SDGsが問う、世界最大産地の「造る責任」

中央スペインのラ・マンチャD.Oは、原産地呼称が認められている単独の産地としては世界最大の範囲(四国を少し小さくした程度の面積)に広がり、D.Oで認定された葡萄畑の面積は157,000haを超えるという、圧倒的なスケールを誇っている。


標高600~800mの高地に位置するこの広大な高原は、年間3,000時間という日照量と、年間降雨量300~400mmという乾燥した気候に恵まれ、起伏の少ない平坦な大地は、より大きなスケールでのワイン生産を叶えるための、理想的な条件に加わっている。


さらに、これだけの広大な面積がありながら、ワイナリーの数はたったの249しか無いことからも、ラ・マンチャがいかに「超大量生産型」の産地として確立しているかが伺えるだろう。


スペインワイン産業の心臓とも言えるこの広大な産地には、可能な限り安価に大量にワインを生産し、世界中の低価格ワイン市場のニーズを満たす役割があった。言い換えれば、それだけを守っていれば良かったのだ。少なくとも、世界がサステイナブル社会へと突入するまでは。


しかし、21世紀に入ると、これまで通りではいられなくなった。超大量生産型のワイン産業は、一歩間違えれば、地球環境にとって極めて危険な存在となることが、一般的な認識として浸透してきてしまった。悪名高き環境破壊型産地となるか、超大量生産とエシカルな在り方を両立するモデルケースと変わるか。ラ・マンチャは産地をあげて、後者を選んだ。しかも、急スピードで。


さらに、ラ・マンチャの変革は、単純な葡萄畑とワインの問題を超え、SDGsの目標と常に寄り添いながら進んでいった。



全電力の18%を風力発電で得るスペインは、再生可能エネルギーへの取り組みが最も進んでいる国の一つだが、ラ・マンチャでは古い風車を残して電力を得つつ、その朴訥とした風景を観光資源としても役立てるという、ソーシャル・サスティナビリティへの多角的取り組みもなされている。


葡萄畑はどんどん拡大しているが、ラ・マンチャでは砂漠化が深刻な懸念となっている中で、葡萄畑の拡大による砂漠の緑化は、超大量の光合成によって二酸化炭素の吸収を促し、そのままでは環境保全にとって「何の役にも立たない」砂漠を、確かな意味のある土地へと変える役割を果たしている。


乾燥したラ・マンチャの気候は、サステイナブルな農業への転換も比較的容易である。葡萄にとって深刻なカビ系病害の心配をほとんどしなくて済むからだ。しかし、超大量生産と窒素系化学肥料は、切っても切れない関係にある。この点に関しては、ラ・マンチャならではのメガ・ワイナリー体制が功を奏している。サステイナブル農業への転換は、化学肥料、化学合成農薬にかかるコストを下げるが、収量減と人件費増によるコスト増で、良くて相殺、大体はマイナスとなってしまうのが普通だが、病害リスクの低いラ・マンチャでは過剰な人件費増大には繋がりにくく、畑を拡大することで、減った収量を補うこともできる。



また、ラ・マンチャに限らず、広大な畑を拓くことができるような大産地にはしばしば見られることだが、過疎と貧困が深刻な潜在的問題として存在している。この点に関しても、やはりメガ・ワイナリーは強い。そういった地に確かな雇用と、社会保障を生み出すことができるからだ。


スペイン各地(10のD.O)でワイン生産に取り組み、スペイン国内での販売量NO.1、そして世界屈指のメガ・ワイナリー・グループに数え上げられるまで成長したガルシア・カリオンの取り組みは、特筆に値する。


ガルシア・カリオンは、オレンジジュースの世界的なブランドである「ドン・シモン」を手掛けていることでも良く知られている。「360°のサスティナビリティ」を掲げ、植樹による二酸化炭素の吸収(彼らの畑で行われる光合成によって、毎日、自動車100万台分の排気ガスを吸収できる)、非常に軽いエコボトルの開発と梱包の大幅な軽量化による二酸化炭素排出量の大幅な削減、バイオ燃料を中心としたエネルギー利用によって年間の二酸化炭素排出量を1600万kg削減、灌漑用水を100%リサイクル浄水に転換、葡萄やオレンジの皮は家畜の飼料にしたり、エッセンシャルオイルにしたり、香水にしたりと廃棄物の徹底した排除にも取り組み、非営利の基金を設立して障害者雇用に積極的に取り組むなど、まさに隙が無い


ラ・マンチャD.Oの畑から造られる、Don Luciano銘柄のクリアンサ 2017をテイスティングしたが、野苺のコンフィのような甘酸っぱい香りに、バラとスパイスが彩を加えるワインは、非常に洗練されており、日本国内価格が一本1,000円を大幅に下回っているワインとしては、文句の付けようが無い品質であった。


徹底したサスティナブル、そしてSDGsへの取り組みと、確かな品質、そして圧倒的な低価格。チリのコノ・スルと並び称するべきワインだ。


筆者自身が、個人レベルで、よりクラフトな少量生産ワインを愛しているのは間違いない。しかし、筆者自身の嗜好が、ガルシア・カリオン、そしてラ・マンチャの取り組みを正しく公平に評価することを、決して妨げるべきでは無いと考える。


サステイナブル社会において、大規模な生産は、より大きな害悪となりうる一方で、大企業だからこそできることも多々あることは、忘れるべきでは無いだろう。