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出会い <62> ティピシテを超えたブルゴーニュの偉大さ
Pierre-Henri Rougeot, Saint-Romain 2020. ¥9,300 気候変動、温暖化によって、 伝統産地のワインが様変わりしつつある ことは、SommeTimesでも度々取り上げてきた。いや、問題視してきた、と言って良いだろう。 単純な味わいの変化 、という意味であれば、 時代の嗜好 によって、(特に1980年代以降は)これまでも 10年単位で変化し続けてきた ので、いまさら騒ぐようなことでもないのだが、 今起こっている変化は人為的なものではなく、自然環境自体の変化がもたらしたもの 、という点に大きな懸念がある。 つまり、 テロワール とダイレクトに繋がった ティピシテ (簡単に説明すると、 「らしさ」 となる。)が変わってしまっているということだ。 ワイン趣味が深まるほど、我々の多くはワインに「らしさ」を求めるものだ。 それが伝統産地の、比較的クラシックな表現のワインであれば尚更のこと。

梁 世柱
2024年6月17日


再会 <62> Johannes Zillinger Part.1
Johannes Zillinger, Parcellaire Blanc No.1 2021. オーストリア は、世界でも有数の ナチュラルワイン銘醸地 だ。 北海道とほぼ同じ国土面積、大阪府とほぼ同じ総人口。オーストリアはとても小さな国であるため、ここでいうナチュラルワイン銘醸地としての姿は、 物量によるものではなく、圧倒的な質の高さによって獲得した評価 である。 特に、Steiermark(シュタイヤーマルク)とBurgenland(ブルゲンラント)には、世界最上クラスと目されるナチュラルワイン生産者達が名を連ねる。 ルドルフ・シュタイナーがオーストリア(オーストリア=ハンガリー帝国)の生まれであることも、かの国でビオディナミ農法に真摯に取り組む造り手が相対的に多い理由の一つとなっているかも知れないが、それ以上に 生真面目でやや内向的な(ここが重要なのです)国民性 が、モノづくりの質を限りなく高めていると考えた方がしっくりとくる。

梁 世柱
2024年6月9日


出会い <61> 辛口フルミントの聖地
Vino Gross, Igli č 2021. 世界は広い。そしてワインの世界もまた、広大だ。 日本は世界で最も成熟したワイン市場の一つであるため、レーダーの範囲をかなり広げてさえいれば、知られざる銘醸と出会える可能性も高いが、マイナー産地ならまだしも、マイナー品種ともなると、さすがに 運と導き の比重が大きくなる。 オーストリアに来てから、グリューナー=ヴェルトリーナー、リースリング、ブラウフレンキッシュ、ツヴァイゲルトなどの「メジャー系」ワインを堪能しつつも、ゲルバー・ミュスカテラー、ノイブルガーといった「マイナー系」品種も数多くテイスティングしてきたが、数多くの興味深い発見の中で一つ、 少し疑問符が浮かぶ品種 があった。 フルミント だ。

梁 世柱
2024年6月2日


再会 <61> ネクスト・ステージ
Botanical Life, vin-shu plus rouge 1 ~terra~ 2022. ¥3,800 良いところも、そうとは言い切れないところも含めて、ワインに対して全面的に 正直 であることは、私がジャーナリストとして何よりも大切にしているポリシーだ。 そのワインの良い部分だけを探そう、というアイデア自体を否定しているわけではないが、建前とお世辞を並べただけの上っ面な賞賛は、少なくともジャーナリズムではないと私は思う。 しかし、状況によっては、 ある程度譲歩せざるを得なくなる ことも確かにある。 記事化が確定している訪問先のワインに、疑問符が多く付いてしまった時などは、まさにそうだ。 そのような経験はいくつか思いあたるが、(後悔という意味で)最も印象に残っているのは、兵庫県にある Botanical Life での出来事。

梁 世柱
2024年5月26日


Wine Memo <26>
Florian Herzog, Neuburger 2022. 約10年ぶりに ウィーン を訪れている。 美しい建築物の数々、スペース感たっぷりでゴミ一つ落ちていない街並み、至るところから聞こえてくるヴァイオリンのしらべ、隣国のドイツよりも遥かに美味しい料理、ゆったりとしたペースの人々、問題なく通じる英語、そして尽きることのないワインとビール。 世界各地に好きな街があるが、ウィーンは私にとって不動の、「移住したい街ランキング」第一位だ。 成田とウィーンを結ぶ便は、ロシア上空を回避するため、 14時間の長旅 に。 乗り継ぎが無い分、だいぶマシな方だが、やはり現地のホテルに到着した頃には 疲労困 憊になっていた。 とりあえずシャワーを浴びて、一息つこうとでも思っていた矢先、先にウィーン入りしていた友人から呼び出しが入る。

梁 世柱
2024年5月24日


出会い <60> 魅惑のソレラ
Ktima Ligas, Spira NV. テロワールと葡萄品種の相性は、高品質ワインにとって最も重要な条件だが、唯一無二の絶対的なもの、というわけでもない。 例えテロワールが(最高の産地と比較して)劣っていても、スタイル的に品質が頭打ちになりやすいタイプのものでも、 創意工夫次第では限界突破を果たせる ことが、確かにある。 とはいえ、 非常に稀なケース ではあるため、工夫すれば良い、というシンプルなものでもないのが難しいところ。 今回出会ったワインは、ギリシャの Pella という産地で造られている。 おそらく、Pellaのことを知っている人は、ギリシャ在住者でもない限り、ほとんどいないと思う(私も同様)が、ギリシャ第二の都市であるテッサロニキから近く、 南隣は高名なNaoussa と書けば、少しはイメージが湧くだろうか。

梁 世柱
2024年5月19日


再会 <60> 南ローヌの伏兵
Domaine de Marcoux, Lirac Rouge “La Lorentine” 2021. ¥4,900 南ローヌ は世界的な銘醸地だが、(少なくとも日本では)あまり理解されていない産地でもある。 この地では Chateauneuf-du-Pape (以降、CDP)の名声がずば抜けて高いため、 南ローヌはCDPと「その他」のような構図になってしまっている ようにすら思えるが、そのCDPですら、品種構成も土壌組成も極めて複雑なため、理解は容易ではない。 世界的な食のライト化に伴って、より軽いワインを好む風潮が強まっているのも、南ローヌにとって向かい風となっている。 最も名高いCDPは、難しい上に高価だから、気軽に試すことも難しい。 おそらく、CDPに次いで認知されているのは Gigondas だと思うが、ワイン愛好家であっても、Gigondasを飲んだことがある人はかなりの少数派となるだろう。 さらに、今回の再会ワインである Lirac の赤ともなれば、ほとんどの人にとって未体験のワインとなる可能性は高い。

梁 世柱
2024年5月12日


Not a wine review <1>
Rampur, Double Cask.(免税店価格:約15,000円) 今週は「出会い」、「再会」のシリーズをお休みして、イレギュラーなレヴューをお届けしようと思う。 私は専門分野としているワインと日本酒以外にも、日常的にありとあらゆる酒類を嗜んでいるが、中でも ビールとウィスキーへのこだわり が強い。 今回はSommeTimesでは初のレヴューとなる ウィスキー 、しかも、 インド産のウィスキー が主役。 行きつけのインド料理店で、インド産ウィスキーを使ったハイボールは何度か飲んでいたので、生産していること自体は知っていたのだが、それほど良い印象をもっていたわけではなかった。 しかし、この Rampur, Double Cask を飲んだ瞬間、私はインドウィスキーに対して決定的に誤った認識をもっていた事に気づかされたのだ。

梁 世柱
2024年5月5日


Wine Memo <25>
Mayer-Fonné, Riesling Grand Cru Schoenenbourg 2016. ¥7,500 アルザスのグラン・クリュ は本当に難しい。 まず、 51という数は明らかに多すぎる 。しかも、(個人的な意見としては)その半数近くが、品質的にはグラン・クリュのステータスがかなり疑わしいのだから、信頼性がどうしても低くなる。 ブルゴーニュのグラン・クリュ群と比較するなら、アルザス・グラン・クリュの半数はプルミエ・クリュ相当といったところだろう。 平均的な面積(約34ha)が広すぎる のも問題だ。ブルゴーニュでは基本的に斜面中腹だけがグラン・クリュ認定されているのに対し、 アルザスは斜面上部から下部までもれなくグラン・クリュとなる のが通例。

梁 世柱
2024年5月3日


出会い <59> 不可能を可能に
Lightfoot & Wolfville, Kekfrankos 2020. ¥4,000 ビオディナミ農法 の難易度とリスクは、 テロワールの条件によって大きく変動 する。 同農法では カビ系病害への対策が鬼門 となるため、一般的には乾燥した地域では容易かつ低リスクとなる一方で、湿度と雨量が上がるほど、飛躍的に難度とリスクが跳ね上がる。 特に生育期に雨が多く湿度が高いエリアでは、 「不可能」 という声も良く聞く。 不可能というのは、概ね正しいだろう。 ビオディナミ農法の効果は、土壌の地力と葡萄樹の免疫力向上に集約されるため、 基本的には品質向上を確約するタイプのものではない 。

梁 世柱
2024年4月28日


Wine Memo <24>
Nyetimber, Cuvée Chérie Demi-Sec NV. 高品質かつテロワールに正直なワインでさえあれば、基本的には「なんでもあり」な私だが、それでも販売に四苦八苦するタイプのワインというのは僅かに存在する。 中でも特に、 Demi-Secタイプのスパークリング がそうだ。 もはや本家本元と言える Champagne ですら、 Demi-Secが絶滅危惧種と化しつつある ほど、生産量が減っているのには、 ちゃんと理由 があると思う。 端的に言うと、 時代に合わない 、のだ。 甘さを残したワインの販売難には、ドイツ、ソーテルヌ、トカイですら匙を投げはじめているのだから、 辛口な味わいを求める大衆の「集の力」はそれだけ大きい と言うこと。

梁 世柱
2024年4月26日


再会 <59> どこまでも心地よい北海道ピノ
10R winery, 上幌ワイン “風” 2022. 好適品種 がどうかの判断はとても難しい。 数値的に何か明確な指標があるわけでもないので、 「葡萄がちゃんと熟す」 という基準そのものが、実に 曖昧 なのだ。 私自身がその判断を行う際は、以下の4要素を基本的な考慮対象としている。 ・ フェノールの熟度 (不必要に未熟な味わいが生じていないかどうか) ・ ミッドパレットの充実度 (スカスカの味わいになっていないかどうか) ・ 果実味と酸とアルコール濃度のバランス (この判断が一番主観的となるだろうか) ・ 余韻の長さ (短く弱い余韻はあまり良くない) また、 収量とその安定性、農薬への依存度 といった味わい以外の要素も、現代では考慮対象とするのがスタンダードとなりつつある。

梁 世柱
2024年4月21日


出会い <58> ニュイ的ジャーマン・ピノの真打
Steintal, Spätburgunder Schlossberg G.G. 2021. 冷涼気候の中でも、特別に日当たりの良い区画だけが生み出せる、エレガンスの極地。 そして、 ピノ・ノワール という品種において、 その魔力が最大化されるのは、ブルゴーニュのグラン・クリュをおいて他に無かった 。 過去形 、なのは正しい。 もちろん、今でもブルゴーニュのグラン・クリュが特別な存在であることは変わらないのだが、 酷暑 と旱魃のヴィンテージが気候変動によって劇的に増えた現代では、エレガンスの最大化という一点において、疑問を抱かざるを得ないワインとなることも多い。 常軌を逸した高価格だけが、今のブルゴーニュの問題では無い のだ。 私自身、かつては遥かに手頃な価格と高い確率で出会うことができた「ブルゴーニュの魔法」を諦めきれず、ブルゴーニュ・オルタナティヴの探求に心血を注いできた。

梁 世柱
2024年4月15日


Wine Memo <23>
Geheimer Rat Dr. von Bassermann-Jordan, Deidesheimer Kieselberg Riesling Trockenbeerenauslese 2015. 世界三大貴腐ワインといえば、 フランス・ボルドーのソーテルヌ、ハンガリーのトカイ 、そして ドイツのリースリング・トロッケンベアレンアウシュレーゼ 。 トカイの最高級品であるエッセンシアは、飲むというより「舐める」ので、比較対象にそもそもならない気もするが、極甘口ワインがたまらなく好きな私にとっての 最上 は、 トロッケンベアレンアウシュレーゼ一択 だ。 平均して8%前後のアルコール濃度、濃密極まりない甘味を、時に12g/Lを上回る凄まじい酸で中和したダイナミックかつ超多次元的なストラクチャー、糖分と合わさって強烈な粘性を生む凝縮したミネラル、桃源郷の余韻。 この地球上に、これほど甘美な液体は存在しない と、最高のトロッケンベアレンアウシュレーゼと巡り合う幸運に恵まれる度に思い知らされる。

梁 世柱
2024年4月11日


再会 <58> 幻のテロワールシャンパーニュ
Jacquesson, Vauzelle Terme 2004. 流通価格 約¥50,000~ 一番好きなワインは?という質問は非常に良く受ける。 回答にとても困る質問ではあるので、天邪鬼な私はいつも答えを変えるようにしているが、大体の場合、リースリング、シャンパーニュ、ピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、サンジョヴェーゼ、ネッビオーロ辺りをループしているだろうか。 リースリングやネッビオーロと答えると、「なるほどね」と納得してもらえることも多いし、ピノ・ノワールと答えると大体は「やっぱりそうですか」となるが、十中八九「意外!」という反応が返ってくるのは、シャンパーニュとカベルネ・ソーヴィニヨンだ。 王道が好きで何が悪い、と思うが、別に私がシャンパーニュやカベルネ・ソーヴィニヨンを好んでいるのは王道だからではなく、その絶対的な品質故のこと。

梁 世柱
2024年4月7日


Wine Memo <22>
安心院ワイン, 小公子 2021. ¥3,920 同じ言葉と文化を話す同朋として、もちろん日本ワインの発展を心から願っている。 しかし、 その想いと、ワインに対する評価は明確に切り離すべき だと私は思う。 少なくとも、私のようなプロフェッショナル側の立場であれば。 私にとって日本は、世界に数多くあるワイン産地の一つであり、それ以上でも以下でもない。 日本ワイン愛好家には冷たいと思われるだろうし、実際に良くそう言われもするが、色眼鏡をかけまくって、自信満々で日本ワインを海外の専門家に紹介した結果、微妙な反応が返ってきた時なんかは、なんとも行き場のない気持ちになるものだ。 新興産地としてワイン産業が発展しつつある国のソムリエやジャーナリストと話をしても、明確な根拠なく自国のワインを褒め称えることは稀である。 彼らは皆、自国で形成されつつあるワイン文化が、すでに世界的な銘醸地として知られている伝統国と比べてどれほどのレベルに至っているかを、実に冷静に見極めているのだ。

梁 世柱
2024年4月4日


出会い <57> 衝撃のグリ系オレンジ
Ziereisen Jaspis, Roter Gutedel Unterirdisch 2020. ¥6,900 (500ml) あらゆるワインに対して公平に接する、というのが私の基本スタンスだが、どうにも好きになれない葡萄品種も実際にはある。 品質判断自体はちゃんとできるのだが、こればかりは好みの問題であったり、特殊な事情が あったりもするので、如何ともし難い部分がある。 そして、実は ピノ・グリ(ピノ・グリージオ) は、私がなかなか好きになれなかった葡萄の一つだ。 過去形、なのは正しい。 考えを改めるきっかけがあったからだ。

梁 世柱
2024年3月31日


再会 <57> (私的)普遍のNo.1ボルドー
Chateau Lafleur 2013. ¥145,000 どの国のどの銘柄かは伏せるが、最近テイスティングする機会に恵まれた国内販売価格 30万円超のワインが、どうにもこうにも響いてこなかった。 ワインファン垂涎の超有名ワイン であり、当然私もそれなりの期待をもってテイスティングに臨んだが、期待外れも良いとこだった。 いや、実際には間違いなく高品質なワインではあったのだが、 同程度の品質のワインは、 1/30以下の価格でも、国や産地に拘らなければ簡単に見つけることができる 。 「それだけの超高価格なのに、その程度の味わいなのか。」 という落胆があまりにも大きく、すっかり気持ちが萎えてしまった。 ワインの価格とは、と考えさせられる機会に数えきれないほど触れてきた結果、私はいわゆる「ブランドもの」に対する興味を、ほとんど失ってしまっている。

梁 世柱
2024年3月24日


出会い <56> 新たなるHouillon
Corentin Houillon, Vieux Foug 2021. ワインの世界における 「親族」 というのは、実にややこしい話になりがちだ。 特にフランスの造り手にその傾向が強いと感じるが、親族のうちの誰かが突発的に素晴らしいワインを造り始めて名高い存在になった時、なぜか凡庸なままの他の親族のワインまで評価が上がる、という現象が度々起こる。 相続で「(有名な)誰々の畑を取得」といった類の話も同様だ。 この手の不可思議極まりない現象は、特に長年ブルゴーニュを追いかけていると、嫌というほど目にすることになるだろう。 ワイナリー一族に生まれれば、自動的に子供世代にも英才教育が施される。 親戚のおじさんが良いワイン造ってるから、甥っ子もその教えを存分に受けているに違いない。 前の所有者が素晴らしいワインを造っていた畑だから、所有者が変わっても素晴らしいに決まっている。 ちょっとでも冷静になれば、そんな状況に必ずなるとは全く限らないことなど、すぐに分かる と思うのだが、なんだかんだ結局「ブランド名」に弱いのもまた、現代人のサガ

梁 世柱
2024年3月17日


Wine Memo <21>
Quinta do Noval, Branco Reserva 2022. ポートが売れない。というのは、何も日本でだけ起こっていることではない。 酒精強化酒を含むあらゆる甘口ワインの売り上げは、世界的にずっと右肩下がりの状況が続いている。 流石に消滅してしまうことはなかなか無いだろうが、造り手としても在庫を余らせておくよりかは、限られた葡萄畑を他のスタイルのワイン用に回してしまった方がスマートであることは間違いない。 フランス・ボルドー地方には、世界最高峰の貴腐ワインと名高いソーテルヌ(とバルサック)があるが、近年のトレンドはもっぱら辛口仕立てのワイン造り。 ドイツのリースリングや、ハンガリーのトカイ(フルミント)にも全く同じ状況が当てはまる。

梁 世柱
2024年3月16日
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