2021年2月10日4 分

ペアリングの基本 <風味>

最終更新: 2022年3月15日

風味という言葉は、日常生活の中では、様々な意味で用いられます。しかし、ペアリングを学んでいく上では、定義をはっきりとさせておかないと、大きな混乱が生じてしまいます。

ワインペアリングにおける風味とは、ワイン、食材、料理から感じられる香りと、その特徴的な味わいの総体と考えましょう。トロピカルフルーツ、赤いベリー、バニラ、ハーブ、塩っぽいミネラル、レモンといった、多種多様な風味が想定されます

さらに踏み込んで考えると、風味とは上で述べたような「具体性」を伴った酸味、甘味、塩味、苦味(渋味)、辛味、旨味の総称となります。つまり、「レモンの様な酸味」という印象こそが、ワインペアリングにおける風味の正体と考えましょう。ワインをテイスティングする際にこれらの風味を可能な限り正確に捉える事が、成功の鍵となります。

風味の要素は比較的簡単に使用することができるため、初心者はこの技法一辺倒になりがちです。残念なことに、ペアリングはそこまで単純なものでもありませんので、あくまでも風味の技法は、酸味、甘味、渋味、アルコール濃度という4つの最重要要素を攻略した上で用いるべきです。

風味の技法とは、最後のファインチューニングに用いてこそ、最大の効力を発揮します。

1. ハーモナイズ(調和)

ワインに含まれる複数の風味と、料理に含まれる複数の風味を、複合的にかけ合わせる事で、ワインと料理の調和が高まる効果が実現出来ます。基本的には料理側の風味の要素を先に抽出し、それに対応した風味をもつワインを当てていくと良いでしょう。風味のハーモナイズは正確に駆使できれば非常に効果が強く、ペアリングのクオリティを上げるための決定的要素となることも多々あります。ワインと料理の間でハーモナイズさせるターゲットの風味が多ければ多いほど、繋がりが強まるため、迫力のある力強いペアリングとなります。

ワイン側の風味を探る際のコツとしては、ワインのテクニカルシートをある程度参考にしていくことです。人の嗅覚や味覚の鋭さは、体調や個人差によって大きく変動します。ですので、テクニカルシートに書かれている項目を、風味と関連付けて整理整頓しておくと、どのようなコンディションの時にでも最低限以上の対応はできるようになります。

関連付けの例

・果実味は赤ワインの場合、温暖な地域ほど青、黒ベリー系へ、冷涼なほど赤ベリー系へ傾く傾向がある。

・果実味は白ワインの場合、温暖な地域ほどトロピカルフルーツへ、冷涼なほど柑橘系へ傾く傾向がある。

・冷涼地のカベルネ系葡萄からはハーブのニュアンスが、温暖地のローヌ系品種からはスパイスのニュアンスが、といった産地と品種の組み合わせによって生まれる風味。

・新樽比率が高いとバニラのニュアンスが強くなる傾向がある、大樽で長期熟成だと酸化したナッツ的ニュアンスが加わってくる、といった醸造と熟成の手段から生じる風味。

これらは、あくまで一例ですし、人の介入範囲が大きい工業品的側面の強いワインには、当てはまらないことも多々ありますので、自分自身が理解しやすい、把握しやすい要素から、まずは整理をしてみてください。

2. ハイライト(強調)

風味におけるハイライトの技法は、ハーモナイズと似ているのですが、ハーモナイズが複数の風味同士を繋ぎ合わせるのに対し、ハイライトは一点集中型になります。シンプルなので分かりやすく、伝わりやすい側面があり、上手く用いれば大変有用です。

ハイライトを成功させるには、まずはその料理が、一つの風味が支配的になっている味わいのものである、という必要があります。例えばクリームシチュー。シチューに含まれる食材も確かに重要ではありますが、全体的なバランスの中では、クリームの風味が支配的になっています。ハイライトの技法を用いる場合、このクリームに焦点を絞って、ワイン側もクリーム的風味のあるワイン、例えば新樽比率が高く、MLF発酵もしっかりとしているシャルドネを合わせると、ハイライトが成立します。一つの要素同士しか繋げないので、特にワイン側は正確にそのターゲットとなる風味と同種の風味をもつものである必要があります。

クリームの風味に一点集中するハイライトの技法

3. アディション(追加)

ワインを第2のソースと見立てるという、古典的な手法の一つです。料理に対して積極的に介入して風味の追加を試みるという手法ですので、料理そのものへの知識はもちろんのこと、その料理と、それに対して追加するワイン側の風味の相性も、非常に重要になります。基本的には料理自体はシンプルなものの方が、アディションが成立しやすくなります。例えば、豚ロースのソテーに、ゲヴュルツトラミネールを合わせた場合、豚肉という食材はトロピカルフルーツの味わいと相性が良いため、ワインが第2のソースとして機能します。この例でも、豚肉とトロピカルフルーツの相性を知っていないと実現できない、とも言い換えることができますので、やはりアディションの技法は、料理に関する知識が乏しい場合は、難易度が高くなってしまいます

シンプルな料理の方が、アディションは成功しやすい。