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南アフリカの冷涼気候産地 <前編>

11月28日、南アフリカワイン協会(Wines of South Africa : WOSA)が、オンラインワインスクール大手Vinoterasとの共催で、キャシー・ヴァン・ジルMWと巡る壮大な南アフリカワインの世界 Episode.2~冷涼気候産地~】と題したオンラインセミナー(ウェビナー)を行った。


4月5日に開催されたEpisode.1と同様に、モデレーターはWOSA JAPANプロダクトマネージャーの高橋佳子さんが務め、ゲストテイスターとして、2020年度日本最優秀ソムリエの井黒卓さんが参加した。


世界に340名ほどしかいないマスター・オブ・ワインの中でも、南アフリカ在住で、同国のワインに関する世界的なトップエキスパートとして知られ、また親日家でもあるキャシー・ヴァン・ジルMWが、日本のオンラインワインスクールに再びの登場となった。


今回も、キャシー・ヴァン・ジルMWはライブ中継ではなく、丁寧な日本語訳が付けられたビデオフッテージに登場するという形で参加。


前回のレポートでも書いたが、この方式は海外コメンテーターを含めたウェビナーのあらゆる問題点に解を示す、画期的なものである。


開催側の苦労は増すが、1時間半という時間に込められた圧倒的な情報量は、通訳を介しながらのセミナーとは比較にすらならない。




冷涼気候産地

ウェビナーのテーマは、冷涼気候産地。南アフリカはニューワールドでも有数の冷涼エリアを含む国として知られているが、その冷涼さを形作るものは何なのか。ウェビナーでは明確な答えが示されていた。


簡潔にまとめると、冷涼気候は標高 and/or 海からの距離が決定的な要素となってもたらされている。


一般的には緯度も関係してくるが、南アフリカの場合は、比較的狭い範囲に産地が集中し、起伏も非常に大きいため、(完全に無視できる程ではないが)緯度の関連性がかなり薄まる。


まずは標高に関して。


日照を受ける角度など変数的要素はかなりあるが、基本的には標高が100m上がるごとに、平均気温が0.6度下がる。0.6度というのは人にとっては大した違いではないが、葡萄には非常に大きな影響を及ぼす数値だ。例えば標高が300m上がって、平均気温が1.8度変われば、葡萄にとっては完全に「別のテロワール」となる。


次に海からの距離に関して。アフリカ大陸南端に位置する南アフリカの海岸線には、南極からの海流も含む、非常に冷たい海水がたどり着いている。この寒流はその上部に吹く風も冷やすため、海岸に向けて吹く風も非常に冷たいものとなる。一方で、内陸に入るほど冷風の影響は弱まるため、必然的に温暖になる。


南アフリカの冷涼気候は、この2つの要素が、and/orとなって形成されている。


つまり、標高が高いエリアや、海に近いエリアは冷涼となり、標高が高く海にも近いエリアはさらに冷涼となるということだ。




高標高冷涼エリア

内陸側だが標高の高さによって冷涼な気候が形成されている産地として、ウェビナーではまずCederberg(シーダーバーグ)小地区が取り上げられていた。


シーダーバーグは、一般的にはルイボスティーの産地としての方が名高いが、ワインも実に秀逸。


ウェビナーでテイスティングしたのはDriehoek(ドリフック)という造り手。標高1,000mの地点に畑を構え、斜面も南西向きと(南半球では)最も冷涼になるタイプだ。


©️WOSA Japan


Driehoek, Ludic Sauvignon Blanc 2020は、意外なほどトロピカルなアロマが印象的で、グァヴァのようなニュアンスが強い。アルコール濃度が13.8%となっているため、収穫をかなり遅くまで引っ張った影響かと推測される。その分、フェノールの充実度は素晴らしく、レモンピールのような苦味が心地良い。高標高エリアらしい大きな昼夜の寒暖差から、酸もしっかりと蓄えており、テクスチャーに芯が通っている。糖度、フェノールの熟度、酸がこのバランスで成立すること自体が、この地が高標高冷涼エリアである証拠。


国内価格2,800円。コストパフォーマンスの高さは折り紙付きだ。



さらに、同タイプの産地として紹介されたのがシーダーバーグの西側、より海に近いエリアに位置するCitrusdal Mountain(シトラスダル・マウンテン)地区と、そのおおよそ南半分をカヴァーするPiekenierskloof(ピケニールスクルーフ)小地区


標高は400~700m程度のエリアとなるためシーダーバーグよりは低いが、その分海に近いため冷涼さが保たれる。日照が非常に強いにも関わらず、アルコール濃度がオフ・バランスに限界突破しないのは、このテロワール故だ。


また、無灌漑の古木が多く残されているエリアでもあるため、近年非常に注目が高まっている。


ウェビナーで供されたのは、なんと日本未輸入のワイン。

しかも、この地で最高のワインを造るCerina van Niekerk女史のものだ。


筆者は先日の南アフリカ訪問この素晴らしいワインに出会っていたが、なんとも嬉しいサプライズだった。


さらに、現在続々と公開している南アフリカ特集(序章は無料公開)では残念ながらテーマとした葡萄品種から外れてしまったため、紹介する予定の無かったワインだ。


Cerina造るシュナン・ブランには強い衝撃を受けたが、ピケニールスクルーフの大本命は、なんと言ってもグルナッシュである。


©️WOSA Japan


Carel van Zyl, Old Vine Grenache Noir 2020は、標高620m地点にある1973年植樹の古木かつ自根という、宝物のような畑から生み出される大傑作。


アルコール濃度14.5%を全く感じさせない、羽が生えたような軽やかさ、奥深く多層的な味わい、緻密なミネラルと、しなやかなテクスチャー。南アフリカのグルナッシュは世界的にもノーマークに近い存在だったが、その底知れないポテンシャルには、ただただ驚かされるばかりだ。



また、Cerinaが造るピノタージュも素晴らしい傑作ワインとなっている。


ステレンボッシュのやや温暖なエリアが好適地とされてきたピノタージュだが、冷涼エリアでは全く異なる個性が現出する。


「エレガントな親から生まれた暴れん坊」とさえ言われるクラシック・ピノタージュの面影は皆無に等しく、むしろ本来あるはずだった、ピノ・ノワール、サンソーの要素が明確に立ち現れるのだ。


ここはあえて筆者の個人的嗜好を元に述べさせていただくが、私は冷涼産地のピノタージュの方が遥かに好きだ。


©️WOSA Japan


そして、Cerinaが手がけるCelicia, Pinotage 2021も1976年、1981年の植樹という古樹の特性、標高400mと700mという異なるテロワールをブレンドすることによって生じた奥深いレイヤー、ナチュラルで染み入るようなテクスチャーが見事。


こういうピノタージュがもっと日本市場に入ってきてくれれば、いよいよこの品種に付き纏いがちな、少々ネガティブなイメージも払拭されていくだろう。



後編では、海に近い冷涼地と、海に近く標高も高い冷涼地について述べていく。

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