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再会 <80> 線香花火のようなペットナット
Max Dexheimer, Petillant Naturel 2022. ¥3,500 ナチュラルワイン好きを公言している筆者だが、ほぼ無条件で 警戒心 をもって臨むタイプのワインがある。 ペティヤン・ナチュレル。通称ペット・ナット だ。 元々、 アンセストラル方式 と呼ばれていた原始的なスパークリングワインの製法だが、 低亜硫酸醸造 が多いナチュラルワインの中でも、ペット・ナットは特に、 完全無添加の割合が高い 。

梁 世柱
4月14日


出会い <58> ニュイ的ジャーマン・ピノの真打
Steintal, Spätburgunder Schlossberg G.G. 2021. 冷涼気候の中でも、特別に日当たりの良い区画だけが生み出せる、エレガンスの極地。 そして、 ピノ・ノワール という品種において、 その魔力が最大化されるのは、ブルゴーニュのグラン・クリュをおいて他に無かった 。 過去形 、なのは正しい。 もちろん、今でもブルゴーニュのグラン・クリュが特別な存在であることは変わらないのだが、 酷暑 と旱魃のヴィンテージが気候変動によって劇的に増えた現代では、エレガンスの最大化という一点において、疑問を抱かざるを得ないワインとなることも多い。 常軌を逸した高価格だけが、今のブルゴーニュの問題では無い のだ。 私自身、かつては遥かに手頃な価格と高い確率で出会うことができた「ブルゴーニュの魔法」を諦めきれず、ブルゴーニュ・オルタナティヴの探求に心血を注いできた。

梁 世柱
2024年4月15日


Wine Memo <23>
Geheimer Rat Dr. von Bassermann-Jordan, Deidesheimer Kieselberg Riesling Trockenbeerenauslese 2015. 世界三大貴腐ワインといえば、 フランス・ボルドーのソーテルヌ、ハンガリーのトカイ 、そして ドイツのリースリング・トロッケンベアレンアウシュレーゼ 。 トカイの最高級品であるエッセンシアは、飲むというより「舐める」ので、比較対象にそもそもならない気もするが、極甘口ワインがたまらなく好きな私にとっての 最上 は、 トロッケンベアレンアウシュレーゼ一択 だ。 平均して8%前後のアルコール濃度、濃密極まりない甘味を、時に12g/Lを上回る凄まじい酸で中和したダイナミックかつ超多次元的なストラクチャー、糖分と合わさって強烈な粘性を生む凝縮したミネラル、桃源郷の余韻。 この地球上に、これほど甘美な液体は存在しない と、最高のトロッケンベアレンアウシュレーゼと巡り合う幸運に恵まれる度に思い知らされる。

梁 世柱
2024年4月11日


出会い <57> 衝撃のグリ系オレンジ
Ziereisen Jaspis, Roter Gutedel Unterirdisch 2020. ¥6,900 (500ml) あらゆるワインに対して公平に接する、というのが私の基本スタンスだが、どうにも好きになれない葡萄品種も実際にはある。 品質判断自体はちゃんとできるのだが、こればかりは好みの問題であったり、特殊な事情が あったりもするので、如何ともし難い部分がある。 そして、実は ピノ・グリ(ピノ・グリージオ) は、私がなかなか好きになれなかった葡萄の一つだ。 過去形、なのは正しい。 考えを改めるきっかけがあったからだ。

梁 世柱
2024年3月31日


出会い <54> 最強のブルゴーニュ・キラー
J ür g, Spätburgunder G.G. “Sonnenberg KT” 2019. ¥7,800 2024年に入ってから、ブルゴーニュ関連のマスタークラスを立て続けに開講していることもあり、例年以上に深く彼の地と向き合う日々が続いている。 ソムリエ駆け出し時代から、 マット・クレイマー著の「ブルゴーニュが分かる」 や、 クライヴ・コーツMW著の「The Wines of Burgundy」 といったブルゴーニュ関連の名著は、擦り切れるほど読み込んだし、ブルゴーニュが飲める試飲会には積極的に足を運び、プライヴェートでもヘソクリを絞り出して、グランクリュに手を伸ばしてきた。 私の頭の中には、自分でも不思議に思うほど膨大なクリマ名や、そのワインの特徴に関するメモリーがアーカイヴされている。 私はそもそも、物忘れが極端に激しく、カレンダーに詳細に書き込んだスケジュールやSNSでの「名前と顔の照合」を頼りに、日々をなんとか重大なトラブルなく生きているようなタイプの人間なのだが、きっとそうなってしまったのは、限られたメモリー容量

梁 世柱
2024年2月18日


再会 <42> The Greatest Riesling on the planet
Weingut Keller, Riesling G.G. “Oberer Hubacker Monopol” 2021. 講演でも、SommeTimesでも、プライヴェートでも、私は底なしの 「リースリング愛」 を包み隠さず話してきた。 もちろん、シャルドネも、ソーヴィニヨン・ブランも好きだし、ピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラーも好きだ。 ヨーロッパ各地の土着品種にも、ネッビオーロ、サンジョヴェーゼ、テンプラニーリョといった代表的なものに限らず、好きな葡萄品種はたくさんある。 葡萄品種という括りからは外れるが、シャンパーニュだって大好きだ。 それでも、私に至上の感動を与えてくれる、魂を奥底から揺り動かしてくれる唯一無二の葡萄が、リースリングであることには変わりない。

梁 世柱
2023年7月29日


再会 <41> Remember Ahr
Meyer-Näkel, Spätburgunder G.G. “Silberberg” 2017. ヒトは忘れてしまう生き物だ。 たとえ相当ショッキングな出来事だとその瞬間には感じていても、情報がハイパースピード化した現代では、忘れるスピードもまた、加速度的に上がっている。 それこそ、9.11や3.11級の、かつ自身に馴染みのある地域で起こった出来事でも無い限り、多くの人々の記憶に焼きついて離れない、ということにはならない。 この悲しい現実は、大震災というカテゴリーについて考えると良く分かる。 6400人強の人々が犠牲になった1995年の阪神・淡路大震災のことを、まだ覚えている人はそれなりにいると思うが、28万人以上が亡くなった2004年のスマトラ島沖地震、31万人以上が亡くなった2010年のハイチ地震のことを覚えている人は、一体どれだけ日本にいるのだろうか。 それだけ多くの人が命を落とした出来事ですら、現代社会においては、芸能人のくだらないお騒がせ程度のことに、簡単に上塗りされてしまう。 世界では、もっともっと深刻な出来事が日々起こっているの

梁 世柱
2023年7月16日


出会い <39> 偉大なワインの最高の飲み頃
Van Volxem, Riesling Wiltinger Schlangengraben 2002. ワインはいつ開けても良い。 私が常にそう考えている理由は、数多くの先人たちによる、 「偉大なワインは、若くても、熟成していても、美味しいものだ。」 という類の意見に 同調しているからでは無い 。 むしろ、「いつ飲んでも美味しい」には 全くもって同意しかねる 。 「美味しい」 という感想は、 究極的に主観的 なものであるため、当然、 個々人の「好き嫌い」とは密接に関わっている 。 フレッシュな果実味が全開になった味わいが好きな人も、ほどほどの熟成を経て複雑性を増した味わいが好きな人も、長期熟成によって枯れた味わいが好きな人もいる。 少数派だとは思うが、ワインが若すぎて全然開いてない状態の方が好きな人もいるだろうし、果実味が跡形もなく抜け落ちるほどの熟成状態が好きな人もそれなりにいる。 その 嗜好のヴァリエーションは無限大に限りなく等しい ため、「美味しい」という主観を、「いつ飲んでも」というフルオープンなコンディションと連動させるのは、流石に無

梁 世柱
2023年6月18日


再会 <39> ドイツで芽吹く、圧倒的な才能
Moritz Kissinger, Null Ohm Weiss 2021. ¥3900 オーストリア・ウィーン出身の映画俳優で、近年では007シリーズの犯罪組織「スペクター」の首領、フランツ・オーベルハウザー役の怪演でも知られるクリストフ・ヴァルツは、ドイツとオーストリアの違いを、 「戦艦とワルツ」 と表現した。 もちろん、戦艦はドイツの事を意味し、オーストリアがワルツだ。 確かに、 保守的なだけでなく、腰深く構えてゆっくりと着実に直進していく「ドイツらしさ」 を戦艦に喩えるのは、(オーストリア人らしいウィットに富んだ表現も含めて)何とも言い得て妙だ。 私自身は、そんなドイツの直進性と保守性が好きなのだが、分かりやすい変化や改革を望む声があるのも重々理解している。 オーストリアは、持ち前のアーティスティックな性質でもって、随分と前から南シュタイヤーマルクとノイジードラーセを中心に新たなスタイルを生み出してきたが、ドイツはどうなのだろうか。 どうか、ご安心いただきたい。 近年、 Baden、Pfalz、Rheinhessenを結ぶトライアングル.

梁 世柱
2023年6月10日
![生まれ変わるドイツ [New German Wine Law]](https://static.wixstatic.com/media/568330_bb1322beb9b446089482311d756edb14~mv2.jpg/v1/fill/w_333,h_250,fp_0.50_0.50,q_30,blur_30,enc_avif,quality_auto/568330_bb1322beb9b446089482311d756edb14~mv2.webp)
![生まれ変わるドイツ [New German Wine Law]](https://static.wixstatic.com/media/568330_bb1322beb9b446089482311d756edb14~mv2.jpg/v1/fill/w_454,h_341,fp_0.50_0.50,q_90,enc_avif,quality_auto/568330_bb1322beb9b446089482311d756edb14~mv2.webp)
生まれ変わるドイツ [New German Wine Law]
伝統的な文化やしきたりを守る事に人間は固執する。 「日本古来の伝統を守る。」 「先祖代々そうしてきたからそれに従う。」 我々日本人もそれが好きな人種である。 「伝統に背く。」 「新しく何かを変えよう。」 と運動を起こすと、他方から強制の圧力が強くかかるのは必然といえる。 ワインの法律に対しても、勿論それは例外ではない。特に歴史ある生産国程、様々な障害や問題が付き纏う。 ある国で今正にその伝統へ正面から向き合い、国を挙げて一新しようとする大きな動きが見られる。 それは国民性を見ても勤勉でルールを遵守することに重きを置く、旧世界生産国 ドイツ である。 去年の8月末日、幸運にもドイツを訪れる機会に恵まれた。まだまだ日本も残暑を感じる夏の終わりだった。 今回はドイツ・ワインインスティテュート(DWI)が発足した、世界13か国共通の教育制度 German Wine Academyの、日本における運営オフィスWines of Germany様のご招待によりラインガウとラインヘッセンを巡るプログラム。 元々三年前にお声がけいただいた案件ではあったものの

SommeTimes特別寄稿
2023年4月8日


再会 <27> 王の帰還
Weingut Keller, Riesling “von der Fels” 2021. ¥9,000 嬉しさのあまり、筆者が30回は観たであろう映画のタイトルをそのままつけてしまったが、 ドイツの真の王者 である ヴァイングート・ケラー と、このワインにまつわるストーリーを表現するのに、これ以上のキャッチコピーは思い浮かばない。 もう長い間、 日本市場から実質的に姿を消していた ケラーは、我々に 極めて重要な教訓 を与えてくれた。 アップデートを怠ると、気づいた時には手遅れになっている 、と。 今でこそ、ワイン業界関係者もワイン消費者も世代交代が進み、『ドイツワイン=甘い』、あるいは『やっぱりワインは辛口じゃないと!』(筆者は「辛口マッチョ信仰」と呼んでいる)といった古い考えは消滅寸前まで追いやられているが、この固定概念こそが、日本のワイン市場がドイツの トップワイン争奪戦に完全敗北 した、最大の原因でもある。 それは、今から10年以上も前のこと。 当時すでに、明確に辛口路線へと力強く踏み切っていたドイツのリースリングは、ニューヨーク、ロンド

梁 世柱
2022年12月18日


出会い <21> 誰かが選んだワイン
Scheurmann, Rosé 2020. ¥5,400 固定概念というのは本当に厄介なものだ。 私自身は普段から相当気を使って、自分を縛り付けるような考えは可能な限りもたないようにしているのだが、それでも 積み重ねた経験とやらが半自動的に邪魔をしてくる ことが少なからずある。 「老い」も経験の一種なのだから、「年は取りたくないなぁ」と自分の思い込みが機会損失につながってしまう度にため息の一つや二つはつくものだ。 そんな時の特効薬は、 誰かにワインを選んでもらう こと。 これもまた、経験を重ねるほど機会や動機が減ってきてしまうものなので、積極的にそうしようと意識していないとなかなか難しいのだが、大きな学びを得ることが実に多い。 さて、今回出会った最高のワインもまた、誰かが選んだワインだった。 しかも、 普段の自分なら選ばない可能性もあるワイン だっただけに、その喜びも大きかった。

梁 世柱
2022年10月2日


全ピノ・ノワール・ファンの宝
情報が超速化した現代社会では、どんなショッキングな出来事も、あっという間に忘れ去られてしまう。国内では東日本大震災や一連の豪雨被害。海外のワイン関連なら、カリフォルニアで発生した2017年と2020年の大規模な山火事。多くの人がその出来事を忘れてしまっても、被災者の中には変...

梁 世柱
2021年12月14日


オルタナティブ品種に、最高のステージを <ドイツ特集後編>
オルタナティブ品種にヴァリューパフォーマンスが優れたワインが多いことは、周知の事実だと思われるが、だからといって その価値が真っ当に評価されているとは決して限らない 。そのようなワインには、もっと 導きの手が必要 だ。ワイン界に蔓延している有名産地、有名品種、有名銘柄至上主義から、現代人が抜け出すことは容易では無く、多くの人はブランドワインを学べば学ぶほど、その大沼に深く沈んでいく。

梁 世柱
2021年7月25日


西ドイツを襲った大洪水
7月15日、世界に名だたる銘醸地が連なる西ドイツ(ベルギー、オランダの一部も)を、記録的豪雨とそれによって引き起こされた未曾有の洪水が襲った。13日頃から降り注いだ雨は、複数のエリアで例年同時期の約2ヶ月分に相当する降雨量を24時間で記録し、多くの河川を氾濫させた。...

梁 世柱
2021年7月21日


ドイツの今を知らねば、時代に置いていかれる <ドイツ特集前編>
ドイツが時代に寄せてきたのか、時代がドイツに追いついたのか 。どちらにしても、ドイツワインを取り巻く市場が、 劇的な変化の最中 にあることは間違いない。もし、「 ドイツワイン=甘口のリースリング 」というイメージしか抱いて無いのなら、 この機会に認識を改めていただきたい 。もしワインを伝える側にいる人が、旧時代的なメッセージを発し続けているのならば、時代遅れも甚だしいどころか、ドイツの志高い生産者が心血を注いできた挑戦を無慈悲に踏みにじる行為であると、厳しく断じさせていただく。そう、現代のドイツは、凄まじい多様性を既に開花させているのだ。1,970~80年代には生産の9割が白ワイン、そしてその6割が甘口という極端な国家的戦略で知られたドイツも、 今では生産量の1/3が赤ワイン となり、リースリングの占める割合は全体の2割強、 甘口の割合も激減 している。本特集前編では、ドイツがどの様に変化してきたのか、リースリング以外の品種がどの産地で飛躍的に成長しているのか、現代のドイツワインがいかに多様性に満ちているのかを、 内的要因、外的要因の双方向から、

梁 世柱
2021年7月9日


ブドウ畑をワインで描写する画家
皆さま、いかがお過ごしでしょうか? 私が日本に帰国してから、1年以上が経ちました。 ご愛読いただいております皆さまへの感謝の気持ちを忘れずに、本日もヒロミワールドへいらしてくださる皆さまの為に、コラムを全力でカスタマイズさせていただきました。...

SommeTimes
2020年12月8日


無添加リースリングの真価
亜硫酸、俗に酸化防止剤とも呼ばれるこの物質は、超長距離輸送と長期保存が常識化した近代ワイン産業にとって、欠かすことのできないものとされている。 しかしいつの時代も、近代化と原点回帰は交互に繰り返されるものだ。近年の世界的な亜硫酸無添加ブームは、一歩間違えれば盲目的な思想を消...

梁 世柱
2020年12月2日
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