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Wine Memo <15>
Opta, Dão Grande Reserva 2017. ポルトガル滞在中の訪問及び取材先は、 ダオンとバイラーダ 。 両産地とそのワインに関しての大部分は、特集記事にてまとめてレポートしていくが、今回の旅で出会ったワイン(他産地も含む)の中には、どうしてもメインテーマからは外れてしまうものもあったため、しばらくこのWine Memoにて紹介していこう。 一本目は、 ダオン から。 ダオン西部にワイナリーと葡萄畑を構える Boas Quintas が手がけるブランドの一つ Opta からリリースされる Grande Reserva は、ヴァリエーション豊かなダオンにあっても、間違いなく 「珍品」 に属しているワインだ。

梁 世柱
2023年11月18日


再会 <49> 地味だった格付けシャトー
Ch. Cantemerle 2020. ¥6,000 今でこそ超広範囲に渡って、世界中のあらゆるワインを探求しているが、キャリアの初期は決してそうではなかった。 21歳になってすぐ、生活上の理由で必要に駆られて始めたワイン修行は、当時のおおよそ一般的な例に漏れず、 フランスの銘醸地からスタート した。 私の場合は、なぜか強く興味をそそられた アルザスも含まれていた が、ここでいう銘醸地とは、 ボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュ のこと。 とはいえ、お金がとにかくなかった当時の私は、まずは座学から始めた。 NYの紀伊國屋で購入した 「ソムリエ・マニュアル(著:右田圭司)」 は、手垢にまみれ、ボロボロになるまで、何度も何度も読み込んだ。 しばらくは本から見えた「見知らぬ華やかな世界」を存分に楽しんでいたが、知識と同時に、様々なワインへの憧れも蓄えられてしまい、ほどなくして私は、それらのワインを飲みたくて仕方なくなってしまった。

梁 世柱
2023年11月12日


Wine Memo <14>
Holism, Garnacha 2021. ¥4,800 昨年南アフリカを訪問した時に得た知見は、3ヶ月に渡って大ヴォリュームでお届けした 南アフリカ特集記事 でレポートしたが、実は 大きな心残り が一つあった。 巨大なテイスティング会場では、毎日特定の品種にターゲットを定めて、(午前中はシャルドネ、午後はピノ・ノワールといった感じで)同品種のみをひたすらテイスティングして回る、というサイクルを繰り返していたのだが、どうしても時間の関係上深掘りしきれなかった葡萄品種と産地の組み合わせがあった。 Piekenierskloof(ピーケニアズクルーフ)のグルナッシュ(ガルナッチャ) だ。

梁 世柱
2023年11月10日


出会い <48> 原始的ワインの超現代型アップデート
Les Tetes, Gamuto 2021. ¥3,900 世界最古のワイン とは、どのようなスタイルだったのだろうか。 赤ワイン、白ワイン、ロゼワイン、あるいはオレンジワインだったのか。 結論から言うと、 不明 である。 しかし少なくとも、現代的なスタイルに近い 白ワインやロゼワインが、大昔には存在していなかった可能性は非常に高い 。 その理由は、 保存性 にある。 極々僅かなタンニンしか抽出していない白やロゼは、 原始的な環境下においては、あまりにも脆弱だった ことは想像に難くない。

梁 世柱
2023年11月5日


再会 <48> 6年越しの衝撃
Sam Vinciullo, Red “Cowaramup” 2020. ¥6,800 それは 2017年 のこと。私は、世界各国から メルボルン に集結した総勢50名(私も含む)のソムリエに加え、オーストラリア在住のMaster of Wineや高名なジャーナリスト、数えきれないワインメーカーたちと、一週間強に渡って、ワインの海をひたすら泳いでいた。 日本に帰国してから数年間は、海外産地を巡る機会がなかなか無かったこともあったが、何よりも同世代のとびきり優秀なソムリエたちと出会え、文字通り朝から晩までワインを片手に語り尽くしたのは、生涯の思い出だ。 開放的なNYから、想像よりも遥かに閉鎖的だった東京へ移り、随分と長い間「逆カルチャーショック」に苦しんでいた当時の私にとって、メルボルンはまさに「人生を変えてくれた」場所となった。 一週間のプログラムも実に素晴らしかった。 朝から大量のシラーズをブラインドテイスティングする、などという実にサディスティックな時間もあったが、イベントを通じて供されたワインは、超大手からマイクロガレージワイナリーまでカヴ

梁 世柱
2023年10月29日


出会い <47> クラシックオレンジの聖地
JNK, Jakot.e 2016. ¥8,000 1990年代中頃に復活の狼煙がひっそりと上がって以降、10数年の時をかけて数多の追従者を生み出した オレンジワイン 。 2010年代に入る頃にはいよいよメジャー化し始め、2020年代の今では、完全な1カテゴリーとして確立するまでに至った。 もはや、オレンジワインが造られていないワイン産出国など、存在しないと考えても良いだろう。 生産地が世界規模で広がる中、その ヴァリエーション もまた、白、赤、ロゼと肩を並べるほどにまで拡張された。 現在、グリ系葡萄まで含めると、非常に多くの品種からオレンジワインが造られているが、果たして どの品種がオレンジワインに向いているのか 、と言う議論がどれだけされてきたのかに関しては、疑問が残る。 オレンジワインにとって過渡期と言える現代は、世界各地でありとあらゆる実験的醸造が行われているため、「オレンジワイン向きの品種」を検証するにはうってつけのタイミングなのではなかろうか。 とはいえ、よりクラシックなタイプと(ナチュラルも含めた)現代的なオレンジワインとを、並列で

梁 世柱
2023年10月22日


高級ビールを嗜む <2> 湯河原の極上クラフト
不定期連載とはしていたものの、初回から随分と時間が経ってしまった高級ビールのレヴュー企画。 ビールは相変わらず飲んでいたのだが、なぜかそこまで心を揺さぶられるものに巡り合わなかったり、最高に美味しいと思ったものが生ビールで写真が撮れなかったりと、どうにも歯車が噛み合わなかった。 今回久々にご紹介するビールとは、その出会いも含めて、思い出が色々と詰まっている。 小田原で諸用済ませ、帰路に着こうとした時、自らの疲弊ぶりを痛感した私は、 「どれ、湯治でもして帰ろうか。」 と思い立った。 箱根の方が近かったが、観光客の渦に飲み込まれる気にもなれなかったので、少し寂れた(申し訳ない!) 湯河原 へ行くことにした。 見知らぬ地に行くと、食事処と地ビールを真っ先に探すのが私のルーティーン。 湯河原の酒屋に立ち寄り、地ビールの棚を眺めていると、鮮烈にポップなラベルのビールが目についた。

梁 世柱
2023年10月19日


再会 <47> 魂に染みるワイン
Beau Paysage “Kurahara le bois” 2014. 正直に言おう。 私がSommeTimesで「再会」のシリーズを書き始めてから、このワインをテーマとする機会は幾度となくあった。 それでも第47回目の投稿まで時間がかかったのは、単純に 気乗りがしなかったから だ。 その理由もいくつかある。 このワインに対する 私と世間の評価には、大きな隔たりがある と感じてきたこと。 このワインに対する 私の正直な意見に、不快感を覚える人が少なからずいる であろうこと。 このワインを神聖視する人たち対して、 私の真意が正しく届くことは決してないのではないか 、と心のどこかで思ってきたこと。 気乗りがしない、と言う状況は今もさして変わらないが、海外のワインメーカーたちと、このワインを一緒に飲む機会が最近あったので、勢いに任せて、意を決した形だ。 さて、まずは誤解を恐れず、単刀直入に書こう。 私はこのワイン、つまり日本ワインの中でも最も希少価値が高いものの一つとされる Beau Paysage に対して、ある種の 畏敬の念 を抱き続けてきたが

梁 世柱
2023年10月15日


出会い <46> 島ワインの最高到達点
Azores Wine Company, Arinto dos A ç ores Solera NV. ¥12,000 2023年10月の時点で、私が 本年度最大の衝撃 と断言できる「出会い」のワインは、大西洋にひっそりと浮かぶ 未知の島 で造られていた。 イタリア・シチリア島の躍進 を皮切りに、ギリシャ・サントリーニ島など大小様々な島が名乗りを上げ、今や 島ワインは群雄割拠の様相を呈している 。 私が考える島ワイン最大の面白さは、 古典的価値観に基づいた縦軸評価と、個性を重んじる横軸評価の間で、至高とすべきワインが決定的に異なる 点にある。 縦軸評価 の場合、ネッビオーロやサンジョヴェーゼにすら比肩し得るポテンシャルを発揮している、 シチリア島・エトナ火山の土着品種ネレッロ・マスカレーゼ が、「至高」に該当することに、異論を唱える人は少ないだろう。 横軸評価 はより 「主観」が強くなる ため、個人差が生じるのは当然のことなのだが、私は スペイン・カナリア諸島 のワインを、これまでは横軸評価の「至高」としてきた。 他にも、ギリシャのクレタ島、トス

梁 世柱
2023年10月8日


Wine Memo <13>
José Piteira, Vinho de Talha Tinto 2018. ロシアによるウクライナ侵攻を発端とした物価と輸送費の高騰、歴史的な円安によって、日本国内でもあらゆる物価とエネルギー費が上昇し、輸入ワインの価格もどんどん釣り上がっている。 大幅な賃上げという幸運を享受できている人なら問題ないのかも知れないが、5%程度の賃上げでカヴァーしきれるほど、昨今の物価高は緩くない。 限られた資金源は、生活必需項目に優先して回され、娯楽や嗜好品にかけられるDisposable incomeは縮小していく一方だ。 私がワインに携わってから20年余りの間で、今ほどワインの 「コストパフォーマンス」 を強く意識したことは無いだろう。 長年買い続けてきた銘柄を、価格高騰を理由に見限ることは、もはや日常茶飯事となった。 なかなか心が痛むのだが、仕方のないことだ。 ワインの世界において、コストパフォーマンスの王者は、昔も今も チリ であることは間違いない。

梁 世柱
2023年10月6日


Limoncelloの魅力
イタリアといえば、ワインファンにとっては、もちろんワイン大国だが、食通にとっては、パスタやピッツァの国、そして、 カクテル好きにとっては、リキュール王国 となる。 イタリアンリキュールの中でも人気が高いのは、ハーブ類を中心に独自のレシピで配合した ビター系リキュール(Amaro と呼ばれる)で、その王者は間違いなく Campari だが、アルコール濃度がCampariの半分程度で、苦味も穏やかな Aperol も非常に良く知られている。 他にもカンパーニャ州の Strega やロンバルディア州の Fernet-Branca をはじめ、バジリカータ州の Amaro Lucano 、エミリア=ロマーニャ州の Amaro Montenegro 、シチリア島の Amaro Averna など、「ご当地Amaro」の枠を超えて、世界的に愛される名品は数多い。 もしイタリア産のAmaroが無くなってしまったら、世界中でどれだけ膨大な数のカクテルレシピが消失してしまうかは、もはや想像すらつかない。 そして、そんなイタリアンリキュールの中でも、孤高の存在と言える

梁 世柱
2023年10月4日


再会 <46> 好適品種と不良少年
Delinquente, Weird faces series. ¥2400~2700 青森のりんご、鳥取の梨、愛媛のみかん、岡山の桃、熊本のスイカ、山形のさくらんぼ。 我々は日常的に、様々な果物で、 名産地たる優れた味わい を当たり前のように楽しんでいる。 そして、当たり前だからこそ、 すぐに忘れてしまう。見えなくなってしまう。理解することを止めてしまう 。 なぜその場所が、名産地と呼ばれるようになったのかを。 要因は多々あれど、 真理は実にシンプル だ。 その果物が、その地に適応することができたから。 それだけのことなのだ。

梁 世柱
2023年10月1日


南イタリアの粋 〜魅惑のトマトリキュール〜
海外のワイン産地を巡る際には、スケジュールの隙を見計らって、現地のショップを訪れるようにしている。 残念ながら、特にヨーロッパでは、ほとんどのショップは保管状況(常温保存は当たり前)が良くないので、(例え安くても)ワインを買うことは滅多に無いのだが、トレンドや古いヴィンテージワインの価格チェックは入念に行う。 そして、一通りワインを眺めた後に必ず行うのは、 ローカルリキュール探し だ。 現地の素材を使った、ローカル感満載のリキュール類は、その地の 文化とも深く繋がっているし、日本に輸出されていないことも多い 。 その地方ならではの ジン なども相当面白いが、最高のリキュールに出会った時の衝撃は、何物にも変え難い。 今回の旅唯一の自由時間は、到着翌朝から正午にかけてだったが、ほとんどのショップは10時以降に開店するため、実質的には最大1時間半程度しか猶予が無かった。 一応情報サイトを駆使して、ある程度の目星をつけてから動くのだが、 経験上、8割はハズレ だ。

梁 世柱
2023年9月21日


出会い <45> 未知の島ワイン
Masseria Frattasi, Capri Rosso 2021. 現地価格:約19,000円 過去10年間ほどを遡って、ワイン市場のトレンドを探ってみると、一つの興味深いジャンルが浮かび上がってくる。 島ワイン 、だ。 栽培面積、生産量を鑑みると、特定の島ワインがトレンドになっていると言えるほどの流通量は無いため、ヨーロッパ各地の様々な島ワインを統合した、一つのジャンルとして捉えた方が実態に即しているだろうか。 ただし、このトレンドのきっかけとなったのが、 イタリアのシチリア島 であることは間違いない。 エトナ火山 のネレッロ・マスカレーゼ(黒葡萄)とカッリカンテ(白葡萄)、 ヴィットーリア を中心としたエリアのネロ・ダヴォラとフラッパート(共に黒葡萄)、そしてその量品種をブレンドしたDOCGであるCerasuolo di Vittoriaは、島ワインというマニアックなジャンルを、メインストリームに押し上げるに十分なほど、 高次元で個性と品質が両立されたワインだ った。 シチリア島産ワインの躍動によって、ワイン市場の最先端にいる人々の関心

梁 世柱
2023年9月18日


Wine Memo <12>
Vigne Sannite, Barbera Sannio DOP 2021. 日本ではなかなかお目にかかれない、ある種の 珍品的ワイン との出会いは、海外行脚の醍醐味の一つだ。 イタリア・ カンパーニャ州のサンニオ (詳しくは、今月末の特集記事にて)で出会ったのは、Sannio DOPとしてリリースされている、こちらの Barbera 。 そう、 カンパーニャ州のBarbera だ。

梁 世柱
2023年9月17日


再会 <45> 新時代の価値観
Lamoreaux Landing, T23 Cabernet Franc “Unoaked” 2021. ¥4800 かつてはマイナスだったものが、時代の変化によって魅力的な要素へと昇華する というのは、ワインの世界においては良くあることだ。 そのような トレンドのサイクル は、 最短だと2~3年、最長でも10年 あれば回ってしまうため、つくづく、ワイン業界に身を置く人々が日常的に晒されている アップデートの重要性 を痛感する。 ワイン産業全体としての情報量も昔より遥かに多いため、全世界のワイン産地を対象にして研鑽してきた私も、いよいよアップデートを行い続ける対象を取捨選択するタイミングに来ているのではと、思い悩んでもいる。 気候変動が深刻化している近年は特に、私やその上の世代のプロフェッショナルたちが、膨大な時間をかけて理解してきた、 世界各地のワインとそのティピシテに関する情報 が、急速に 「期限切れ」 となってきているため、それこそ 「世界規模」の学び直し を迫られている。 なかなか厳しい状況だが、また学べるのは幸せなこと、とも言えるので

梁 世柱
2023年9月10日


出会い <44> 超マイナー産地に芽吹く、若き才能
Henri Chauvet, Au Chant de la Huppe 2022. ¥7,900 「最近の若いもんは」という言葉が、私は昔も今も大嫌いだ。 若者たちのことを本気で考え、案じた上でそう言っているのなら良いのだが、実際は先達による「自己肯定」の手段以外の何ものでも無いことがほとんど。 わざわざ未来ある若者を卑下してまで美化する必要があるプライドに、何の価値があるのだろうか。 特に現代の若者(ワインの話なので、一応20~30代、としておこう)は、いわゆる 「ゆとり世代」 になるため、先述のような批判に極めて晒されやすいと感じている。 奇妙なことだ。 大谷翔平、羽生結弦、藤井聡太、高梨沙羅といった、各分野においてすでに歴史を書き換えるような活躍をしてきた偉大な才能たちは、皆20代で、皆ゆとり世代だ。 先人の誰もが成し遂げられなかった偉業を、あっさりと達成する若者を数多く輩出する世代こそがゆとり世代なのだから、それができなかった大人たちが、なぜ彼らを批判できるのだろうか。 先日行われた全日本最優勝ソムリエコンクールに出場していた、 中村僚我

梁 世柱
2023年9月3日


再会 <44> 地球の裏側で再会 Part.2
Olifantsberg, Grenache Blanc 2021. ¥4300 日本に輸入されているワインの種類(量ではない)は、世界でも間違いなくトップクラス。銘柄数に関する統計が見当たらないので正確なことはわからないが、もしかしたら世界一の可能性すらある。 しかし、そんな 日本にもまだ届いていない未輸入ワイン は、世界各地に星の数程存在している。 ジャーナリストとして海外産地を訪問した際に、素晴らしい品質の未輸入ワインに出会うことは良くあるのだが、私はインポーターでは無いので、情報を発信する以外にできることは、ほとんどない。 ツアーにインポーターの方々が同行している時などは、私の発見と出会いが彼らのお眼鏡に叶わないものかと、密かに期待したりしてもいるのだが、なかなかそうもならないものだ。

梁 世柱
2023年8月27日


Wine Memo <11>
Dom. Muller-Koeberle, Mobylette 2021. 俗に 「ピンクワイン」 と呼ばれる 「ごちゃ混ぜ系ワイン」 (それほど浸透している呼び名ではないが)に関しては、以前の 出会い <35> でも紹介したが、今回は少し違う目線から、この特殊な新カテゴリー候補に関して考えてみようと思う。 再度、ピンクワインの定義(法的な定義はもちろん存在していない)だけは明記しておいた方が良いだろうか。 ピンクワインとは、白ワイン、ロゼワイン、オレンジワイン、赤ワインという主要4カテゴリーのワインを、それぞれ 別に醸造した後にブレンド したワイン(一応、 ロゼか赤は必ずブレンドされている 、としておこう)のことを意味している。

梁 世柱
2023年8月24日


出会い <43> 二人のマウレ
Il Cavallino (Sauro Maule), Oran-G 2020. ¥4,400 今から12年ほど前のこと。 NYの伝説的なトップシェフとして名高い David Bouley の新店で、ヘッド・ソムリエをしていた頃の話だ。 Davidは、当時まだ 完全に無名の若いアジア人ソムリエ だった私を見出して、責任ある職を任せてくれた大恩人だ。 そんなDavidは 正真正銘の天才 (異次元の天才、という表現は彼にこそ相応しい)だったが、とてつもない 「無茶振り」や「奇行」 が多いことでも知られていた。 まだまだレストランのキャッシュフローが危うい段階だったのに、突然 「在庫を3倍に増やせ。」 と言ってきたり、セレブ層のために用意しておいた高級ワインを 「このレストランの料理には合わない。」 と言い出して片っ端から飲み尽くしたりと、今となっては良い思い出だが、当時はなかなか神経をすり減らす日々だった。 猛烈に忙しかったクリスマスシーズンを抜け、少し余裕が出始めた年末のある日、Davidの唐突な無茶振りが飛んできた。 「年明けに子持ち昆布を使った

梁 世柱
2023年8月20日
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