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ブルゴーニュラヴァーにとって、今、南アフリカが面白いワケ

この一年は、海外のワイン産地に行くことも、海外から生産者が来日することもなく、テイスティングの機会が圧倒的に少なくなってしまっていた。そんな中、年の瀬迫った12月上旬、筆者自身の念願のラインアップでのテイスティングが叶ったので、今回のコラムでレポートしようと思う。


フォーカスしたのは、南アフリカのテロワールの表現を追求する気鋭の2生産者、ストーム・ワインズとクリスタルムで、シャルドネとピノ・ノワールシングルヴィンヤードワインを揃えた。


ストーム・ワインズ

最初のフライトは、ストームの4アイテム。ファーストリリースとなったリッジ・シャルドネ 2019と、ピノ・ノワール3部作リッジ、イグニス、フレダのヴィンテージ2018


Storm Wines / Ridge Chardonnay 2019, W.O. Hemel-en-Aarde Ridge

Storm Wines / Ridge Pinot Noir 2018, W.O. Hemel-en-Aarde Ridge

Storm Wines / Ignis Pinot Noir 2018, W.O. Upper Hemel-en-Aarde Valley

Storm Wines / Vrede Pinot Noir 2018, W.O. Hemel-en-Aarde Valley


これらのワインが生産されるへメル・アン・アールダ・ヴァレーは、ケープタウンから東へ約120キロ、ヘルマナスという小さな海辺の街を拠点に見ると、北東方向に形成された渓谷で、自然の冷却効果をもたらす海の影響を強く受ける海洋性気候

この海は、南極からの冷たいベンゲラ海流がインド洋と合流し、大西洋へと北上する。南緯34度付近に位置する南アフリカのワイン産地にとって、暑さを和らげる重要な自然要因となっている。


ウォーカー・ベイ地区のまだ比較的新しい産地だが、海側から内陸へと順に、「へメル・アン・アールダ・ヴァレー以下ヴァレー)」「アッパー・へメル・アン・アールダ・ヴァレーアッパー)」「へメル・アン・アールダ・リッジリッジ)」という3つの小地区(Ward)に分類されている。



この土地でピノ・ノワールの可能性を切り開いた先駆者ハミルトン・ラッセルで、10年間チーフワインメーカーを勤めたハネス・ストームは、この3つの小地区それぞれの単一畑からピノ・ノワールを生産する唯一の生産者である。というのも、このエリアではほとんどの生産者が第一世代としてブドウ畑を切り開いているため、3つの小地区のいずれかに属し、その表現に終始しているのだ。


つまり、ハミルトン・ラッセルやブシャール・フィンレイソンなら、最も海に近いヴァレー、現在は2世代目が参画しているニュートン・ジョンソンは、谷の中間に位置するアッパーアタラクシアやクリエイションは、谷の最も奥のリッジに、それぞれ自社畑を持ち、その小地区の表現にフォーカスすることになる。


造り手が変われば、純粋なテロワールの比較は困難になるため、同一生産者が同一品種ピノ・ノワールでそれぞれの小地区から生産したワインを比較することで、はじめてこの細分化された小地区のテロワールの違いを確認することができる、というわけ。


耳慣れない固有名詞が並んで、少々混乱されたかもしれないが、ブルゴーニュやアルザスのワインがお好きな方ならそろそろお気づきだろう。小さなエリアに異なるテロワールがあり、それをピノ・ノワールという繊細な品種でなるべく忠実に比較する醍醐味を、ワインラヴァーなら共感してくれるはず・・、と願いたい。


リッジ・シャルドネ2019は、蜜りんごやかりんのようなフルーツに、岩塩や石を思わせるミネラル感があり、上品なオークがワインによく溶け込んでいる。

標高330メートルの南東向き斜面で、石が多い頁岩粘土土壌。同じ畑から造られるリッジ・ピノ・ノワール2018は、軽やかでチャーミングな赤系果実、オレンジピール、旨味を伴うフィニッシュ。3つの小地区の中で最も冷涼で収穫時期が遅くなる特徴が、新鮮な果実味と骨格を成す酸味から感じられる。


渓谷の中央に位置するアッパーの土壌は、他の二つと違い風化した花崗岩が基調になる。イグニス・ピノ・ノワール2018は、やや閉じ気味のアロマだがスミレやバラのような華やかさが妖艶に開いてくる。かみごたえのあるタンニンの存在感があり、美しいバランス。


最も温暖なテロワールのヴァレーから造られるフレダ・ピノ・ノワール2018は、果実の熟度とボディの厚みがあり、わずかにスパイスのアクセント、ジューシーで柔らかい印象だ。


いずれの畑も2008年から2010年の植樹でまだ若い樹齢ながら、こんなに繊細な表現ができるハネス・ストームには、国内外から大きな期待が寄せられていて、すでに入手困難となっている


クリスタルム

セカンドフライトは、現地とオンラインで中継してクリスタルムのピーター・アラン・フィンレイソンがテイスティングをガイドしてくれた。ピーター・アランは、ヴァレーの老舗メーカー、ブシャール・フィンレイソンの3世代目で、2007年に兄弟で独立してクリスタルムを設立。現在は妻の実家であるボット・リヴァーのガブリエルスクルーフを拠点にしている。


ストームのリッジの畑から50メートルの至近距離にあるシングルヴィンヤードから、クレイ・シェルス・シャルドネ2019とキュヴェ・シネマ・ピノ・ノワール2019。そして、お隣オーヴァーバーグ地区のエランズクルーフという標高700メートルの山の中にある畑から造られるマバレル・ピノ・ノワール2019と、同じワインの2014を比較に用意した。


Crystallum / Clay Shales Chardonnay 2019, W.O. Hemel-en-Aarde Ridge

Crystallum / Cuvée Cinéma Pinot Noir 2019, W.O. Hemel-en-Aarde Ridge

Crystallum / Mabalel. Pinot Noir 2019, W.O. Overberg

Crystallum / Mabalel. Pinot Noir 2014, W.O. Overberg


ピーター・アランによると、「2019ヴィンテージは数年続いた干ばつが解消した年で、収量も程よく、両品種にとって良いヴィンテージになった」とのこと。特に、「リッジの特徴である鉄分や粘土を多く含む土壌では、果実の凝縮度とフレッシュな酸味が表現され、クレイ・シェルスはとても香りが豊かで複雑」とコメント。


ストームのシャルドネと比較すると、果実やミネラルの特徴が共通して感じられるが、クレイ・シェルス・シャルドネ20192600リットルのフードル(Stockinger製*1)を発酵・熟成に使用しているので、より果実の特徴がピュアに感じられた。


キュヴェ・シネマ・ピノ・ノワール2019は、繊細な赤いベリーにザクロのような風味で、瑞々しい透明感のあるワイン。きめ細かなタンニンで、わずかにストームのリッジ・ピノ・ノワール2018よりストラクチュアを感じる。


ピノの醸造に全房をなるべく取り入れたいというピーター・アランだが、2019は果梗の熟し具合もよかったため、これまのキュヴェ・シネマで最も多い70%の全房使用率になっている。とはいえ、全房発酵による梗の特徴が目立つワインではない。

「この畑のピノは十分に凝縮感のあるワインになるので、発酵中にパンチングダウン(*2)は行わず、数回のポンピングオーヴァー(*3)を行い、4〜6週間かけてゆっくりと穏やかな抽出を行っている。ヴィンテージの特徴を表現しつつも、どんな年でもテロワールの一貫した個性と品質のワインが造れる畑」と評価した。


一方、マバレルの畑は、海岸線からはおよそ50キロ内陸にあり、標高700メートルの高地という全く異なるテロワールだ。高い山に囲まれているため、日照量も少なくなり、冬は雪が積もるほど冷涼な気候で、ブドウの成熟期間はより長くなる。果皮が厚いブドウになり、果梗まで熟しにくいため、多くても全房比率は10%未満にとどまるという。

「2019年は開花時期の悪天候により収量が三分の一に減ってしまった。その分、果実の凝縮度は通常より高く仕上がった」と、解説。ダークフルーツの特徴に、スパイスやミネラル感が加わり、複雑な味わいで、熟成のポテンシャルも感じられた。


そして、このマバレルがどのように熟成をしているかをみるため用意したヴィンテージ2014については、「この10年間で最も涼しく、雨も多かった年。そのため、全房は使わず、ライトなワインで、そうしたヴィンテージの特徴が今飲んでもよく表れている」とコメント。紅茶や土、キノコのような熟成による特徴が綺麗に出ていて、とても繊細だが、発達した果実風味も保たれていて、ちょうど今がいい飲みごろと感じた。


日本に行くのを毎年楽しみにしているというピーター・アラン

今年は画面越しになったが、来年は直接会って、また一緒にテイスティングしよう、と約束してzoomの画面を閉じた。



(*1) Stockinger:ワインメーカーにとってのストラディバリウスと称される、オーストリアの樽製造メーカー。近年、気鋭のテロワールワイン生産者から絶大なる支持を得ている。


(*2)パンチングダウン:発酵中のタンクに上部から棒などを押し込み、タンク上部に滞留した果帽を崩しながら沈めることによって、タンニン、色素、香り等の抽出を促す手法。かつては、フランス語の「ピジャージュ」という呼称の方が一般的であった。


(*3)ポンピングオーヴァー:発酵中のタンク下部から液体を吸い上げ、タンク上部から再びかけ流す手法。果帽の液体内での循環を促す為、より均一的な発酵が実現できる。また、抽出もパンチングダウンに比べるとソフトになる。かつては、フランス語の「ルモンタージュ」という呼称の方が一般的出会った。


生産者:Crystallum / クリスタルム、Storm Wines / ストーム・ワインズ

生産国:南アフリカ

インポーター:Raffine

参考小売価格(税別):全て¥6,300(最新ヴィンテージ)


<ライタープロフィール>

高橋 佳子 / Yoshiko Takahashi DipWSET

Y’n plus


兵庫県生まれ。

2000年、大阪北新地のワインバーでソムリエ見習いとしてワインの世界に足を踏み入れる。

2002〜2003年渡豪、ヴィクトリアとタスマニアのワイナリーで研修。帰国後、インポーター勤務時に上京。ワイン専門卸会社勤務を経て、2013年よりフリーランス。

ワインスクール講師、ワイン専門通訳&翻訳、ワインライター、ワインコンサルタントなど、ワイン業界でフレキシブルに活動する。

2016年、WSET® Level 4 Diploma取得*

2017年、PIWOSA Women in Wine Initiative 南アフリカワインのインターンシッププログラム参加

2018・2019年、Royal Hobart Wine Show International Judge

2019年より、WOSA Japan 南アフリカワイン協会 プロジェクトマネージャー


*WSET®は、イギリスロンドンを拠点に世界70カ国以上で提供されている世界最大のワイン教育プログラム。Level 4 Diplomaはその最高位資格。


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