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空の検索で1006件の結果が見つかりました。

  • パーカーとボルドー <ボルドー特集:後編>

    人は変われないのか。私はその問いに対する答えをもたぬまま、本稿の執筆と向き合い始めた。失敗は恥ではない。愚かさも、未熟さも恥ではない。私はずっとそう思ってきた。だが、繰り返すことは確かな恥だとも、知っていたはずだ。だから、もうこれ以上繰り返さないために、常識も、一般論も、過去の自分ですらも徹底的に疑ってみようと思う。その果ての答えが、どこに行き着くのかは分からなくても、私が変われる保証などどこにも無いとしても、自らに、そして偉大なるボルドーに、問いかけてみよう。 本当にボルドーは、ロバート・パーカーに、誇りを、魂を捧げ続けてきたのだろうか 、と。 ロバート・M・パーカー・Jr. 1975年からワイン評論活動を本格的にスタートさせた ロバート・M・パーカー・Jr.( 以降、パーカーと表記 )は、ワイナリーやワイン商と蜜月の関係にあったジャーナリズム(そう呼ぶにはあまりにも腐敗していたが)に異議を唱え、圧力に屈さず、何者にも影響されず、ただひたすら自らの絶対的な価値観を、断固として突き通していた。まさに 異端児 と呼ぶべき存在であったはずのパーカーだが、ボルドーの 1982年 ヴィンテージに対する評論が、結果的に彼を 帝王 へと押し上げた。当時のほとんどのジャーナリストは、酸が低く、果実味が強い1982年ヴィンテージ(*1)を高く評価しなかった一方で、パーカーは「 世紀のヴィンテージ 」と絶賛した。それは、後に「 パーカリゼーション 」とも呼ばれることになる、「 価値観の反転 」の始まりでもあった。パーカーは1982年ヴィンテージのボルドー左岸五大シャトーに対して、オー=ブリオンを除く4シャトーに100点級の高評価を献上、続くグレートヴィンテージとされた1986年には、ラフィット=ロートシルト、ムートン=ロートシルト、マルゴーに高得点を与える一方で、オー=ブリオンには平凡なスコアを、ラトゥールに至っては(第一級という地位を考えれば)酷評とも言えるスコアを献上した。このように、メドック公式格付け第一級シャトーであっても 容赦無く切り捨てるパーカーの聖域無き評論 は、瞬く間にワイン愛好家の信頼を集め、 彼の高得点はワインの価格に巨大な影響を及ぼすようになった 。パーカーは、特にボルドー評論を得意としていたため、市場における影響力は桁違いに大きく、程なくして 多くの有識者が、ボルドーがパーカーの実効支配下に置かれたと考えるようになった 。「パーカーが好めば、ワインが簡単に高値で売れる」という単純な図式には、有識者だけでなく、多くの愛好家が「ボルドーのシャトーがパーカーを意識するのは必然」と盲目的に考えるのには十分すぎるほどの、絶大なインパクトがあった。 *1: 当時は、長期熟成のポテンシャルが、ワインの評価に直結しており、酸の低いワインは評価が低くなる傾向にあった。パーカーは1982年を長期熟成型と評していたが、その点に関しては(1982年ヴィンテージの熟成状況を見る限り)、パーカーが正しかったとは決して言い切れない。 15年以上もの間、私もまたこの呪縛に囚われてきた。そして、この呪縛は私のボルドーに対する酷く一方的な嫌悪感の源でもあり続けた。 そんな私が、今こうして再びボルドーと真摯に向き合おうとしているのだが、冷静になって考えてみれば、過去15年間の私は、 情報を自分にとって都合の良い形で解釈し続け、主観性も客観性も放棄し続けてきた愚か者 の様に思えてならない。能動的なリサーチもせず、テイスティングによってワインと真正面から向き合うこともせず、ただただイメージだけで、メインストリームの最たるワインであるボルドーを回避するために、金満主義的(実際にはごく一部)在り方や、パーカリゼーションを盾に、言い訳をし続けてきた未熟者だったかも知れない。

  • スペインのスパークリングワイン事情

    スペインでスパークリングワインといえば、すぐに「 カバ Cava 」と答えられるくらい、スペインワインの中ではかなり認知度が高いと思われます。 カバとは 原産地呼称名 で、 シャンパーニュなどと同じ瓶内二次発酵 で造られていながら安価なものが多く、日常的に飲むスパークリングワインとしての地位を築いていきました。 まず DOカバはエリアを示す原産地呼称ではなく、生産方法を示すもの であり、そのエリアはスペイン各地に広がっています。 95%近くはカタルーニャ州 ではありますが、その他にもバレンシア州、ラ・リオハ州、アラゴン州、そしてエストレマドゥーラ州となっています。 そんなカバの中でも、高品質なワインを造る生産者がカタルーニャ州の中心エリアである ペネデス で増えていきました。 しかし、近年ではそういった高品質スパークリングワインを造る生産者が、 DOカバからの離脱し、さらに生産者同士で新しい認証を作る動き が出ています。 その中でも注目を浴びているのは CORPINNAT(コルピナット) です。 コルピナットは2017年に5社のボデガ(*)によって設立され、その後この動きに賛同したボデガが年々増え、現在は11社が加盟しています。 ぶどうは DOペネデス内のみで有機栽培、手摘み収穫、最低18か月間の瓶内熟成 といった規定を設けて、高品質なスパークリングワインを造っています。 その中でも、私が特に注目しているボデガは Recaredo です。 *ボデガ:スペインにおいて、ワイナリーを意味する言葉。 生産者:Recaredo / レカレド ワイン名:Terrers Brut Nature / テレルス・ブリュット・ナチューレ 葡萄品種: 58% Xarel-lo, 37% Parellada, 6% Macabeo / チャレロ、パレリャーダ、マカベオ ワインタイプ:泡 生産国: スペイン 生産地: カタルーニャ州 ヴィンテージ:2017 インポーター: 株式会社グッドリブ 参考小売価格(税抜):5000円 このボデガは、有機農法やビオディナミ農法で栽培した自社畑のブドウを使い、ドサージュを行わないブリュットナチューレのみを造っています。 またデゴルジュマンを行う際に、澱を凍らせずに手作業で1本1本行うことが特徴となっており、見学の際にもその様子を見ることが出来ます。 また土着品種の中でもチャレロに注力しており、スパークリングワインの主要品種としての使用はもちろん、スティルワインも造っています。 実際に現地訪問をし、また日本とスペイン共に販売していたこともあり、特に思い入れが強いワイナリー、そしてワインの一つです。 シャンパーニュを目指した高品質を求めて造っているため、 これまでのカバのイメージが覆る ことは間違いないでしょう。 また、飲食店はもちろん全国の高島屋やオンラインショップでも購入することが出来ることからもお買い求めしやすいですので、プレゼントやワイン会に持っていくにも最適です。 今回はコルピナットを中心に、カタルーニャ州のスパークリングワインについて少し書きましたが、他の地域でも土着品種を使ったスパークリングワインを造る動きが多くなっていますので、これからのスペインのスパークリングワインの動きには注目していきたいと思います。 〈プロフィール〉 鎌田 昌之(カマダ マサシ) 1990年 京都 伏見生まれ 大学時代のスペインへの語学留学で、スペインワインの美味しさを知る。 大学卒業後はインポーター2社で働き、2017年にスペイン・サン・セバスティアンにある料理大学バスク・クリナリー・センターの、ソムリエとワインマーケティングのマスターコースに入学。同年、コース初のアジア人として卒業。 スペインではセビージャのDelatierra、マドリッドのEnoteca Baroloにて職場研修後、ワーキングホリデーを利用して、サン・セバスティアンワインショップのn.06で勤務。 2020年より東京・六本木にあるスペイン料理店「フェルミンチョ」にて勤務。

  • 酒魅の世界

    6月中旬から梅雨入りした長野県、7月中旬まで晴れ間少なく雨の多い日が続き、その後、8月中旬までの1か月間ほぼ雨の降らない晴天が続いた。(何度か激しいゲリラ豪雨は発生した) 8月中旬に発生した「令和3年8月の大雨」。 長野県も雨が数日続き、若干の災害が出てしまった。昨年7月の豪雨に続き甚大な被害がでてしまった九州。今後の台風も含め、これ以上の災害が起きないことを切に願っている。 この大雨を境に長野の夏ピークは過ぎ、徐々に気温が下がり、秋はすぐ近くまで来ているように感じていたが、まさかの真夏へ逆戻り。日中30度を超す残暑が8月末まで続いた。 私圃場のブドウ達は今年、予想以上にグングン伸び、来年に初収穫を迎えられるところまで生長してくれた。生長スピードに作業が追いつかず、病気に感染してしまうなど苦しい状況ではあったが、どうにか踏ん張り来年に繋げることができそうだ。 5月の萌芽から9月までの繁忙期は、日の出から暮れまで畑仕事に追われ、それ以外のことがあまり出来ない状況だったが、国内で起きている事柄、オリンピック開催、コロナ感染増、ワクチン、変異株、緊急事態宣言、終わりの見えない酒類提供の禁止など…そういった記事を目にするたびに心が痛み、早く収束することを祈っていた。 特に酒類提供の禁止については、前職レストランでソムリエをしていた身としては、飲食店スタッフの厳しい状況が目に浮かび、一日も早くコロナ以前のように誰もが楽しくお酒を飲める日が戻ってくることを願ってやまない。 その一方で、「ノンアルコール」の盛り上り、「 ソーバーキュリアス 」という選択の広まり、世界的な若者のアルコール離れなど、お酒に関して世の中が変化してきているのも感じる。 厚生労働省「国民健康栄養調査」によると、20~30代の男性の飲酒習慣率(週3日以上、1日1合以上飲酒する割合)は20年前と比べておよそ半分程度となり、もともと飲酒習慣率の低い20代女性では、現在、わずか3%となっているそうだ。 ネット上で「ソーバーキュリアス」についての記事を見つけた↓ なぜ「ソーバーキュリアス」がかっこいい? 『なぜ、若者では「ソーバーキュリアス」が広がっているのでしょうか。この背景には、ミレニアル世代ならではの価値観の影響があるのでしょう。 ミレニアル世代は、物心ついた頃からパソコンやインターネットが普及したデジタルネイティブです。大量の情報に触れながら育っているために、何につけても情報通で、健康や予防医療に関する知識も豊富な傾向があります(浅く広くかもしれませんが)。また、何かを買う時は情報を比較検討し、コストパフォーマンスを重視する傾向も強いです。さらに、技術革新や消費社会の成熟化によって、娯楽も多様化しています。 今の若者は、 アルコールを飲んで楽しむことは、コスパの良くない娯楽と考えているのかもしれません。酔って楽しむことによるメリットよりも、健康への悪影響や、費やされる時間やお金などのコスト、酔うことによる失敗のリスクなどのデメリットが上回ると判断しているのかもしれません 。』 (引用元:MONEY PLUS) お酒とうまく付き合い、豊かな時間を享受している身としては、お酒を飲まないという選択に強い寂しさと残念な気持ちがあるのが正直なところ。 ということで今回の記事は、お酒を好む私たちが今一度「お酒」の魅力を再考察し、お酒の楽しみ方を若者達へ伝えられるよう、その歴史や役割、健康面について考えてみたいと思う。 【お酒の起源】 人間はいつからお酒を飲んでいるのだろうか?? なんと考古学的に、 人類誕生の前 から(人間以前の霊長類、初期人類、大型類人猿) お酒を飲んでいた可能性がある そうだ。それは遥か 2400万年前 。 人類誕生以前から、果実を食料として食べてきた可能性が高いことから、アルコール飲料との関係もおそらく遠くなかったであろうと思われている。 とりわけ熱帯の温暖な気候では、果実が熟する過程で自然に、樹上で野生酵母によるアルコール発酵が行われていた可能性は十分にあるそうだ。もしそれを偶然に一口でも口にしていたならば。。  事実、世界には酔いを求めてそういった自然発酵したアルコールを含む果実を摂取する虫や鳥、動物が存在する。 それでは、人類がお酒を飲み始めたのは?? それは、約1万年前頃ではないかと言われている。 『人類の祖先は、史上初めて狩猟採集生活から定住の農耕生活へと暮らし方を変えた。人々は定住して村落をつくり、都市国家を築き、文字や数字を編み出し、人間の行為を取り締まる法律をつくった。それとほぼ同時期に、蜂蜜や熟した果実、穀物が酵母菌で発酵し、アルコール飲料になることを発見した。 もちろん、太古の祖先は酵母について何も知らなかった、しかし彼らは、潰したブドウが発酵し、飲むと気分が大きく変わる液体に変化することを知った。穀物を水に浸して静かに置いておくと、やがて泡立ち、間もなく独特な味わいの飲むと気持ちが高ぶる液体が生まれることにも気付いた。 それ以来、このワインとビールは人類に欠かせないアルコール飲料となり、蒸留酒が生まれるまでそれは続いた。』 (引用元:「カクテルの歴史」Joseph M.Carlin) 【お酒の役割】 酒は、ただ「酔う」為だけのものではく、もっと多くの役割を担っていた。 ・細菌に汚染された危険な水に代わる、より安全な飲料として (祖先たちは、新鮮な水を常に確保するのが非常に難しかった) ・大事な栄養源として (狩猟から農耕への生活変化で不足したタンパク質とビタミン類を補った) ・通貨や労働報酬の代わりとして (穀物が経済の基盤であった時代、パンとビールは便利な通貨代わりとして広く普及した。ピラミッド建設の賃金はそれで支払われたそうだ) ・宗教儀式の必需品(アルコールは神々からの贈り物とされていた) ・祈りや祝いの儀式(豊穣祈願や葬儀なども) ・哲学的、芸術的発想の源(多くの哲学者、芸術家がアルコールを嗜好した) ・命を救う薬(塗り薬や飲み薬として病院で処方されていた時代もある) ・政治的シンボル(政治や権力の象徴として利用された) これらの中でも特に、 神との繫がりや宗教的役割が強かった期間が長い ことが、歴史から推察される。 古代ギリシャでは、ワインを水で割って飲むという習慣があったが、それは ワインをそのまま飲んでも平気なのは酒神ディオニュソスだけだと信じられていた 為で、例え上質なワインでも、水を加えずに飲むことは野蛮な行為とされていたそうだ。 アルコール飲料が持つ超自然的な性質(酔い、意識の変化、発酵)は不思議なことであり、それが神々からの贈り物という結論に行き着いたのも、しごく当然なことだろう。 日本でも、昔はその役割が強かった。 『酒は神祭りに不可欠な供え物であり、神と人が相嘗めするための飲み物であった。興奮を誘い、陶酔境に浸りつつ、神と人との一体化を図ったのである。酒がその起源を神に結びつけられていたのも、その所為である。女が神に仕える巫女(みこ)として働いた関係で、日本では女が酒を醸す古風なものであった。』 『日本酒は、奈良時代には麹を使っての酒作り法が確立していました。当時は、お酒は集団の儀礼の中にあって、神人と民衆との交流の場での群飲がほとんどでした。神に供えることで豊かな収穫や無病息災を祈り、そのお酒を飲むことで厄を払う。お酒は超現実的な神と人とを結びつける役割を担う、神聖なものでした。』 (引用元:「酒飲みの文化史」青木英夫) その他に、乾杯や献杯、婚約の盃結(つきゆい)、葬儀の後「お清めの酒」、お神酒(おみき)、お屠蘇(おとそ)などのしきたりもある。 【お酒の役割の変化】 今現在も、世界中でこうした神事的な儀式の必需品としてお酒が供されることは多くあると思うが、祖先達が持っていたお酒に対する根本的な価値、神々とつながる為のツールとしてのお酒の役割は、既に大きく崩れてしまっているのも事実であろう。 では一体、いつから人間にとってお酒の価値が大きく変化したのだろうか? 定かではないが、恐らくアルコールの普及と共に自然に変わっていったのだろう。実際にビールは遥か昔から庶民の飲み物であった。ただ、大きなきっかけは蒸留酒の誕生、そしてお酒の楽しみ方の変化にあるのかもしれない。 『アルコール度数の高い蒸留酒は、アメリカ独立戦争(1775〜1783)以前は大量に入手することも妥当な価格で購入することも難しかった。アフリカの奴隷貿易、カリブ海の豊富なサトウキビ、そしてアメリカで大量に栽培されたトウモロコシという重要な要素がそろって初めてそれが可能になった。19世紀初頭は、糖蜜やトウモロコシといった蒸留酒の材料を輸送するよりも、蒸留酒そのものを船便で取引する方が安くついた。 北アメリカでは、瞬く間に強い酒が流行した。18世紀前半に安価なジンが蔓延し、アルコール中毒者が大量に生まれた「ジンの伝染」を体験したイギリスと同じである。しかし、アメリカの元凶はジンではなく「悪魔のラム」と、別名「ジョン・バーレーコーン」ことモルトウイスキーだった。』 (引用元:「カクテルの歴史」Joseph M.Carlin) 一気飲み、飲み放題、暴飲暴食、ちゃんぽん、ストロング缶酎ハイなど。 「お酒を嗜む」の真逆をいくこういったものが蔓延していては、若者達がお酒離れしてしまうのも仕方ないのだろうか。。 ではどうやって、若者達にお酒の魅力を伝えていこう? 【お酒の魅力:①古き良きしきたりと人間関係】 人間同士のコミュニケーションが希薄になっていく時代だが、やはりお酒の場で築ける人間関係は必ず存在するのではないだろうか。 日本には神事的なお酒の役割以外にも、数多くの酒席での独特な習慣「盃のやりとり」がある。 「盃をうける」「お流れ頂戴」「御返杯」などの習慣は、主人と客、上司と部下、友人同士などが、お酒そのものとその器である盃を通して親しみを表す、日本的風習です。日本酒に燗をして徳利や銚子に入れ、相手に丁寧についでやるという、温かい心が宿る飲み方といえるでしょう。 【お酒の魅力:②健康】 「適量のお酒は百薬の長」と言われるが、酒は適量摂取なら健康効果があるという考えは医学的に証明されている。 (1) お酒を飲まない人よりも、適量飲む人の方が長生きできるという事実 これを裏付ける「Jカーブ効果」というものがあり、お酒の適量摂取では死亡率が下がり、一定量を超えてくると死亡率があがるというデータが存在する。 (2) ストレス発散 お酒によって会話がはずみ、みんなが笑顔になる楽しいお酒は、お酒のもつ健康作用が体にも心にも行きわたる。 『酔っぱらうというのを医学的に説明すると、お酒の中のエチルアルコールが、脳の神経細胞に作用し、適度に麻痺させている状態のことです。脳が軽く麻痺することで、まず、抑制が取れます。普段、職場や家庭で我慢している人が、お酒を飲むと素直になって言いたいことが言える。つまりストレスが発散できるのです。同時に気分が高揚します。しかし、お酒を飲めば皆必ずハイになるわけではなく、抑圧されている人は抑圧が取れてハイになり、逆にいつも無理に明るく振る舞っている人は、静かになることがあります。要は本音が出るのです。これは、我慢し過ぎの日本人にとって、精神的に良いことだと思います。お酒を飲んで抑圧が取れ、自分をさらけ出すことも、ときには必要です。』 (引用元:「酒好き医師が教える 薬になるお酒の飲み方」秋津としお ) (3) アルコールが善玉コレステロールを増やす 『医学的にお酒は動脈硬化を予防すると言われています。アルコールがHDLコレステロール(善玉コレステロール)を増やし、血液凝固系と呼ばれるシステムに作用するので血が固まりにくくなり、脳梗塞や心筋梗塞によるリスクが低くなるのです。』 (引用元:「酒好き医師が教える 薬になるお酒の飲み方」秋津としお ) 『長年の研究で、適度なアルコールは善玉コレステロールを増やし、動脈硬化を引き起こす悪玉コレステロールのレベルを引き下げる働きがあることが分かった。つまり、心臓病のリスクを低減させる効果が期待出来るということだ。アルコールにはまた、血液中の血小板の凝集を防ぎ、血栓症から人体を守る効果もある。さらに人体機能をリラックスさせる効果もあるため、乱用しなければ社会的価値も非常に高い。』 (引用元:「イギリス王位化学会科学者が教えるワイン学入門」David Bird ) (4) アルコールで血流向上 『冷え性は万病のもとと言われます。冷え性といえば、かつては女性に多く見られる悩みでしたが、最近では、男性の冷え性も増えています。  体を温めるために、お酒を利用するのも一つの手です。お酒を飲むと体がぽかぽかしてきますよね。あれは、アルコールが血管を拡張させるので、血流が良くなっているのです。冷えが改善されることは、体にとっては良いことずくめです。肩こりや筋肉疲労が解消されますし、免疫力や代謝が低下するのを防ぐこともできます。』 (引用元:「酒好き医師が教える 薬になるお酒の飲み方」秋津としお ) (5) お酒各種に含まれる有効成分 1. ワイン 1990年代に起きた「フレンチ・パラドックス」よる赤ワインブームから早30年。その後も次々とワインが健康によいという事実が医学的に証明されてきた。 ・タンニン:ワインの渋味の主成分で、抗酸化作用や殺菌作用がある。 ・ケルセチン:黄色の色素成分。強い抗酸化作用があり、糖尿病や動脈硬化の予防に効果的。 ・レスベラトロール:ブドウの果皮に含まれる物質。抗酸化作用のほか、長寿遺伝子に作用して細胞を守る効果がある。 ・カテキン:抗酸化作用があり殺菌効果が高い。血圧の上昇を防ぎ、血液中のコレステロールを減らす。 ・アントシアニン:ブドウ果皮の色素成分。抗酸化作用や肝機能の保護、疲れ目の解消など。 ・プロアントシアニン:ブドウの種子に多く含まれる抗酸化物質。抗動脈硬化、心臓保護などの作用がある。 ・カリウム:ワイン中の主要なミネラル成分の中でも多く含まれ、人間の体内で過剰になったナトリウムを尿と共に対外へ排出する働きをもつ。 ・ヒスタミン:生体に広く分布する活性アミンの一種で、通常は不活性状態で体内に存在し、生命に重要な役割を果たしている。 『ワインには、数多くの病気を抑制する効能がある。加えて、酸化による老化や、現代病とも言える塩分の過剰摂取からも私たちを守ってくれる。このような様々な健康維持効果があり、何千年にもわたり人々に親しまれてきたワインと言う素晴らしい飲み物の恩恵にあやからない手はないだろう。』 (引用元:「イギリス王位化学会科学者が教えるワイン学入門」David Bird ) 2. ビール 原料のホップに含まれるポリフェノールが赤ワイン同様、体内の増え過ぎた活性酸素を除去する抗酸化作用がある。さらに、ホップに含まれるフィストロゲンという物質には動脈硬化予防や骨粗鬆症防止効果があり、ホップの苦味成分イソα酸には認知症予防効果があるとされる。 3. 日本酒 日本酒にはアルコール分以外に、アミノ酸、アミン、有機酸、糖類、ビタミンなど120種類以上の栄養成分が含まれており、特に健康維持にとても重要なアミノ酸を非常に多く含んでいる。 日本酒中の各種アミノ酸は、免疫機能の維持と改善、成長ホルモンの分泌と促進、運動時のエネルギー源など様々な働きをし、さらに、糖尿病や動脈硬化、心臓病といった生活習慣病全般を予防する効果が期待出来るとされている。 【お酒の魅力:③食事を更に美味しく】 私がワインの世界へ足を踏み入れたきっかけは、生ハムと白ワインだった。まだワインを知らない若い頃に勤めたレストランで開かれた、ワイン勉強会での出来事。何もなしで食べた生ハムの味と、白ワインをひとくち口に含んだ後に食べた生ハムの味が全く異なることにショックを受け(数倍に美味しく感じた!)、「もしかして、同じ食べ物を、ワインを使って数倍美味しく食べている人達が世の中にはいるということか!?」ということに気づき、それから、ワインは生ハム以外にどんな食べ物をより美味しくしてくれるのだろう!?という興味が、ワインの世界へ入るきっかけとなった。 ワイン以外にも、料理を美味しくしてくれるお酒は世の中に多く存在する。 お酒と料理が織りなす至福の時間。絶対に知っていた方が良いと思う。 【お酒の魅力:④レストラン】 もちろんレストランは基本的に食事を楽しむ場所であるから、お酒無しでも素晴らしい時間を過ごすことが出来ると思うが、お酒をともにすることでより幸福な時間を過ごすことができるだろう。 シェフが心を込めてつくった料理、ソムリエが吟味したお酒、スタッフの心地よいサービス、それらをレストランという特別な空間で味わう。 人生にそんな時間が無いなんて寂しすぎると思いませんか? レストランに限らず飲食店で食事&お酒の素敵な時間がないなんてもったいない! お酒の魅力は正直まだまだ書ききれない程あるが、このままだと⑳くらいまでいってしまいそうなので、一旦終わりに。 ただ前提として、これら全ての魅力は「正しく飲んだ場合」の話しであり、間違ったお酒の飲み方をしてしまうと、全くの逆効果になってしまうことは言うまでもない。 【お酒の魅力:名言集(参考図書より)】 「楽しみ、それはビール。苦しみ、それは遠征」 (紀元前2000年、メソポタミアのことわざ) 「早くワインを一杯持ってきておくれ。そうすれば頭に潤いを与え、なにか気の利いたことが言えるかもしれぬ」(ギリシャの喜劇作家アリストパネス) 「富める者にも貧しい者にも、彼はワインの喜びを与え賜うた。あらゆる痛みを和らげる飲み物を」(「バッコスの信女」一節) 「もしも酒がなかったら、いったい世界はどれだけ味気なかったろうか」 「酒が生まれたのは、今から1万2000年前。果物から偶然つくり出されたと言われている。以来、人間は絶えず創意工夫を凝らして、酒づくりという不思議で複雑な現象を習得しようとしてきた。 どの飲み物も、その国の人々や地域の社会的、経済的背景を背負っていて、人間について、そして乾杯したいという抑えきれない欲望について、何らかの形で物語っている。 酒の時を超える能力。樽やボトルの中で何年もかけて熟成し、花開くアロマ。年代物のワインやウイスキーに私たちが魅了される理由も、そのあたりにありそうだ。こうした酒を味わうことは、過去を追体験し、現在を味わい、未来を想像する時間なのだ」(著書/世界お酒MAPS) うまく付き合えば良いこと尽くめの「お酒」 飲み手自身がきちんとお酒の魅力を認識し、正しく楽しく飲んでいれば、きっと自然と若者達も興味を示すだろう。 一丁前にワイングラスをくるくる回して香りを嗅いで「んー良い香り♪ ちょっとペロしていいー? 早く飲みたいー!」と、ワインを飲むとき必ずそばにやって来ては味見懇願する息子(5歳)は既にお酒に興味津々です。(笑) お酒を嗜む姿を見せていれば、きっと将来一緒に飲むことができるでしょう! 生産者:Farr Rising(ファーライジング) ワイン名: Saignee Barrel Fermented Pinot Noir 品種:Pinot Noir(ピノ・ノワール) ワインタイプ:Rose(ロゼ) 生産国:Australia(オーストラリア)  生産県:Geelong(ジーロング) 生産年:2013 販売元:ワインダイヤモンズ 参考小売価格:4500円(税別) 美しくオレンジがかった淡いチェリーピンク。香りは既に果実の域を超え、8年の熟成による妖艶なスパイスやドライフルーツ、トースト、樽香などが芳醇なブランデーを思わせる。非常にまろやかな口当たり、口の中で広がる優しい果実、香り同様のスパイス、果皮からのほのかなタンニンと苦味、それら複雑な味わいを強めの酸味がしっかり支えまとめている。余韻も非常に長い。大きめのグラスで15度以上がお勧め。 グラスにワインを注いでから一口目の余韻が終わるまでに数分を要する。 一気飲み不可能。 これぞまさに「嗜む」飲み物。 参考図書 「酒の起源」(Patrick E. McGovern) 「酒飲みの文化史」(青木英夫) 「世界を変えた6つの飲み物」(Tom Standage) 「カクテルの歴史」(Joseph M.Carlin) 「科学者が書いたワインの秘密 身体にやさしいワイン学」(清水健一) 「イギリス王位化学会科学者が教えるワイン学入門」(David Bird) 「医者が教える体にいい酒の飲み方」(宝島社) 「酒好き肝臓専門医が教える カラダにいい飲み方」(栗原毅) 「酒好き医師が教える 薬になるお酒の飲み方」(秋津としお) 「酒好き医師が教える 最高の飲み方」(葉石かおり) 「酒好き医師が教える もっと最高の飲み方 続編」(葉石かおり) <プロフィール> ソン ユガン / Yookwang Song Farmer 1980年宮城県仙台市生まれ。実家が飲食店を経営していたこともあり幼少時よりホールサービスを開始。2004年勤務先レストランにてワインに目覚めソムリエ資格取得後、2009年よりイタリアワイン産地を3ヶ月間巡ったのち渡豪、南オーストラリア「Smallfry Wines(Barossa Valley)」にて約1年間ブドウ栽培とワイン醸造を学ぶ。また、ワイン産地を旅しながら3つのレストランにてソムリエとして勤務。さらにニュージーランドのワイン産地を3ヶ月間巡り、2012年帰国。星付きレストランを含む、都内5つのレストランにてソムリエ、ヘッドソムリエとして勤務。 2018年10月家族で長野へ移住。ワイン用ブドウを軸に有機野菜の栽培をしながら、より自然でサスティナブルなライフスタイルを探求している。 2021年ブドウ初収穫/ワイン醸造開始予定。 現在も定期的に都内にてワインイベントやセミナーなどを開催。 日本 ソムリエ協会認定 シニアソムリエ 英国 WSET認定 ADVANCED CERTIFICATE 豪国 A+AUSTRALIAN WINE 認定 TRADE SPECIALIST

  • 日本酒の価値創造

    10月14日、「 プレミアム日本酒 創造LABO 」と題したセミナーが、「株式会社いまでや」 小倉秀一 氏(代表取締役)、「株式会社ヴァンパッシオン」 川上大介 氏(代表取締役)両名の主導の元、都内で開催された。 1990年 に特定名称酒の基準を含む「 清酒の製法品質表示基準 」が適用され、 1992年 に悪名高き 日本酒級別制度が完全廃止 されて以降長らくの間、日本酒の価値創造は、 「精米歩合」がその中核に置かれてきた 。 精米歩合が低くなればなるほど原価は上がり、製造工程上の手間(作業工数、作業時間)もかかる。さらに「しずく取り」といった工程を合わされば、総合的なコストはどんどん上がっていく。 実直な日本人は、その コストに対して素直な価格設定 をすることによって、 高精米=高級酒 という価値創造を行ってきた。現在まで続く特定名称酒の順調な成長曲線(清酒という大きなカテゴリーで見れば下降曲線)は、精米歩合という「分かりやすさ」に支えられてきたのは、間違いないだろう。 国税庁作成の「清酒の製法品質表示基準」詳細はこちらから セミナーの様子 競争の終焉 しかし、長きに渡る 「高精米競争」は既に終焉を迎えている 。 10%代前半、もしくはそれ以下という超高精米の日本酒は高額で販売されてきたが、 高額を肯定できるほどの高品質に直結するという印象を、消費者に植え付けることに失敗した のだ。 日本酒の「らしさ」の探求の過程において、 やみくもな高精米に対して疑問が浮かび上がってきた ことも大きいだろう。 日本酒とワインを隔てる決定的な要素 である「 アミノ酸 」の元となる タンパク質や脂質 は、 コメの外側により多く含まれる。でんぷん が主体となる心白だけになると、 アミノ酸含有量が少ない、よりすっきりとした味わいになる 。単純に考えると、よりすっきりしたものが高価格で、複雑な味わいのものが低価格であるという構造は、 ワインとは完全に真逆の価値観 だ。 この価値観の反転そのものは、日本酒らしさという意味において、高く評価すべきもの だと筆者は考える。しかし、真に 偉大な酒 とは、往々にして、 相反する要素を内包している ものだ。それはつまり、 軽やかさと複雑さの共存 、と言い換えることもできる。高精米競争は、極限まですっきりとした酒質に、積極的に麹や酵母の「色」をのせるという戦略に固執するあまり、この価値観(軽やかさと複雑さの共存)の創出に失敗したと言えるのでは無いだろうか。 さらに、 サスティナビリティに対する意識 が世界的に根付いてきたことも大きいだろう。消費者側から見れば単純に「そんなに削って勿体ない」という程度の認識だと考えられるが、酒蔵はより複雑な認識を抱えている。本記事で深堀りはしないが、 2018年に減反政策が廃止 されたことによる実質的な コメの自由化 (*)によって、積極的にコメ造りに参入する酒蔵は緩やかだが確実な増加傾向にある。自分で育てたコメの味をできるだけ豊かに表現したい、無駄にはしたくない。農家となった酒蔵がそう考えるのは当然だ。 *理解しやすくするために、本記事ではあえてコメの自由化による影響を単純化して記述している。詳細はまた別記事にて。 違いは何に宿るのか ワインに「 違い 」が宿る要因は、 1.テロワール、2.テロワールと品種の相性、3.畑仕事、4.醸造(技術的、手法的)、5.ヴィンテージ の5つに簡略化して集約することができる。 一方、日本酒の場合は、そう単純には行かない。少々専門用語の羅列になるが、理解が難しい方は、単純に「それらによって違いが生じる」と思っていただければ問題ない。 どれだけ単純化しても、以下のようになる。 1. 精米歩合 (主にアミノ酸の含有量に影響するが、他にもアミノ酸に関わる要素はある。) 2. 麹 (日本酒の99%以上は黄麹で造られているため、白麹や黒麹は考慮対象外としても、突き破精型と総破精型の違いは大きい。) 3. 水質 (超軟水、マグネシウム系軟水、カルシウム系軟水の違い。) 4. 乳酸菌:速醸、生もと、山廃 (培養した乳酸菌か、自然の乳酸菌かの違い。全く同じ乳酸菌であるはずだが、実際には味わいに違いが生じる。) 5. 酵母 (香りの面ではイソアミル優勢型、カプロン優勢型に大別でき、リンゴ酸やアミノ酸に強く影響するものや、発酵力、高アルコール耐性等、様々な特徴によって分かれる。) 6. コメ (品種による違い、産地による違い、慣行か有機か等の栽培方法による違い。) 7. 特殊製法 (しずく取り、木桶、菩提もと等による違い。) 8. その他製法 (火入れ、加水、濾過、清澄、アルコール添加といった様々な製法が大きな影響を与える。) 日本酒の「違い」を司る 変数 が、いかに多いかがご理解いただけただろうか。 有機米を使用するケースも増えてきたが、品質面での貢献はまだ未知数の部分が多い。 「違い」と「優劣」の関係 日本酒を取り巻く多種多様な変数によって生じる「違い」は、 必ずしも「優劣」に繋がるとは限らない 。むしろ、その変数のほとんどが、 直接的には横軸である「違い」に関連している ものであり、縦軸である「優劣」に対しては間接的にしか関連していないのだ。 その事実を目の当たりにすると、精米歩合による価値創造が破綻したいま、新たな価値創造がいかに困難な道のりであるかは、容易に想像が付くだろう。 しかし、困難だからと言って「優劣」の追求を諦めるのは、決して英断とは言えない。 「優劣」の価値観は、価値創造にとっては極めて重要な要素 であり、如何に多様性と個性の時代になったとしても、 不動の価値として共存し得る はずだからだ。 筆者個人としては、その「優劣」の尺度にワインの方法論を用いることには賛同しかねる が(西洋コンプレックスからの脱却は、日本酒業界にとって命題の一つとなっているのではないだろうか!)、あくまでも検証の材料として、本記事では取り上げていく。 ワインにおける「優劣」の判断基準は、大部分が公式な「 格付け 」に準拠している。ここでいう格付けとは、原産地呼称制度そのものを指しているのではなく、世界各地(主にヨーロッパ伝統国)の原産地呼称制度が部分的に内包している、 階層型の制度 のことだ。 この階層型格付けには、大きく分けて2つのパターンがある。 テロワールに基づいたブルゴーニュ型。 生産者に直接与えられるボルドー型。 である。 ブルゴーニュ型 日本酒にブルゴーニュ型を当てはめる場合、実は その土台は既に出来上がっている 。兵庫県の吉川、東条に代表される 特A地区 の存在だ。筆者の経験上、 特A地区のコメは、酒質に決定的な「優劣」をもたらす と断言できる。ワイン的な考えであるという点を除けば、日本酒の新たな価値創造にとって、最も有効な要素の一つであるのは間違いないが、それを統制する仕組みは無い。あくまでも任意である特A地区の表記は、本田商店(銘柄:龍力)のように表ラベルに堂々と書かれている場合もあれば、磯自慢酒造(銘柄:磯自慢)のように裏ラベルにひっそりと書かれている場合もある。どちらにしても、そのような情報を積極的にありがたがるのは、生粋のマニアに限られているのが現状だ。 現状では、数多くの蔵元が自発的にテロワールの違いをアピールしているだけだ。残念ながら、 この状況では、「集の力」が発揮されにくいし、途方もなく時間がかかる 。 もし、日本酒の新たな価値創造の一環として、ブルゴーニュ型の格付けを採用するのであれば、 国税庁 が主体となって、 厳格なルールを定める必要 がある。 具体的には、兵庫県の場合、特A地区というベースの上に、東条、秋津、吉川といった小単位の上位階層の 表示ルールを厳格化 した上で 検査体制を構築 し、表示を義務化するのは難しいとしても、 積極的な表示を推奨 していく必要があるだろう。場合によっては、特A地区米を使用した日本酒の最低販売価格を設定(四号瓶で一万円以上、等)した方が効果的かも知れない。もちろん、それは極めて時代錯誤なやり方であり、筆者自身はあまり賛同できないが、それほどの「カンフル剤」が必要な状況であることは、確かな事実だ。 ボルドー型 日本酒にボルドー型を当てはめるのは、正直賛同できない。いや、 理想論で言えば、悪くないアイデア なのかも知れないが、そこにはあくまでも、 極めて公正なものとして定められた場合のみ 、と言う厳しい条件がつく。酒蔵の長である蔵元は往々にして地域の有名人でもあり(それ自体は大変素晴らしいことだが)、世界屈指の 忖度社会 である日本で、 公正が保証される可能性は、万に一つも無い だろう。 仮に公正なボルドー型格付けを導入するとしても、 評価基準の設定が極めて難しい のは明白だ。客観的評価の基準として、 品評会等の成績 が挙げられる可能性は高いが、(酒蔵には申し訳ないが)全国新酒鑑評会にしろ、世界各国の様々なコンペティションにしろ、筆者はその結果を全く信用していない。それらの成績は、 少数の専門家による主観的評価の集合体に過ぎない からだ。そもそも、特定のスタイルの日本酒が受賞しやすい、などと言われている時点で、信憑性は限りなくゼロに近いし、多様性の中にある完成度を認めない時点で、あまりにも前時代的だ。 ボルドー型の派生系である サン=テミリオン型 のように、評価年から十数年以内の「市場価格」、「評論家の評点」といった要素を含めるのも、やはり前時代的発想である。 日本酒に関連する変数の多くは、酒蔵の「 技術 」として集約される。そして、その 技術差は当然酒質に現れる 。実態として、技術の高い酒蔵と、そうでない酒蔵が明確に分かれているにも関わらず、その技術を公正に評価する仕組みが無いために、日本でボルドー型を採用するのが実質的に不可能と考えられる現状には、もどかしい感情を禁じ得ない。 総合的主観評価 「違い」に関連する変数をどれだけ細かく議論しても、価値創造と言う大きな結果に繋がる可能性は低いだろう。横軸である「違い」は、どこまでも行っても「好みの問題」から抜け出すことはできないからだ。やはり、とりあえず現段階では、多様性や個性といった現代的価値観を横に置いてでも、「優劣」を中心に議論を重ねていくべきだと筆者は考える。 ブルゴーニュ型とボルドー型の検証からは、2つの「優劣」に関連した価値観が導き出されている。テロワールと技術だ。テロワールに関しては、国税庁(農林水産省)の働きに期待したいところではあるが、技術の評価には難題が山積している。おそらく、 テロワールと技術の両方を含む、公正かつ公的な評価の導入は、非現実的 だろう。国が動けないのであれば、私のような専門家が、皆様のような消費者が、日本酒に向き合っていく上での意識を変えていく必要がある。むしろ、(残念ながら)それが唯一の現実的な方法だろう。 実はもう一つ、優劣の判断基準となり得る変数がある。 熟成 、だ。 日本酒の熟成は非常に複雑で、まだまだ不明な部分も多いが、不確定要素が多い中でも、 熟成温度 は非常に大きな影響があることが明らかになっている。 室温(平均26度)、低温(平均13度)、冷温(平均4度)、氷温(氷点以下) と大まかに4つの熟成温度帯に分けることができるが、温度が高いほど熟成は早く、強く(褐色化、酸化的熟成)進み、氷温になると非常に遅く、緩やかな(ほぼ褐色化はせず、酸化的特徴もほとんど見られないが、複雑でまろやかな味わいになる傾向がある)進み方になる。 別の角度から見てみよう。十分に高い精米歩合(35%もあれば十分だろう)で、すっきりと軽やかな酒質を実現した上で、冷温、もしくは氷温の長期熟成によって、複雑性を高めていけば、偉大な酒の指標とも言える、 軽やかさと複雑さの共存が可能となる のだ。 室温熟成に関しては、非常に早く酸化的特徴が出てくるため、味わいにおける紹興酒との境界線が微妙になってくる。「違い」としては興味深いが、「優劣」とは位置付け難いだろう。 低温熟成は、非常に優れた古酒が、主に山廃、生もと系で造られているが、「違い」と「優劣」の狭間に位置すると考えるのが現状では妥当だと思う。 やはり、明確に「優劣」となり得る可能性が高いのは、冷温か氷温だ。 とはいえ、問題が無いわけでは無い。長期熟成を温度管理下で行った場合、その温度が低くなればなるほど、コストが上がる。つまり、価格にもより色濃く反映される。 一方で、これはワインにおいても同様なのだが、 長く熟成させる=美味くなる、とは全く限らない 、と言う難点も生じる上に、「飲み頃」の評価自体が、かなり主観的だ。 筆者自身は、精緻に管理された熟成を経て出荷された日本酒は、まさに極上の名にふさわしいものと考えているが、その価値観が多数と共有し得るものであるのか、そうで無いのかは、正直定かでは無い。 このように、日本酒の新たな価値創造は、前途多難だ。 しかし、いくつかの可能性は確かに示されている。 テロワール、技術、熟成。 客観性をもたせることが難しいなら、「優劣」となり得る可能性を絞り込んだ上で、それらを総合的に、かつ主観的に深く捉え、評価基準を構築していくと言う方法もある。 品評会等の成績は気にせずに、一人一人が真摯に、主観的に向き合えば、おのずと道は開かれていくだろう。 「優劣」の本質とは、そういうものだ 。 そして、最後に消費者の立場にある方々にお願いをしたい。 新たな価値創造が進めば、一部の日本酒の値段は跳ね上がる(既に跳ね上がっている銘柄も多々出現している)だろう。これまでの常識が覆されることもきっとある。場合によっては、精米歩合80%で、四合瓶価格三万円という日本酒が登場する可能性すらあるだろう。 もし、そのような変化が起こったときは、喜んでいただきたい。 日本酒の、新たな価値が、認められたのだと。

  • 「ヴァン・グリ」って何でしょうか!?

    直訳すれば「 灰色ワイン 」。 今日は淡いロゼのような色合いの「 Vin Gris (ヴァン・グリ)」というカテゴリーのブルゴーニュワインをご紹介します。 「ヴァン・グリ」は フランスでは昔から造られている ワインですが、近年あまり見かけなくなり、日本へ輸入しているインポーターさんも少なくなりました。 最近だと日本の甲州を使用した淡い色のワイン(グリ・ド・グリなどと書いてあるワイン)やニュー・カリフォルニアと呼ばれる生産者がラベルにVin Grisと記載してリリースしているものもありますが、基本は ロゼワイン 、いまいちヴァン・グリとして世の中に認知されていないのが現実。 今一度理解すべく色々と買い、調べながら飲んでいたのですが、「ブルゴーニュ地方」で「ピノ・グリ」を使った「ヴァン・グリ」がとても美味しくてビックリしました・・・。 ブルゴーニュのワインであれば注目度も高く、面白く、皆様のワイン会にも使いやすいかな、と思い、この機会に紹介してみる事にしました。 まず『え?ヴァン・グリって何?ロゼじゃないの?』と思われる方も多いと思います。 フランスには昔からあるカテゴリーなのですが、いかんせんマイナーすぎて聞き慣れない言葉。 一体どんなワインなのでしょうか? フランス農業省の定義によると 「ヴァン・グリは『白い果肉で金色の果皮』の葡萄(ピノ・グリなどの灰色の品種と呼ばれるもの)や黒葡萄を直ちに圧搾して、白ワインと同じように造られるワインの事である。」 「白葡萄のみから造られる辛口の白ワインをブラン・ド・ブランと呼ぶのと同様に、ピノ・グリのような灰色の葡萄のみから造られるワインをグリ・ド・グリと呼び、これは“独特の色の薄さが特徴となるロゼワインの事”である。」 「美しいサーモンピンクの淡い色合いで、スグリやカシスのような赤い果実のアロマを纏ったワインが多く、生き生きとした味わいが感じられる。 冷やすとより風味が際立ち、若い内から楽しむべきものである。」 と記載があります。 一応ロゼはロゼでも、 グリ色の果皮を持つ葡萄品種や黒葡萄を直接圧搾 して、 果皮は漬け込まず に造られた、 淡いオレンジ~ロゼ色のワイン の事。 黒葡萄で造る場合は少し黄色~オレンジがかったブラン・ド・ノワール(黒葡萄で造る白ワイン)、のようなイメージでしょうか。 比較的有名・・・でもないですが、知られているのは「フランス3大ヴァン・グリ」と呼ばれるワインで 『 ピノ・ムニエ から造られる オルレアン のワイン』 『ロワール上流域 ルイィ で仕込まれる ピノ・グリ のワイン』 『 ロレーヌ 地方でガメイやピノ・ノワール、オーセロワから造られる グリ・ド・トゥール 』 の3種類。 この地方、地区では何人かの生産者が同じ方向を向き「ヴァン・グリ」と呼ばれるワインを造っています。 そして、今回ご紹介するのはブルゴーニュ地方北部(シャブリの北西)で造られるピノ・グリを使った、フランスのもう一つの「ヴァン・グリ」! 生産者: アラン・エ・ジュリアン・ヴィニョ ワイン名: ブルゴーニュ コート・サン・ジャック ピノ・グリ 葡萄品種 :ピノ・グリ100% ワインタイプ :ヴァン・グリ(ロゼ) 生産国 :フランス 生産地 :ブルゴーニュ ヴィンテージ :2019 インポーター :アズマコーポレーション 参考小売価格 :2,890円(税抜) 3,179円(税込) シャブリの北西 に位置する コート・サン・ジャック という地区は 1975年 に認められたブルゴーニュのAOPで、栽培面積は僅か 12ha ほど、 3名の生産者 しかいないという小さな小さな産地。 アラン・エ・ジュリアン・ヴィニョの現当主 アラン・ヴィニョ 氏の祖父が1934年にこの土地で葡萄栽培を始め、代々コート・サン・ジャックを造り続けています。 淡いオレンジのような色合いで、黄桃や若いパイナップルのような果実味とグレープフルーツのような酸が乗り、樽の香ばしさも心地よい。 少しモダンな樽の効いたシャルドネの要素と、アルザスの華やかな品種が合わさったような、ワイン単体で飲んで美味しいワイン。 コート・サン・ジャックでは今は白ワインや赤ワインも造られていますが、その昔はピノ・グリを用いたこのヴァン・グリが主流だったとの事。 あまりに美味しく「これで私の中でフランス4大ヴァン・グリになってしまった・・・」と唸りました。 あまり見かけないワインですが、これでブルゴーニュワイン会のラインナップが一つ増えるのではないでしょうか? 「クレマン・ド・ブルゴーニュ」 「サン・ブリ ソーヴィニヨン・ブラン」 「ブーズロン アリゴテ」 「ピノ・ブーロやピノ・ブラン」 「シャブリ」 「マコネーのシャルドネ」 「コート・ド・ニュイのシャルドネ」 「コート・ド・ボーヌのシャルドネ」 「コート・サン・ジャック ピノ・グリ」 「マルサネ ロゼ」 「クリュ・ボージョレ」 「ブルゴーニュ・パストゥグラン」 「イランシー」 「コート・ド・ボーヌのピノ・ノワール」 「コート・ド・ニュイのピノ・ノワール」 「ヴィレ・クレッセの貴腐ワイン」 「リキキ(ボージョレ地方で造られる甘口)」 「ラタフィア・ド・ブルゴーニュ」 など、泡から甘口まで色々揃えられるのもブルゴーニュ地方の楽しいところ。 細かく分けるとキリがありませんが、マイナーなブルゴーニュだけのワイン会ができたら面白そうだなぁ・・・なんて考えながらこの新型コロナ禍を過ごしております。 ロゼだけ揃えて楽しむ時に1本入れてもよし、何か面白いワインを持って行く時に使ってもよし、ソムリエさんへのブラインドテイスティングで試すもよし。 ピンク色のロゼワインとは違う、「ヴァン・グリ」というカテゴリーのワイン、どこかで出会えたなら、1本試してみてはいかがでしょうか? それでは。 <ソムリエプロフィール> 沼田 英之 / Hideyuki Numata WINE MARKET PARTY 店長 1978年東京生まれ。 ホテルのレストラン、バーで経験を積み、イタリアのトスカーナへ留学。 帰国後ホテルのフレンチレストランでソムリエとして従事し、フランスワインを勉強する為、2008年にフランスワイン専門店ラ・ヴィネに入社。2012年より姉妹店であるWINE MARKET PARTY店長として働く。飲食店へのワインリスト制作、料理研究家の方向けのワイン講師、企業向けのワインセミナー、個別のワインサロンなども多数行っている。 恵比寿ガーデンプレイスにあるワインショップ。100坪ある店内は常時1,200種類以上のワインを揃え、世界中のワイン、食品、雑貨、書籍などを取り扱う。 併設している姉妹店フランスワイン専門店ラ・ヴィネにはマニアックなフランスワインを含め1,000種類近いワインが並ぶ。 計2,000種類以上のワインが揃う、日本屈指の大型ワインショップ。 テイスティングコーナーも併設しており、常時25種類以上のグラスワインが楽しめる。

  • Rockford=粋なオージーワイン

    このコラムでは、私が粋(Iki=生=活)と感じるワインを色々と紹介させていただきたいと思っております。 このワインは今注目のワインでも、頻繁に話題に出てくるようなワイナリーでもありません。しかし、 多くのワイン有識者を虜にして離さないワイン であり、それが意外と語られることがないことから、今回あえて取り上げました。全くと言っていいほど情報を開示しておらず、今回のコラムにあたり事実確認のために方々調べましたが、かなり謎めいており神秘に包まれているため、殆ど情報が出てきませんでした。 そのワイナリーの名前 「ロックフォードRockford」 この名前を聞いてジ〜ンとくる方はかなりのワインラヴァーだと推察します。 ここのワイナリーが凄いのは、オーストラリア( 以下オージー )ワインを代表する品種シラーズにおいて、これ以上ない3つのワインとして、様々な論評で常に ペンフォールズ ”グランジ” Penfolds “Grange”、ヘンチキ ”ヒル・オブ・グレース” Henschke “Hill of Grace” に並び、今ご紹介する ロックフォード “バスケット プレス シラーズ” が入っている点だ! 生産者: Rockford Wines / ロックフォード ワイン名:Basket Press Shiraz / バスケット・プレス シラーズ 葡萄品種:Shiraz / シラーズ ワインタイプ:赤ワイン 生産国:オーストラリア / Australia 生産地:Barossa Valley, South Australia / バロッサ・ヴァレー, 南オーストラリア ヴィンテージ:2013 インポーター:kp Orchard 参考小売価格:¥9,500 オージーワインの評論家 ジェームズ・ハリディJames Hallidayは 「この産地を象徴する、説明する必要のないワインとして「ペンフォールズ “グランジ”と並ぶ存在」 として紹介している。同時に 「ヘンチキ “ヒル・オブ・グレース”ほど希少だ」 とも書いている。他の2つのワインは言わずと知れた世界的ワインであり、その評価、その価格(日本円で10万円級)共にトップ中のトップのワイン。ここにその2つのワインの1/10ほどの価格のワインが並び賞賛されている。何故なのか?! また、オージーの権威あるワインの指標 「ラングトンズ」 においても、オージー全生産者の中の わずか20銘柄 ほどしか選ばれない最高評価 「エクセプショナル」 に常に属する。 今回記載していることは、調べても書かれていないことが多く含まれているので、必要な人にとっては有益な資料になると思う。 今、南オーストラリア/アデレード・ヒルズ “バスケット・レンジBasket Range※” が、ナチュラルな造りをするワイン生産者が集まる“聖地”として熱いエリアであるのは、ワインラヴァーの間では周知の事実。これらのムーブメントを“ ニュー・ウェーヴ ”と呼ぶのに対して、従来の、極めてクラシカルであり、濃厚且つ力強いティピカルなオージースタイルのワインを“ オールド・ウェーヴ ”と呼んだりする。で、今日話しをするのは、オールド・ウェーヴの方の造り手に属するだろう。 「な〜んだ古いスタイルのワイン?!興味ないな」って思わないで、ちょっと聞いてほしい。 ※ バスケット・レンジ:アデレードの中心地から東に向いほど近いワインエリア“アデレード・ヒルズ”の中の小さな町。近年このあたりに志を同じくしたような生産者が集まり、BKワインズ、ジェントル・フォークなど活躍しているワイナリーがひしめく。 というのも、一つは、このワイナリー、ナチュラルなワインを追求しクラシカルなワインをそれほど重んじない人の中にも、実はファンがいるということ(決してこのワイナリーのスタイルがナチュラルな味すじではないが)。次にオールド・ウェーヴなスタイルながら、割と エレガントに仕上げられている という点がある。 バロッサ・ヴァレーは、南オーストラリア州の中でも重要なワイン産地。アデレードの街の北東60キロに位置する、車で1時間くらいのところにあるのどかな渓谷で、ここに150以上のワイナリーが点在、 “ペンフォールズPenfolds”、“ジェイコブス・クリークJacob's Creek”、“ヤルンバYalumba”、“ウルフ・ブラスWolf Blass”、“ヘンチキHenschke” などのビッグネームが名を連ねる。この地の地形が ドイツの銘醸地ライン川流域に類似している ことからブドウの栽培が始まったといわれ、 180年の歴史 とともに、その時代に植樹したであろう 世界でも最古の部類に入る貴重な樹も残る 、オーストラリア屈指の、そして世界有数のワイン産地として知られる。 黒ブドウ品種が多く栽培され、特に “シラーズShiraz” の栽培面積が50%を占めることから、“ シラーズの首都 ”ともいわれている。フランス/コート・デュ・ローヌ地方のブドウ品種“シラーSyrah”が持ち込まれ、その当時のオージーで “シラス” と呼ばれたこの品種は、元祖とはまた違った独自の個性をこの地で産み出した。この“オージー・シラーズ”の特徴は、高いアルコール濃度、甘く果実味溢れるプラムやブラック・チェリーのようなフルーツに、チョコレートやコーヒーリキュールなどの香り、熟した豊富なタンニンと凝縮感が魅力。このバロッサ・ヴァレーではその特徴が更に顕著に表れる。 こんなバロッサ・ヴァレーにロックフォードはある。シラーズとカベルネ・ソーヴィニヨンなど赤ワインのトップワインを製造している他、白、ロゼ、泡、フォーティファイドなども造っている。オーナー ワインメーカーの “ロバート・オカラハンRobert O'Callaghan” は、1960年代半ば、バロッサにあるワイナリー“セペルツフィールドSeppeltsfield”で研修生としてワインメイキングのキャリアをスタートさせ、1970年代にバロッサで2haの土地を購入。その後、今のワイナリーの場所に元々あった1850年代の石造りの建物と古い醸造設備を購入し、ワイナリーを興した。ここが、今のプライベートなテイスティングルームが現存する古い建物にあたり、それを元に新たに増築した醸造所なども含め、上手く模倣復元しワイナリーの統一感を出している。1984年がファーストヴィンテージとなる。 訪れればわかる、そのたたずまい。その雰囲気だけで誠に心地よく、まず言葉には表せないような世界へと誘なってくれる。母屋に入れば古く格調高いテイスティングルームのおもむきから、癒やしとか、何ともいえない気分に包まれる。 ワイナリーの名前“ROCKFORD”とは、ワイナリーは“クロンドルフ ロード Krondorf Road”という道沿いにあるため、当初“KRONDORF”の名前を付けようと考えていたらしいが、既にその名前が登記されていたため、このアルファベットをミックスして“ROCKFORD”という名前をひねり出したのだとか。。いわゆる アナグラム だ。 ワイナリーを見せてもらえば、 近代的な設備はほぼ皆無 、人工的なことを嫌い、とても伝統的。ん〜土や木、石のにおい。フラッグシップのワインの名前“バスケット・プレス・シラーズ”にあるように、使われている機材は 大小のバスケットプレス (木製の伝統的圧搾機)をはじめ、 1800年代の除梗機 や、 オープントップのコンクリート発酵槽 など、昔からのものを直しながら大切に使い続けているという。現代にあって、よくこの設備であれだけのワインが造れるなぁと感心させられる。ここに、オーナーであるロバートのフィロソフィーを感じずにはいられない。 ワイナリーの年間の生産量は非公開だが、おおよそ30000ケースほどだといわれている。 バロッサを中心 に、 イーデンバレーEden Valley、カリムナKalimna などにブドウ畑を持ち、その他に、バロッサ周辺の決まった契約ブドウ栽培家からの供給により、様々な種類の土壌、気候、標高を得ることができており、それらが ロックフォードのワインの複雑性を産む のだとか。ブドウの木の多くは 独自の台木 を使い、世界ではレアなフィロキセラに侵されていない産地故、 100年を超える古木は自根 で、フラッグシップのバスケット・プレス・シラーズにおいては年産1500~2000ケース程度と推察されるが、樹齢60~140年、数ヶ所の自社畑と長く契約している畑のブドウをブレンドして醸され、フレンチとアメリカンの2つのオークで約2年間熟成されてから瓶詰めされる。 バスケット・プレス・シラーズは、ヴィンテージの差はあれど、若いうちはダークルビーの色調から、プラムやラズベリーのドライフルーツに、スパイスやチョコミント、ナッツなどが感じられ、少し熟成させると葉巻や腐葉土の香りが楽しめるようになる。口中では中程度のタンニンがまろやかで、舌の上で程よくざらつくテクスチャーがあり、酸味とセイバリーさも備わる。この地のシラーズにしては重たくはなく、だが長い余韻が楽しめる。 凝縮度を追求したワインではない と感じる このワイナリーには、バスケット・プレス・シラーズ以外の有名なワインが幾つもある。 “Rifle Range Cabernet Sauvignon”、“Sparkrinning Black Shiraz”、“Rod & Spur Shiraz Cabernet” などが代表的で、個人的には アリカンテを使ったロゼ もかなり魅力的だと思っている。なお一般には知られていないが “SVS-Single Vineyard Selection” という単一畑のキュヴェを、 良年のみリリースしたことがある(1996, 1999, 2002, 2004, 2005, 2006)。 -------------------------------------------- ここまでが概略。 ここからは、何故このワイナリーがそれほどまで高い評価(点数ではない)を得ているのか、という話しを是非聞いてほしい。グランジやヒル・オブ・グレースに比べ、そこまで名を聞くことがないにも関わらず、何故そこまでいわれるのか?! それは、おそらく “ 尊敬”されているから なのだと思う。 どこが? どのように? その理由はいくつもある。 例えば、 販売方法を長い間変えず一貫しており、価格もそれほど上げず、味わいも時代の流行りと関係なく仕上げ、決して出しゃばろうとせず、目立とうとせず、奥ゆかしい存在に徹している という点。ワインの味わいからもそれが伝わるような印象。 販売方法に関しては、セラードアの他には、今も、熱心な顧客を中心としたメーリングリスターに、あとは長い付き合いのある地元のレストランやワインショップ、限られた一部の海外に輸出されているのみ。なかなか新規は入り込めない。これでは、そうそうお目にかかれないのも当然だ。 また手間を惜しまず、元々建物を購入した時にあった古い機材を修復したりしながら、それを大切に使い続けているという点。 さらに凄いのは、ありえない醸造家を世に排出しているという点。実はこのワイナリーから、世界的ワインメーカーが独立していて、それが1人ではないのだ。 誰なのか? 1人は “クリス・リングランドChris Ringland” !泣く子も黙るオージー最強のワインであり、あの伝説の “スリー・リバーズThree Rivers(現クリス・リングランド)” !ってあるでしょ。そのワインの生産者であり、個人でパーカー100点を世界で最も入手している人物。彼はロックフォードに1980年代半ばから18年間在籍している。つまり10年以上にわたりロックフォードにも居ながらにして、クリス自身のワイン“スリー・リバーズ”を造っていた。クリスのロックフォードでの足跡として挙げられるのは、ロックフォードの主義である“様々なエリアのワインをブレンドするワイン造り”に対して、“シングルヴィンヤード主義”のクリスが、先に触れたSVS-Single Vineyard Selectionという良年のみの単一畑シリーズをワイナリーに提案したこと。結果、ブレンド主義のロックフォードにあって、かなり珍しいシングルヴィンヤードものといえるワインをリリースするに及んだ。これはクリスのイマジネーションから産まれたものらしく、その話しを聞くとロックフォードがシングルヴィンヤードを出したことも、なるほどうなずける。 そして2人目が “デヴィッド・パウエルDavid Powell”!“ラン・リグRunRig”、“ザ・レアードTha Laird”、“レ・ザミLes Amis” をはじめとする元 “トルブレックTorbreck” の人。デヴィッドもまた、(トルブレックに)パーカーが100点を何度も与えたワインメーカー。 2人はロバートの繋がりでワイナリーで働き、学び、卒業していった。驚きの事実である。オージーを代表するこの比類なきワインメーカーを2人も排出している。こんな偶然があるのか???一番最初その話を知った時、藤巻は鳥肌がたった。これだけでどれほどのことなのか?! ワイン界における天変地異が起こってもおかしくないほどの事実!! また、この2人の造るワイン「クリス・リングランド」「トルブレック」に共通しているのは、重さ、アルコール度の高さと強烈な凝縮されたスタイルなのだが、ロックフォードのワインには、この2人に共通した重さや濃さがないことがとても不思議だ。同時に それがロックフォードの魅力 なのである。ロックフォード在籍時に、 オーナーであるロバートのスタイルを2人は守り、表現していた ということになる。現在のワインメーカーは、バロッサ出身の “ベン・ラッドフォードBen Radford” で、彼は南ア/ステンレスボッシュでワインメーカーとしての経験をもち、2006年にロックフォードに参加したが、このようにワインメーカーが変わろうと、ロックフォードのワイナリーとしてのスタイルは、それほど変わらない。 それにしても、よくぞこのワインが日本にも輸入できたのだと思えてならない。日本に入ってきた時は驚いた。だって 現地でも入手困難 なのだから。しかもあの憧れのワイン!! これは輸入元 “kpオーチャード” さんの熱意と諦めない努力なくしては成し得なかった。話しを聞けば、kpオーチャードの谷上社長は、このワインを日本に紹介したい一心で、オージーを訪れる度にこのワイナリーへ通い、その都度「売るものがない」と断られ、でも諦めず、の繰り返しだったという。それを長年繰り返していたある時、なんとワイナリーから「売るものがある」といわれたのだ。これには運もあったと谷上社長はおっしゃる。リーマンショックの影響で、米国へ輸出する分をそのまま譲り受けることができたのだと。これをきっかけに、その後継続的に日本へも割り当ててもらえるようになった。 個人的に思うのは、これはたまたまではない。通いつづけた努力がなければ成し得なかったわけだし、その情熱がワイナリーにも伝わったのだと勝手に思っている。こうして日本への割り当てをいただけるようになった。 どのようにしてロックフォードのワインを入手できるのか?! このワイナリーのワインは 普通では売っていない 。書いたように、販売方法は限られており、基本的に顧客主義。セラードア以外では、ずっと購入してくれているメーリングリスターに販売する方法を重んじている。また、ロックフォードでは、実は、長年にわたるメールオーダーの顧客の中で、招待を受けた顧客のみ入会が許される更にもう一段階プライベートな“Rockford Stone Wall Society”という名のファンクラブがある。セラードアで入ることができるテイスティングルームの奥には、このメンバーにしか通ることができない特別なテイスティングルームもある。そして、毎週、招待された16名の Rockford Stone Wall Societyのメンバーとワイナリーにあるダイニングルームで、オーナーであるロバートとランチを共にすることができる。何という贅沢なのか。。 そして、このメンバーでしか購入することのできないSparkling Black Shiraz、Shiraz VP (Fortified)、Botrytis Cinerea Semillon、PW Mayflower Cane Cut Semillonなど、限定のワインが存在する。こうして、ロックフォードは、顧客を大切にしながら顧客販売を中心に運営している。あとは小売やレストランなのだが、オージー国内の大都市、シドニーやメルボルン、アデレードのレストランやワインショップでも数軒しか扱いがなく、現地でも極めて入手困難。輸出も、限られた国にしかされていない。 なるほど、容易には手に入らないはずである。しかし、日本には正規代理店“kpオーチャード”さんがあるので、ネットや専門店などで探せば入手することができる。約10年強前、2010年くらいから輸入されるようになり、今に至る。日本への割り当ては、バスケット・プレス・シラーズで毎年50~60ケース輸入されている。その意味で、日本はこのロックフォードが入手しやすい国であり、そうした環境にあると思うと実に恵まれていて、その幸せ感を噛み締めながら、締めさせていただければと思う。 いかかでしたでしょうか? ロックフォードのワインにご興味をもっていただけたでしょうか?もしまだ飲んだことがないという方には、是非一度入手していただきたいです。 ※ イキ(粋=活=生)なワインとは自分的に、 粋(イキ)=「イカしている」「BadassとかCool(ヤバイ,渋い,やんちゃな)」ワイン 活(イキ)=「活力のある」「活気に満ち溢れた」「活き活きとした」ワイン 生(イキ)=「生き生きとした」「生の」「今の」「旬の」情報またはワイン のことをいう <ソムリエプロフィール> 藤巻 暁 / Akira Fujimaki 1966年新潟生まれ。東急百貨店本店和洋酒売場に勤務。アカデミー・デュ・ヴァン講師。大学在学中からワインに魅せられ、ワイン産地を周遊。その後飲食店やワインバーでの勤務を経て現職。

  • 久住高原に宿る山のテロワール

    ある特定の果樹に、並々ならぬ興味と関心をもち続ける。 我々の行動は人々に奇妙に映っているのかもしれない。休日や暇な時間を見つけては、一般人が好むレジャースポットには目もくれず果樹を愛でる旅に出かけ、時には海を越え異国の地にまで赴くこともある。この果樹とはブドウの樹。一房のブドウが酵母という微生物の力を借りてワインという人々を魅了する液体へと変化し、それは毎年繰り返される。その生命の神秘と循環に魅了されるのであろう。我々にとってブドウ樹の畑を訪れることは勉強であると同時に、この上ない非日常的な楽しみのひとつでもある。 私がソムリエを目指すことを決意したのは20代前半の頃だが、修業先に選んだのは美食の街・東京やニューヨークでもなく、ワインの本場パリでもミラノでもない。大分県の山奥にある 久住高原 である。超がつくほどの“ ど田舎 ”だ。阿蘇くじゅう国立公園に属し、標高600から1,100メートル、希少野生動植物が生息する広大な草原を有する。 SDGs の目標のひとつに“ 陸の豊かさを守ろう(英Life on Land) ”というものがあるが、この考え方が生まれるはるか昔から景観や生態系を守るための野焼きや放牧が、数百年を超える伝統として行われてきた自然豊かな土地である。 そんな久住高原に位置するリゾートホテル『レゾネイトクラブくじゅう』に、約5年間お世話になった。自然と“共鳴する”(Resonate)をコンセプトとする宿泊施設で、まわりの生態系に配慮した木造の建物、紅殻之湯と呼ばれる赤褐色の上質な温泉、豊後牛を名物料理とするフレンチと季節を感じる日本料理のレストランが魅力のホテルである。 大分では“とても”や“非常に”を表現する際には、“ しんけん ”という方言を使うことが多い。関連があるかはわからないが、印象として大分には物事を真剣に取り組む人たちが多いと感じている。ホテルの周りは自然豊かで穏やかな空気が流れていたが、レストランの現場は常に緊張感が張り詰めていた。シェフもスーシェフもマネージャーもソムリエも、相手が新人だろうと中途半端な仕事を見逃すことはなかった。ヘマをしたり気合いが抜けていたときには、容赦なく雷が落ちてきた。時には凹むほど叱られることもあったが、そんな経験も今となっては良い思い出である。熱い情熱を持った先輩方に鍛えられ、ソムリエコンクールを勝ち抜けるほどの強いメンタルを身につけることができた。 久住で修行して良かったことはこれだけではない。ブドウの樹、ブドウ畑が日常の光景に溶け込んでいたことだ。職場から車で10分ほどのところに 久住ワイナリー があり、毎日このブドウ畑の脇道を車で通勤していた。ワインの勉強のために、わざわざ遠くまでブドウ畑を見に行く必要がなかったのだ。久住のブドウ畑は山梨県勝沼のような日本的なブドウ畑の光景ではなく、くじゅう連山の麓に広がる約6ヘクタールの一枚畑はまるでアペニン山脈の麓に広がるタウラージ(*1)のような広大な景観を持つ。ワイン生産者の多くがブドウ畑を取り巻く生物多様性の重要さを指摘するが、この久住ワイナリーの環境は日本でもトップクラスの 生物多様性 を誇るのではないかと思われる。雄大な自然の中で四季の変化を感じながら、休眠、萌芽、展葉、開花、結実、色付きといった、ブドウの樹が種を残し生命を維持するために行う必要な活動を年中いつでも見ることができ、肌で感じることができた。 *1タウラージ:イタリア・カンパーニャ州の銘醸赤ワイン。葡萄品種はアリアニコ。イタリア全土でも最も偉大な赤ワインの一つに数え上げられる。 久住ワイナリーは標高約 850メートル の場所にあり、九州のワイナリーの中では 冷涼な気候で冬には雪も積もる。粘土質土壌 の上に 酸性の火山灰土 による 黒ボク土 が50~100センチ程度広がっており、2002年からブドウが植樹されている。ワイナリーのオープンは2006年でオープンしてすぐにワインを購入した。ファーストヴィンテージは2005年だっただろうか。最初のシャルドネは甘口だった。非常に飲みやすい白ワインという印象で、ピノ・ノワールやメルローも飲みやすいが物足りなさを感じた。当時はソムリエになりたての頃でテイスターとして未熟だったという前提だが、久住で本格的ワインを造るのは厳しいのでは、というのが最初の率直な評価だったと記憶している。ところが時が経つにつれてその評価は誤りだったと気付かされる。 久住でのワイン造りの難しさは、収穫のタイミングも関係している。気候が冷涼であるため九州の他のワイナリーと比較して 収穫が数週間から1ヶ月ほど遅い 。常に 台風の通り道 となる九州において収穫が遅いというのは、 台風の風にさらされるリスクが高くなる ということである。美しい自然は時に、我々に思いがけない試練を与えることがあることを思い知らされる。だからこそ嵐を乗り越え素晴らしいワインができたときの感動は、言葉では言い表せない。ファーストヴィンテージの時に酷評した久住ワイナリー・ピノ・ノワール2010年は、「ここまで変わるのか」と、 これまでに飲んだあらゆるワインの中でも最も感動したワインのひとつ である。 2018年ヴィンテージからは支配人だった 土持浩嗣 さんが醸造家としてもデビューして、素晴らしいワインをリリースしている。現在では特にシャルドネによる白ワインと、“くしふるの夢”という独自の山ブドウを使用した赤ワイン造りに力を入れているそうだ。より久住らしいワインを造ろうと、努力されているのがうかがえる。土持さんのシャルドネは冷涼な気候を反映した涼しげなアロマと伸びのある綺麗な酸、心地よいミネラル感が特徴だ。樽のトリートメントもしっかりコントロールされている。イタリアで例えると山岳地帯のヴァッレ・ダオスタやトレンティーノのシャルドネに似ており、他の九州産シャルドネでは表現できない 山のテロワール が明確に刻印されている。 久住ワイナリーを語る上で、どうしても忘れられない思い出がもうひとつある。久住を離れ福岡のイタリアンレストランで働きはじめてすぐの頃、ミゾレ(仮名)という同僚がいた。歳は10ほども離れていたが陽気な性格で友人も多かった。口数が少なく後輩の面倒見が決して良いとはいえない私にも、不思議とミゾレはなついてくれていた。 ミゾレはソムリエには興味がなく、ワインを深く勉強するタイプではなかったが、お酒を飲むのは好きだったようだ。仕事帰りにコンビニで缶ビールをおご らされたことも何度かある。なにか面白そうな物事はないか、アンテナを常に張っている感じで何かしらお酒関係のイベントに参加する時にはよくついてきていた。福岡では九州のワイナリーが一堂に集う九州ワインフェスタというイベントが開催されているが、これも同様に。特に久住ワイナリーが好きでブースに入り浸っては、土持さんやスタッフさんたちと楽しそうに話をしていたのをよく覚えている。 8年前の2013年、収穫前の久住ワイナリーを台風が襲った。風で傷ついたブドウがあるため急いでブドウを収穫する必要があり、休日を利用して参加することにした。一人でも多く人手が欲しいとの情報があったため、ミゾレも誘った。ブドウ狩りは楽しみだと喜んでいた。ブドウ狩りとは少し違う気もしたのだが、台風が過ぎ去った心地よい秋晴れの中でミゾレは一房一房のブドウを愛でるように収穫を楽しんでいた。 この原稿を書き上げている7月某日は、ミゾレの命日である。3年前の暑い夏の日に、ミゾレは突然倒れた。ご家族の話では亡くなる当日まで、いつもと変わらず元気な様子だったそうだ。早すぎる旅立ち…3年が過ぎた今でもこの時期になるとやりきれない思いがこみ上げてくるが、人はいつの日か自然の元へ帰らなければならない宿命を負っている。それまでは与えられた時間を力強く生きていきたいと改めて思う。 今回、数あるワインの中からこの一本を選んだ。生命溢れるブドウの樹から生まれたこのワインは美しく素晴らしい。 生産者:久住ワイナリー ワイン名:シャルドネ樽熟成 ブドウ品種:自社農園シャルドネ100% ワインタイプ:白ワイン 生産国:日本 生産地:大分県竹田市久住高原 ヴィンテージ:2018 参考小売価格:3,350円 詳細はこちら。ワインの購入もできます。 http://www.kuju-winery.co.jp 〈ソムリエプロフィール〉 田上 清一郎 / Seiichiro Tanoue 天草 天空の船 レストランマネージャー・ソムリエ 1977年 熊本県生まれ。 2004年 JSAソムリエ呼称資格取得後、大分、福岡、熊本、九州各地のホテル・レストランで研鑽を積む。 2018年 第12回イタリアワイン・ベストソムリエコンクールJETCUPにて優勝。東京圏、大阪圏以外から初のJETCUPチャンピオンとなる。 2018年 駐日イタリア大使館公認 イタリアワイン大使 拝命 〈天草 天空の船〉 熊本県上天草市に位置する全15室のリゾートホテル。天草の海の幸を提供するリストランテ、プール、エステ、各部屋には天然温泉の露天風呂を備える。ディナータイムには西海岸に沈んでいく絶景の夕陽を見ながらの食事が楽しめる。

  • SDGsが問う、世界最大産地の「造る責任」

    中央スペインのラ・マンチャD.Oは、原産地呼称が認められている 単独の産地としては世界最大 の範囲(四国を少し小さくした程度の面積)に広がり、D.Oで認定された葡萄畑の面積は 157,000ha を超えるという、圧倒的なスケールを誇っている。 標高600~800mの高地に位置するこの広大な高原は、年間3,000時間という日照量と、年間降雨量300~400mmという乾燥した気候に恵まれ、起伏の少ない平坦な大地は、より大きなスケールでのワイン生産を叶えるための、理想的な条件に加わっている。 さらに、これだけの広大な面積がありながら、ワイナリーの数はたったの 249 しか無いことからも、ラ・マンチャがいかに「 超大量生産型 」の産地として確立しているかが伺えるだろう。 スペインワイン産業の心臓とも言えるこの広大な産地には、 可能な限り安価に大量にワインを生産し、世界中の低価格ワイン市場のニーズを満たす役割 があった。言い換えれば、それだけを守っていれば良かったのだ。少なくとも、世界がサステイナブル社会へと突入するまでは。 しかし、21世紀に入ると、これまで通りではいられなくなった。 超大量生産型のワイン産業は、一歩間違えれば、地球環境にとって極めて危険な存在となる ことが、一般的な認識として浸透してきてしまった。悪名高き環境破壊型産地となるか、超大量生産とエシカルな在り方を両立するモデルケースと変わるか。ラ・マンチャは産地をあげて、後者を選んだ。しかも、急スピードで。 さらに、ラ・マンチャの変革は、単純な葡萄畑とワインの問題を超え、SDGsの目標と常に寄り添いながら進んでいった。 全電力の18%を風力発電で得るスペインは、再生可能エネルギーへの取り組みが最も進んでいる国の一つだが、ラ・マンチャでは古い風車を残して電力を得つつ、その 朴訥とした風景を観光資源としても役立てる という、 ソーシャル・サスティナビリティ への多角的取り組みもなされている。 葡萄畑はどんどん拡大しているが、ラ・マンチャでは 砂漠化 が深刻な懸念となっている中で、葡萄畑の拡大による砂漠の緑化は、超大量の光合成によって二酸化炭素の吸収を促し、そのままでは環境保全にとって「何の役にも立たない」砂漠を、確かな意味のある土地へと変える役割を果たしている。 乾燥したラ・マンチャの気候は、 サステイナブルな農業への転換も比較的容易 である。葡萄にとって深刻な カビ系病害の心配をほとんどしなくて済む からだ。しかし、 超大量生産と窒素系化学肥料は、切っても切れない関係 にある。この点に関しては、ラ・マンチャならではの メガ・ワイナリー 体制が功を奏している。サステイナブル農業への転換は、化学肥料、化学合成農薬にかかるコストを下げるが、収量減と人件費増によるコスト増で、良くて相殺、大体はマイナスとなってしまうのが普通だが、病害リスクの低いラ・マンチャでは過剰な人件費増大には繋がりにくく、畑を拡大することで、減った収量を補うこともできる。 また、ラ・マンチャに限らず、広大な畑を拓くことができるような大産地にはしばしば見られることだが、 過疎と貧困が深刻な潜在的問題 として存在している。この点に関しても、やはりメガ・ワイナリーは強い。そういった地に確かな 雇用 と、 社会保障 を生み出すことができるからだ。 スペイン各地(10のD.O)でワイン生産に取り組み、スペイン国内での販売量NO.1、そして世界屈指のメガ・ワイナリー・グループに数え上げられるまで成長した ガルシア・カリオン の取り組みは、特筆に値する。 ガルシア・カリオンは、オレンジジュースの世界的なブランドである「 ドン・シモン 」を手掛けていることでも良く知られている。「 360°のサスティナビリティ 」を掲げ、植樹による二酸化炭素の吸収(彼らの畑で行われる光合成によって、毎日、自動車100万台分の排気ガスを吸収できる)、非常に軽いエコボトルの開発と梱包の大幅な軽量化による二酸化炭素排出量の大幅な削減、バイオ燃料を中心としたエネルギー利用によって年間の二酸化炭素排出量を1600万kg削減、灌漑用水を100%リサイクル浄水に転換、葡萄やオレンジの皮は家畜の飼料にしたり、エッセンシャルオイルにしたり、香水にしたりと廃棄物の徹底した排除にも取り組み、非営利の基金を設立して障害者雇用に積極的に取り組むなど、まさに 隙が無い 。 ラ・マンチャD.Oの畑から造られる、 Don Luciano 銘柄の クリアンサ 2017 をテイスティングしたが、野苺のコンフィのような甘酸っぱい香りに、バラとスパイスが彩を加えるワインは、非常に洗練されており、日本国内価格が一本1,000円を大幅に下回っているワインとしては、 文句の付けようが無い品質 であった。 徹底したサスティナブル、そしてSDGsへの取り組みと、確かな品質、そして圧倒的な低価格。 チリのコノ・スルと並び称するべきワイン だ。 筆者自身が、個人レベルで、よりクラフトな少量生産ワインを愛しているのは間違いない。しかし、筆者自身の嗜好が、ガルシア・カリオン、そしてラ・マンチャの取り組みを正しく公平に評価することを、決して妨げるべきでは無いと考える。 サステイナブル社会において、大規模な生産は、より大きな害悪となりうる一方で、大企業だからこそできることも多々あることは、忘れるべきでは無いだろう。

  • そうだ 日本ワイン飲もう

    今年の夏に起こった、例年とは違う出来事といえば、東京オリンピックでしょうか。 去年と変わらず未だ新型コロナ禍から脱せずにいる現状を悲観していてもしょうがなく、色々な意見、考えがある中で開催された今回のオリンピックですが、連日日本のメダル獲得のニュースに感動し、励まされ救われた自分もいます。 そんな中、オリンピックでも多々問題になった、日本の夏の高温多湿という気候は、やはりワインを飲む環境に置き換えても大きなポイントではないでしょうか。 自分は、いくらクーラーが効いている室内であっても、パワフルでしっかりした重めのワインはちょっと厳しいと感じることが多いです。 秋が近づいて、残暑の日々になっても、まだまだパワフルな赤に手が伸びません。 スッキリ、酸味がしっかり残っていてライトな白やロゼに、自然と手が伸びてしまう気がします。 でもやっぱり赤ワインも飲みたい。 しかも、たまにはライトなガメイやピノ・ノワールではなく、なんて事ありますよね。 そもそもワインを選ぶ時は味ももちろんですが、T.P.O.って基本だし凄く大事ですよね。 前置きが長くなりましたが、そこで今回は多種多様に大きな広がり、変化を続ける日本ワインを。(安直です) 日本ワインは近年、世界と比べると著しく遅れていた呼称制度や法整備も進み 、さらに成長が加速していっている様に思います。 特にここ数年は、世界のコンペティションでも評価が上がっている、国際品種を主要品種として造られる、 グランヴァンの様なスタイルのハレの日のワイン もあれば、元々食用品種として栽培が広がっていたデラウェアやナイアガラ、スチューヴェンなどの、 ヨーロッパなどではあまり使われない品種から造られるカジュアルなもの まで。 特に後者は年々広がりをみせ 、クオリティとオリジナリティが格段と上がり、 新しいスタイルとして確立 されてきています。 生産者:Fattoria Al Fiore / ファットリア アル フィオーレ ワイン名:Verde / ヴェルデ 葡萄品種:カベルネ・ソーヴィニヨン メルロ  種類:赤 生産国:日本 生産地:宮城 (葡萄は山形) ヴィンテージ:2019 参考小売価格:3900円 そこで毎年リリースされるワインの中で、特に年々磨きがかかってきているなと思っている、宮城の ファットリア・アル・フィオーレ のワイン” Verde 2019 ”を選んでみました。 こちらのワインナリーについては、廃校になった校舎をリノベーションして醸造所にしたり、作り手さんが元々イタリアンの有名シェフでテレビにも取り上げられていたりと、異色な経緯から話したいとこがたくさんあるのですが、長くなるので割愛します。 是非 ホームページ などで調べてみてください。 こちらのワイナリーが造るワインは、大きく分けて2種類。 先程述べた食用品種をメインに使用し、新しいスタイルを作り続けている NECO シリーズと、国際品種をベースにハレの日に飲んでも楽しめる FATTORIA AL FIORE シリーズ。 今回のVerdeは後者のシリーズに位置していて、葡萄品種も カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ と所謂ボルドーブレンドな訳ですが、重たいワインをまだまだ避けがちな 残暑の時期でも、違和感なく楽しめるワイン です。 ライトに仕上げるとどうしてもシャバシャバな印象になりやすいこのセパージュを、青みなく綺麗な酸味を纏いつつ芯のところにある果実味と旨味がじわっと広がり、とても心地よい余韻が伸びる心地よさは作り手の妙だなと感じます。 理由は多々あるのでしょうが、大きな理由の1つとして、同じ畑で収穫された同じ葡萄でも、醸し方や、発酵容器、保存する容器などを細かく変えながら別々に仕込み、それぞれの味わいのキャラクターを変えたものをいくつも造り、最後に出来上がるイメージをもちながらアッサンブラージュするというファットリア・アル・フィオーレならではの手法があります。 『口当たりの優しいワインでも味がぼやけてるのは嫌、お肉は塩とこしょうで味付けをキメられるし、料理は沢山のスパイスを足せるけど、ワインはそれが出来ないから色々な要素をもった味わいのワイン造って合わせる』 流石元料理人ならではの感覚に、話を聞いて納得の味わいです。 まだまだ若いワイナリーで、多様な品種とスタイルで造られる自由さで毎年変化が楽しい、是非チェックしてもらいたいワイン&ワイナリーです。 <プロフィール> 上原 剛 / UEHARA TAKESHI 1981年 千葉県生まれ アメリカンレストラン勤務時、 フレアーバーデンダーとして全国大会出場 23歳で都内でスポーツ&ミュージックバーの立ち上げ店長を経験。 ミクソロジーカクテル、ウイスキーの勉強にと 2008年に渡英。 ロンドンにてレストラン勤務時にグランヴァンの魅力に惹かれ、 フランス、イタリア、スペインなどのワイン産地を巡りワインの道へ。 2010年帰国後、ナチュラルワインを多く扱うビストロ カメレオンのマネージャーに就任。 2015年に起業し独立。 2017年にワインバー Libre、 2018年にブラッスリー&カフェ TETをオープン。 現在、ナチュラルワインを中心としたお店を3店舗経営。 主にLibreのカウンターに立ち毎日ナチュラルワインをグラスで10〜15種類ほど提供している。

  • ハイブリッド・ソムリエ 後編

    0.ハイブリッド・ソムリエとは ハイブリッド :生物学で異なる種類などを掛け合わせた交雑種 ソムリエ :レストランで従事し、ワイン全般を含めた飲料に対しての専門性の高いウエイター、とここでは位置付けておきたいと思います。  ハイブリッド・ソムリエ :状況の変化に対応し、外的要素(世の中の流れ)に対応しながら、専門性とニーズを掴みながら他業種の良さを取り入れワイン脳(ソムリエ脳)を活用できるソムリエのことを指す。 1.前回からの流れ 後編も読んでくださりありがとうございます。 まだの方は、ぜひ 前回の記事 もご覧下さいませ。 新型コロナ禍で緊急事態宣言が出た都道府県では、お酒の提供も制限される状況が続いています。お酒を中心とした様々な飲料に関わるソムリエという職業に身を置く人間としては、 本気で、「仕事ってなんだろう。」「人生ってなんだろう。」と考えます。 2. 他業種のスーパースター 前回の流れで2018年に受けた衝撃と書き、「続く」と締めくくりましたが ここで、私の経歴を少し、話させていただきたいと思います。 もともと私はバーテンダーを志し、二十歳の時にキャリアをスタートしました。最初に勤めていたバーがレストランも経営しており、バーとレストランと両方で勤務する形になり、そのレストランにいたシェフが、まぁー恐くて(笑)。 ワインを勉強したいというよりも、やらないとシェフに怒られる。という感覚で必死にやっておりました。(汗) 最初は怒られないように勉強していたワインも次第に好きになりまして、いつしかバーテンダーよりもソムリエに興味を持ち、今日までキャリアを積んでいくわけでございます。 2018年、当時を振り返りますと「バーテンダーよりソムリエが稼げるし活躍している。」と思っておりました。 後閑信五 さんというバーテンダーの存在を知るまでは。 たまたま、スピリッツの事を調べていたら、後閑信五さんが優勝した【Bacardi Legacy Cocktail Competition 2012世界大会】の記事を発見。 ※米国代表として出場し、 劇的な最終審査を経て優勝。 飲料の業界で、こんな凄い日本人がいるんだ!! NYと上海にBarを展開し世界中を飛び回るBartender。クールだ。 2018年よりフリーランスのソムリエとして活動をしていくわけですが、後閑信五さんの存在を知ったことにより、もっと幅広く飲食に関わる全ての方と交流し、遊びを知らなきゃいけないと感じ、他業種の方々とコミュニケーションを取る事を意識していきました。 バリスタはどのようなマインドなのか? バーテンダーは? 泡盛を提供している人達は? アパレルは? デザイナーは? などなど。他業種から学ぶことは凄く多い。 ワインの世界、ソムリエの世界が奥深く一生追求していきたいと思うと同時に他業種の方々とのコミュニケーションを積極的にとっていこうと思っている次第である。 3. 禁酒法:Speak easy 実にバーテンダーのマインドは面白い。 いわゆる遊び上手である。 ソムリエって全体的に真面目ですよね。笑 職業的な性質なのか。 2021年に日本は一時的に、飲食店でのアルコールの提供を禁じられるのだが、この中でも、クリエイティヴにアルコール提供を行い通常営業を行っていたのが、後閑信五さん率いるSG Groupであると思う。(Bar2店舗、カクテル居酒屋1店舗) 店舗の入り口にベニヤ板を打ち付け「テナント募集」の張り紙。 現代版、Speak easy(※)を面白くやってのけている。 ※1920-1933年、当時アメリカの禁酒法時代に発展したbar culture。潜りのバーを指す。 色々、言いたいことがありすぎる、このご時世ではございますが、逆境での面白いアイディアはピンチをチャンスに変えるといっても良い。 4. ベーシックなソムリエ・ルーチン さて、この2021年の禁酒法時代、レストランで働くソムリエ達はどのような活動をしてきたのか? 1.ノンアルコールリストの充実化。 2.ノンアルコールペアリングの強化。 3.オンラインでのワインセミナーやワイントレーニング。(YouTubeを含む) 4.自身のワイン学習。 5.ワインリストの見直し。 上記の5つが主な柱になってくるのでは、ないだろうか? 5. 石原ソムリエによる人体実験 【禁酒期間に私が行った事。】 ①ノンアルコールリストの充実化(特にお茶) コーヒー屋さんが多い沖縄の中で、ノンアルコール飲料で、お茶のマーケットはブルーオーシャンに思える。 更に日本茶から中国、台湾茶まで入れますと、バリエーションが豊富で朝、昼、夜と時間を選ばない飲料とも言える為、ますます知識や提供方法を強化していかねばと思う。 (昼はカフェ業態で提供でき、夜はレストランでも、ノンアルコールペアリングにおいてお茶は使いこなせた方が良い一種の武器である。(日本茶、中国茶含めて) ②ノンアルコールペアリングの体験 (京都のLurraのノンアルコールペアリングを体験してくる。) 評判通り良かった。ミクソロジスト堺部 雄介さんの創り出すノンアルコールペアリングは、独創的でいくつもの香りをレイヤードしていきペアリングも心地よく合わせてくる。 レストラン後に一緒に飲みに行って分かった事だが、かなりペアリングのロジックもしっかりしているミクソロジストだった。ワインやお料理の事もしっかりと勉強しており、次世代のヒーローの予感。まさにハイブリッド・バーテンダー。 海外での様々なレストラン経験、更にお会いした事はないですが、SommeTimes writerの外山 博之氏の影響、更になんでもアップデートしてしまう年代(30代前半)と感じる。 ③パートナー企業でのソムリエ対策講座(オンラインではない。) イノベーションというカテゴリーではないが、2021年JSAソムリエ教本は皆さまご覧になりましたでしょうか? 去年と比べても、こんなにアップデートしたの?という内容。一度は目を通してほしい。 ④ドーナツ屋の経営 (こちらは、去年のコロナ時にアルコール以外のビジネスを1本持たなければいけないと感じ立ち上げたビジネス。)eat inとTo Goのどちらも対応。更に現在、Uber eatsの準備も進めている。 2020年から考え始めた事で、誰でもアクセスしやすいチャンネルを持ちたいと思い開業しました。 今までは、ワイン関係の高価格帯のレストラン(15,000円〜)という繋がりのお客様が多かったのですが、ドーナツ屋という(500円〜)チャンネルを持つことにより、その層からもワインに興味を持つきっかけが作れると感じている。勿論、ビジネスのリスクヘッジも兼ねての展開である。 instagram; @downtown_donuts_okinawa  6. ソムリエの今後 「何も変わらない。」に超したことはないが、仮に現在のような事例が今後も法律で全部ダメになった仮想を立てた時、ソムリエはどう動くだろうか? 【日本の情勢から立てた仮説】 ①飲食店でのアルコールの提供が法的に禁止になる。 1.お茶、コーヒーなどのノンアルコールの専門家になる。 2.ネット販売も可能な酒屋(小売業)に転身する。 3.speak easyを行う。 4.表現力や語彙力を生かしセールスの仕事につく。 ②外食産業で20時以降の飲食が禁止。(ディナーという概念が消える。) 1.セレブのプライベート・ソムリエになり、主にホームパーティーやセレブのワインセラーの管理者になる。 2.飲食店から身を離れる。 3.愛好家の方へのワインの教育をメインに行うワインスクールの先生になる。 4.ソムリエ・ユーチューバーになる。 【世界の情勢から立てた仮説】 ③世界的にコロナ渦が収まらずコンテナ不足による輸入ワインが入らない。 1.日本ワインだけのリストを作る。 2.日本酒や焼酎に特化していく。 3.食や農業についての国内自給率アップに向けて、しっかりと声があげられる、 聞いてもらえるソムリエが必要。 ④世界的な水不足によって灌漑によるぶどう作りの禁止。 (チリ、アルゼンチンや南アフリカは大丈夫なのか?と考えずにはいられない。 日本の大衆的安価ワインの代名詞チリワインが入ってこなくなる。) 1.セレクトの見直し。 ⑤世界が求めるSDGsな配慮がなされていないワイナリーの製造禁止。 (輸入ワインの値上がりが加速し、更にワインが国内のマーケットでの一般消費者の選択肢から外れていく。) 1.より正しい見識を持ったソムリエが求められる。 ⑥世界的に適正飲酒が行えない人たちによる更なるイメージダウンによってWHOからのアルコール業界への規制強化。 (世界的に未成年の飲酒や飲酒運転、お酒による家庭崩壊というネガティヴな話題が後を絶たない事による更なる職業のイメージダウン) 1.ソムリエとしてはメリット?! 2.世論に対して発言権のあるソムリエが誕生しないといけない。 3.よりワインと健康の結びつきや、文化以外の存在意義を打ち出すコメントを発信していかないといけない。 日本のコロナ情勢に加えて、世界的なSDGsな観点の問題も加わり、収拾のつかない世紀末?! 革命前夜と思うような世の中であるが、最悪な仮説を立てビジネスとして準備しておく方が良いのではないかと常に考える。 ※勿論、オープンマインドでブレイクスルーするという気持ちの元で。 仮にノアの箱船が出された時に、生き残るソムリエ像を私は皆様と一緒に考えていきたいです。 追記:僕はレストランの現場でライブ感のある動きや雰囲気が好きですし、フィジカルを使いどんどんプレーできるレストランがずっと残って欲しいです。だってレストランやバーが好きで始めた仕事ですもん。 沖縄のソムリエより 心を込めて。 7.最近のワイン 生産者:Domaine de Belle Vue / Jerome Bretaudeau ドメーヌ・ド・ベル・ヴュー ワイン名:Muscadet Gabbro Clos Bouquinardieres / ミュスカデ・ガブロ・クロ・ブキナルディエール 葡萄品種:Muscadet / ミュスカデ ワインタイプ:White / 白 生産国: France / フランス 生産地:Loire / ロワール・ペイナント・ミュスカデ・セーブル・エ・メーヌ ヴィンテージ:2018 インポーター:ヴァンクール 希望小売価格:4,345円(税込) 【Producer’s Profile】 ジェローム・ブレトドー ワイン農家とは全く無縁の家系で育ったが、15歳の時に父親から何気なくボルドーワイン教本でワインに興味を持ち、ランンドロー村の醸造学校、ナントのワイン学校で栽培を学ぶ。 ジョー・ランドロンのドメーヌでスタージュをし、1997年12月からドメーヌをスタートさせる。 【Viticulture&Wine making】 平均50年の古木からできるミュスカデ。 自然発酵44日、セメントタンクでシュール・リー25ヶ月。 マロラティック発酵100%、Total SO2 20g/L 【WINE】 クリーン ・ナチュラル。いやピュア・クリーン・ナチュラルと呼ぶに相応しいワイン。 夏の草原のような清々しさ、爽やかなフレッシュ青リンゴの香りに長期のシュール・リー由来なのか重心の低い落ち着いたパンドゥミの香り。 心地よいアタックにスムーズに流れる液体。透明感があり気づけば1本空いている大人のミネラルウォーター。健康に気を使う今日この頃、こういったワインを常に欲している。 ワインリストでも、プライベートでも。 【Recommendation】 最高にクールだと思う。これだけミドル・バランス(ニュートラルな味わい)で整えてくるワインは実に凡庸性が高い。by the glass、Pairingの序盤、素材を生かすための少量の塩づかいや、澄んだ上品な出汁を取ってくるよう店には間違いなく最適である。 ここにしかない個性に乾杯!! 〈ソムリエ プロフィール〉 石原 大輝/ Daiki Ishihara 1986年 沖縄生まれ バーテンダーからキャリアをスタートして福岡と東京のレストラン、そして地元の沖縄に戻りホテルやレストランでシェフ・ソムリエやマネージャーとして研鑽を積む。 2018年 Le Monde [Freelance Sommelierとして独立] 、J.S.A. Senior Sommelier取得。 2019年 A.S.I. Diploma取得。 2021年3月 自身がオーナーを務めるDowntown Donuts(ワインが飲めるドーナツ屋さん)が 沖繩市にオープン。 〈Le Monde〉 Freelance Sommelier、Beverage consultantとして活動。 沖縄のレストラン、ラグジュアリーホテル、鮨屋、ステーキショップやワインショップという様々なジャンルの店舗のワインリスト作成、ペアリングの提案、スタッフ教育にマネージメントなどを行う。沖縄のレストランやドリンクシーンをワールドクラスにする事を理念として日々奮闘中。 Mail address: i shihara_vin@icloud.com

  • ワインは農産物なのか

    葡萄は、その生育年に起こる様々な苦難を乗り越えて実り、造り手たちによって多種多様なアプローチで醸造され、熟成され、ワインとして出荷される。 「ワインは農産物」 使い古された枕詞であるが、今でも本当にそうなのだろうか? 実は、世界中で生産されているワインの大部分(生産量ベースで)が、純粋(もしくはそれに限りなく近い)な 農産物であることを放棄してしまっている 。いわば、 工業製品 として造られているとも言い換えることができるものになっているのだ。 葡萄畑においては、そこでどれだけたくさんの化学肥料や農薬を使い、どれだけ不必要なレベルで大量の灌漑を行ったとしても、農業の範疇に収まる。つまり、 全てのワインは、葡萄が収穫されるその瞬間までは、農産物 なのだ。 「ワイン造りは葡萄畑に始まり、葡萄畑に終わる」 「ワイン造りは、葡萄畑で完結している」 これらもまた、使い古された枕詞であり、私見としては極めて残念に思うが、大多数のワインにとって、 真実ではなくなっている 。 では、何がワインを工業製品化してしまっているのか。 答えは明白だ。 過剰なワインへの人為的介入 である。 ある程度の亜硫酸添加は、数々の条件が揃わない限り( 詳細は、こちらにて )、必須と考えて問題無いが、ワインが、そのヴィンテージの葡萄が得た本来の性質を大きくねじ曲げてしまう要因となるのは、補酸、過剰な新樽、加水とセニエによる濃度調整、色素抽出とアロマを強めるエンザイム、テクスチャーを増強し、タンニンを円やかにするガム・アラビック、色素、糖度の増強と青味(ピラジン)のマスクに使用されるメガ・パープル、といったもの( 添加物に関する詳細は、こちらにて )である。 これらの「近代的醸造」は、(開発当時の思惑は別だったとしても)結果的には、 より多くのワインを、安定した品質で、毎年生産するために発展 してきた。 近代的醸造は、確かにワイン産業を大きく発展させたが、ナチュラル・ワインというアンチ・カルチャーも後に生み出すこととなった。ナチュラル・ワインに関して話を広げ過ぎると、ショートジャーナルの中では収集がつかなくなるため、詳しくは 以前の特集記事 をご参照いただきたいが、本稿では「工業製品的ワインとの対比という意味も込めて「農産物的ワイン」としておく。 前置きは、この辺りで止めておくが、筆者がこの記事を書くきっかけになったのは、とあるインポーターとの会話だ。 農産物的ワインとして造られたカリフォルニア産ワインが、「去年と味が違う」と消費者からクレームを受け、ソムリエや酒販店からの返品リクエストに繋がるケースがある、という話だった。 「オールドワールドのワインは、毎年味が変わって当たり前」 「ニューワールドのワインは、毎年同じ味で当たり前」 このような考え方が、いまだにワイン市場に蔓延していることに、大きな疑問を抱いたのだ。 確かに、ニューワールド産地が世界のワイン市場で躍進していくために「技術」が活用されたのは事実だ。筆者も若い頃は、先輩の方々に「ニューワールドのワインは、ヴィンテージ変わってもたいして味が変わらないから、新しいヴィンテージが出ても再度テイスティングする必要なんてない。」と言われたりもした。しかし、その技術はオールドワールドにもしっかりと逆輸入されている一方で、ニューワールドにもアンチカルチャーは例外なく生まれてきた。もはや 前述のオールドワールドとニューワールドの違いとしては、成立しなくなっている のだ。 つまり、 オールドワールドにも工業製品的ワインは多く存在し、ニューワールドにも農産物的ワインはしっかりと根付いている 、ということだ。 この事実を前にして、毎年味が変わるかどうかの結論を、オールドかニューかという超広範囲の要素を頼りに出すのは、明らかに時代遅れの考え方である。 消費者を正しい理解へと導いていくためには、伝え手であるインポーター、酒販店、ソムリエ、ジャーナリストがまず先に正しく理解する必要がある。 至って、シンプルなことだと筆者は思う。 人為的介入範囲の狭い農産物的ワインは、毎年味わいが変化して当たり前。 人為的介入範囲の広い工業製品的ワインは、毎年味わいが大きく変化しないのが当たり前。 ただ、それだけのことなのだから。 誤解なきように、今回の話はあくまでも、工業製品的ワインと農産物的ワインの優劣の話ではなく、違いを正しく理解する、という話である。 実は筆者の元には、このような相談が頻繁に駆け込んでくる。ワインは非常に進化と変化のスピードが早い飲み物だ。専門家が継続的な研鑽を怠っている間に、過去の常識は、時代遅れの誤情報と化す。伝える責任、教える責任、今一度、ワイン市場の中にいる我々専門家は、見直さないとならないだろう。

  • 運命の別れ時かも、サルデーニャ

    最近思う。 もしかしたら、イタリア、 サルデーニャ島 のワインは 未完の大器 なんじゃないかって。 よく比較されるシチリアはメディアにも頻繁に登場し、レストランでもしばしば目にする。彼らは独自のキャラクターを身につけ、まるで華のある個性派俳優のようだ。それに対してサルデーニャワインは少々地味で、「自分不器用ですから」オーラが付きまとう。周囲の目を全く気にしないのは、一体なぜなんだ。 今気になってしょうがないサルデーニャについて調査すべく、サルデーニャ人二人が切り盛りするお店にてインタビューを敢行。その内容を紹介したい。 店に通されると並ぶのは Pane carasau (パネカラザウ)と生ハム、サラミ。Pane carasauはセモリナ粉で作った生地を薄くのばして一回焼く。すると生地がぷくーっと膨らむ、それを2枚に割ってまたまた香ばしく焼きあげたもの。現地ではチーズとサラミと一緒に食べる。 カラザウはパリパリという意味があり、これに味がついたものはPane Guttiatuと呼ばれている。もはやこれはサルデーニャの国民的スナックで、一度食べ始めると手が止まらない。サルデーニャではポテチが売れないというのも納得だ。ちなみに皿替わりに使われているのはコルク板。サルデーニャはポルトガルに次ぐ、コルクの生産地でもある。 Pane carasau (パネカラザウ) 次に用意されたのは Pesce a Scabecci (白身魚のエスカベッシュ)。 よく使用される魚はイワシ。ヴィネガー、ハーブ、柑橘のエッセンスが特徴的。サルデーニャ風は、特に爽やかなミントやウイキョウが効いていて心地よい。少し酸と塩気が強めなのは、よく汗をかく温暖な島の環境に由来するものらしい。 良く冷やした Vermentino di Gallura が呼んでいる。 サルデーニャのソウルフードといえば Fregola (アサリのフレーゴラ)。 直径約2mmの粒粒パスタ。ロースト具合の違いから、色合いのグラデーションと触感がおもしろい。ゆでてアルデンテになった状態で、アサリの旨味を染み込ませていく。そして仕上げはサルデーニャの特産品 Bottarga (ボッタルガ)、ウマいにきまってるじゃないか。 イタリアでは大皿でボンっと提供。どうやらサルデーニャの子供たちは一番最後にとるらしい。一番底の方にあるアサリの出汁がとことん染み込んだ部分を奪いあうそうだ。そういえばサルデーニャには Vernaccia di Oristano という有名な酸化熟成ワインがあるな。意外にイケるかもしれない。 Fregola (アサリのフレーゴラ) 締めは Pecorino sardo DOP。羊の乳で作った塩気旨味たっぷりのチーズ。実はPecorino Romanoと呼ばれる有名なチーズもロマーノとは名ばかりで、ほとんどがここサルデーニャで作られているらしい。Pecorino alla piastra(鉄板で表面を溶かし、焼き上げたペコリーノ)にSapa di miele(煮詰めたワインを加えた蜂蜜)をかけて食す。そういえばサルデーニャのあの赤ワイン、 Cannonau di sardegna を忘れてはならない。 なぜこんなに美味しいワインと食事がありながら、サルデーニャワインは日本であまり見かけないのだろうか。こう質問を投げかけると、サルデーニャ人の友人が語ってくれた。 自分たちのおじいちゃん世代は、サルデーニャの説明をしたがらない。かつては観光客が来ることさえ嫌っていた。それはサルデーニャが島国で、様々な民族から侵略を受けてきた歴史が心の奥底に刻まれているからかもしれない。ビジネスに関してもクローズしていて、外交が苦手な民族性。そもそも外側に自国のものを売りたいとも思っていない。もともと生産量はさほど多くないから、島内で十分消費できる。大酒飲みのサルデーニャ人は、ビールも大好き。サルデーニャビールIchnusa(イクヌーザ)も8割は島内消費される。 でも少しずつ変化は起こっている。CaphiceraカピケーラやSidduraシッドゥーラは今風の凝縮感がありつつ、Vermentinoのアロマを最大限に引き出した作り方をしているし、Palaパーラ、Argiolasアルジオラス、Sella moscaセッラモスカも土着品種を大事にしながら、新しい試みにどんどんチャレンジしている。今やワイナリーの世代交代もどんどん進み、外へ外へと彼らの意識は向いてきている。今が運命のわかれどき。土着品種が注目を浴びる今日この頃、サルデーニャがこの風に乗って世界に進出するのか、それとも島に残るのか、今後も注目していきたい。 生産者:Siddura /シッドゥーラ ワイン名:Maia /マイア ヴェルメンティーノ・ディ・ガッルーラ・スーペリオーレDOCG 葡萄品種:Vermentino /ヴェルメンティーノ ワインタイプ:白ワイン 生産国:イタリア 生産地:サルデーニャ州ガッルーラ地区 ヴィンテージ:2019 参考小売価格: 4,900円 取材協力 tokidoki Slow Coffee & Wine Therapy @ tokidoki_nishinomiya <ソムリエプロフィール> 塚元 晃  / Akira Tsukamoto レストラン相楽 / マネージャー兼ソムリエ アカデミーデュヴァン大阪校 / 講師 International A.S.I. Sommelier Diploma取得 第7回イタリアワイン・ベスト・ソムリエコンクールJETCUP 優勝 イタリア共和国駐日大使館公認イタリアワイン大使 Wines of Portugal Japanese Sommelier of the year 2016 第3位 第2回ボルドー&ボルドー・シュペリュールワイン ソムリエコンクール2018 優勝 現在も世界中のワインと出会うべく勉強中 <レストラン相楽> 港町・神戸の多様な文化を、世代や国籍を超えて相楽(あいたの)しめるように。そして近隣の方々からも必要とされるコミュニティとなるよう、目利きされた兵庫・神戸の商品を提供し、神戸を切り口に多様な食文化を楽しめる発信基地を目指す。 レストラン 相楽 | THE SORAKUEN 旧:相楽園会館 | 神戸を代表する日本庭園 相楽園に佇む迎賓館 (the-sorakuen.jp)

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