Old Vine Semillon

白ワインの代表的なブドウ品種として、セミヨンが語られることは滅多にないかもしれない。セミヨンを含むワインで話題にあがるとすれば、ボルドーブラン(ソーヴィニヨン・ブランとブレンド)、貴腐ワイン(ソーテルヌ、バルサック)、ワイン通ならオーストラリアのハンターヴァレーだろうか。 私も、5年前まではそうであった。というより、ハンターヴァレーのセミヨンについては、今でも人一倍雄弁であると自負しているのだが、だからこそ、南アフリカのオールドヴァイン・セミヨンは、驚きの発見だった。 ハンターヴァレーと南アフリカ、どちらもここで紹介したいセミヨンは、オールドヴァイン=樹齢が高いブドウ樹(古木)である。南アフリカには、樹齢35年以上のブドウ畑を認証する制度があり、2018年以降、植樹年を記した認証シールがボトルに添付されるようになっている。



一方、オーストラリアでは、オールドヴァインといえばシラーズやグルナッシュをイメージするだろう。古木の畑が多く現存するバロッサでは、2009年に「Barossa Old Vine Charter」が制定され、樹齢に応じた4つのカテゴリーがあるのだが、これはあくまでバロッサという一産地に適用されている独自のルールなので、ハンターヴァレーには適用されない。とはいえ、ハンターヴァレーはオーストラリアで最も歴史あるワイン産地で、バロッサ同様、古木の畑が現存している。 中でもティレルズのフラッグシップ「VAT1ハンターヴァレー・セミヨン」は、オーストラリアを代表する世界的に有名な白ワインだ。自社畑の中でもとりわけ樹齢の高い3つの区画のセミヨンが使用され、最も古いもので1908年植樹。ちなみに、無灌漑で自根である。 ワインは辛口で、アルコールが低く、若いうちは搾りたてのレモンのような酸味のあるライトボディなのだが、ハンターヴァレーは温暖な気候のため、この高い酸は早摘みによって達成される。そして、この高い酸のおかげで瓶熟成が可能で、醸造に樽を使わないにも関わらず、熟成と共に香ばしいナッツやハチミツのような風味が発達してくる、世にも不思議なスタイルのワインなのだ。 個人的にご縁あって、瓶熟成したVAT 1セミヨンをテイスティングする機会に何かと恵まれてきたのだが、同時に、ワイン講座などで、まだ若い段階のハンターセミヨンをテイスティングして、その品質や価値を正しく評価することがなかなか難しいというジレンマも常々感じてきた。


生産者:Boekenhoutskloof ブーケンハーツクルーフ ワイン名:Semillon セミヨン 葡萄品種:セミヨン100% 生産国:南アフリカ 生産地: W.O. Franschhoek Valley フランシュフック・ヴァレー ヴィンテージ:2016 参考価格:¥5,000 お問い合わせ:MASUDA

2017年、初めての南アフリカ滞在中、フランシュフック・ヴァレーのブーケンハーツクルーフを訪問した。プレミアム品質のカベルネ・ソーヴィニヨンで有名な生産者だが、私の心を掴んだのはセミヨンだった。 2004年と2014年のヴィンテージをテイスティングさせて頂き、セミヨンに対するベクトルが反対方向に大きく変わった瞬間だった。酸味、ボディ、アルコール、熟度、全ての要素がハンターセミヨンとは対照的! 共通点といえば、どちらも世界に類をみないスタイルのセミヨン100%の辛口白ワインということだ。 ブーケンハーツクルーフのセミヨンは、オーク樽と卵型のコンクリートタンクで発酵、14カ月間熟成される。若いうちは、熟度の高さからくる凝縮した甘いストーンフルーツのような果実味と、オークの特徴はヴァニラというよりはセイヴァリーなスパイスの印象。柔らかいテクスチャーと全体を引き締めるバランス良い酸味。熟成するとラノリンや蜜蝋のような複雑味が発達し、熟した果実とオークのスパイスが溶け合って奥行きのある味わいを楽しめる。 南アフリカのセミヨンは、1600年代に最初に植えられた3つの品種のひとつで、1800年代にはケープのブドウ畑全体の9割以上を占めていた。当時は「Wyndruif(= wine grape)」や、Groendruif(= green grape)」と呼ばれていた歴史がある。元々はボルドー原産のブドウだが、長い年月をかけてケープの環境に順応しながら変異してきたため、遺伝子的に異なる特徴をもつと生産者の間では認識されている。 ブーケンハーツクルーフのセミヨンには、フランシュフックにある1902年、1936年、1942年植樹の3つの古木の畑が使用されている。これらの畑の中には、一般的な果皮が緑色のセミヨン・ブランに紛れて、ゴールドやローズ、グリ色の果皮に変異したセミヨンが混在していて、これが、他にはないワインが生まれる決定的な要因となっているのだ。 ボルドーから海を渡ったセミヨンが、南アフリカとオーストラリア、それぞれの土地で生きながらえ、異なる個性のワインとして現代に伝えられているというのは、まさにワインの歴史ロマンを楽しむようなもの。シャルドネやリースリングといった花形品種と違って、セミヨンはあまり注目されない地味な品種かもしれないが、時にはそんなワインの楽しみ方も、なかなか粋なものだろう。


<ライタープロフィール>

高橋 佳子 / Yoshiko Takahashi DipWSET

Y’n plus



兵庫県生まれ。

2000年、大阪北新地のワインバーでソムリエ見習いとしてワインの世界に足を踏み入れる。

2002〜2003年渡豪、ヴィクトリアとタスマニアのワイナリーで研修。帰国後、インポーター勤務時に上京。ワイン専門卸会社勤務を経て、2013年よりフリーランス。

ワインスクール講師、ワイン専門通訳&翻訳、ワインライター、ワインコンサルタントなど、ワイン業界でフレキシブルに活動する。

2016年、WSET® Level 4 Diploma取得*

2017年、PIWOSA Women in Wine Initiative 南アフリカワインのインターンシッププログラム参加

2018・2019年、Royal Hobart Wine Show International Judge

2019年より、WOSA Japan 南アフリカワイン協会 プロジェクトマネージャー


*WSET®は、イギリスロンドンを拠点に世界70カ国以上で提供されている世界最大のワイン教育プログラム。Level 4 Diplomaはその最高位資格。