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- 伝統と変化 <ロワール渓谷特集:第二章 後編>
少し古いワイン教本を読むと、ロワール渓谷のシュナン・ブランの特徴として、「 濡れた犬 」、「濡れた藁」、「 濡れた羊毛 」といった表現が頻出する。確かにかつて、この地のシュナン・ブランには「濡れた」何かの印象が強く残るものが多かった。その主たる要因として、 葡萄の熟度の低さ が挙げられることは多いが、 温暖化や収穫時期の見直し (より遅摘みへと変化)が進んだ現在は、 その特徴はほぼ完全に消失 したと言える。 素材の状態が変わると、当然のようにレシピにも変化が起こる 。まず、 熟度の高まり と、それに並行して広まった オーガニック栽培への転換 は、 野生酵母での発酵と亜硫酸添加量の大幅な低下 と言う一つの大きな流れを生み出した。野生酵母がよりテロワールを正確に表現するかどうかという議論はここではしないが、亜硫酸添加量の低下は、強烈な酸とミネラルで、とにかく「固い」印象の強かったシュナン・ブランに、 確かな柔らかさ をもたらした。 もう一つの大きな変化は、 意外なところ から生まれた。 空調の導入 だ。通年で低温を保てる地下カーヴがほとんどないロワール渓谷では、(主にマロラクティック発酵を防ぐ目的で)暑くなり始める6月よりも前に瓶詰めをしてしまうことが多かった。しかし、空調の導入後はこの制約が無くなったことにより、 2つの新たなスタイルが誕生 した。一つは、空調の効いた環境で、 MLFを起こさずに古樽で長期熟成させる手法 。もう一つは、そこからの派生系で、 新樽も取り入れる手法 。特に前者は主流となりつつあり、かつての「濡れた」印象の代わりに、 ナッティーなタッチ を新たな個性として獲得した。後者に関しては 賛否両論 となっているが、筆者自身はMLF無しの新樽使用にはかなり否定的だ。新樽がもたらす風味と、ワイン自体の風味の「ブリッジ」としてMLFは確かな役割を果たしているのでは無いだろうか。新樽を使うならMLFをすべきだ、などと言うつもりはないが、少なくとも私はロワール渓谷でしか出せない個性の宿ったシュナン・ブランを飲みたいのであって、乾いた樽のニュアンスが全面に張り出したような正体不明のワインには、興味がない。
- 出会い <11> ミッシング・リンク
Luis Pérez, La Barahuela Palma Cortada 2017 ¥10,800 「シェリーはお好きですか?」 私のソムリエ経験の中でも、かなりの回数繰り返した言葉だ。 醸造のどこかの段階で、アルコール(基本的にブランデー)を足してアルコール濃度を上げる「 酒精強化ワイン 」の一種であるシェリーは、とにかく「 好き嫌い 」がはっきりと別れる。 甘口が主体のポートなどに比べると、辛口主体のシェリーには、より一層「 分かりにくさ 」がつきまとうのだ。 ペアリングにおいては、驚くほどのポテンシャルを秘めているにも関わらず、大多数のシェリーペアリングは、「シェリーが好きである」ことが成立の前提条件になってしまう。 本記事は、そんなシェリーに焦点を当てた記事になるため、そもそもシェリーがお好きでない方には、何の興味もそそられない情報になるであろうことを、ご承知いただきたい。 美しい アンダルシア地方 の特産品であるシェリーが、時代の流れに乗って、何度かその姿を変えてきたことを知る人は、そう多くないかも知れない。 シェリーの主産地である ヘレス地方 では、少なくとも 紀元前1100年頃 からワイン造りが始まっていたと考えられている。その後、 紀元後711年にムーア人 によって支配され、 蒸留酒 の技術がもちこまれるまでは、ヘレスのワインは、酒精強化されていなかった。
- もう一つの究極
今回取り上げさせていただくのは、デザートワインの中でも 「 とてつもなく贅沢な 」と言った意味をもつ、「 レクストラヴァガン」 ・ド・ドワジ・デーヌ。 生産者: Château Doisy Daëne / シャトー ドワジ・デーヌ ワイン名: L'Extravagant de Doisy Daëne / レクストラヴァガン・ド・ドワジ・デーヌ 葡萄品種 :Sauvignon Blanc 80% Semillon 20% / ソーヴィニョン・ブラン 80% セミヨン20% ワインタイプ :デザートワイン 生産国 : フランス ヴィンテージ :2009 インポーター : ミレジム 参考小売価格 :オープン (375ml) シャトー・ドワジ・デーヌは、 ソーテルヌ地区格付第2級 のシャトーです。 このシャトーが 良年にのみ リリースするワインが、レクストラヴァガン・ド・ドワジ・デーヌ。 生産量がとても少なく、辛口白ワイン用の葡萄を収穫した際に葡萄の樹1本につき2房だけ残し葡萄の完熟を待ちます。 それに対してライバルのシャトー・ディケムは、1本の樹から1杯分のワインしか造られないといわれています。 完全な収量の比較は難しいですが、どちらも凄いですね。 シャトー・ディケムは、1855年ボルドー・ソーテルヌ地区の格付けで「 プルミエ・クリュ・シュペリュール(特別第一級) 」の称号を獲得しています。 この格付けは、現在も シャトー・ディケムにのみ 与えられています。 シャトー・ディケムは単に甘いだけではなく、酸味やミネラル感にも溢れ、奥深い風味があり、その味わいの構成要素の複雑さが特別第一級たるものなのかと思います。 まさに、究極のデザートワインです。 レクストラヴァガンに関しては、蜜に浸した トロピカル・フルーツ のようなニュアンス、そして強烈な マーマレード のような味わいに、ほんのり 白胡 椒など スパイスの香り の要素を挙げることができます。 非常に甘やかでキャッチーな風味。私はこれを何本も抜栓していますが、常にとても甘美で人当たりの良いワインだという印象です。 シャトー・ディケムはその格付通り、偉大で超有名なワインでその個性もポテンシャルも際立っていますが、レクストラヴァガンも個性という点では負けていないと思います。 また料理の相性としましては、ズバリ香辛料の効いたカレーが良いかと思います。 以前のコラムで触れましたが、デザートワインは懐が広く強い旨味や辛味などをやさしく包み込んでくれます。 もっとも、レクストラヴァガンはその濃密さ、また、味わいもそうですが価格もシャトー・ディケムに負けていないのでカレーを食べながらガブガブ飲むわけにはいかないでしょうが(笑) <ソムリエプロフィール> 山本 隆裕 / Takakhiro Yamamoto 1977年静岡生まれ。名古屋と東京の様々なバー、及びレストランにてソムリエとして研鑽を積む。
- ポッサムをワインで攻略
日本と韓国、そして中国は食文化的に共通しているものが実に多い。その最たるものは調味料類で、特に味噌(醬)と醤油は各国各地方に膨大なヴァリエーションが存在する。どこの国が起源か、という論争も根強くあるが、少なくとも1000年以上前から存在しているものを、現存する数少ない文献から起源を探っても、あまり意味は無いように個人的には感じる。 中国料理の中で選りすぐられたもの(世界三大料理の勇名は伊達ではなく、中国料理の奥深さは常軌を逸している)は、日本の食文化にも深く根付いているし、韓国料理にしても、キムチ、チヂミ、ピビンパ、スンドゥブチゲ、プルコギ、冷麺、タッカルビなど、広く一般的に日本で親しまれている料理は数多い。 今回、ペアリングのお題として取り上げたいのは、そんな韓国料理の中でも、ちょっとマニアックな一品である、「 ポッサム 」だ。 ポッサムという言葉自体は「 包む 」という意味なのだが、韓国料理の料理名はピビンパ(ピビン=混ぜる、パ=ご飯)のように、 調理法がほぼそのまま料理名になっている ことも多い。 ポッサムは、 皮付きで茹でた豚バラ肉 を薄く(5~8mm程度)スライスし、 サンチュ (レタスで代用することも)の上に、 エゴマの葉 (ゴマや大葉で代用することも)、 キムチ、ニンニクスライス 、そして サムジャン (甘辛い韓国味噌)と共にのせて、サンチュで「 包み込んで 」から、手で持って食べる料理だ。
- 再会 <11> スーパーナチュラル
Moric, Haus Marke Supernatural Weiss 2019. ¥4,800 今でこそ、 クリーン・ナチュラル が、ナチュラル・ワインの一派としてはっきりと認識されるようになってきたが、ほんの数年前まで、キレイな味わいのナチュラル・ワインは、ブームから爪弾きにされていた。 別の言い方をすると、そういったワインは、ナチュラル・ワインとしては、 売れ行きが良くなかった のだ。 多少の例外はあるが、ワインをクリーンに造れる人は、ワイルドにしか造れない人よりも、圧倒的にワイン造りが「上手い」。さらに、上手いだけではなく、ナチュラルかつクリーンに造るには、 勤勉さと献身が欠かせない 。それだけの技術と情熱をもった造り手のワインが、怠惰で無責任で下手だけど、ラベルを含めたプレゼンテーションは抜群に得意、といった造り手のワインよりも遥かに市場で苦戦するという実情には、なんともやりきれない思いが深まる。 しかし、ナチュラルとクリーンを両立できる造り手が、(売りにくいからといって)わざわざ自分のワインを、よりワイルドな方向へともっていくことは極めて稀。 彼らの情熱は、それしきのことでは揺るがないのだ。
- マイナー品種の女王 <ロワール渓谷特集:第二章 前編>
私自身は決して好きではない表現だが、 世界三大 〇〇という紹介の仕方は、あらゆるジャンルにおいて、非常に一般的だ。もちろん、ワインの世界でも様々な使われ方がされてきた表現だ。一種の思考実験として、この表現を深堀してみると、今まで見えてこなかったものが、突然見え始めることがある。 まずは 三大 〇〇を 黒葡萄 に当てはめてみよう。一般論で言うなら ピノ・ノワールとカベルネ・ソーヴィニヨン は確定。三つ目は シラー あたりが妥当だろう。しかし、ピノ・ノワールが含まれることには全く異論は無いが、他の2品種には疑問が浮かんでくる。メルロでもカベルネ・フランでもなく、カベルネ・ソーヴィニヨンだけを三大黒葡萄として含めるのは、 アンフェア では無いだろうか?実際に、最高地点の品質の話をすれば、ボルドー左岸の主体となるカベルネ・ソーヴィニヨン、ボルドー右岸サン=テミリオンで重要な役割を担うカベルネ・フラン、ボルドー右岸ポムロールの主体となるメルロの三者間に、優劣は無い。シラーに関してもそうだ。シラーを主体とした最高のコート・ロティやエルミタージュと、グルナッシュを主体とした最高のシャトヌフ・デュ・パプの間に、優劣関係は認められない。 そう考えれば、そもそも三大黒葡萄というコンセプト自体が 最初から破綻している とも言えるのだ。正しくは、 世界六大黒葡萄品種 、とすべきだろう。 しかし、疑問はまだ止まらない。この世界六大葡萄品種、全てがフランスの品種として知られるものだ。まさに アンフェアの極み であるが、確かにこれらの品種には例外なく、 世界各地で広く栽培されている 、という特徴がある。その点に頑なにこだわるのであれば、残念ながらイタリアやスペインの品種に出番が回ってくることは無いだろう。 個人的にはなんとも煮え切らないが、一つ進言させていただきたいのは、 ワインの品質は決して葡萄品種だけでは決まらない という、確固たる事実だ。特に、品質が最高地点まで到達するためには、それぞれの葡萄品種とテロワールの特性ごとにカスタマイズされた、品質向上のための方法論や技術が、極限まで洗練されている必要がある。そしてこの洗練とは、どのような最新の技術をもってしてもショートカットで辿り着くことはできない。長い歴史の中でトライ&エラーを幾度となく繰り返してこそ、研ぎ澄まされていくものなのだ。 少し言い回しを変えよう。この洗練とはつまり、 レシピの完成度 、のようなものだ。葡萄という材料を、最高のワインに仕上げるための(栽培、醸造の)レシピが存在しているかどうか。筆者は、品質の極地点に達しているかを、【 葡萄品種 × テロワール × レシピ 】の完成度で判断するのが、最もフェアだと考える。 その観点に基づけば、少なくともイタリアからは、 ネッビオーロとサンジョヴェーゼ が、スペインからは テンプラニーリョ が、フランスまみれの世界六大黒葡萄品種に仲間入りを果たす。 これで、世界九大黒葡萄品種。キリが悪いので、世界十大、としたいところだが、10番目の候補は、異論が噴出することだろうし、九大に比べると少し見劣りするのも避けられない。 さて、 白葡萄 はどうだろうか。 一般論で世界三大白葡萄品種を選ぶなら、 シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、リースリング で確定だ。そして、この三大白葡萄品種は、疑問が多々浮かんだ黒葡萄に比べると、圧倒的に「固い」並びでもある。マイナー品種をこよなく愛する筆者が、どれだけ贔屓目に見たとしても、現時点で【葡萄品種 × テロワール × レシピ】の完成度において、この3品種と並び立つ白葡萄は思い浮かばない。(筆者にとっては)オプション要素的な、世界各地への分布に関しても同様だ。 しかし今、この三大白葡萄の強固な牙城を崩そうとしている品種がある。その品種こそ、本章の主役である、 シュナン・ブラン だ。
- 抑えられない欲求
京都から東京に戻り、はや一年。 思えば東京に戻って早速足を運んだのが、ラヴニールというインポーターの G.パクネス の試飲会でした。 ウイエ (*1)してるシャルドネに、していないサヴァニャン、プールサールもいい!そして ヴァンジョーヌ (*2)!! 彼女の作るヴァンジョーヌは深いコクと甘みに柔らかい酢酸、奥行きがあるのに、それを全く感じさせないアルコール感が最高に美味しい! 叶う事なら全ていただきたいのですが、ここ数年の人気もあり当然割り当てです。笑(文句ではありません!むしろ生産者さんが評価されている事に嬉しく思っています!) (*1)ウイエ:熟成中の補酒のこと。酸化をコントロールするための重要な工程。 (*2)ヴァンジョーヌ:ジュラ地方の特産ワイン。発酵が終了したサヴァニャンを、ウイエをせずに、樽に入ったまま放置することによって、強い酸化的特徴が生じる。驚異的に長命なワインとしても知られている。 何としても飲みたいし、ゲストの皆さんにも飲んでもらいたい…。 目の前にある、この間取ってきた 干し椎茸 の香りを嗅ぎながら、彼女のヴァンジョーヌへの抑えられない欲求が限界に達したので、 「自分で作ってみよう!」 と思いたちました。その実験報告を、今回はさせていただきたいと思います。 Marutaに戻ってから、半分趣味のようにフィールドワークにハマっています。 勝手に自然界の師匠と呼ばせて頂いている葉山の長谷川さん(さかな人代表)に低山地帯の可能性を見に同行させて頂いたことで更にその可能性を感じてしまい、嬉々として地面を見つめて徘徊する事に息子よりも童心に帰り楽しむ日々を過ごしています。 そして待ちに待った季節がやってきました。 春の野草や新芽など、優しい苦味のある食材達に至る所で出会うことができます。 更に梅の花が散り、桜の花が咲き始める頃にはアミガサタケ、桜が散る頃にはハルシメジ、GW明けにはヤマドリタケモドキやタマゴタケ…想像しただけで益々ヴァンジョーヌが欲しくなります!!! もう我慢できません。 で、レシピというか試した内容ですがG.パクネスのサヴァニャン・ウイエを200mlと冒頭の半野生化していた(全長10cm)椎茸をシェフが乾燥させていたのでそちらを一つ拝借し、真空パックをして経過観察してみました。 1日目 15 ℃に設定したセラー内で一晩置いてみました。 お!ヴァンジョーヌ好きには欠かせないきのこの香り(マツタケオール)を感じる!! 旨味のグアニル酸はまだ入っていない為、酸味と馴染みが悪く酸味が気になる。 2日目 シェフに聞いたところ、椎茸の旨味を移すには5℃前後に冷蔵して置いたものを、出汁を取るときに最適な温度の 60 ℃に温める事でグアニル酸を抽出できるそうなので、冷蔵庫で半日冷したのち、湯煎で 60 ℃にして二十分ほど温めたのち、セラーで一晩置いてみました。 3日目 きのこ臭が強く入り、旨味由来の甘みが飲んでから1.5秒後程で感じるようになることで、初日に感じた酢酸の酸味が穏やかになりだいぶ良い感じになってきました。 4日目 もう少し酸化させたいので、ボトルに移してコルクをしてセラー保存。 5日目 だいぶ馴染んできて、個人的には好きなアフターの余韻ですが、きのこ臭ではなく椎茸臭を感じるくらいの香りが入ってしまい、シェフには嫌いといわれてしまいました。笑 6日目(イマココ) セラーでコルクをしたボトルに入れて酸化をさせているが、どうにも後半部分のボリュームに欠けるため、 ラタフィア (*3)を1滴。 だいぶまとまった気がするものの、G.パクネスのヴァンジョーヌには勿論及ばない。でも、他のきのこや海藻を使ったコンブチャを入れるなど、素材を変えて挑戦したいと思う程個人的にはワクワクしています。 (*3)ラテフィア:糖度が非常に高い葡萄ジュースにブランデーを添加して作られる、リキュールの一種。 注)勿論貴重なワインを台無しにする恐れもあるので、自己責任でお願いします。 今回思いつきでやってみましたが、更なる可能性を感じてしまい楽しみが増えました。 真面目な話、料理とワインを合わせる時のエラーを極力少なくする際のトレーニングや、ワインでは中々に難しい日本酒のような超ブーストさせるペアリングの可能性が広がるなど、なぜペアリングするレストランに在籍しているときに気づかなかったのかと少し後悔しました。 勿論おすすめはしませんが、もし実践されたもの好きの方がおりましたらその際にはぜひ結果を外山に教えて下さい。 次回ヴァンジョーヌを作ろうvol.2 もしかしたらあるかもしれないので みなさんよろしくお願いします。 そしてラヴニールさんのパクネスのリリースレター、今年も心待ちにしています。 今回使用したワイン ※勿論そのままで飲んですごく美味しいワインです! 個人的には抜栓後コルクをして10日ほどセラーに入れた時が最高に好きです!! 生産者: Les Granges Paqueness / レ グランジュ パクネス ワイン名: Les Pierre Savagnin Ouill é / レ ピエール サヴァニャン ウイエ 葡萄品種:サヴァニャン ワインタイプ:白ワイン 生産国:フランス 生産地:ジュラ ヴィンテージ:2019 インポーター:ラヴニール 参考小売価格:¥5,500 (税別) <ソムリエプロフィール> 外山 博之 Maruta 1981年 埼玉生まれ 都内を中心にバーテンダー、サービスマンとして勤務後、 2012年Grisマネージャー就任。ナチュラルからトラディショナルまで幅広いセ レクトのワインを中心にしたペアリングとそのアルコールの構成要素を表現し たノンアルコールペアリングが好評を得る。 2019年よりシェフのJacob kearを中心としたレストランプロジェクトの京都 LURRA°にドリンクディレクターとして加わり、2020年のミシュラン一つ星獲得に貢献。 2021年 3月より調布のMarutaへ戻り、庭のハーブなどを用いたドリンクの開発など、新しいドリンクの提供の形を考案中。
- 南アフリカのパイオニアたち <前編>
4月25日、南アフリカワイン協会(Wines of South Africa : WOSA )が、オンラインワインスクール大手 Vinoteras との共催で、 【キャシー・ヴァン・ジルMWと巡る壮大な南アフリカワインの世界 Episode.1~先駆者たち~】 と題したオンラインセミナー(ウェビナー)を行った。 モデレーターはWOSA JAPANプロジェクトマネージャーの 高橋佳子 さんが務め、ゲストテイスターとして、2020年度日本最優秀ソムリエの 井黒卓 さんが参加した。 世界に340名ほどしかいないマスター・オブ・ワインの中でも、南アフリカ在住で、同国のワインに関する世界的なトップエキスパートとして知られ、また親日家でもあるキャシー・ヴァン・ジルMWが、日本のオンラインワインスクールに初登場するという画期的なセミナーとなった。 筆者もセミナーに参加し、数多くの有益な情報を得ることができた。なるべく詳細なレポートとしたいので、前編、後編に分けてお届けしていく。 ©️WOSA 革新的ウェビナー まずは何よりも、このオンラインセミナーの進行方法に手放しの賞賛を送りたい。 セミナーに参加するまで、筆者はキャシー・ヴァン・ジルMWがライブ中継をしながら進んでいくと思い込んでいたのだが、実際は彼女が事前に作成した ビデオフッテージ を観た後で、そのビデオに登場したワイナリーのワインに対して、高橋佳子さんと井黒卓さんが、解説やテイスティングコメントを付け加えていく流れを繰り返すという構成であった。 ビデオフッテージには丁寧かつ正確な 日本語字幕 が付けられており、ダイナミックな南アフリカの風景と、キャシー・ヴァン・ジルMWのチャーミングな人柄がワイナリーから様々な情報を引き出していく様が、 通訳というタイムロスなく、すっと入ってくる 。 海外ゲストを招いたウェビナーには、接続の安定性、音声の遅延、通訳による所要時間の倍増等、様々な難題がある。 しかし、今回のような字幕付きのビデオを用意すれば、リアルタイムの登場によるライブ感こそ無いものの、あらゆる問題が解消されるだけでなく、 通訳が不要になることにより、よりヴォリュームのある内容にすることができる という、非常に大きなメリットもある。 新型コロナ禍以降、様々な形のウェビナーが開催されてきたが、海外ゲストを交えるパターンとしては、現状の(専門的技術を必要としない)テクノロジーでは、考え得る最上の構成だったのではと思う。 キャシー・ヴァン・ジルMW(画像左)が作成したビデオフッテージ。 ©️WOSA 先駆者たち さて、本題に移ろう。 シリーズ化が予定されている本セミナーだが、第一回は The Elders と題されていた。直訳すると「長老たち」といったところだが、ニュアンスとしては邦題の通り、「 先駆者たち 」となる。 このテーマもまた、キャシー・ヴァン・ジルMWらしい、 流石の選択 と言える。 南アフリカワインのバイブルとして知られる Platter’s South Africa Wine Guide の共同編集者でもあるキャシー・ヴァン・ジルMWは、奥深い南アフリカワインの全容を真に知る希少な専門家だ。 当然、猛スピードで発展し続ける南アフリカワインの最新事情にも精通している。 そんな彼女がepisode.1のテーマとして選んだのは、南アフリカにおけるワイン産業の礎を築いてきた パイオニア たちだった。 勢いのある産地になればなるほど、新しい生産者に注目が移りがちになるが、それではその産地のごく一部しか理解することができない。 クラシックを知ってこそ、モダンの意味や価値が分かる 。それは、ワインを学ぶ上で、普遍的なことなのでは無いだろうか。 クライン・コンスタンシア 最初に紹介されたのは、 Klein Constantia(クライン・コンスタンシア) 。 その始まりは、 1685年 。ケープ州の初代総督であった シモン・ファン・デル・ステル が設立した広大な敷地(コンスタンシア)の一部が、葡萄畑となったのだ。非常に美しい景観も知られるコンスタンシアだが、急勾配の斜面を形成する風化した花崗岩土壌と、冷たい海風による冷却効果が合わさり、葡萄栽培にとって理想的な環境でもあった。 1712年にシモン・ファン・デル・ステルが亡くなると、領地は三分割され、売却されたが、最も広い「ベルグフリート」というエリアは家畜の飼育に使用された一方で、ヨハン・ユルゲン・コッツェの手に渡った「 クライン・コンスタンシア 」とオロフ・ベルフの手に渡った「グルート・コンスタンシア」では、後に伝説となったコンスタンシア・スイートワインを作るようになった。 18世紀後半には、ワイン造りの名手として知られた ヘンドリック・クルート の手によってその品質は頂点に達し、ルイ16世、マリー・アントワネット、ジョージ・ワシントン、トーマス・ジェファーソンといった人物から寵愛を受けたコンスタンシア・スイートワインは、ニューワールドでは最も初期に、その偉大さを世界的に認められた銘柄となった。 しかし、 1872年 にクライン・コンスタンシアの栄光は一度、 終幕 を迎えた。1834年の奴隷制度廃止による人手不足、1858年以降のうどん粉病被害、1860年の英国による南アフリカに対する関税優遇の撤廃、コンスタンシア・スイートワインの上顧客であった欧米諸国における、甘口から辛口への急激な嗜好の変化などが積み重なり、時代の変化に対して、経済的に追いつけなくなってしまったのだ。 所有者が変わったことに加えて、1898年のフィロキセラ到来が追い討ちとなり、栄華を誇った壮麗な 葡萄畑は荒廃、荘園の邸宅 だけが 豪 奢 に改修 され、富裕層の社交場となっていた。 歴史に埋もれかけていたクライン・コンスタンシアが再生へと向かったのは、 1980年 のこと。1972年に前所有者のイアン・オースティンが葡萄畑の再生に失敗した(植樹した葡萄樹がことごとくウイルスに感染した)のを機に、ワイン造りの経験があった名家出身の ダッジー・ジョースト が領地を買収し、 ステレンボッシュ大学 の協力を得つつ、過去の文献等を元にクライン・コンスタンシア再生プロジェクトをスタートさせた。 1986年 には再生後初のワインとして、 ソーヴィニヨン・ブラン をリリース、 1990年 にはついに、伝説的な ヴァン・ド・コンスタンス を復活させた。 現在でもソーヴィニヨン・ブランとヴァン・ド・コンスタンスは、新生クライン・コンスタンシアの主軸となっている。 Klein Constantia, Sauvignon Blanc 2017 ©️WOSA 単一畑や上級キュヴェも含め、4種のソーヴィニヨン・ブランを手掛けるクライン・コンスタンシアのスタンダードラインがこちら。 「ニュー・オールドワールド」とも呼ばれる南アフリカらしい、ヨーロッパ伝統国とニューワールドの中間的特徴をもった快作。 パッションフルーツ、ピンクグレープフルーツやグースベリーのアロマと、爽やかなハーブのタッチ、そして印象的な火打ち石のニュアンスが交錯する様に、「ニュー・オールドワールド」的特徴が色濃く反映されている。 全体的にはシャープなテクスチャーだが、ミッドパレットから粘性を感じるテクスチャーが顔を出し、メリハリの効いた構造を実現している。 フィニッシュのほろ苦さも心地よく、スマートな印象が崩れない。 価格も含め、非常に完成度の高い逸品。 Klein Constantia, Vin de Constance 2017 ©️WOSA 伝説的なヴァン・ド・コンスタンスは、ミュスカ・ド・フロンティニアン(ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グランと同一品種)から造られる、遅摘み葡萄による極甘口ワイン。酸と糖度が最良のバランスになるように、3ヶ月という期間の間、数度に分けて収穫された葡萄は、ステンレスタンクで緻密に温度管理をしながら、野生酵母で発酵される。通常、甘口ワインの自然発酵は発酵期間の超長期化という大きなリスクが伴うが、それを最新のテクノロジーと知見、そして献身性でもって補うという、偉大なチャレンジが込められたワインだ。 熟した柑橘とバラ、アーモンドの複雑な香りは、高貴な香水のよう。濃密な甘味による陶酔感と、心地良い夢覚めを演出する酸が絡みあいながら、このワインを飲むという幸運に恵まれた人を、現実と非現実が曖昧な世界へと連れていってしまう。極甘口ワインとして、間違いなく世界屈指の大傑作であり、かつての栄光にふさわしい異次元の完成度。 後編では、ウェビナーで紹介された、コンスタンシア以外のパイオニアについて触れていく。
- 真・日本酒評論 <7> 低アルコール原酒という新技術
<加茂金秀:特別純米酒 13 火入> アルコール飲料の低アルコール濃度化、というのは、酒類業界が全体として向き合っている極めて重要な課題として、声高々に叫ばれることが多い。確かに、現代の若者、特にミレニアル世代、Z世代と呼ばれる年齢層の人々は、データ上でみても、酒量が大幅に減っていることは間違いない。実はこの流れは世界規模で起こっており、日本だけの現象では全くないのだ。 新たな世代の嗜好に対応するために、低アルコール濃度化に取り組む。そこだけを見てしまうと、酒というものが、ただ一つの方向へと変化しているように思えるかも知れないが、 筆者の意見は大きく異なる 。 私の考え方の根拠となる最たる例は、 コンビニエンスストア における、酒類のラインナップだ。 ビール、酎ハイ、リキュール類に絞って陳列棚を眺めるだけでも、そこに 驚くほどのヴァリエーション が既にあることに、すぐに気付くはずだ。 完全ノンアルコールのライン、1%を下回る超低アルコールのライン、1~3%の低アルコールライン、5%前後のスタンダードライン、そして、7~9%のストロングライン。 ミレニアル世代以降に絞るなら、低アルコールラインに流れる傾向は強まっているとは思うが、世代の垣根を外して、全体を見ると、「選択肢」が与えられている、という方が正確に思える。 つまり、ライトに飲む時代に突入した、というよりは、幅広いアルコール濃度の選択によって、「 酔い方を自分で選べる 」時代になったと考える方が、何かと 辻 褄 が合う のだ。
- オニオン・グラタン・スープという強敵(後編)
前編 でもNYでの思い出と共に語ったように、私にとってオニオン・グラタン・スープという料理は、ただのクラシックという枠に収まらない。それは、憩いの場にふさわしい料理であり、息抜きの瞬間にふさわしい料理であり、心の深いところが、じわじわと癒されていくような料理だ。 筆者が東京に来てから長らくの間、第二の家とも言えるような憩いの場にも、オニオン・グラタン・スープがある。しかも、絶品中の絶品だ。 東京都荒川区の町屋駅から徒歩7分ほどの閑静な住宅街の中、東京では絶滅危惧種となりつつある昔ながらの銭湯の真向かいに、一軒家レストラン「 おーどぶるハウス 」はある。 創業は1973年。家族経営の名店は、フランスに料理修行にも出た二代目マスターが引き継ぎ、私のようなローカル客と、区外からの訪問客で毎夜賑わっている。 二代目が引き継いで以降、「町の洋食屋」は、 ナチュラルワイン を豊富に揃えたレストランへと進化した。店の隅々には、過去に誰かが飲んだワインの空瓶が陳列され、まるでそれぞれのボトルに込められた瞬間瞬間のストーリーが、大切に保存されているかのようだ。
- SommeTimes’ Académie <26>(ワイン概論22:ロゼワイン醸造)
一歩進んだ基礎の学び、をテーマとするのが SommeTimes’ Académie シリーズ。 初心者から中級者までを対象 としています。今回は 、一般的なロゼワインの醸造フローを学んでいきます。 なお、日本のワイン教育においては、醸造用語としてフランス語を用いるのが今日でも一般的ですが、SommeTimes’ Academieでは、すでに世界の共通語としてフランス語からの置き換えが進んでいる 英語にて表記し、英語が一般的で無いものに限り、フランス語で表記します 。また、醸造の様々な工程に関しては、醸造家ごとに異なる意見が散見されます。本シリーズに関しては、あくまでも「一般論の範疇」とご理解ください。 試験後に忘れてしまった知識に意味はありません 。ワインの勉強は、難しい外国語由来の単語との戦いでもあります。そういった単語をただの「 記号 」として覚えることにも、意味はありません。その単語が「 何を意味するのか 」を知ってこそ、本来のあるべき学びとなります。SommeTimes Académieでは、ワインプロフェッショナル、ワイン愛好家として「 リアル 」に必要な情報をしっかりと補足しながら進めていきます。試験に受かることだけが目的ではない方、試験合格後の自己研鑽を望む方に向けた内容となります。 SommeTimes’ Viewをしっかりと読み込みながら進めてください 。 セニエ(Saignée) ロゼワインの製法としては、最も一般的な手法の一つがセニエです。黒葡萄を使用して、破砕するまでの流れは赤ワインと同様です。破砕後〜主発酵初期段階のどこかのタイミングで、タンクから果汁を抜き出す工程自体を セニエ (血抜きという意味)と呼び、セニエによって抜き出した果汁を最後まで発酵させたものを、セニエタイプのロゼと呼びます。 SommeTimes’ View 赤ワインと同様の工程を辿る手法であることから、色が濃く、渋味も強いと誤解されることの多いセニエタイプのロゼですが、実際はセニエを行うタイミングによってその性質が大きく変化するため、ロゼの手法の中でも最も豊かな(色調、渋味の)ヴァリエーションがある手法と理解するのが正しいでしょう。また、セニエタイプのロゼは、赤ワインを作る過程で生じた二次産物であるケースもあります。果汁を抜き出すことによって、マスト中における果汁に対する果皮の比率が大きくなるため、より濃厚な赤ワインに仕上げることができるようになるからです。この情報だけでは、セニエタイプのロゼの品質が劣るように感じてしまうかも知れませんが、決してそんなことはありません。むしろ、赤ワインの濃度を高める過程で抜き出した果汁を無駄にしないための、極めてサスティナブルな手法と評価すべきでしょう。製法上、実質的には「色の薄い赤ワイン」とも言えます。
- フランスの庭 <ロワール渓谷特集:第一章>
全長1,006km。フランス最長の河川であり、ヨーロッパ全土でも3番目の長さであるロワール河は、色とりどりの恵みを、フランスに、そして世界にもたらしてきた。数々の壮麗なシャトー群は世界中の旅行者を魅了し、アスパラガスやアーティチョークは世界各地のレストランへと届けられる。ヴァランセ、サント・モール、クロタン、セル・シュール・シェールといった、世界に名だたる極上のチーズでも有名だ。そして、「 フランスの庭 」と称されるロワール渓谷には、広大な「 葡萄の庭 」が広がっている。約2,000年の歴史を誇るその庭は、まさに楽園。そして楽園に美酒はつきものだ。 歴史 ロワール渓谷におけるワイン造りの歴史に関して、簡潔に触れていこう。 記録上、ワイン造りが始まったのは 1世紀 の間とされている。古代ローマの政治家であり、自然と芸術に関する歴史的書物である『プリニウスの博物誌』の著者であるガイウス・プリニウス・セクンドゥス( 大プリニウス )は、その著書(西暦77年発表)の中でロワール河沿いに広がる葡萄畑に関して言及している。 しかし、ロワール渓谷でワイン造りが盛んになり始めたのは、大プリニウスによる言及から約500年後のこと。 西暦583年 、聖職者であり、歴史家でもあった 聖グレゴリウス が発表した著書には、時のアンジュー伯爵とカソリック教会が共同で、サンセールやトゥレーヌの地に葡萄畑を拓いたと記録されている。以降、ロワール渓谷におけるワイン造りは何世紀にも渡って、 聖アウグスチノ修道会、聖ベネディクト会 という二つの修道会が先導した。当時の修道会は、 河川を巧みに使って、ワインを各地に運搬していた とされている。 次の飛躍は、 1,154年 に訪れた。ノルマンディー公爵、アンジュー伯爵でもあった ヘンリー2世 が、 イングランド王国の国王 になり、アンジュー産のワインのみを王宮で供すると定めたのだ。この慣習は、1,272年にヘンリー3世が崩御するまで続いた。 同時期から15世紀頃までにかけて、ワイン造りの主体は徐々に修道会から貴族へと移りつつも、17世紀までは順調に名声を高めていった。 その後は、18世紀末のフランス革命(貴族や修道会が領地を没収された)、19世紀初頭の鉄道網の普及(ロワール河を利用した運搬というアドヴァンテージの消失)、19世紀末のフィロキセラ禍と苦難が続き、フィロキセラ禍以前には、約160,000haもあった葡萄畑は、現在AOPとIGPを合わせても約70,000haに縮小している。 ロワール渓谷に点在する美しいシャトー 原産地呼称制度 日本におけるロワール渓谷産ワインの人気は、驚くほど低い。いや、それ以上に深刻なのは、この偉大な産地に対する理解が、あまりにも浅いことだ。主たる理由は2つ。一つは、明白に 流行重視型 (ミーハー型)の日本市場において、産地の人気を牽引できるほどのインパクトがある造り手が少ないこと。二つは、ロワール渓谷における 原産地呼称制度の複雑さ にある。











