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PIWI品種とナチュラルワイン <オーストリア・シュタイヤーマルク特集:Part.3>
気候変動とナチュラルワインは、すこぶる相性が悪い。 低介入醸造を可能とする葡萄の必須条件はいくつかあるが、その最たるものは、低いpH値(単純化すると、高い酸度)と、高いポリフェノール類の熟度だ。 気候変動の一部である温暖化は、糖度の上昇を大幅に加速させるため、低介入醸造を重要視する造り手たちは、アルコール濃度の抑制と低pH値のために、早摘みを余儀なくされる。 しかし、過度の早摘みは未熟なポリフェノールともダイレクトに繋がるため、結局問題が起こる。 この堂々巡りを回避するために、栽培品種が今の気候に適しているかどうかも含めた畑仕事の根本的な見直しや、糖度上昇の加速によって劇的に狭まった「適熟」のスイートスポットを、決して逃さないように収穫することが、かつてないほど重要になっているが、当然それも、簡単なことではない。 特に収穫タイミングに関しては、超速で飛ぶジェット機を、連写機能を一切使わずに写真に収めるようなものだ。 栽培に関しては他にも、オーガニックという大きなカテゴリーの生産者に対しても、問題がのしかかっている。 ..

梁 世柱
2024年8月16日


レジェンドの息子 <Elias Musterの挑戦>
ワイナリーの継承というのはとても難しい。 そもそも子供世代が大変な農作業を伴うワイナリーを引き継ぎたいとも限らないし、親が造っていたワインの品質を維持できるとも限らない。 ワイン造りに「人」が深く関わってくる以上、変化は避け難いものだ。 さらに、一般消費者だけでなく、ワイン業界に携わる人々も、代替わり後の品質に関しては、問答無用という厳しさで接することも多い。 そういう私も、ポジティヴとは言い切れない世代交代を何度も目にしてきたし、代替わり後にそのワインを全く購入しなくなったことも何度もある。 特に、親がレジェンド級の造り手であった場合、後継者にかかるプレッシャーは相当なものだ。 優れた造り手であった両親のもとに生まれた子供を、無条件で「サラブレッド」と表現したくなる気持ちはわかるが、現実はそう甘くない。 もちろん、この難しさを誰よりも理解しているのは、造り手本人だ。

梁 世柱
2024年8月3日


エネルギーの螺旋 <ラドヴァン・シュマンが目指す真なる調和>
スティリア地方訪問では、オーストリア側にあるワイナリーを中心に巡ったが、一軒だけ、スロベニア側の造り手を訪ねた。(オーストリアの)シュタイヤーマルク地方は、南側の境界線が全てスロベニアとの国境に接している。 シェンゲン協定によって、すでに形だけの国境となっているため、一応関所はあるが、往来を阻まれることはない。 それでも、すでに世界的なスター産地となったシュタイヤーマルク地方と、スロベニア側のシュタイエルスカ地方の間には、あまりにも大きな格差が形成されている。 元々は一つのスティリアであった事実がまるで無かったかのように、ワインの評価や人気は大きくシュタイヤーマルクがリードしているし、国境を超えてスロベニア側に入ると急に、家屋の質も変わる。 資本主義国家と、旧社会主義国家の違いが、矢継ぎ早に目に飛び込んでくるのだ。 より包括的にスティリアを捉えるために、シュタイエルスカ地方でも取材を重ねたい思いはあったが、時間の制約上、残念ながらそれは叶わなかった。 そして、唯一訪問することができたSchumann(シュマン)も、この地方では特異中の特異な存在で

梁 世柱
2024年7月30日


Karakterre 13
オーストリアの首都ウィーンにて、2年に一度開催される大展示会VieVinumに参加する前日、ウィーンから車で1時間ほどのアイゼンシュタットまで足を運び、Karakterreという別の展示会に参加した。 日本での知名度はほとんど無いが、Karakterreは中央〜東ヨーロッパの国々、そしてオーガニック、ビオディナミ、ナチュラルというカテゴリーに属するワイナリーにフォーカスした極めてユニークな展示会として知られている。 2011年にスタートしたKarakterreは、アイゼンシュタットで開催され続けてきたが、2022年にはNew Yorkへと初上陸し、伝統あるロックフェラーセンターにて開催された。 第13度目のKarkterreとなる今回は2日間のイベントとなり、初日と2日目で出展者が総入れ替えされるという仕組み。 非常に残念なことに、スケジュールの都合上、2日目しか参加できなかったが、オーストリア、ドイツ、スロベニア以外の国々に焦点を当てて、テイスティングを繰り返した。 1,000名近い参加者で溢れ返る会場の熱気に包まれながら、充実した取材を行うこ

梁 世柱
2024年6月12日


RAW WINE Tokyo 2024
2024年5月12日と13日、東京にて、ナチュラルワイン・ファンが長年待ち焦がれたイヴェントが初開催された。 名著として知られる「自然派ワイン入門」(訳:清水玲奈)の著者、イザベル・ルジュロンMWが主催するRAW WINEは、この分野における最も重要な展示会の一つであり、近年は世界各地で開催されてきたが、世界最大級のナチュラルワイン市場である日本にはなかなか上陸してこなかったのだ。 クリーン・ナチュラルからワイルド・ナチュラルまで、あらゆるスタイルのナチュラル・ワインをテイスティングしつつ、数多くの造り手(RAW WINE Tokyo 2024には、世界各地から約100の作り手が集結した。)と直接話ができるこの様な展示会が日本で開催されたことに、一人のナチュラルワイン・ファンとして、これ以上ない喜びと興奮を覚えた。 溢れんばかりの熱気に包まれた、超満員の会場。 日本各地からの来場者に加え、台湾、韓国、シンガポール、インドネシアなどから、RAW WINE Tokyo 2024のために来日した人々も多くいた。 まともに歩くのも困難

梁 世柱
2024年5月15日


再会 <39> ドイツで芽吹く、圧倒的な才能
Moritz Kissinger, Null Ohm Weiss 2021. ¥3900 オーストリア・ウィーン出身の映画俳優で、近年では007シリーズの犯罪組織「スペクター」の首領、フランツ・オーベルハウザー役の怪演でも知られるクリストフ・ヴァルツは、ドイツとオーストリアの違いを、「戦艦とワルツ」と表現した。 もちろん、戦艦はドイツの事を意味し、オーストリアがワルツだ。 確かに、保守的なだけでなく、腰深く構えてゆっくりと着実に直進していく「ドイツらしさ」を戦艦に喩えるのは、(オーストリア人らしいウィットに富んだ表現も含めて)何とも言い得て妙だ。 私自身は、そんなドイツの直進性と保守性が好きなのだが、分かりやすい変化や改革を望む声があるのも重々理解している。 オーストリアは、持ち前のアーティスティックな性質でもって、随分と前から南シュタイヤーマルクとノイジードラーセを中心に新たなスタイルを生み出してきたが、ドイツはどうなのだろうか。 どうか、ご安心いただきたい。 近年、Baden、Pfalz、Rheinhessenを結ぶトライアングルは、世界各国

梁 世柱
2023年6月10日


ビオディナミのリアル
3月10日、オレゴンからEvening Land Vineyardsのサシ・ムーアマン(他関連ワイナリー:Sandhi Wines、Domaine de la Côte、Piedrasassi)をゲストに迎え、「ビオディナミを説く」と題したオンライン・セミナーを開催した。 信じるか信じないか、といったどうにも宗教的な見解に至りがちなビオディナミ農法だが、原理はさておき、結果でのみその是非を判断すべき、というのが私自身の考え方だ。 だからこそ、ゲストにサシ・ムーアマンを迎えた。 以前、カリフォルニアの特集記事を組んだ際にも、徹底した現実主義者のサシならではの正直な言葉に、随分と助けられたからだ。 本記事はサシとの対談をもとに、ビオディナミのリアルを(私自身の備忘録も兼ねて)掘り下げていく内容となる。 また、ビオディナミ農法そのもに関する説明は、以前寄稿したAdavanced Académie 15と16をご参照いただきたい。 実際のセミナーでは、5つのテーマに分けてディスカッションを行ったが、内容が重複する部分もあったため、整理した形で記述していく

梁 世柱
2023年3月11日


Advanced Académie <16> ビオディナミ・後編
前稿に続き、本稿でもビオディナミの詳細に迫っていく。ビオディナミ農法とオーガニック農法を決定的に隔てるものが2つある。調合剤(プレパレーション)とビオディナミカレンダーとも呼ばれる「農事暦」の存在だ。 調合剤 ルドルフ・シュタイナーは、植物が自然に備えている力(抵抗力)を最大限発揮することを手助けするために、動物の糞や薬用成分を含む植物、特定の鉱物といった天然物のみを由来とした、極めて詳細な条件に基づく特殊な調合剤とその製法を考案した。中には、特定の植物と特定の動物の臓器の組み合わせが指定されているものまであるが、全てが特有の作用を達成するという明確な目的のために指定されている。調合剤は、シュタイナーが説く壮大で難解なエネルギーシステムと深く関連しているが、正確に理解するのは容易では無い。また、それぞれの調合剤には、関連する惑星が明示されているが、話が複雑化する上に、根拠も不明瞭、理解も容易ではなく、実践者以外には不必要な情報とも言えるため、割愛する。調合剤は、即効性が高いものではなく、効果を発揮するには下準備が必要となる。具体的に言うと、調合剤

梁 世柱
2021年9月28日


Advanced Académie <15> ビオディナミ・前編
SommeTimes Académie <16> 農法2でも簡潔に触れたが、本稿と次稿では、二回に渡って、ビオディナミ農法の詳細を追っていく。 理由は釈然としないが、結果だけを見る限り、ビオディナミ農法の効果は信じるに足る。現在、世界の最も優れたワインの多くがビオディナミ農法によって造られており、ビオディナミ採用以前と以後では、それらの偉大なワインの品質に、大きな変化が一貫して認められてきたからだ。その効果の理由がどこにあるのか、良く言われている「ビオディナミの真の効果は、畑仕事の厳格化にある」というのは真実と断定できるのか。なるべく丁寧におっていこう。 提唱者ルドルフ・シュタイナー ルドルフ・シュタイナーは、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、オーストリアとドイツで主に活動した人物である。彼の肩書は、哲学者、教育者、科学者、神秘思想家、人智学者と幅広く、一貫性にも欠けるように思えるが、「哲学的アプローチによって、物質世界と精神世界を繋ぎ合わせる」という神秘的思想を掲げ、ある種の精神科学とも言える「人智学」を提唱した。実は、シュタイナーが農業に

梁 世柱
2021年9月21日


SommeTimes Académie <16>(ワイン概論12: 農法2)
本稿では、ワイン醸造を目的とした葡萄栽培において、目にする機会の多い農法に関して、学んでいく。なお、いくつかの農法に関しては、Advanced Académieにて、より詳細な内容に触れていく。 試験後に忘れてしまった知識に意味はありません。ワインの勉強は、難しい外国語由来の単語との戦いでもあります。そういった単語をただの「記号」として覚えることにも、意味はありません。その単語が「何を意味するのか」を知ってこそ、本来のあるべき学びとなります。SommeTimes Académieでは、ワインプロフェッショナル、ワイン愛好家として「リアル」に必要な情報をしっかりと補足しながら進めていきます。試験に受かることだけが目的ではない方、試験合格後の自己研鑽を望む方に向けた内容となります。SommeTimes’ Viewをしっかりと読み込みながら進めてください。 ビオロジック オーガニック農法とも呼ばれる。化学合成農薬、化学肥料を使用せずに、土壌の力を引き出す有機農法。しばしば誤解されるが、ビオロジック=完全無農薬ではなく、葡萄栽培においては特に重要となる、

梁 世柱
2021年8月28日


ポルトガル・プレミアムワイン
「世界でも最もコストパフォーマンスに優れた国の一つ」 これが、ポルトガルというワイン伝統国の、ワイン市場における現代の一般的評価だろう。 現代の、と付け足したのには理由がある。 ポルトガルと言えばポートワイン、というイメージからの脱却が、...

梁 世柱
2020年12月1日
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