されているワインの種類(量ではない)は、世界でも間違いなくトップクラス。銘柄数に関する統計が見当たらないので正確なことはわからないが、もしかしたら世界一の可能性すらある。 しかし、そんな 日本にもまだ届いていない未輸入ワイン は、世界各地に星の数程存在している。 ジャーナリストとして海外産地を訪問した際に、素晴らしい品質の未輸入ワインに出会うことは良くあるのだが、私はインポーターでは無いので、情報を発信する以外にできることは、ほとんどない。 ツアーにインポーターの方々が同行している時などは、私の発見と出会いが彼らのお眼鏡に叶わないものかと、密かに期待したりしてもいるのだが、なかなかそうもならないものだ。

梁 世柱
2023年8月27日


別色の未来 <南アフリカ特集:最終章>
南アフリカを訪れる前は、まだ疑問が残っていた。 瞬く間に成長してきた南アフリカは、すでにアメリカ合衆国、オーストラリア、ニュージーランド、チリ、アルゼンチンといったニューワールド先進国と、肩を並べる存在になっているのか。その立ち位置に相応しいワイン産出国としての総合力をすでに得ているのか、と。 もちろん、サスティナビリティへの取り組みや、日本に輸入されている様々なワインの実力は知っていたが、現地の様子を自身の目で見て、造り手と直接会話し、葡萄畑を歩き回り、最もフラットな現地リリースのコンディションでテイスティングしない限り、私はその産地の実力を、外部の情報とワインだけを頼りに、盲目的に信じたりはしない。いや、そんなことができると真に思うほど、自身を過大評価してなどいないのだ。 私のようなものが言うのもなんだが、活字は平気で嘘をつく。 だからこそ、真実は必ず、自ら確かめる必要がある。 過去数年間、少なからず南アフリカのワインに、遠く離れた日本の地で心躍らされてきた身としては、ついに真実を見るであろうことに不安がなかったわけではない。 だが、幸いなこ

梁 世柱
2023年1月28日


未来からの預かりもの <南アフリカ特集:第4章>
南アフリカ滞在中、一人の見知らぬ若い女性から、苦言を受けた。

梁 世柱
2023年1月15日


南アフリカの冷涼気候産地 <後編>
前編 に続き、後編でも昨年11月28日に開催された、オンラインセミナー 【 キャシー・ヴァン・ジルMWと巡る壮大な南アフリカワインの世界 Episode.2~冷涼気候産地~ 】の内容をレポートしていく。 前編では、南アフリカの冷涼気候を形成する決定的な要素である「 標高...

梁 世柱
2023年1月7日


共に歩み、共に得る <南アフリカ特集:第3.5章>
一人で叶えられることは、とても限られている。 人がどれだけ孤独という人生のスパイスを好んだとしても、真の孤独が奇跡的な確率でのみ生みだすことができるのは、永遠に語り継がれる様な至極の芸術作品しか無い。 人はその真理を理解しているからこそ、手を取り合う。 そして、共に歩み、共に得ようとする。 南アフリカのワインが、驚異的なスピードで世界のトップ層へと躍進した理由は、恵まれたテロワールの存在だけでは無い。 そこには人がいて、人と人の繋がりがあった。 成功も失敗も共有し、共に学び、鼓舞しあい、切磋琢磨する。 南アフリカで見た無数の「繋がり」こそが、躍動の原動力なのだ。 生産者団体 ワインの世界には、様々な生産者団体がある。中には、 ドイツのV.D.P のように、国のワイン法すら変えてしまうほどの絶大な影響力をもつ団体や、 Renaissance des Appellations のように、国境を越えたビオディナミ生産者の団体もあるし、 カリフォルニアのI.P.O.B のように、志半ばで空中分解してしまった団体もある。 規模の大小や性質の違いはあれども、

梁 世柱
2022年12月22日


古きものが、未来を照らす <南アフリカ特集:第3.0章>
私の祖母は、他国間の戦場と化し、唐突に、強引に分断された国から、命懸けで脱出した。そして、祖母が負ったリスクのずっと先に、私という存在がいる。 祖母の歩んだ激動の人生は、そのまま私の人生観、そして価値観の土台となった。 今は過去の先にあり、未来は過去と今の先にある。 その繋がりこそが、輝きをもたらす。 南アフリカで、私が亡くなった祖母のことを思い出したのは、決して偶然ではない。 あの地にはあった。私は確かに、この目で見た。 古きものが、過去と今を繋ぎ、未来を照らす姿を。 Old Vine Project 南アフリカワイン産業の極めて重要な取り組みとして、その名を挙げない訳にはいかないのが、 Old Vine Project だ。 南アフリカでも最も尊敬を集める、葡萄栽培のトップ・エキスパートである ローサ・クルーガー が、2002年に複数の栽培家と共に南アフリカ全土に点在する古樹の調査を開始したのが、このプロジェクトの始まり。 2006年に イーベン・サディ がOld Vine Seriesを初リリースしたのをきっかけに、2010年ごろには...

梁 世柱
2022年12月15日


南アフリカの冷涼気候産地 <前編>
11月28日、南アフリカワイン協会(Wines of South Africa : WOSA )が、オンラインワインスクール大手 Vinoteras との共催で、 【 キャシー・ヴァン・ジルMWと巡る壮大な南アフリカワインの世界 Episode.2~冷涼気候産地~...

梁 世柱
2022年12月10日


呼応するニュー・ワールド <南アフリカ特集:第2章>
集合意識 というのは、非常に興味深い概念だ。直接的なコミュニケーションをとっているわけでも無いのに、何かしらのミディアムを通じて、度々 全世界を包み込むようなイデオロギーの変化 が生じる。 人種差別、性差別、人権侵害、軍事的侵略行為への反対といった人そのものの在り方に関わるもの、オーガニックやサスティナビリティの推進といった地球と人間の双方に関わるもの、食のライト化といった人の趣味嗜好に関わるもの。近代から現代にかけて起こった集合意識によるイデオロギーの変化だけでも、まだまだ長いリストができるだろう。 そして、 変化と自戒は往々にして表裏一体 である。 様々な差別を繰り返してきたことに対する自戒、人類史のほとんどを戦争と侵略で埋め尽くしてきたことへの自戒、環境破壊を積み重ね深刻な気候変動を招いたことに対する自戒、生活習慣病の爆発的増加への自戒。 先述した全ての変化に、その根源となった自戒が存在し、折り重なった自戒は、やがて集合意識となって、全世界規模の改善を促し始める。 それらに比べるとずっと規模は小さいが、ワインの世界でも、同様の集合意識による

梁 世柱
2022年11月30日


出会い <25> 世界一のサンソー
Leeu Passant, Old Vines L ö tter Cinsault 2018. (国内輸入無し) 南アフリカで様々なエリア、様々な葡萄品種のワインをテイスティングする中で、度々唸らされたのは、やはり Leeu Passant だった。 世界最高峰の醸造家である アンドレア・マリヌー の抜きん出た才能が、夫である クリス・マリヌー の卓越した栽培技術によって最大限に発揮される。 二人の名を冠した Mullineux ブランドで、その圧倒的な実力は散々証明してきたが、スワートランドに特化したMullineuxとは別プロジェクトとなるLeeu Passantは、 南アフリカ各地に極僅かながら残る非常に古い畑とマリヌー夫妻のコラボレーション という、反則的なワインだ。 南アフリカ特集記事の第一章 でもLeeu Passantのシャルドネについて軽く触れたが、現地で私の心を強烈に掴んだのは、このワインだった。

梁 世柱
2022年11月27日


Black and White <南アフリカ特集:序章>
30時間の長旅を終え、私は地球の真裏へと降り立った。ため息のような深い呼吸をすると、乾燥した心地良い空気に、知らない香りが混ざり込む。深緑色の野草。紅色の花。未知の風景に沸き立つ感情が、体の節々を駆け回る鈍い痛みを優しく包み込んだのも束の間、だんだんと私の心は灰色に濁り始め...

梁 世柱
2022年11月12日


出会い <23> 140年後の奇跡
Alheit Vineyards, Lost and Found 2019. あのタイプの産地に行ったのは久しぶりだった。 真っ直ぐに伸びる道の左右に、遠くの小山にぶつかるまで広がる平坦な葡萄畑。 レッドブルでも飲んだかのように、異様に元気な葡萄樹。 寸分の狂いもなく、精緻に整えられた畝の配列。 ぴたりと姿を消す鳥たち。 一眼見ればすぐにわかる。そこは、 超大量生産型の産地 だった。 ブリードクルーフBleedekloof の総作付面積は 13,000ha強 。造り手の数は僅か 30軒足らず 。 平均値を出すと、なんと1ワイナリー辺り433ha という凄い数字が出てくる。 日本的な表現をすると、1ワイナリー辺りの作付平均値が 東京ドーム約92個分 に相当するというのだから、その広さが具体的に想像できる人はほとんどいないだろう。 もちろん、あくまで平均値であるため、それよりも遥かに小さいワイナリーも、その逆もまた存在する。 ブリードクルーフにあるワイナリーだけを集めたテイスティングも、あの葡萄畑を通過した後だったからか、どうも最初はなかなかスイッチ

梁 世柱
2022年10月28日


出会い <22> 極甘口ワインの聖地、南アフリカ
Savage, Not tonight Josephine 2020. ¥6,000(375ml) 南アフリカでの旅では、数多くの古いヴィンテージをテイスティングする機会に恵まれた。歴史を少しずつ紐解いていくような体験は何者にも代え難かったが、一貫して納得せざるを得ないことが一つあった。 それは、 南アフリカワインは、新しいヴィンテージの方が確実に品質が高い 、ということだ。 その根源たる理由は11月からの南ア特集記事で詳細に書く予定だが、端的にいうと、 アパルトヘイトの終 焉がターニングポイントとなっているということになる。 アパルトヘイトが完全に終わったのは、ネルソン・マンデラが大統領となった1994年。そして、 1994年以前の南アフリカは、国際社会から「総スカン」をくらっていた のだ。 分かりやすく表現するなら、現在のロシアや北朝鮮と同じような扱い(軍事的脅威故ではなく、人道的な意味で)を受けていたとも言える。 当然、 40年近くもの間、苛烈な経済制裁 が課されていたため、南アフリカワインが先進国の目に触れる機会は極めて限られていた。 つ

梁 世柱
2022年10月16日


再会 <22> 地球の裏側で再会
Capensis, “Fijnbosch 2019”. ¥27,000(国内予想価格) 3年に一度、南アフリカのケープワインで開催される巨大な南アフリカワイン展示会 「Cape Wine」 。 前回は2018年に開催されたが、新型コロナ禍の影響により延期となり、2022年10月に満を持しての開催となった。 乗り継ぎ待ちの時間次第では30時間ほどの旅程となる南アフリカは、日本からすれば文字通りの「地球の裏側」となるが、西ケープの壮大な山々と、ダイナミックにうねる丘陵地に拓かれた葡萄畑を見ると、疲れもどこかへ吹き飛んでしまう。 筆者にとっても、待ちに待った初めての南アフリカだったからか、アフリカ大陸に降り立つこと自体が初めてだったからか、肌にピリピリと感じる、どうにも慣れない鋭い視線(南アフリカにはアジア人は非常に少ない)からか、高揚感と共に、いつもよりは少し気が引き締まっていたように思う。 Cape Wine 2022は3日間に渡って開催 されたが、巨大な会場と数多のワイナリー、そして膨大な数のワイン、会場を埋め尽くす人々の熱気に圧倒され、3日間の

梁 世柱
2022年10月10日


南アフリカのパイオニアたち <後編>
前編ではクライン・コンスタンシアを中心にレポートしたが、ワイン産地としての豊かな歴史を誇る南アフリカには、まだまだパイオニアたちがいる。 確かにクライン・コンスタンシアは象徴的な存在ではあるが、それだけでは決して全容は見えない。多様なアイデンティティとスタイルが混在する在り...

梁 世柱
2022年5月18日


南アフリカのパイオニアたち <前編>
4月25日、南アフリカワイン協会(Wines of South Africa : WOSA)が、オンラインワインスクール大手Vinoterasとの共催で、【キャシー・ヴァン・ジルMWと巡る壮大な南アフリカワインの世界 Episode.1~先駆者たち~】と題したオンラインセミ...

梁 世柱
2022年4月26日
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