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欠陥的特徴の経過観察 <4>
期間限定の新シリーズとなる「欠陥的特徴の経過観察」では、とあるナチュラルワインに生じた問題が、どれくらいの時間で「沈静化」(経験上、完全消失する可能性は低い)、もしくは変化するのかを、約2ヶ月おきに検証していく企画としてスタートしたが、前回の第四回検証時(2024年8月26日)に、ネズミ臭の発現が大きく抑えられていることを確認できたため、今回は約1ヶ月後の9月21日に再度検証を行った。 本企画の検証対象となるスパークリングワインは、同ケースのロットで11本入手したため、本来ならば瓶差という可能性は極限まで排除できていると考えて良いが、それでも瓶差というものは生じる。 十分な亜硫酸添加によって、菌類、微生物類の活動を最小限まで低減、かつ平均化させたワインであれば、輸送及び保管環境以外要因で、明確に観測できる瓶差が生じる可能性は非常に低いが、ナチュラルな造りのワインの場合は、そうもいかない。 我々人類とは生物としての在り方が大きく異なるためイメージはしにくいが、菌や微生物の間でも、強弱や個体差があるため、それぞれのボトルに閉じ込められたものたちの総体

梁 世柱
2024年10月12日


「Hot&Cool」なカリフォルニアのニューウェーヴ <San Luis Obispo>
San Luis Obispo と聞いて、すぐに アメリカ・カリフォルニア州のワイン産地 が思い浮かぶ人は、よほど深く彼の地のワインに触れてきた人だろう。 そもそも、 カリフォルニア州は日本が丸々収まってしまうほど広大 な州であり、 AVAの数も現時点で152 。 追いきれないのも無理はない。 日本市場においては、Napa County、Sonoma Countyを筆頭に、近年ではMendocino County、Lodi(San Joaquin County)、Santa Cruz Mountains(Santa Cruz County)、そしてSanta Barbara Countyあたりが比較的良く知られているが、San Luis Obispoが話題に上がることは、ほとんど無いのではと思う。 Napa、Sonoma、Mendocino、Lodi、Santa Cruz Mountainsは サン・フランシスコ にほど近く、Santa Barbaraは LA に近いが、San Luis Obispoは 両都市のほぼ中間地点 に位置している。 一

梁 世柱
2024年9月28日


欠陥的特徴の経過観察 <3>
ネズミ臭 というのは、実に厄介なものだ。 その発生には、法則性があるように見えて、実際には 不規則極まりない のだ。 オーストリア・シュタイヤーマルク州特集記事 でも触れたとおり、ワインに何かしらの 「感情」 が宿っている(正確には、ワインの中で生き続ける微生物たちの、集合本能的な「感情」)のでは、とすら思えるような出来事に、私は何度も遭遇している。 ネズミ臭が非常に強く顕現していたボトルが、場所や環境を変えればすっかりとおとなしくなったり、熟成させた後に沈静化したかと思えば、その真逆の現象も起きる。 その揺れ動きの理由を解明することに、私は強い探究心をもって検証を繰り返しているが、果たして答えはいつか出るのだろうか。 期間限定の新シリーズとなる「欠陥的特徴の経過観察」では、とあるナチュラルワインに生じた問題が、どれくらいの時間で「沈静化」(経験上、完全消失する可能性は低い)、もしくは変化するのかを、約2ヶ月おきに検証していく企画としてスタートしたが、前回の第二回検証時(2024年5月3日)に、 初回との大きな差が見受けられなかった...

梁 世柱
2024年9月2日


レジェンドの息子 <Elias Musterの挑戦>
ワイナリーの継承 というのはとても難しい。 そもそも子供世代が 大変な農作業 を伴うワイナリーを引き継ぎたいとも限らないし、親が造っていたワインの 品質を維持 できるとも限らない。 ワイン造りに 「人」が深く関わってくる 以上、 変化は避け難い ものだ。 さらに、一般消費者だけでなく、ワイン業界に携わる人々も、代替わり後の品質に関しては、 問答無用という厳しさ で接することも多い。 そういう私も、 ポジティヴとは言い切れない世代交代を何度も目にしてきた し、代替わり後にそのワインを全く購入しなくなったことも何度もある。 特に、 親がレジェンド級の造り手であった場合、後継者にかかるプレッシャーは相当なもの だ。 優れた造り手であった両親のもとに生まれた子供を、無条件で 「サラブレッド」 と表現したくなる気持ちはわかるが、 現実はそう甘くない 。 もちろん、この難しさを誰よりも理解しているのは、 造り手本人 だ。

梁 世柱
2024年8月3日


エネルギーの螺旋 <ラドヴァン・シュマンが目指す真なる調和>
スティリア地方訪問では、オーストリア側にあるワイナリーを中心に巡ったが、一軒だけ、 スロベニア側の造り手 を訪ねた。(オーストリアの)シュタイヤーマルク地方は、 南側の境界線が全てスロベニアとの国境に接している 。 シェンゲン協定によって、すでに形だけの国境となっているため、一応関所はあるが、往来を阻まれることはない。 それでも、すでに世界的なスター産地となったシュタイヤーマルク地方と、スロベニア側のシュタイエルスカ地方の間には、 あまりにも大きな格差 が形成されている。 元々は一つのスティリアであった事実がまるで無かったかのように、ワインの評価や人気は大きくシュタイヤーマルクがリードしているし、国境を超えてスロベニア側に入ると急に、 家屋の質 も変わる。 資本主義国家と、旧社会主義国家の違い が、矢継ぎ早に目に飛び込んでくるのだ。 より包括的にスティリアを捉えるために、シュタイエルスカ地方でも取材を重ねたい思いはあったが、時間の制約上、残念ながらそれは叶わなかった。 そして、唯一訪問することができた Schumann(シュマン)...

梁 世柱
2024年7月30日


新時代のサスティナブル茶園 <AMBA Estate>
NYでサーヴィスを学んだ私は、徹底した分業制というシステムこそが、絶対的に正しいと信じるようになっていた。 ソムリエである私が、皿を下げたり水を注いだり、裏に回って皿洗いをしたり、ワイングラスを磨いたり、トイレ掃除をしたりすることは、メキシコなどから文字通り命懸けで越境し、...

梁 世柱
2024年7月27日


ロゼ界のライジングスター、ロザリア。
ロゼワイン の歴史はかなり興味深い。 その 原初の姿 は、我々が知る 現代のロゼワインとは似ても似つかぬもの だったからだ。 最古の記録は 3,000年以上前の古代ギリシャ 。当時、 「ワインは水で薄めて飲む」 ことが上品とされていた。 白葡萄と黒葡萄を混醸して造った非常に薄い赤ワインのようなものを、さらに水で割る ことによって、ロゼワインらしきものとなっていたのだ。後に、赤ワインと白ワインらしきもの(現代のオレンジワインに近かった可能性が高い)に分けられるようにはなったが、数百年、いや、ひょっとすると数千年ほど、水で薄めたワインを飲んできた文化圏で、タニックな赤ワインや白ワインが市民権を得るには随分と時間がかかったようだ。

梁 世柱
2024年7月10日


ノイジードル湖西側の至宝、ルスター・アウスブルッフ
ノイジードル湖東側、Illmitz(イルミッツ)周辺で造られる貴腐ワインの魅力に関しては、 別稿 にてレポートしたが、 西側のRust(ルスト) にもまた、ヨーロッパのワイン史にその名を残す偉大な貴腐ワインがある。 Ruster Ausbruch(ルスター・アウスブルッフ) だ。 東側にはKracherやNittnausなど、貴腐ワイン生産者としてはかなりの規模となる大手がいるため、知名度や入手のし易さにおいては大きくリードされているが、より希少となるスター・アウスブルッフにもまた、異なった魅力が宿っている。

梁 世柱
2024年6月7日


ノイジードル湖の魔法
世界三大貴腐ワイン といえば、 ドイツのTBA、ハンガリーのトカイ 、そして フランス・ボルドーのソーテルヌ だが、 オーストリア・ブルゲンラントのノイジードラーゼー を含めて「世界四大」とされてことかったことに、何か特別な理由があるのか、かねてから興味があった。 ノイジードラーゼー (本稿ではノイジードル湖の東側を意味する。西側のRuster Ausbruch DAC は条件が異なる。 )は前述した3産地と同じく、(ほぼ毎年と言えるほど) 安定して貴腐ワイン造ることができる場所 だからだ。 このような場所は、ワイン産地として形成されているという意味では、 世界にこの4ヶ所しか無い のだから、四大となっていないことに違和感が生じる。 確かにノイジードラーゼーの価格は安いが、ソーテルヌにもトカイにも安いワインはある。 甘口ワイン産地としての歴史は500年以上もあるので、「格式」という意味でも問題はない。

梁 世柱
2024年5月30日


最強のワイン保存ガジェット、Coravinの進化と多様化
古くは Vacu Vin に代表される瓶内の空気を抜く方式のものから、比較的新しいものでは Pulltex のような瓶口に被せるだけのものまで、ワインをできるだけ長く保存させるための「ガジェット」は数多く開発されてきた。 私自身も様々なものを使用してきたが、...

梁 世柱
2024年5月21日


欠陥的特徴の経過観察 <2>
先日、海外から来た ナチュラルワインを専門領域とするプロフェッショナル3名 と、様々なワインを共にした。 中には 入手困難な人気ワイン も含まれていたのだが、そのワインは残念なことに、 抜栓後30分ともたず、強いネズミ臭が生じてしまった 。 抜栓直後は楽しめたが、ネズミ臭発生後は、完全に失速。 ボトルの半分を残して、次のボトルをオーダーすることになり、 その後は誰もその欠陥ワインに手を伸ばすことはなかった 。 3名は口を揃えて、 「失望したよ。もうしばらくこの造り手のワインを買うのはやめておこう。」 と話していた。 これは今、少なくともナチュラルワイン・プロフェッショナルの間で起こっている 「リアル」 だ。 どれだけ有名な造り手であろうと、どれだけ人気が高かろうと、どれだけ入手困難だろうと、 ネズミ臭が発生したら無条件アウト 。 例え長年に渡って築き上げてきた名声があったとしても、数回のネズミ臭で、 その信頼はいとも簡単に崩壊する 。

梁 世柱
2024年5月11日


Chablisの現状
フランスにおける冷涼産地の象徴的存在だった シャブリ は、 気候変動 による影響を強く受けている。 ブルゴーニュ委員会のイベントで来日していた複数の生産者の話も踏まえ、簡潔に現状をレポートしていこう。 まず、何よりも気になるのが 味わい(ティピシテ)の変化 だろう。 シャブリといえば、 やや細身な果実味と鋭角な酸、強靭なミネラル がトレードマークだったが、これらには確かに変化が起きている。 果実味は少しふくよかになり、酸は少し落ちた一方で、ミネラルの表現力は健在 、というのが 現状に対する平均的な評価 となるだろうか。 果実味と酸に関しては、収穫時期を早めることで、ある程度の対応はできる ため、それぞれの要素を「単体」として見る限りは、それほど大きな違和感は無いとも言える。酷暑の2018年、冷涼な2021年のようにイレギュラーなヴィンテージもあるが、そもそもブルゴーニュにとってイレギュラーはノーマルのようなものだったのだから、今更驚くようなことでもない。

梁 世柱
2024年4月19日


PIWI品種はワイン産業を救うのか
近年、 PIWI品種 の是非がワイン業界関係者を問わず、議題として挙がることが格段に増えたと感じている。 PIWI (ピーヴィーと発音する)は、ドイツ語で 「真菌耐性付き葡萄品種」 を意味する Pilzwiderstandsfähigen Rebsorten...

梁 世柱
2024年4月14日


欠陥的特徴の経過観察 <1>
ナチュラルと言える造りをしたワインでも、かなり クリーンな味わいのものが増えてきた のは、(少なくとも個人的には)大変歓迎できる傾向だ。 亜硫酸無添加でしか成し得ない、ギリギリの妖艶さ、清濁併せもった味わいの深淵さ、無制限の浸透力といった魅力は私自身も数多く体験してきたし、その素晴らしさと唯一無二の世界観にはいつも心踊らされるが、残念ながら 隣り合わせとなるリスクが大き過ぎる 。 破棄せざるを得ない状況 が、かなりの頻度で発生することを鑑みれば、造り手、インポーター、酒販店、レストラン、購入者の全てにとって、 経済的な意味でもサスティナブルではない ことは明白だ。 無論、「無駄にすること」自体が、どうしようもなくアンチ・サスティナブルであることは言うまでもないだろう。

梁 世柱
2024年3月16日


マサイアソン <カリフォルニアをリードする現代的自然農家>
まるで自然そのものの葡萄畑 、という話は良く聞くが、そんな ユートピア は本当にあるのだろうか。 私自身、数多くの「自然な」畑を訪ね歩いてきたが、エデンの園も、シャングリ=ラも、桃源郷も 実在していないという現実 だけを知った私が、今ここにいる。 ...

梁 世柱
2024年3月7日


Alvarinho大垂直テイスティング
昨年末の Vinho Verde ツアー最終日、大トリとなったワイナリー訪問は、 Mon çã o e Melga ç o を代表する名ワイナリー、 Soalheiro だった。 Soalheiroは 1974年 に、ジョアン・アントニオ・セルデイラと彼の両親が、サラザール政権下で領地の端へと追いやられていた葡萄樹を、ひとつなぎの畑全体に植え直したことをきっかけとしてスタートした。 以降、徐々にその名声を高め、Alvarinhoの王者となったSoalheiroは、現在 3世代目 へと突入している。 中核を担うのは 二人の姉弟 。 姉のマリア・ジョアンは栽培を担当し、オーガニック農法を自社畑で導入した。 また、美しい自社畑に自生するハーブや花から、ハーブティー(筆者も購入して帰国後に飲んだが、驚くほど美味しかった!)を開発したりと、多方面でのサスティナビリティーにも余念が無い。 弟のアントニオ・ルイシュは醸造を担い、伝統の継承とさらなる洗練に邁進している。Soalheiroが極小規模で手掛ける数々の「実験的ワイン」は、彼の先進的

梁 世柱
2024年2月3日


ヴィニュロンの一年 <2023年12月>
2023年も残り僅か。 今年の1月から毎月執筆してきた「ヴィニュロンの一年」も今月で最後となり、私のブドウ畑での作業は一区切りとなる。 1月の剪定から10月の収穫まであっという間に時間が過ぎ、収穫されたブドウ達はワインへと変化、ブドウ樹達は来春までの長い休眠期へと入った。...

ソン ユガン
2023年12月28日


Chinonが魅せるテロワールの妙
テロワール とは、 ワイン趣味の真髄 であり、 醍醐味そのもの だ。 その場所でその葡萄が育てられたからこそ現出するユニークな味わい は、ワインという飲み物に 無限の変数 をもたらす。 生産者の個性や産地全体としての特性ももちろんあるが、結局どの生産者もどの産地も、...

梁 世柱
2023年12月27日


Let’s drink more Port!!!
ポートは偉大な飲み物 だ。 そのことに疑いの余地は微塵も無い。 しかし、2005年以降、ポートの売り上げは 右肩下がり の状況が続いている。 今回訪問したポート・ハウスでも、その苦境ぶりが例外なく聞こえてきた。 「甘口離れ」 は世界的な潮流であり、 「辛口マッチョ信仰」 の勢いは止まることを知らない。 だが、本当にポートが売れなくなっている理由は、「甘いから」なのだろうか、と疑問が湧いてくる。 確かに、甘いというだけで無条件毛嫌いするワイン消費者が多いのも、甘口ワインに対して全く理解を示さないプロ(立場を考えれば恥ずべきことと思うが)が一定数いることも事実だが、問題の本質は少し違うところにあるような気がするのだ。

梁 世柱
2023年12月20日
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