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再会 <12> 良薬、口に甘し
L.Garnier, Yellow Chartreuse V.E.P. シャルトリューズというリキュールをご存じだろうか? リキュールの女王とも称されるこの魔法の液体は、酒の世界における都市伝説的な存在でもある。 伝承によれば、1605年にフランソワ・アンニバル・デストレなる人物(当時のフランス王、アンリ4世の妾の実兄だったそう)が、カルトジオ会という修道会に、現在のシャルトリューズの元となった手書きのレシピを、「なぜか」渡したことから始まったそうだが、その話が真にシャルトリューズの起源であるという説を確実に裏付けるような証拠は発見(もしくは公開)されていない。 錬金術的な構成となっていたそのレシピには、「長寿のためのエリクサー」と書かれていたそうである。 それから130年後の1735年、忘れさられていた謎のレシピがカルトジオ会の本山であるグラン・シャルトリューズに届けられ、1737年には修道士のジェローム・マウベックによってより洗練されたレシピへと改変された後に、本格的な生産が始まった。当初は販売用ではなかったが、やがて修道士たちが少しずつ売

梁 世柱
2022年5月14日


出会い <11> ミッシング・リンク
Luis Pérez, La Barahuela Palma Cortada 2017 ¥10,800 「シェリーはお好きですか?」 私のソムリエ経験の中でも、かなりの回数繰り返した言葉だ。 醸造のどこかの段階で、アルコール(基本的にブランデー)を足してアルコール濃度を上げる「酒精強化ワイン」の一種であるシェリーは、とにかく「好き嫌い」がはっきりと別れる。 甘口が主体のポートなどに比べると、辛口主体のシェリーには、より一層「分かりにくさ」がつきまとうのだ。 ペアリングにおいては、驚くほどのポテンシャルを秘めているにも関わらず、大多数のシェリーペアリングは、「シェリーが好きである」ことが成立の前提条件になってしまう。 本記事は、そんなシェリーに焦点を当てた記事になるため、そもそもシェリーがお好きでない方には、何の興味もそそられない情報になるであろうことを、ご承知いただきたい。 美しいアンダルシア地方の特産品であるシェリーが、時代の流れに乗って、何度かその姿を変えてきたことを知る人は、そう多くないかも知れない。 シェリーの主産地であるヘレス地方では、

梁 世柱
2022年5月7日


再会 <11> スーパーナチュラル
Moric, Haus Marke Supernatural Weiss 2019. ¥4,800 今でこそ、クリーン・ナチュラルが、ナチュラル・ワインの一派としてはっきりと認識されるようになってきたが、ほんの数年前まで、キレイな味わいのナチュラル・ワインは、ブームから爪弾きにされていた。 別の言い方をすると、そういったワインは、ナチュラル・ワインとしては、売れ行きが良くなかったのだ。 多少の例外はあるが、ワインをクリーンに造れる人は、ワイルドにしか造れない人よりも、圧倒的にワイン造りが「上手い」。さらに、上手いだけではなく、ナチュラルかつクリーンに造るには、勤勉さと献身が欠かせない。それだけの技術と情熱をもった造り手のワインが、怠惰で無責任で下手だけど、ラベルを含めたプレゼンテーションは抜群に得意、といった造り手のワインよりも遥かに市場で苦戦するという実情には、なんともやりきれない思いが深まる。 しかし、ナチュラルとクリーンを両立できる造り手が、(売りにくいからといって)わざわざ自分のワインを、よりワイルドな方向へともっていくことは極めて稀。.

梁 世柱
2022年5月1日


真・日本酒評論 <7> 低アルコール原酒という新技術
<加茂金秀:特別純米酒 13 火入> アルコール飲料の低アルコール濃度化、というのは、酒類業界が全体として向き合っている極めて重要な課題として、声高々に叫ばれることが多い。確かに、現代の若者、特にミレニアル世代、Z世代と呼ばれる年齢層の人々は、データ上でみても、酒量が大幅に減っていることは間違いない。実はこの流れは世界規模で起こっており、日本だけの現象では全くないのだ。 新たな世代の嗜好に対応するために、低アルコール濃度化に取り組む。そこだけを見てしまうと、酒というものが、ただ一つの方向へと変化しているように思えるかも知れないが、筆者の意見は大きく異なる。 私の考え方の根拠となる最たる例は、コンビニエンスストアにおける、酒類のラインナップだ。 ビール、酎ハイ、リキュール類に絞って陳列棚を眺めるだけでも、そこに驚くほどのヴァリエーションが既にあることに、すぐに気付くはずだ。 完全ノンアルコールのライン、1%を下回る超低アルコールのライン、1~3%の低アルコールライン、5%前後のスタンダードライン、そして、7~9%のストロングライン。...

梁 世柱
2022年4月24日


出会い <10> チリの秘宝
Garage wine co., VIGNO Truquilemu Vyd. 2018 ¥6,000 チリというワイン産出国の奥深さには、いつも驚かされます。南北に広くワイン産地が点在し、それぞれのエリアに適合した好適品種も既に判明しています。しかも、大手メーカー(規模的には超巨大ワイナリー)が率先して適地適品種の研究を進めてきた歴史があり、その知見がより小規模な生産者とも共有されています。 まさに、国を挙げての大探求作戦。日本のワイン産業は、チリから大いに見習うべきことがたくさんあります。 そんなチリでも最も有名かつ高価なワインが集中しているのは、中央部のコルチャグア・ヴァレー。モンテス、カサ・ラポストール、クロ・アパルタと、高名なワインが目白押しです。 他の産地でも、アコンカグア・コスタのピノ・ノワール、カサブランカ・ヴァレーのソーヴィニヨン・ブラン、レイダ・ヴァレーのシラー、リマリ・ヴァレーのシャルドネなど、ほんの触り程度名前を挙げるだけでも、魅力的な産地と品種の組み合わせがたくさん出てきます。 しかし、チリのカリニャン、と聞いてピンとくる

梁 世柱
2022年4月17日


再会 <10> 真ん中を射抜く
Rivers-Marie, Chardonnay Sonoma Coast 2019. ¥6,500 筆者はかつて、個室しかない高級店に勤めていたことがある。 連日連夜、政財界や芸能界の重鎮たちが訪れるそのお店には、個室が大小合わせて16室あった。 個室でのサーヴィスというのは、オープンスペースでのテーブルサーヴィスと比べると、体感で2~3倍は手がかかる。個室である以上、サーヴィスマンやソムリエが入室する回数は極限まで少なくする必要があり、当然、一度入室したら目的を果たすまで易々とは退室できない。つまり、一回のサーヴィス時間がどうしても長くなるのだ。 さらに難しかったのは、その店に訪れる顧客の90%以上が、ビジネスディナーとして利用していたという点だ。これが一般客向けの個室なら、テーブルサーヴィスと同様に、適度に「お待ちいただく」という技術も使えなくはないのだが、ビジネスディナーの場合、基本的には「最速が正解」だ。 16室ある個室が完全満室になった場合(週末以外はそういう日が多かった)、分身の術でも使わない限り、全ての個室に対して真っ当なワインサ

梁 世柱
2022年4月10日


出会い <9> ワイン界最強のリキュール
Bénédicte & Stéphane Tissot, Macvin du Jura Rouge “Pinot Noir”. 2018 ¥8,800 Macvin du Jura(マクヴァン・デュ・ジュラ)という飲み物をご存じの方は、どれだけいらっしゃるでしょうか? 聞いたことはある、という方も中にはいらっしゃるとは思いますが、飲んだことがある人は相当少ないと思います。 マクヴァンは、厳密にいうとワインではありません。 葡萄を原料にしたリキュールです。 原産地呼称制度では、糖度170g/L以上で収穫した葡萄の果汁に、アルコール濃度52%以上のフランシュ・コンテ産(同じジュラ地方にある産地)オー・ド・ヴィ(*1)を添加して、10ヶ月以上樽熟成をする必要があると定められています。 ちなみに糖度170g/Lというのは非常に甘い状態です。

梁 世柱
2022年4月3日


再会 <9> ブティック・ワイナリーという選択肢
Villard Fine Wines, Sauvignon Blanc “Expression Reserve” 2019. 海外に出ると、本来の目的とは別の取材を、スケジュールの隙間に入れ込むことが多い。建前としては、メイン取材に深みを与えるため、としているが、実際には、自分が興味をもっているテーマに沿って、訪問するワイナリーを選んでいることの方が多い。 少なくとも、私は。 チリを訪問したとき、メインの取材先は例外なく、いわゆる有名ワイナリーだったため、サイド取材としてアポイントを取ったのは、そういったワイナリーとは真逆の、小さな小さなワイナリーにした。 チリは南北に長大に広がる国。生産量ランキングでいうと、近年はアルゼンチン、オーストラリア、南アフリカと5~8位の間を争っている。 (1~3位はフランス、イタリア、スペインの争い、4位はアメリカがほぼ不動、一時期大躍進していた中国は低下傾向。余談だが、食用葡萄も含まれる栽培面積ランキングは、ワインにとっては無意味だ。) 参考までに日本の数字を出してみよう。2020年度の「日本ワイン」の生産量は約

梁 世柱
2022年3月26日


真・日本酒評論 <6> ナチュラル・サケは存在するのか
<みむろ杉:木桶菩提酛 2021> それは数年前のこと。筆者とは旧知の仲でもある、アメリカ在住のナチュラル・ワインを専門とするワインライター(以降、Aさんと表記する)が、Facebook上に、「ナチュラル・サケが素晴らしい!」という旨の投稿をした。 その投稿を目にした筆者は、即座に反論のコメントをした。 「ナチュラル・サケってなに?そんなの無いよ?」 筆者のコメントに返答してきたワインライターも、その主張を全く譲らず、炎上の気配が漂い始めたため、議論の場をMessengerでのグループチャットへと移行した。 名は伏せさせていただくが、このグループチャットには、とある高名な日本酒の造り手(以降、Mさんと表記する)も参加した。 Aさんの主張をまとめるとこうだ。 オーガニックで栽培した米を、添加物を一切使わずに醸造したサケがある。それはナチュラル・サケと呼べるものだ。 Aさんのその時点での主張を探っていくと、どうやらオーガニック米を、乳酸菌と酵母を添加せずに醸した日本酒のことを具体的には指しているようだった。つまり、有機米を使用し、生モトか山廃モトを酒

梁 世柱
2022年3月20日


出会い <8> ナチュラル・ブルゴーニュのニュースター
Domaine Dandelion, Hautes-Côtes de Beaune Rouge. 2018 ¥5,200 ブルゴーニュ、特にコート・ドール周辺のワインには、多くの人が「理想像」を抱いていると思います。 奥深く華やかなアロマ、ピュアな果実味と心地よいミネラル、透き通った酸、優美な余韻。 一般的なブルゴーニュの印象は、どこを切り取っても、「澄んだ美しさ」にあるような気がします。 しかも、コート・ドールのワインはとっても高価。 期待した味と違ったら、その分だけ失望も大きくなってしまうものです。 (裏切りもブルゴーニュの魅力のうち、なんていうドMなワインファンも実は多いのですが。) そんなブルゴーニュにとって、ナチュラル・ワインは鬼門でした。 知識、技術、経験、献身に乏しい造り手によるナチュラル・ワインには、欠陥的特徴と呼ばれる、様々な不快臭や、独特のファンキーな香味が発生します。 香りや味わいとしては、それが好きなら問題はないのですが、その土地のその葡萄品種だからこそ出てくる個性を、過度な欠陥的特徴は覆い尽くしてしまいがちでもあります。

梁 世柱
2022年3月13日


再会 <8> 最高のご褒美ワイン
The Sadie Family, Skerpioen 2012. 友人が引っ越したというので、新居の整理整頓を手伝いにった。 大きなワインセラー二台分のワインをコレクションしている友人なので、お手伝いのお礼はワインで、とちゃっかり事前リクエストをしておいた。 引っ越して三日目、やっとワインセラーの電源を入れられるようになったタイミングだったこともあり、リビングにはコレクションが詰め込まれた段ボールが山積みになっていた。 コンディションの劣化を避けるためにも、早急にワインをセラーへ移動させる必要があった。 趣味が悪いと言われるかも知れないが、他人のワインコレクションを眺めるのは、とても楽しい。飲むのを我慢して、わざわざセラーで眠らせていたワインだ、当然一つ一つに思い出が詰まっている。 年号の古いもの、最近のヴィンテージ、クラシックなワイン、今っぽいワイン、なぜそんなワインを?というようなものも。 いろんなタイミングで、その人がその時に好きだったワインが、コレクションという形で、日記のように残っている。 逆にいえば、私のような人間に、ワインセラーを

梁 世柱
2022年3月6日


出会い <7> 経験を超えるもの
Augalevada, Ollos de Roque. 2018 ¥3,900 卓越したワイン造りに、経験値は必要なのでしょうか。 普通に考えれば、答えはYESです。 かつて「猿酒」造り(葡萄を容器の中で潰して、放置するだけ)に挑戦して、大失敗した経験のある筆者にとって、ワインメーカーという職は、明白に「専門職」です。素人がいきなり素晴らしいワインをいとも簡単に造れるほど、ワイン造りは甘いものではありません。それだけは間違いない、と断言できます。 しかし、モノづくりとは不思議なもので、経験値に加えて、センス、別の言い方をすれば才能とでも呼ぶべきものが、大いに関わることも確かにあるのです。 少々厳しい言い方にはなりますが、いつまで経っても一向に品質が向上しない造り手もいれば、キャリアは浅くても三段跳びで進化してしまうような造り手もいる、ということです。 排他的な考え方は好きではないので、センスに恵まれなかった(と私が個人的に感じる)造り手を非難する気は一切ありませんが、ルーキーの大活躍には、心が躍るのも確かです。

梁 世柱
2022年2月26日


再会 <7> テロワールを感じれるワインとは
Good Intentions Wine Co., Chardonnay “Volcanic Lakes” 2020. ¥5,800 ワインに宿る「テロワール」の不思議は、飲み手をいつまで飽きさせることなく、ワインの深淵へと誘ってくれます。ですが、テロワールというものは、一言二言で言い表せるほど単純なものでもありません。基本的には、とても分かりにくいもの、と言っても良いでしょう。 では、ワインのどういった要素や性質から、テロワールを感じ取れば良いのでしょうか?どうすればテロワールを楽しめるのでしょうか? これもまた、難題です。 ワインや産地に対する知識が手助けになることは確かに多いのですが、知識に偏り過ぎてしまうと、それほどテロワールの特徴が出ているとは言えないワインにまで、安易にこの言葉を使ってしまいがちになります。 例えば、ニューワールドの産地で、葡萄を極限まで濃縮させ、ワインメイキングの粋を尽くし、たっぷりと新樽でトリートメントをした高級ワインでも頻繁に、「〜〜〜〜のテロワールが表現されている」といった記述を目にしますが、筆者には全く理解が

梁 世柱
2022年2月20日


真・日本酒評論 <5> 飲みやすさの進化系
<正雪:純米大吟醸 天満月> 飲みやすい酒。水のような酒。 この表現が褒め言葉なのか、そうでないのかは、実にややこしい問題だ。 古典的な反論は、「水のように飲みやすい酒が飲みたいなら、水でも茶でもレモンサワーでも飲めば良い。」だとか、「酒は飲んだら酔うのだから、飲みにくいくらいがちょうど良い。」と言った、実に正論と言えるもの。 そのジャンルの玄人になればなるほど、飲みやすい酒という表現を嫌う傾向も見られるが、さらに突き抜けたところになるとまた話が違ってきたりするのが、難しいところでもある。 例えばワインなら、ロマネ・コンティやシャトー・マルゴーは究極的な意味で「飲みやすい酒」と表現して差し支えないだろう。 スコッチ・ウィスキーで最も「飲みやすい酒」がマッカランであることに異論を唱える人は、どう考えても少数派だ。 もし、同じことが日本酒にも当てはまるのであれば、中途半端に飲みやすい酒は賛否両論、突き抜けて飲みやすい酒は称賛の的となるのかも知れない。 むしろ、大量の水を原料とし、各酒蔵の仕込み水の水質が酒質にも大きく影響する日本酒だからこそ、「水のよ

梁 世柱
2022年2月12日


出会い <6> スペインワインの新常識
Muchada-Léclapart, Lumière 2017. ¥8,900 前回の「再会」では、小さなマイブームの波と、いつまでも色褪せない魅力の話をしました。 そう、ピノ・ノワールのように、永遠とも思える興味を与え続けてくれる品種もありますが、筆者にはいつでも、何かしらのマイブームが訪れています。 実は現在進行形のマイブームは、スペイン。 正確に言うと、スペインの中でも特定の3産地がマイブームの対象となっています。 1つ目の産地はカタルーニャ州のペネデス。 2つ目の産地はスペイン領だけど位置的にはほぼアフリカなカナリア諸島。 そして3つ目の産地は、本日ご紹介するアンダルシア地方です。 アンダルシアと聞くと、皆様何を思い浮かべるでしょうか? 世界遺産でもある、荘厳なアルハンブラ宮殿でしょうか。 有名なリゾート地である、コスタ・デル・ソルでしょうか。 夏の定番料理、ガスパチョでしょうか。 それとも、異様なほどに奥深い世界が形成されている、シェリーに代表される様々な酒精強化酒でしょうか。 魅惑的なアンダルシアに対して人が思い抱くイメージは、多種多

梁 世柱
2022年2月6日


再会 <6> 違いを知り、追求するという楽しさ
William Downie, Pinot Noir “Baw Baw Shire” 2018. ¥10,000 世界中のワイン、産地、品種、造り手に日々めまぐるしく接していると、どうしても「小さなマイブーム」の波が生じてしまい、特定のワインに集中的に接する時期がある一方で、しばらく接することがなくなるワインも出てきます。 特にマイナー産地、マイナー品種のような特殊性の高いワインは、公平公正がポリシーの筆者であっても、一過性の興味から抜け出せないことが少なくありません。 いや、本音で言うと、そういったワインの追求をもっともっと深いところまでやりたいのですが、そもそも造り手も生産量も少なく、俯瞰して比較しながらの検証がとても難しいという実情があります。特定の造り手の、見知らぬ品種を使った特殊なワイン、というのは飲む分には最高に楽しいのですが、その産地と品種の相性や、浮かび上がってくるテロワールの個性を知るには、どうしても不十分になってしまいます。 さて、筆者のそんなストレスをいつも軽快に吹き飛ばしてくれる品種こそ、ピノ・ノワールです。...

梁 世柱
2022年1月29日


真・日本酒評論 <4> ヴィジョンと結果
<花の香:純米大吟醸 桜花> 先日公開した「而今」に関する記事にて、「地元の米を使った酒は全ての要素がより一体感を増す」という仮説について述べたが、この仮説の検証対象となる日本酒を試す機会があったため、「真・日本酒評論」にてレヴューすることとする。 1902年、神田角次・茂作の親子によって創業された神田酒造は、熊本県和水町地方にて、地域に密着した酒蔵として成長し、1952年には、蔵の周辺に自生する梅の木から、春になると蔵に梅の香りが満ちることから、現在の「花の香酒造」へと名を改めた。 2011年、6代目蔵元の神田清隆さんの代になり、世界へ羽ばたく「Sake」を目指し、継続的な改革に取り組んできた。 2015年頃からは、地元米への全面的な転換がスタート。 産まれた土地、土地の神々を意味する古語「産土(うぶさな)」をヴィジョンとして掲げ、和水町のテロワール(ミクロ気候、知識、水質)と、この地特有の微生物群ネットワークが酒にもたらす個性を、醸し手として「導く」ことに重きを置く。 筆者の唱える仮説と同じ想いがあるのだろうか、ラベルの脇には「唯一無二の独自

梁 世柱
2022年1月23日


出会い <5> 衝撃のオレンジ
Vinyas d’Empremta, Rabassa 2019. ¥5,200 オレンジワインの復興は、北イタリアのフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州とスロヴェニアの国境付近から始まりました。 復興が始まったばかりの1990年代後半は批判も多かったのですが、2000年代に入ると徐々に理解を得るようになり、2010年代から一気に世界各国に拡散、今では第4のカテゴリーとして完全に確立したと言っても過言ではありません。 そして同時に、そのスタイルも、爆発的に多様化しました。 ほとんど白ワインと見分けがつかない色、ほぼ茶色のワイン、確かにオレンジ色に見えるものなど、色だけでも多種多様。 味わいも、古典的な旨渋味型、モダンなフルーティー型、いいとこ取りのバランス型と、大きく分けても3種類。さらに、濁っていたりいなかったり、泡立っていたりいなかったりと、これはもう確かに、一つの立派な大カテゴリーとしての確立を実感させられます。 中でも、筆者が特に注目しているのは、混植混醸(一つの葡萄畑に植わった多種類の葡萄を、全て混ぜて醸造する)タイプのオレンジワインです。

梁 世柱
2022年1月16日


再会 <5> 貴族的ワインに宿った永遠の価値
San Giusto a Rentennano, Chianti Classico “Riserva le Baroncole” 2017. ¥5,600 イタリア・トスカーナ州のキアンティは、世界で最も名の知れた赤ワインの一つ。主要品種であるサンジョヴェーゼも、イタリア屈指の高貴品種です。 それなのに、キアンティには非常に安価なワインがたくさんあります。理由はシンプル。大量生産されているからです。キアンティ全体の平均的な生産量は年産1億本前後となっています。実はキアンティを名乗ることができるエリアは、異常なほど広く、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノやヴィノ・ノーヴィレ・ディ・モンテプルチャーノといったトスカーナ州にある他の銘醸地すらもその範囲内に入ってしまっています。「他者の名声にあやかる」というイタリア人の悪い癖が最大限に発揮されてしまっているのはとても残念ですが、相対的にその価値が高まったエリアがあります。 キアンティ・クラシコのエリアです。 第6代トスカーナ大公「コジモ三世・デ・メディチ」が1716年に定めたワイン産地の境界線は、ワインの

梁 世柱
2022年1月8日


真・日本酒評論 <3>:無農薬米が示す確かな可能性
<七本槍:生モト純米酒 無有 2019> ワインの世界においては、世界的なサステイナブル思考やSDGsが強く後押しをして、オーガニック農業が徐々にスタンダードとなりつつある。その勢いは驚異的とすら言えるほどで、オーガニック転換の前段階である減農薬農法までは、既に世界各地の産地で、広範囲に広がっている。「ワインはオーガニックに作って当たり前」となる時代は、すぐそこまで来ているのだ。 一方、日本酒はどうだろうか。 結論から言うと、どうしようもなく出遅れている。 栃木の天鷹酒造(銘柄:天鷹)、岡山の丸本酒造(銘柄:竹林)のように、随分と前から有機米の使用に踏み切ったパイオニア的存在はあれど、どこまでいっても大海の一雫に過ぎず、業界全体を揺るがすほどの影響力は発揮できなかった。 確かにここ10年くらいの間は、有機栽培米を導入する酒蔵が増加傾向にあるものの、それでもまだ、小波程度の動きだ。 なぜ、日本酒のオーガニック化がなかなか進まないのか。 ここには、確かに難しい問題が山積している。 まずは有機栽培そのものの問題。

梁 世柱
2021年12月24日
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