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出会い <68> オリジナルのプライド
Ostal Levant, olé 2022. ¥4,100 ニューワールド諸国 でのワイン造りは、 大航海時代にヨーロッパから葡萄樹、葡萄栽培、ワイン醸造がセットになって持ち込まれた ことによって始まった。 ワインの歴史におけるこの常識は、 品質面においても大きな意味 がある。 当然、オリジナルであるオールドワールド諸国では、「一日の長」どころか、場合によっては 「数百年、数千年の長」 がある。 長い年月の中で 淘汰 が繰り返された結果としてその地に残った葡萄は、 テロワールとの親和性 が極めて高く、栽培、醸造の 「レシピ」 に関しても、高い精度で完成しているケースが圧倒的多数となるのだ。 しかし、ニューワールド諸国におけるワイン造りの歴史も数百年がすでに経過し、 あらゆる技術もグローバルなものとなった 今、オリジナルとの品質格差はどれほど縮まったのだろうか。

梁 世柱
2024年9月22日


再会 <68> 大人のナチュール
L’Anglore, Tavel 2022. ¥8,500 造り手の変化は、「進化」として常に好意的に受けとめられるわけではない。 より良いワイン造りと誰よりも真摯に向き合っているのは、造り手自身に他ならない のだから、彼らの情熱が、時に 理不尽な理由で拒絶される 時、どうにも居た堪れない想いが込み上げてくる一方で、私自身にも確かに「覚え」がある。 私がこのテーマに関して考えるとき、二者の造り手が真っ先に頭に浮かぶ。 一つはシャンパーニュ地方の ジャック・セロス 。 かつては私も、必死になって探し求めていたシャンパーニュだったが、リューディ・シリーズをリリースし始めた頃から始まった、極端とも言えるような酸化的な味わいに、理解が全く追いつかなかくなった。

梁 世柱
2024年9月15日


出会い <67> キャリアチェンジへの憧れ
Domaine Chahut et Prodiges, Les Gros Locaux 2022. ¥3,800 「いつか自分でもワインを造るのか。」 知人、顧客、生徒たちから頻繁に受ける質問だが、 答えはNo 。 自分でモノづくりをしてしまうと、ジャーナリスト、教育者としての 徹底した公平性を保てなくなる 。 それが建前だが、本音は少し異なる。 大阪市内で生まれ育ち、NYで学び、東京で働く私は、生粋のシティ・ボーイ(ボーイというほどの年齢でも無いが)で、運転免許すらも取得していない。 取材などで国内外の田舎に赴くことは多々あるし、 ゆったりと流れる時間の心地良さ は十分に理解しているが、それでも自分がそのような場所で生きていくイメージはどうにも沸かない。

梁 世柱
2024年9月8日


Wine Memo <28>
金井醸造場, Vino da Manriki+Tenjin 朝焼2020. 今から 約12年前 、私がまだNYにいた頃の話だが、当時は現在でいう 「オレンジワイン」 の解釈がまだまだ固まっていなかった。 オレンジワインという言葉自体は徐々に浸透してきていたものの、その時代においては、 ジョージアとゴリツィア周辺 (イタリアとスロヴェニアの国境地帯)のワインのみがオレンジワイン(もしくはアンバーワイン)とみなされていたし、 醸し発酵白ワイン (skin fermented white wine)という通称も現役だった。 さらにややこしかったのは、 グリ葡萄を使用したオレンジワイン 。 フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州の銘醸、 La Castellada がリリースした Pinot Grigio (グリ系葡萄であるピノ・グリージオに、長期のマセレーションを施したワイン)は、NYのマーケットでも大きな衝撃と共に、流行に敏感なソムリエたちの話題を独占していたが、あくまでも同州の伝統的なワインである Ramato (偶発的にマセレーションが長期化した

梁 世柱
2024年9月6日


再会 <67> マニア向けの極上バローロ
Pio Cesare, Barolo “Mosconi” 2018. ¥23,000 ワインの探究と 固有名詞 の数々は、切っても切り離せない関係にある。 ワインでしか用いられない特殊な 専門用語 も多々ある上に、それらを理解していないとアドヴァンスな話には全くついていけなくなったりもする。 その最たる例と言えるのは、 葡萄畑名 だろうか。 世界中に無数に存在する葡萄畑名は、それ単体では、基本的に 「識別記号」 として機能している。 このことは、 人の名前 に当てはめてみるとわかりやすいかも知れない。

梁 世柱
2024年9月1日


出会い <66> 聖地のニュースター
Daniel Jaunegg, Sauvignon Blanc “Muri” 2021. 近年の日本における学校教育の実態を聞いて、私は開いた口が塞がらなくなった。 どうやら子供達に、 徹底的に「競争」を避けさせている 学校が数多くあるらしいのだ。 勝者と敗者を同時に生む競争の弊害 に関しては、理解できる部分ももちろんある。しかし、運動会の徒競走で順位を決めないなどは、正直あまりにも極端に思えてならない。 切磋琢磨 、という言葉はもはや死語なのだろうか。 そういう私自身も、旧時代の遺物として揶揄されることになるのかも知れないが、私は 純然たる事実 をここに書き記そう。 今の私は、絶え間ない競争の果てに在る 、と。

梁 世柱
2024年8月25日


再会 <66> 北海道生まれ、最高のVin de Soif
Domaine Ichi, op.10 Petillant Naturel Rosé 2023. Vin de Soif(ヴァン・ド・ソワフ) という言葉に明確な定義があるわけでないが、一般的には、 フレッシュかつフルーティーで、アルコール濃度が低く、極めてドリンカビリティに長けたワイン のことを指す。 ワンフレーズで言い表すなら、 「超グビグビ系ワイン」 、といったところだろうか。 グビグビ、はサラサラでもスルスルでもゴクゴクでも構わない。どちらにしても、似たようなものだ。 この言葉自体がナチュラルワインを示唆しているわけでもない のだが、 低亜硫酸醸造の方が、Vin de Soifらしい性質を遥かに実現しやすい というのもあり、 実際にはナチュラルと呼べるカテゴリー内に入っていることが非常に多い 。 そんなVin de Soifは、私にとって極めて重要な役割をもったワインである。

梁 世柱
2024年8月18日


出会い <65> 新世代のスタイリッシュなナチュラルワイン
Peltier Ravineau, les Bois brûlés 2023. ¥3,800 世代が変わればワインの味も変わる 、というのは、ワインの世界では延々と繰り返されてきたことだ。 基本的には、だいたい 10年単位で一世代 と括ることができるので、私がワインを学び始めてから20年ちょっとの間に、その前の世代とさらに前の世代を遡って体験したことを踏まえれば、少なくとも四世代分、様々な産地の変化を見届けてきたことになる。 もはや多少の変化では驚きすらしなくなってきたことには、少々の寂しさと物足りなさを覚えもするが、それは仕方のないことだろう。 近年の世代交代で見られてきた変化の全体感 を捉えると、 オーガニック化 と、 テロワール重視への大幅な醸造技術のシフト という二つの傾向が真っ先に挙がる。 そしてその変化は、クラシック、ナチュラル関係なく、あらゆるジャンルのワインに及んでいる。

梁 世柱
2024年8月11日


Wine Memo <27>
Laurent Bannwarth, Riesling Bildstoeckle 2019. ソムリエとしての修行を始めて間もない頃。今から20年ほど前の話だ。 私は順当に、“当時は”ワイン界の中心にいた フランスの銘醸地 、つまりブルゴーニュ、ボルドー、シャンパーニュから学び始めていたが、ワインの教科書を読み進めるうちに、とある産地に強く興味をもった。 フランスの アルザス地方 だ。 理由は大したものではない。 フランスなのにドイツ語が飛び交う だとか、 度重なる戦争でフランス領とドイツ領を行き来した とか、 ワインのボトルがドイツと同じ細長いタイプ だとか。 その 背景にある悲惨な歴史と理不尽に奪われた命 には興味をもたず、ただただ アルザスの特異性という結果 だけが私を惹きつけた。

梁 世柱
2024年8月9日


再会 <65> 大ピンチを救ってくれた、思い出のワイン
La Biancara (Angiolono Maule), Sassaia 2022. ¥3,700 約12年前の年末、私は 大ピンチ に陥っていた。 当時NYのワイン業界では無名に等しかった私を、なぜか新プロジェクトのワインディレクターとしてヘッドハントした、今は亡き大恩師でもあるシェフ、 デイヴィッド・ブーレー は、紛れもない 天才中の天才 だったが、いわゆる 「サイコ」 としても知られていた。 無理難題を突如押し付けてくるのは日常茶飯事 、その荒波をなんとか乗り切りながらの仕事は、今思えば刺激的で充実したものだった。 ところが、年末が近づいてきたある日、ブーレーは私に 「Mission Impossible」 と思えるような 超難題 を放り投げてきた。 当時働いてレストランは、フレンチの要素を取り入れた 高級和食店 。 そして、和食店の年末年始といえば、 おせち料理にも関連した難食材や料理 が多く出てくる。 普段なら、そういう料理に対するペアリングは日本酒でかわしてしたのだが、ブーレーは、 「子持ち昆布のお浸し

梁 世柱
2024年8月4日


出会い <64> 古代型ワインの妙
Atipico, Under the Plum Tree 2023. ¥5,800 人類最古のワインカテゴリーは何なのか。 とても興味深い疑問だが、考古学である以上、どのような見解にも頻繁に 「おそらく」 という枕詞がついて回る。 しかし、少なくとも 白ワインが最も古いカテゴリーではない 、という見解は極めて信憑性が高い。 現時点で見つかっている考古学的証拠からは、 紀元前3500年頃 に、 最初の白ワインらしきもの が現代の イラン で造られ始めたと考えられている。 また、 紀元前460年 に、「医学の父」とも呼ばれる古代ギリシアの ヒポクラテス が、 白ワインを患者に処方したと記録 しているため、確定に限りなく近い証拠という意味では、白ワインの最古の記述はヒポクラテスの処方記録となるだろう。

梁 世柱
2024年7月28日


Not a wine review <3>
Rockland Distilleries, Ceylon Arrack. (免税店価格:約4,900円) 一週間に渡って、ワインジャーナリストにとっては無縁の国を訪れた。 スリランカ だ。 半分はヴァケーションも兼ねた旅であったが、紅茶の 世界三大銘茶 とされるスリランカの茶産地 「ウバ」 (他の二つはインドのダージリン、中国のキームン)を訪れることが、この旅の目的。 未知の異国故の様々な小トラブルにも見舞われつつ、腹を下す覚悟をしながら(日本の衛生感覚ではありえないような)ローカル店でスリランカカレーを堪能したり、アーユルヴェーダ(インド・スリランカの伝統医療だが、スパの一環としても楽しめる)でリラクゼーションの深淵に没入したり、激しくバウンスするジープに揺られながらサファリで40頭近い象の群れに遭遇したりと、ワインジャーナリストとしての旅では決して味わえない非日常を過ごすことができた。 ウバでの体験はまた別稿にてレポートさせていただくが、今回のレヴューシリーズで紹介したいのは スリランカのアラック 。

梁 世柱
2024年7月21日


再会 <64> 飲み頃観測の難しさ
Rall, AVA Syrah 2020. ¥11,800 ワインの飲み頃予測に、完璧な方程式は無い。 産地(もしくは特定の葡萄畑)と葡萄品種だけで予測が成り立つなら簡単だが、実際にはヴィンテージ、造り手の特徴(特に収穫時期と醸造関連)、輸送環境、管理状況などの様々な変数が関わってくるため、 極めて複雑なマトリックス となってしまう。 ワインファンなら、せっかく手にしたボトルを最高の状態で楽しむために、飲み頃予測に「神の数式」が存在すれば、と願うのはいたって普通の思考だと思うが、 百戦錬磨のトップ・プロフェッショナルであっても、本当の意味での正確無比な予測は100%に限りなく近いほど不可能 と言える。 私自身も、この法的式の探究には真摯に取り組んできた一人だが、正直に申し上げると、私は数年前に諦めている。

梁 世柱
2024年7月7日


出会い <63> 環境のアロマ
Marzagana Elementales, Vita 2022. ¥8,000 ふと疑問に思った。 きっかけは、焼肉店でたらふく食べた後の、自分の衣服だった。 美味しかった記憶がすぐに蘇ってくるような、焼肉の匂いが染み付いていた。 そんなことは当たり前、と誰もが思うだろう。 そう、 香りは揮発 し 、染み付く のだ。 生育期の葡萄畑 を歩き回り、その畑から造られたワインを飲む、という経験をしたことがある人であれば、 畑とワインのアロマの間に明らかな共通性を感じたことがある のではないだろうか?

梁 世柱
2024年6月30日


再会 <63> Johannes Zillinger Part.2
Johannes Zillinger, Numen Rosé SL 2020. 偉大なロゼの探求 。 私が長年取り組んできた研究テーマの一つだ。 夏に、よく冷やしてカジュアルかつリーズナブルに楽しむ。 そのシチュエーション自体は私も楽しんでいるのだが、それだけ、となると流石に違和感を隠せない。 白ワイン、赤ワイン、スパークリングワインなら、カジュアルなものから、徹底してシリアスなものまで当然のように幅広く存在し、マーケットでもしっかりと棲み分けがなされている。 オレンジワインもおおむね同様の形となりつつある。 しかし、 ロゼだけはシリアスなものが極端に少ない 。

梁 世柱
2024年6月23日


Not a wine review <2>
伝統深い飲み物が他文化との交流によって変化 する、という現象は 現代のトレンド なのかも知れない。 中には、極めて ワイン的な変化をした一部の日本酒 のように、(ワインとその文化に対する) 憧れやコンプレックスが根底にある としか思えないものもあるため、全てを手放しで称賛することはできないが、新しい価値観が創造されること自体は、実にポジティヴな動きだと思う。 しかし我々は、この「新しさ」が 革命 なのか、 進化 なのか、を冷静に判断すべきではなかろうか。

梁 世柱
2024年6月22日


出会い <62> ティピシテを超えたブルゴーニュの偉大さ
Pierre-Henri Rougeot, Saint-Romain 2020. ¥9,300 気候変動、温暖化によって、 伝統産地のワインが様変わりしつつある ことは、SommeTimesでも度々取り上げてきた。いや、問題視してきた、と言って良いだろう。 単純な味わいの変化 、という意味であれば、 時代の嗜好 によって、(特に1980年代以降は)これまでも 10年単位で変化し続けてきた ので、いまさら騒ぐようなことでもないのだが、 今起こっている変化は人為的なものではなく、自然環境自体の変化がもたらしたもの 、という点に大きな懸念がある。 つまり、 テロワール とダイレクトに繋がった ティピシテ (簡単に説明すると、 「らしさ」 となる。)が変わってしまっているということだ。 ワイン趣味が深まるほど、我々の多くはワインに「らしさ」を求めるものだ。 それが伝統産地の、比較的クラシックな表現のワインであれば尚更のこと。

梁 世柱
2024年6月17日


再会 <62> Johannes Zillinger Part.1
Johannes Zillinger, Parcellaire Blanc No.1 2021. オーストリア は、世界でも有数の ナチュラルワイン銘醸地 だ。 北海道とほぼ同じ国土面積、大阪府とほぼ同じ総人口。オーストリアはとても小さな国であるため、ここでいうナチュラルワイン銘醸地としての姿は、 物量によるものではなく、圧倒的な質の高さによって獲得した評価 である。 特に、Steiermark(シュタイヤーマルク)とBurgenland(ブルゲンラント)には、世界最上クラスと目されるナチュラルワイン生産者達が名を連ねる。 ルドルフ・シュタイナーがオーストリア(オーストリア=ハンガリー帝国)の生まれであることも、かの国でビオディナミ農法に真摯に取り組む造り手が相対的に多い理由の一つとなっているかも知れないが、それ以上に 生真面目でやや内向的な(ここが重要なのです)国民性 が、モノづくりの質を限りなく高めていると考えた方がしっくりとくる。

梁 世柱
2024年6月9日


出会い <61> 辛口フルミントの聖地
Vino Gross, Igli č 2021. 世界は広い。そしてワインの世界もまた、広大だ。 日本は世界で最も成熟したワイン市場の一つであるため、レーダーの範囲をかなり広げてさえいれば、知られざる銘醸と出会える可能性も高いが、マイナー産地ならまだしも、マイナー品種ともなると、さすがに 運と導き の比重が大きくなる。 オーストリアに来てから、グリューナー=ヴェルトリーナー、リースリング、ブラウフレンキッシュ、ツヴァイゲルトなどの「メジャー系」ワインを堪能しつつも、ゲルバー・ミュスカテラー、ノイブルガーといった「マイナー系」品種も数多くテイスティングしてきたが、数多くの興味深い発見の中で一つ、 少し疑問符が浮かぶ品種 があった。 フルミント だ。

梁 世柱
2024年6月2日


再会 <61> ネクスト・ステージ
Botanical Life, vin-shu plus rouge 1 ~terra~ 2022. ¥3,800 良いところも、そうとは言い切れないところも含めて、ワインに対して全面的に 正直 であることは、私がジャーナリストとして何よりも大切にしているポリシーだ。 そのワインの良い部分だけを探そう、というアイデア自体を否定しているわけではないが、建前とお世辞を並べただけの上っ面な賞賛は、少なくともジャーナリズムではないと私は思う。 しかし、状況によっては、 ある程度譲歩せざるを得なくなる ことも確かにある。 記事化が確定している訪問先のワインに、疑問符が多く付いてしまった時などは、まさにそうだ。 そのような経験はいくつか思いあたるが、(後悔という意味で)最も印象に残っているのは、兵庫県にある Botanical Life での出来事。

梁 世柱
2024年5月26日
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