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南アフリカの冷涼気候産地 <後編>

前編に続き、後編でも昨年11月28日に開催された、オンラインセミナーキャシー・ヴァン・ジルMWと巡る壮大な南アフリカワインの世界 Episode.2~冷涼気候産地~】の内容をレポートしていく。


前編では、南アフリカの冷涼気候を形成する決定的な要素である「標高 and/or 海からの距離」を題材とし、高標高冷涼地に関して述べた。


本編ではさらに、海に近い冷涼地、そして海に近く標高も高い冷涼地に関して言及していく。




海に近い冷涼地

セミナーで紹介されていた海に近い冷涼地は2ヶ所。南アフリカワインの歴史的傑作として知られるVin de Constanceで名高いコンスタンシア小地区と、まだまだ無名に近いが、秀逸なワインが造られ始めているケープ・アガラス地区だ。


では、まずはコンスタンシア小地区を見ていこう。


どうしても偉大な極甘口ワインに印象を引っ張られてしまうが、コンスタンシア小地区を全体として見た場合、標高が最高地点でも300m弱となるこの地は、冷涼感溢れるソーヴィニヨン・ブランの好適地と考えるのが妥当だ。


そして、フランス・ボルドーなどの例に照らし合わせると、コンスタンシアはカベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、メルローなどのボルドー系黒葡萄品種にとっても好適地となる可能性が示唆されているように思えるが、実際にボルドー系黒葡萄品種の全てを、コンスタンシアの好適品種と断定するのは難しいだろう。


その理由は、白ワインを飲めば良く分かる。コンスタンシアのソーヴィニヨン・ブランは、明らかにボルドーよりもロワール渓谷の性質に限りなく近いのだ。つまり、単純に考えれば、コンスタンシアはカベルネ・フランの適地である可能性が最も高く、早熟のメルローはあまり問題無いが、晩熟のカベルネ・ソーヴィニヨンにとってはかなり難しい場所である、ということになる。


筆者も南アフリカ訪問時には、コンスタンシアのボルドー品種系赤ワインをかなりテイスティングしたが、その多くが、お世辞にも高品質とは言い難いものだった。高いワインメイキング技術によってカヴァーされている部分もあったが、根本的な熟度が足りない、という印象がどうしても拭えなかった。ボルドー系黒葡萄と冷涼気候の組み合わせがもたらす「ピラジン」に対して、基本的には非常に好意的な筆者だが、その品質は許容ボーダーラインを超えたものと感じたのだ。


南アフリカ特集記事の第2章にて、これらの品種に焦点を当てた際に、筆者がコンスタンシア小地区を好適地として含めなかったのは、明確な理由あってのことだった。


しかし、「例外的存在が、全体論を無意味なものにする」というのも、南アフリカの見逃すべきではない魅力である。


そして、今回セミナーで紹介されたコンスタンシア・グレンのスリーというキュヴェは、まさにその例外にあたる。



コンスタンシア小地区の中でも、コンスタンシア・グレンが葡萄畑を所有するエリアは、南北を山に挟まれた窪地にあり、周囲よりも日照時間が1時間ほど長い。そう、この立地こそが、コンスタンシア・グレンの赤ワインを例外的存在としているのだ。


さらに、セパージュも絶妙である。2018年の比率はメルローが55%、カベルネ・フランが26%、そして、カベルネ・ソーヴィニヨンが19%となっており、テロワールと品種構成の方向性が一致している。


程よいメンソール風味に、鉛筆の芯とも表現されるようなグラファイトのニュアンス、アーシーなトーン、バランスの良い果実味と酸、十分に熟したタンニンと、その酒質はクラシックなボルドーブレンドそのものである。




もう一つの「海に近い冷涼地」である、ケープ・アガラス地区も見てみよう。


北側には比較的標高の高い山があるものの、ケープ・アガラス地区で高標高となるエリアは少ない。そしてここでも、海までの近さがもたらす冷涼気候を利用して、ソーヴィニヨン・ブランが好適品種として躍動している。


その酒質は、ロワール渓谷的というよりも、ニュージーランドのマルボロや、チリのコスタ側にかなり近い。オールドワールドを思わせる性質が見え隠れするコンスタンシアとは対照的な、ニューワールドの典型例と言っても良いだろう。その味わいの親しみやすさ、バランスの良さ、分かりやすさは一級品で、コストパフォーマンスの高さも光る。


そう、カジュアルかつ高品質なソーヴィニヨン・ブランの産地として、非常に高いポテンシャルが眠っている場所こそが、ケープ・アガラスなのだ。


この地のワインが、日本にはまだほとんど輸入されていないのはとても残念なことだが、現地価格を見る限り、おそらく日本国内でも2,000~3,000円前後程度で販売できるようなワインが多い。


同品種、同価格帯のライバルを世界中から探してみても、品質面での競争力はかなり高いと言えるだろう。



未輸入品であるため詳細なコメントは控えるが、セミナーで提供されたロモンド・エステートのソーヴィニヨン・ブランも、現地価格約1,400円とは到底思えない、実に飲みごたえのある良作だった。





海に近く標高も高い冷涼地

セミナーで紹介された産地の中で、このケースに該当するのは2ヶ所。共に南アフリカ特集の序章でも取り上げた、エルギン地区、そして3つの小地区が連なるへメル・アン・アールダだ。


標高400mを超えるエリアが多々あることと、海からの近さが相まって、エルギンは南アフリカのワイン産地としては最も冷涼な場所として知られている。


この地のスター品種は文句無しにブルゴーニュ品種で、軽快さと重厚さ、という相反する要素が共存し、古典的な「グラン・クリュ」味となる正真正銘の銘醸地だ。



セミナーで紹介されたオーク・ヴァレーもこの地のトップ生産者であり、その圧倒的な酒質が際立っていた。


重厚なアロマ、強靭な酸とミネラル、頑強な骨格を有しながらも、驚くほど軽やか。実に見事な傑作ワインだ。



もう一つの、へメル・アン・アールダは少し複雑な場所となる。最も海に近く標高が低いへメル・アン・アールダ・ヴァレー小地区がこの谷の入り口。


へメル・アン・アールダ・ヴァレー小地区は正確にいうと「海に近く、やや標高が高い冷涼地」と表現すべき場所であり、セミナーで提供されたアッシュボーンのサンドストーンというワインは、まさにその特性を象徴しているワインとなる。



セパージュはソーヴィニヨン・ブランが58%、シャルドネが26%、そしてセミヨンが16%となっており、先述したコンスタンシア小地区と、エルギン地区の中間的性質とも言えるテロワールを存分に活かした、ブレンドの妙を感じさせる傑作ワインだ。


丸みを帯びたテクスチャー、カラフルな風味が、デリケートな世界観の中で、精密な調和を見せている。



また、へメル・アン・アールダでは、北東方向へと標高が上がっていくため、高標高になるにつれて海からは離れていくが、比較的狭い範囲内であるため、標高の影響がより強く出る、というのも興味深い点である。


最も高標高となるへメル・アン・アールダ・リッジ小地区は、そのシャルドネがシャブリ的性質を帯びるほど、ヴァレーとは異なる個性を見せる。



セミナーで提供されたクリエイションのシャルドネは、アルコール濃度14%、新樽比率30%と、個人的にはテロワールが示す方向性と、ワインメイキングの間に少々の乖離を感じるワインだったが、高品質な良作であることには変わりない。


日本国内価格が4,200円であるということも踏まえれば、高騰しがちなこの品種にあっても、満足度の高いチョイスとなるだろう。




標高 and/or 海からの距離

Episode.1に続き、今回も実に「噛みごたえ」のある素晴らしい内容だった。南アフリカの様々な地区や小地区は、まだまだ日本では馴染みがない。数も多く、得意とする品種も多岐に渡る。その難しさに、本セミナーのアプローチは、確かな「分かりやすさ」をもたらしてくれるだろう。


各産地の大まかな気候的特徴を知るには、地図(できれば山の位置など、おおよその標高がわかるもの)を片手に、海からの距離を見れば良い。起伏の激しいエリアでは、もちろん例外が出てくるが、それでも極めて有効なアプローチであることには変わりないだろう。


なお、特集記事として公開を続けている南アフリカ特集では、各章ごとにテーマとする品種を定めて深掘りしている。


序章は本記事と同様に完全無料公開となっているので、是非合わせてご覧いただきたい。





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