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出会い <43> 二人のマウレ

Il Cavallino (Sauro Maule), Oran-G 2020. ¥4,400

今から12年ほど前のこと。


NYの伝説的なトップシェフとして名高いDavid Bouleyの新店で、ヘッド・ソムリエをしていた頃の話だ。


Davidは、当時まだ完全に無名の若いアジア人ソムリエだった私を見出して、責任ある職を任せてくれた大恩人だ。


そんなDavidは正真正銘の天才(異次元の天才、という表現は彼にこそ相応しい)だったが、とてつもない「無茶振り」や「奇行」が多いことでも知られていた。


まだまだレストランのキャッシュフローが危うい段階だったのに、突然「在庫を3倍に増やせ。」と言ってきたり、セレブ層のために用意しておいた高級ワインを「このレストランの料理には合わない。」と言い出して片っ端から飲み尽くしたりと、今となっては良い思い出だが、当時はなかなか神経をすり減らす日々だった。


猛烈に忙しかったクリスマスシーズンを抜け、少し余裕が出始めた年末のある日、Davidの唐突な無茶振りが飛んできた。


「年明けに子持ち昆布を使った料理を出すから、それまでにワインのペアリングを考えてこい。日本酒に逃げるなよ。」


私の年末年始休みの返上が、確定した瞬間だった。

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