ソムリエの皆さま、マイナー産地フォローできてますか?

ここ数年で頭角を表してきたマイナー産地の勢いには、目を見張るものがある。 え!そんな国でもワイン作ってるの?という声もお客様からよく聞く言葉だ。 ここでは敢えて「マイナー産地」という言葉を用いるが、過去100年間で新たにワイン作りを始めた国は数えるほどしかなく、多くの国々ではそれ以上遥か前からワイン作りは行われてきた。

ただ、それらの国ではワイン産業が奨励されていなかったり、国や投資家による充分な投資がなされてなかったりの話であっただけで、厳密に言えば「メジャー産地の影に隠れていた産地」なのだが、日本のソムリエ資格を勉強されている方々に対しては、「メジャーではない産地」という風に映ると思ったので、敢えてこのような表現にさせて頂いた。 そしてこれらのマイナー産地でのワイン作りが盛んになったのは、以下の様な要因が考えられる。

・気候変動によりブドウ栽培が可能となった。 かつてのワイン用ブドウ栽培は北半球で北緯30〜50度、南半球で南緯30〜50度であった。 それはこれらの範囲の多くが、年間平均気温が10〜20度となり、ブドウの発芽から成熟までに必要な日射量1,000〜1,500時間をクリアし、なおかつ栽培時の平均雨量が500〜900mmの範囲内であるからである。

しかしこれは今までの話であり、世界的な平均気温の上昇が進みゆく今では、イギリスや北海道でもブドウは完熟する可能性もあるし、ロシアやスカンジナビア南部でもワイン作りが盛んになってきている。

南オレゴン大学のグレゴリー・ジョーンズ教授の調査によると、この50年間でブドウ栽培に適する地帯が、北極南極の両極側に、約180kmも移動したことが確認されている。

つい最近もA.S.I.(国際ソムリエ協会)が、新たに注目されるべき産地としてポーランドを挙げたのは記憶に新しい。

・新天地を求めて国外進出した、もしくはかつての産地で修行した若い作り手が新興産地である祖国に戻って起業した。 前者に関してはシャトー・ラフィットやロバート・モンダヴィのような大企業が行なっており、近年ではMHDがブラジルやインドで高品質なスパークリングを生産しているのは、みなさまご周知であろう。


これらの国々は気温こそ高くはあるが生育期の雨量が少なく、乾季も長い。さらに、地価や労働賃金の安さという、スケールメリットの恩恵が享受できる国々とも言える。

驚くべきことにインド南部やブラジルはその気温の高さゆえ、年に2回収穫が可能だそう。これにはさすがに驚かされる。

ちなみにシャトー・ラフィットが中国で生産する「Long Dai」も少し前に2年目のヴィンテージとなる2018年が発表となり、同時にセカンドラベルである「Hu Yue」もリリースされると発表がなされた。

これらのケースは一般的にマイナー産地というよりかは、ニューワールドに多い傾向かもしれないが、今後はマイナー産地でも、国外の大企業や、出戻った新世代がおおいに台頭してくるであろう。


世界のワイン造り年表

参考までに、ざっくりと年代別にワイン作りをしていた国々を分類してみた。 紀元前6,000年:ジョージア 紀元前4,500年:トルコ 紀元前4,000年:アルメニア、ルーマニア 紀元前3,500年:キプロス 紀元前3,000年:イスラエル、レバノン、エジプト、モルドバ、ギリシャ、ブルガリア 紀元前2,800年:マケドニア 紀元前1,100年:スペイン 紀元前1,000年:ポルトガル 紀元前800年:イタリア、アルバニア 紀元前700年:ウクライナ 紀元前600年:フランス、スロバキア、マルタ 紀元前500年:モロッコ、アルジェリア、チュニジア、クロアチア、スロベニア 紀元前300年:オーストリア、ウズベキスタン 紀元前200年:ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、中国、スイス 100年:イングランド 200年:ルクセンブルグ、ドイツ、チェコ、セルビア 300年:エチオピア 400年:ハンガリー 800年:ベルギー 1,521年:メキシコ 1,540年:ペルー 1,548年:ボリビア、チリ 1,551年:アルゼンチン 1,560年:アメリカ 17世紀:インド 1,659年:南アフリカ 1,788年:オーストラリア 18世紀:ロシア 19世紀:マダガスカル 1,811年:カナダ 1,819年:ニュージーランド 1,870年:ウルグアイ 1,874年:日本 1,875年:ブラジル 1,980年:ポーランド その他ではスウェーデン、パラグアイ、ジンバブエ、タイ、タヒチ、カザフスタンなどでも葡萄栽培がなされている。


世界のその他酒類造り年表

さらに、その他の酒の歴史も辿ってみた。 紀元前4,000年:メソポタミアで「シカル」と呼ばれる、ランビックのルーツとなるビールが醸造される。 紀元前3,500年:現在のイラク付近で最古の蒸留の形跡が発見される・ 100年:中央アメリカにてプルケ(アガベの樹液を発酵させた、テキーラの原型)がつくられる。 432年:スコットランドの税帳にウイスキーの記述が登場する。 1世紀:日本で稲作が始まり、日本酒が登場する。 8世紀:アラビア人がフランス南西部に侵入し、蒸留器が伝わる。 13世紀:モンゴルから朝鮮に蒸留技術が伝わる。 1,308年:ベルギーで初めてのビールの醸造組合が形成される。 1,553年:ノルマンディーでシードルに触れた初めての文書が綴られる。 1,617年:ルイ・エベールがカナダのケベックに初めてリンゴの木を植える。 1,736年:イギリスでジンが法的規制の対象となる。 1,756年:ポルトワインが史上初のAOCに認定される。 1,780年:アイルランドでアーサー・ギネスにより初めてのポーターがつくられる。  1,820年:ケンタッキー州でバーボンの名称が登場する。 1,835年:イギリスでインド向けの「インディア・ペールエール」の名称が登場する。 1,842年:ヨーゼフ・グロルが初のピルスナーを醸造。 1,857年:ルイ・パスツールによる酵母の重要性の発見。 1,860〜1,900年:全世界にてフィロキセラの流行 1,860〜1,950年:ヨーロッパでベルモットが流行。 1,900年:新世界のワインが国際的に評価され始める 1,915年:フランスでのアブサン禁止。 1,920〜1,933年:アメリカでの禁酒法の施行。 1,923年:日本初のウイスキーの蒸留所が設立される。 1,933年:フランスの産地のAOC認定がなされる。 1,976年:パリスの審判にてカリフォルニアワインの評価が急上昇する。 2,016年:ベルギービールがユネスコの無形文化遺産に認定される。 ざっくりとだが、このような時系列となる。 しかしながら、これを見ると改めてワインの歴史の奥深さが分かると言える。




ワインから歴史を学ぶ

ワインを知るということは歴史を学ぶということでもあり、その国での時代背景、政治、紛争、食生活、アルコールの位置付けなどなど、深く切り込めば切り込むほど色んな面が見えてきて、興味深くもあれば、恐ろしくもある。 我が国では、現在では当たり前のように世界の様々な国々のワインをテイスティングすることが可能だが、これは他国では当たり前のことではない

スカンジナビア諸国のような政府がアルコールの販売規制を行なっているような国では、 ワインを購入することができるのは政府の承認を得た店のみであるし、東南アジアの諸国ではワインに対しての関税が高い国も多く、我々が普段スーパーやコンビニで見ることのできるワインでさえ、驚くような値段で販売されてる国々もある。

それに比べると我が国はまだ優遇されていると喜ぶべきで、我々ソムリエはもっと自身の経験値や引き出しを広めるためにも、チャンスがあればまだ飲んだことのない国のワインがあれば、積極的にテイスティングをするべきではないだろうか。 昔勉強した知識もそれはすでに過去の情報であり、現実は常にアップデートされてゆく。 

常に自身をブラッシュアップし続けることで、多彩な変化に対応しうるソムリエになってゆけるのではないだろうか。 そんな中で、まだマイナー産地であろう国からホットな生産者を紹介させていただく。

ワイン名:Pinot Noir Barrel Selection 2019 ワイナリー:Krasnahora(クラスナ・オラ) 生産国:チェコ/モラヴィア 輸入元:The African Brothers 日本では今回が初輸入となるこの作り手、もちろんその名はほとんど知られてはいないが北欧や中欧では人気の作り手である。 その名を大きく轟かせた理由としては、昨年発表のスターワインリストで錚々たる作り手が並ぶ中で、堂々と18位にランクイン。 当時は日本ではまだ無名に近い全くのノーマークであった為、トップソムリエたちをざわつかせたそう。 畑はビオディナミ農法、収穫は手摘み、オープンプラスティックタンクで1ヶ月間スキンコンタクトし、自然発酵。 プレス後に新樽にて12ヶ月熟成、ノンフィルターでボトリング。   透き通るような輝きのあるオレンジがかったルビーの外観。 タートなブラックチェリーにピンクのシャクヤクや黒オリーヴのニュアンス、ナツメグのスパイシーさがアクセント。 樽由来のビターさも奥の方に感じられる。 今日はカレンダー上では花の日。他の地域のピノとはまた違うオリエンタルな雰囲気のアロマが興味深い。 軽快なアタックで、さくらんぼのような控えめだが焦点のあった酸味と、口内の香りの広がりがとても心地よい。

調べてみれば、チェコはさくらんぼが特産品らしい。それは納得がいく。

空気に触れることで、さくらんぼの香りはスパイスと混ざり合い、プルーンのような香りに変化してゆく。 アルコール度数13%を全く感じさせない、ボディに溶け込んだシルクのようなタンニンが全体を形成し、ミッドから口内を包み込むように広がる花のアロマは、余韻にまで長く持続する。

ブドウがストレスなく伸び伸びと育ったのが想像できるような伸びやかな味わいで、かつピントが合ってて、かっこいい味わい。 正直ここまでのクオリティだとは思ってはおらず、いささか心を揺さぶられる味わいだった。

まだまだ世界には知らないワインが溢れている。だからこそ面白い。

ソムリエの知的好奇心の対象は一生尽きることはない。とてもやり甲斐のある仕事だ。

ぜひ皆様も知らない国のワインを見かけたら、オープンマインドな姿勢で、ぜひテイスティングしてほしい。 そこから新しいモノの見方も生まれてくるかもしれないのだから。


<ソムリエプロフィール> 朝倉 達也

1986年生まれ 鹿児島県出身 Maison de Taka Ashiyaシェフソムリエ ASI 認定Diploma JSA認定ソムリエ・エクセレンス WSET Level 3 WSET Diploma Student CMS Introductory Sommelier 第3回ソムリエスカラシップ優秀賞受賞 第9回全日本最優秀ソムリエコンクール本戦出場 15歳で料理人として飲食業界に入り20歳を機に接客へ転向。 22歳でソムリエ資格を取得しLE PONT DE CIEL(大阪・一つ星)でソムリエ職務の基礎を学ぶ。 GEORGE BLANC(マコン・三つ星)やGUY LASSAUSAIE(シャスレー・一つ星)などのフランスの星付きでも研修を重ね、 2013年より現職。