孤高のアルザス <Rolly-Gassmann>

北東フランスの銘醸地、アルザス。


歴史的に数多くの侵略を受けてきた「東の玄関」は、今もまだ、いびつな多様性という形でその影響を強く残している。


ワイン産地として見れば、フランスとドイツの文化が融合した場所であり、同じくドイツ領となっていた時代があったロワール地方のモゼールという小産地と共に、ドイツ型の細長い瓶にワインを詰める習慣が残っている。


ドイツとは異なる点、という観点から見ると、葡萄品種の構成にそれがよく現れている。近年こそ例外も増えてきたが、ドイツの銘醸地ではリースリングが圧倒的な王者として君臨してきた。生産量、品質の両方においてだ。


一方アルザスでは、リースリング、ピノ・グリ、ゲヴュルツトラミネール、ミュスカは、高貴品種として横並びの地位にある。生産量ではリースリングが多いが、品質面では甲乙つけ難い


高貴品種に続く品種でも、ピノ・ノワール、ピノ・ブラン、オーセロワ、シルヴァネールなどから、高品質なワインが造られることが多い。


このように、品種面の多様性と全体的な質の高さにおいて、ドイツとの比較にとどまらず、フランス全土を見渡しても、群を抜いている存在がアルザスである。


また、山脈の麓に開かれた特性から、テロワールもまた多様で、異なるテロワールにどの品種が適しているかの研究も、アルザスではかなり進んでいるため、質の高さに明らかな貢献を果たしている。


さらに、アルザスにはもう一つ非常に面白い要素が加わる。


それが、生産者の多様性だ。


HugelTrimbachのような大ネゴシアンの品質は安定して高く、WeinbachZind HumbrechtMarcel Deissのような中規模ドメーヌは圧巻の個性を放つワイン群を手がけ、より小規模なドメーヌもクラシックからナチュラルまで多種多様。


それぞれの生産者タイプに独自の魅力があり、ここもまた甲乙つけがたいポイントとなっている。


品種の多様性と生産者の多様性が組み合わさると、無限とも思えるような掛け算となり、アルザスの底知れない奥深さを形成する土台となっているのだ。


そんなアルザスの中でも、特に際立った個性を発揮し続けている造り手を、今回は紹介する。


その名はRolly-Gassmann。約51haを所有する中規模ドメーヌである。


ワイン造りの歴史は1611年にまで遡れるそうだが、現在のドメーヌは、Rolly家とGassmann家の結婚によって、1967年に誕生した。ビオディナミとビオロジックの技法を大々的に取り入れた独自のサスティナビリティ農法は非常に厳格で、オーガニック認証こそ取得していないが、高い信頼のおける造り手だ。


Rolly-Gassmannが手がける40種類にも及ぶワインには、ほぼ一貫した特徴が見られる。確かな残糖感と、鮮烈な酸(一部品種を除く)だ。


アルザスは辛口白ワインの産地というイメージが強いかも知れないが、実情はかなり異なる。


端正な辛口へと明確にシフトしているのは、大手ネゴシアンが中心で、中規模ドメーヌ(Weinbachなど)や小規模生産者にも、そのスタイルを踏襲している造り手はかなり多いが、「そうではない」グループも昔からいた。


Marcel Deiss、Zind Humbrecht、そしてRolly-Gassmannは「辛口とは限らない」グループの代表格であり、その中でもRolly-Gassmannは最も残糖の印象が強く残ることから、一際強い個性に繋がっている。




甘さの壁

さて、Rolly-Gassmannのワインを理解する上で、とにかく煩わしいのが、この「甘さ」だ。


実際には、甘さをしっかりと中和するだけの酸があるため、ベトつくような甘さには決してならないのだが、(他国でもある程度その傾向はあるが)洗脳的に「辛口こそ正義」と植え付けてきた日本市場においては、どうしてもネガティヴポイントになることが多い。


この際だからはっきりと言うが、甘さだけを切り取ってワインを評価するのは、「木を見て森を見ず」と全く同様だ。消費者が自らの好みでそう評価するのなら、もちろん何も問題は無いのだが、プロフェッショナルと自称する人々がそのような狭い視点からテイスティングを行うのは、極めてアンプロフェッショナルである。


別の角度から、もう少しマイルドに言い直そう。


「甘い」と言うただ一つの理由でもって拒絶するには、Rolly-Gassmannのワインは素晴らし過ぎるし、そのあまりに特異な存在価値を思えば、このスタイルを理解しなくても良いとは、断じて言えない。




圧巻のテイスティング

今回はRolly-Gassmannのワインを30種類以上同時にテイスティングする機会に恵まれたのだが、正直驚きを隠せなかった。


Rolly-Gassmannが、常にワインを「飲み頃、もしくはそれに近いタイミング」でのみリリースすることは知っていたが、そのポリシーがリリースされたワインに及ぼす影響は、私の予測可能範囲を遥か超えていた。


ほぼ全てのワインが、しっかりと開き、ちゃんと美味しかったのだ。


長年のワインファンなら、これだけでもRolly-Gassmannがいかに特殊かが分かるかと思う。


ワインの「飲み頃問題」は、非常に頭の痛いトピックで、数多くのワインファンに、多くの失望感を与えてきたことだろう。


大金を払って購入した憧れのワインや、自宅セラーでゆっくりと寝かせていたワインを、意を決して抜栓するも、どうにもこうにも閉じこもったままで、全く微笑んでくれない。


そんな経験をしたことがある方は、決して少なくないだろう。


だが、Rolly-Gassmannのワインなら、そんな心配は無用。リリースされたワインは、すぐにでも飲める。


この安心感の恩恵は、計り知れない。


では、具体的なワインのレヴューに入っていくが、34種類全てをレヴューするわけにもいかないので、ある程度のテーマ性をもたせて、特に優れていると感じたワインのみをご紹介していく。



Pinot Noirのタイミング

Pinot Noirのリリースは3種。ヴィンテージは2017、2014、2009年。

どれもが、違う魅力を放つ状態にありながらも、しっかりと開き、どのヴィンテージも美味しい。

筆者が最も惹かれたのは2014年で、僅かな熟成感と豊かな果実味のタッチが絶妙な塩梅で交錯していた。


当然2017年は若々しく、2009年はより発展していたので、自分の好みによってヴィンテージを選べば良いと思う。そして、この言葉が簡単に言えてしまうところからも、Rolly-Gassmannの素晴らしさが見えてくる。


2014年ヴィンテージの価格は3,340円。正直言って、安過ぎる。




極上のエデルツヴィッカー

Terroir des Chateaux Fortsの名でリリースされるEdelzwicker(様々な品種を混ぜて作るカジュアルな白ワイン)はRolly-Gassmannの十八番だ。今回のリリースは2017年で、最高にメロウな状態。Edelzwickerと言うワインは、普通はもっとカジュアルで薄い味わいなものだが、このワインは別格の奥深さを備えている。


価格は2,670円。3,000円以下の白ワインとしては、世界最高峰の一角だと思う。




シャープなシルヴァネール

Rolly-Gassmannのラインナップの中でも、最も硬質な特徴をもっているのがシルヴァネールだ。今回のリリースは2011年で、飲み頃のど真ん中。鋭角で力強いミネラルと、エッジの効いた酸、独特なスパイス感溢れる風味が絶妙。価格は3,670円と、驚異的にリーズナブルだ。





良く似た品種

ピノ・ブランとオーセロワは、完全な辛口となった場合、ブラインドでの判別が非常に難しいほど、良く似た味わいとなる。

しかし、残糖と酸によってリッチな味わいに仕上がったRolly-Gassmanの場合、両品種の違いがより鮮明に浮き上がってくる。ピノ・ブランは丸みがあり、オーセロワにはより強いエッジがあるのだ。







Riesling

以降は高貴品種の紹介となる。

Vendanges Tardives(V.T)Selection de Grains Nobles(S.G.N)も含まれていたため、そちらも併せて紹介していく。


今回リリースされたスタンダードリースリングは、2019、2017、2014、2012、2011、2010年と幅広く、さらにテロワールやキュヴェの違いもあったため、一括りにして話すのは困難。


ピノ・ノワールと同様に、全てのワインがしっかりと開いた状態で、異なる魅力をもっていた。


その前提での話にはなるが、優れたリースリングには、10-12の法則というものがあり、これはヴィンテージから10~12年経過したタイミングで、最高の飲み頃タイミングが一度来る、と言うことを意味する。


今回のリースリングラインナップにも、その傾向が顕著に見られ、筆者が「特に素晴らしい」とマークしたリースリングは、以下の通りとなった。


2011 Riesling de Rorschwhir “Cuvée Yves” ¥4,500

2010 Riesling Kappelweg de Rorschwhir ¥6,670

2011 Riesling Pflaenzerrenben de Rorschwhir ¥6,500

2012 Riesling Pflaenzerrenben de Rorschwhir ¥7,500




リースリングのV.TやS.G.Nは非常に特殊で、一般的なこれらのワインとしては、かなりドライに感じる部類となっている。V.Tでは確かに辛口に寄ったものはあるが、S.G.Nでもとなると、異質極まりない。


2009年ヴィンテージのS.G.N(8,000円)は、巨大なボディの中に、濃密な果実味が閉じ込められ、同じく巨大な酸と堅牢なミネラルが、それに拮するかのように組み合いながら、凄まじい緊張感を生み出している。


S.G.Nだからと、デザートに合わせるのではなく、厚切りにした豚肉などをロティやポワレにして合わせるのがベストだろう。上質なフォアグラのステーキとも間違いなく最高だ。





Pinot Gris

ピノ・グリは、スタンダードラインと、S.G.Nで、大きく感想が異なった

スタンダードのリリースは、2016、2013、2009、2007年で、筆者が最も素晴らしいと感じたのは、2016年(5,170円)だった。


ヴィンテージが進むにつれ、熟成の妙が立ち現れてはくるのだが、このレベルの残糖感をもったピノ・グリの魅力が最も強く出るのはどの段階か、となると、筆者はより若い段階と答える。その純粋性が、非常に良く現れるからだ。


一方で、S.G.Nは2003年(9,000円)。今回のラインナップの中で最も甘いワインだったが、驚異的に濃密な果実味が熟成によってほぐれ、妖艶極まりない味わいへと進化していた。






Gewürztraminer

個人的に、Rolly-Gassmannのスタイルはゲヴュルツトラミネールと相性が良いと感じている。


今回のラインナップではスタンダードが2種(2016、2019年)、V.Tが1種(2016年、7,000円))、S.G.Nが1種(2017年、9,500円)となっていたが、正直なところ、どのワインも格別に素晴らしかった


ゲヴュルツならではの濃密な味わいや、独特の甘いスパイス感が、豊かな酸と見事に調和しているが、筆者は、(ピノ・グリと同様に)若い段階の方がゲヴュルツの魅力が存分に発揮されると思う。その意味で甲乙つけるとしたら、スタンダードの2種の中では、より若い2019年(5,500円)の方が優れていたとも言えるだろう。







Muscat

筆者が最初にRolly-Gassmannのワインと出会ったのは、約13年前。その時も数多くのワインを試飲したのだが、その中には、今なお色褪せない記憶として残っているワインがあった。2003年ヴィンテージのミュスカだ。


それから幾度となくRolly-Gassmannのミュスカに触れてきたが、これほどまでに生産者のスタイルと、葡萄の特性が、同じ方向で強固に結びついた例は、かなり珍しいと言える。


つまり、筆者が考えるRolly-Gassmannの最高傑作はミュスカと言うことだ。


基本的に酸が低いミュスカは、辛口ワインとしては難しい側面があり、世界各国に広がっているものの、酒精強化した甘口ワインの方が高評価であり続けてきた。


南フランス、コルシカ島、ギリシャ、南アフリカ、オーストラリアなど、酒精強化ミュスカで名高い産地は数多くある。


しかし、Rolly-Gassmannのミュスカは、酒精強化をしていないワインだ。


そして、その品質が圧倒的に高い。


スタンダードの2019年(3,840円)は生々しい果実感が素晴らしい傑作。


そして、V.Tの2015年(6,500円)は、開いた口が塞がらなくなるような大傑作だ。


Rolly-Gassmannのミュスカが、非常に特殊なワインであることは間違いないが、このワインの価値は、ミュスカという葡萄の世界全体における立ち位置を鑑みても、計り知れないほど高い。






魅惑の世界観

Rolly-Gassmannのワインは、確かに甘い。完全な辛口と言い切れるワインは、ピノ・ノワールくらいで、白ワインはスタンダートラインでもほぼ例外なく、半辛口だ。


だが、その甘さの表層だけを捉えるのではなく、その奥に潜む豊かな酸とミネラルの調和、エネルギッシュな味わい、そして熟成の妙を味わえば、これまで見てきた世界が一変していくような感覚すら覚えるだろう。