長い年月をかけて、そこで暮らす人々の「当たり前」として残ってきたペアリングには、論理的、美食的完成度とは別次元の、特殊な素晴らしさが宿ることがある。
例えば、鯵のなめろうに適当な純米酒を合わせても、驚くほど美味しいように、鶏の唐揚げとレモンサワーがこれ以上なく最高のペアだと感じるように、我々の多くが知らず知らずのうちに、最高のペアリングを体験しているケースは多い。
そして、海外に来てそういう体験をしたいのであれば、地元の人に聞くのが一番だ。
筆者は今、南イタリア・カンパーニャ州の州都ナポリに来ている。
古代ギリシアによって、ネアポリス(ネア=新しい、ポリス=都市)と呼ばれたこの街の名物といえば、日本でも馴染み深いピザだ。
薄く柔らかい生地が特徴のナポリピザだが、大定番はシンプルなマルゲリータで間違いないだろう。
トマトソース、バジル、オリーヴオイルというシンプル極まりない構成故に、とてつもなく奥が深いピザでもある。