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- 驚天動地の酒「新政」
本質を知ることを怠ると、自分にとって都合の良い形で理解してしまいがちだ。こういった 曲解 は、作品という結果を純然に楽しむだけの消費者であれば問題にはならないが、その価値を伝える役割と責任を担う「 伝え手 」にとっては、重大な過失に繋がり得る 深刻な怠慢 だ。 知らないなら語らない 。しかし、伝え手が本来守るべき約束事は、破られることが常。 私は新政を、いや、新生した新政を良く知らなかったから、語ることは避けてきた。しかし、他の有識者らしき人たちによって切り取られ、植え付けられてきた筆者の新生新政に対する断片的な認識は、その本質にいよいよ触れたとき、 何もかもが間違っていた と断じざるを得ないものだった。 筆者が21歳の時、ニューヨーク・マンハッタンで職を得た「酒蔵」という巨大な日本酒バーには、旧新政が常備されていた。刈穂、飛良泉、紅まんさく、雪の茅舎といった銘酒どころ秋田の佳酒が並ぶ中、旧新政は際立って地味な酒だった。売れ行きも芳しくなく、スタッフの誰かが抜栓しては他のスタッフに迷惑がられ、抜栓後の日数が経過し過ぎないギリギリのタイミングで急いで売り切る、というサイクルが繰り返されていた記憶がある。 20代前半の私には、旧新政のクラシックな魅力が、全く理解できなかったのだ。 新政に対しては、決して良いとは言えないイメージを引きずったまま時が流れていったが、 2007年に 八代目蔵元の佐藤祐輔 が新政酒造に帰還して以降、急激に様子が変わったのを、少し離れたところから観察するようにはなっていた。 そして、この「少し離れた」距離感は、筆者が新生新政の本質を知ろうとする動機をことごとく奪ってきたとも言える。今となっては実にもったいないことをしていたと、後悔の念は深いが、ようやく知ることによって得た無上の喜びは、苦々しい思いを悠々と消し去るほどのインパクトを伴っていた。 おそらく、非常に多くの方々が新生新政に対して抱いているイメージはこうだろう。 ・プレゼンテーションがおしゃれ ・面白い名前のお酒が多い ・アーティストとも積極的にコラボレーションしている ・入手困難で、プレミアム価格になっている 少し専門的な話もわかる人なら、日本酒では通常は用いない 白麹 (一般的には焼酎用、日本酒は黄麹が基本)を使った、酸味の強いヨーグルト的な味わいの、ちょっと変わった亜麻猫という日本酒を作っている蔵、といったイメージをもっている人が多いだろう。 筆者は、 抜栓後の異常な持続力 にも興味の目を向けてはいたものの、全体としては、多くの人々と大差ないイメージを、新生新政に対して抱いてきたと言える。 一度、佐藤祐輔帰還後に新政酒造が行ってきた改革を辿っておこう。 2007年:八代目蔵元、佐藤祐輔帰還 2009年:100%秋田産米使用への転換を宣言 2010年:新政酒造発祥である6号酵母のみの使用を宣言 2012年:醸造アルコール添加の完全廃止を宣言 同年:佐藤祐輔、社長就任 2013年:原料米の大部分を契約栽培に移行 同年:木桶の導入(2022年現在45本を保有) 2014年:山廃造りの完全廃止、100%生モトへ移行 2016年:自社圃場での栽培開始 2018年:自社圃場の無農薬化に成功 2019年:全量蓋麹化 2020年:放冷機等を撤廃 これら一連の改革には、一つの 極めて重要なテーマ 、そして 新生新政が標榜する酒造りの本質 そのものが常に込められてきた。
- 出会い <6> スペインワインの新常識
Muchada-Léclapart, Lumière 2017. ¥8,900 前回の「再会」では、小さなマイブームの波と、いつまでも色褪せない魅力の話をしました。 そう、ピノ・ノワールのように、永遠とも思える興味を与え続けてくれる品種もありますが、筆者にはいつでも、何かしらのマイブームが訪れています。 実は現在進行形のマイブームは、 スペイン 。 正確に言うと、スペインの中でも 特定の3産地 がマイブームの対象となっています。 1つ目の産地は カタルーニャ州のペネデス 。 2つ目の産地はスペイン領だけど位置的にはほぼアフリカな カナリア諸島 。 そして3つ目の産地は、本日ご紹介する アンダルシア地方 です。 アンダルシア と聞くと、皆様何を思い浮かべるでしょうか? 世界遺産でもある、荘厳な アルハンブラ宮殿 でしょうか。 有名なリゾート地である、 コスタ・デル・ソル でしょうか。 夏の定番料理、 ガスパチョ でしょうか。 それとも、異様なほどに奥深い世界が形成されている、 シェリー に代表される様々な酒精強化酒でしょうか。 魅惑的なアンダルシアに対して人が思い抱くイメージは、多種多様だと思いますが、おそらく今回ご紹介するようなワインを思い浮かべる人は、ほとんどいないでしょう。
- 葡萄品種から探るペアリング術 <8> メルロー
葡萄品種から探るペアリング術シリーズは、特定の葡萄品種をテーマとして、その品種自体の特性、スタイル、様々なペアリング活用法や、NG例などを学んでいきます。 今回は、 メルロー をテーマと致します。 同じボルドー品種である カベルネ・ソーヴィニヨン との共通点や違いも合わせて、読み進めてください。 また、このシリーズに共通する 重要事項 として、葡萄品種から探った場合、 理論的なバックアップが不完全 となることが多くあります。カジュアルなペアリングの場合は十分な効果を発揮しますが、よりプロフェショナルな状況でこの手法を用いる場合は、ペアリング基礎理論も同時に参照しながら、正確なペアリングを組み上げてください。 メルローのスタイル 品種自体の主張が非常に強いカベルネ・ソーヴィニヨン(以降、 CS と表記)に比べると、メルローは 主役としても脇役としても、落ち着いた輝きを放つ品種 です。CSと同様に、国際品種としては最も成功したものの一つですので、文字通り、世界中で栽培されています。 CSに比べると、 香りや風味の共通点は多い のですが、 より丸みのあるテクスチャー、果実味が強く、タンニンは滑らかになることが多い ため、慣れればブラインド・テイスティングでも容易に判別がつきます。 メルローは大別すると 2つのスタイル に分かれますが、共通して樽熟成が基本になっています(新樽比率はワインごとに大きく異なります)。 1. ポムロール型 :メルロー単一が基本となるスタイル。 2. サン=テミリオン型 :カベルネ・フランとのブレンドが基本となるスタイル。 また、 それぞれのスタイルが、さらにオールドワールド系かニューワールド系に細分化 されます。 ポムロール型はよりパワフルな果実感を伴い、サン=テミリオン型はよりエレガントな味わいとなる傾向がありますが、ニューワールド系になるとほぼ無条件でパワー感が増しますので、オールドワールド系のポムロール型と、ニューワールド系のサン=テミリオン型は、基本的にほぼ同じレベルのパワフルさと考えて問題ありません。 整理すると、以下のような傾向になります。 パワフル :ニューワールド系ポムロール型 中庸 :オールドワールド系ポムロール型、ニューワールド系サン=テミリオン型 エレガント :オールドワールド系サン=テミリオン型 また、同系統(オールドワールド系かニューワールド系)であれば、ほとんどの場合で、 CSよりも穏やかになる傾向 があります。
- 人間万事塞翁が馬
人生の幸不幸は予測できないもの、というたとえが表題でございますが、本当に、人生何が起こるかわかりません。 昨年の私の身に起こったことも、全くの想定外。 人生で初めて心身不調になり、休養してしまいました。 改めまして、ご迷惑ご心配をおかけした方にお詫び申し上げます。 そんな昨年でしたが、ご縁をいただき11月より中国料理「 茶禅華 」にて働き始めました。 和魂漢才という概念にて、日本の食材を中華の技法にて仕上げたお料理をワイン、お茶と共に楽しんでいただけるお店です。 新しい環境でのお話も今後させていただこうかと思いますが、今回は休養期間中に飲んだワインについてのお話。 人生のターニングポイントに最も好きな、最高のワインを飲もう、と思い10年以上前に購入して寝かせていた秘蔵のワインを開けました。 生産者:Domaine Comte Georges de Vogüé / ドメーヌ・コント・ジョルジュ・ド・ヴォギュエ ワイン名: Musigny / ミュジニー 葡萄品種 :Pinot Noir / ピノ ノワール ワインタイプ :赤ワイン 生産国 :France / フランス 生産地 :Bourgogne/ ブルゴーニュ ヴィンテージ :1989 インポーター :ラックコーポレーション ブルゴーニュワインの 至高の存在 。 ワインラヴァーにとって 垂涎の的 。 シャンボール・ミュジニー村の特級畑、ミュジニー。 面積10.85haのうち 約2/3の7.12haを所有 するのが、こちらのドメーヌ。 シャンボール・ミュジニーで、最も重要かつ有名な造り手。 1450年から、という長い歴史を持ち、ドメーヌ名になっているジョルジュ・ド・ヴォギュエ伯爵(Comteコントは伯爵の意味)は1925年継承。 現在は孫娘が所有しておりますが、実際に運営してきたのはそれぞれ担当別の3人。 醸造責任者のFrançois Millet フランソワ・ミエ 。 栽培責任者のEric Bourgogneエリック・ブルゴーニュ。 販売担当者のJean-Luc Pépinジャン・リュック・ペパン。 特に著名な方が、醸造責任者のフランソワ・ミエ。 1986年に参画し、その時期に若干低迷していたといわれるドメーヌの品質と名声を取り戻し、今の至高の存在にまで高めたと言われております。 フランソワは惜しまれつつも、 昨年末で引退 されてしまいました。 ミュジニーは、樹齢25年以上の樹からのブドウのみを使用。 それより若い樹のブドウは下のクラス、Chambolle-Musigny 1er Cruとして瓶詰めされます。 特徴を一言で言うと、 難解 。 他には、深淵、哲学的で知的、クールビューティーなどなど。 どうしても抽象的になりがちなワインです。 わかりやすく表現するのが、難しいワインなのかもしれません。 赤ワインでミネラリティと表現されることは少ないと思うのですが、こちらではよくその言葉が登場します。 そもそもミネラル感という表現は誤用も多く、お客様に理解していただけるのだろうか?と考えることが多いワード。 味わいにおいてシルキーな質感がありつつ、しっかりとしたストラクチャー(構造、骨格)、お口に入れてからの展開が横に広がらず、縦に奥に伸びていく感覚。 飲んだ印象を言語化しづらいのかもしれません。 とあるブルゴーニュワインの本には、「ミュジニーのワインの魔力は感覚に訴えかけるものなので、分析を記述するのは難しい」と書いてあります。 そして特に難しいと言われるのが、飲み頃。 その硬さがいつ解けるのかが予測できない。 「10年程度では容易に開いてくれず、それもタンニンがギスギスするのではなく、硬質なミネラルの塊が堅牢なストラクチャーを形成し、少しも解けない。」 とインポーターの資料にも載っております。 最近のヴィンテージのものは果実味がのっているので、そこまでガチガチではないですが。 しかし、この硬さが解けてきた時に出会うと、誰もが魅了されてしまいます。 さて今回。 改めてその難解さに打ちのめされたのが、 ワインの開閉 。 抜栓しグラスに注いでからの、 時間経過による変化 について。 どんなワインでも普通は抜栓してからは、徐々に香り、味ともに開いてきます。 これは還元状態にあったワインが空気に触れることで、主に香りの成分が揮発していく状態変化です。 控えめであった香りが徐々に強くなる。 それに伴い味わいも風味が増していき、お口あたりに柔らかさがでてくる。 これが一般的な、閉じている状態から開いている状態への変化ですね。 ところが 素晴らしいワインの中には、抜栓して開いた状態から突然閉じてしまい、またゆっくりと開いていく、と言う時間経過を経るものがあります 。 このケースは、私の経験では比較的 ボルドーのグランヴァンに多い認識 。 特にデキャンタージュしてから、一旦沈んでまた上がるというイメージですね。 ミュジニー1989年を抜栓したところ、始めは素晴らしく良い状態。 30年以上経っているとは思えない、活き活きとした赤いフルーツの果実味と華やかさ。 熟成香(スパイス、なめし革など)もあるが前面にでておらず、まだ果実感が先行しております。 味わいには果実味と凛とした酸、しなやかさはありつつも厳格なストラクチャーがあり、これから香りと共に解けていきそうなイメージでした。 ところが。 1時間ほどしてからです。 香りが控えめになってきたではないですか。 味わいもどこかシンプルに感じられるように。 あ、閉じた。。 と気づきました。 それからはゆっくり飲み進めましたが、2時間経過してもそこまで変化なく、とても内向的。 ブルゴーニュ赤のデキャンタージュは個人的にあまり好きではありません 。 味わいは柔らかくなるのですが、ストラクチャーが弱くなり焦点がぼけてしまうことが多いかと思います。 この時は、あまりに状態が変わらないので、1杯分だけデキャンタージュを試してみました。 結果、味わいの柔らかさは出たのですが、香りの印象があまり変わりません。 さらに、全体の構成がシンプルになってしまい、正直微妙な印象でした。 この後、2時間半ほどでようやく香りに変化の兆しが出てきました。 味わいも滑らかさが出てきます。 そして、3時間を過ぎたあたりから 本領発揮 。 とてもシルキーでシームレス、余韻のフレーバーの長いこと。 ダージリン、チェリー、オレンジゼスト、バラなどのポプリ、シナモン、スターアニス、etc.。 味わいの変化が面白く、徐々にでる横の広がり、ストラクチャーの変化。 全く別物のワインへと変貌いたしました。 香り成分は、揮発しやすいものと揮発するのに時間がかかるものとがあります。 抜栓してからのワインの状態の波も、これが原因だと思われます。 フレーバーが味わいに及ぼす影響も大きいのがわかります。 残念ながら、この状態になるまでにだいぶ飲み進んでしまい、開いた状態で飲めたのはグラス1杯と少し。 しょうがないですが。 最後の最後で振り向いてくれただけでも、良しとしないと。 お客様にサーヴィスした時にも、このようなことがあったかもしれません。 レストランでの滞在時間では難しいですが、状態を把握し最善のサーヴに繋げられると良いかと思います。 ワインも人生も、塞翁が馬ですね。 <ソムリエプロフィール> 宇佐美 晋也 茶禅華 ワインディレクター 1980年東京生まれ 2002年レカングループ入社 ブラッスリーレカン上野を経て2006年「銀座レカン」へ 15年勤務し最終的にはエグゼクティブソムリエを務める 2021年11月より現職 レストランのソムリエとして居心地良く楽しいサーヴィスのご提供、お料理とワインのマリアージュを日々追求し、自分が経験したワインの奥深さや楽しさを多くの方にも知っていただきたいと思っております。 JSAソムリエエクセレンス。 <茶禅華> 港区南麻布の中国料理「茶禅華」。 日本で唯一、ミシュラン三ツ星を持つ中国料理店。 和魂漢才をコンセプトに日本の気候風土、食材、精神性を中華の技法で表現したお料理をご提供。ワインをメインに紹興酒なども交えたペアリングや様々な種類と温度帯でお楽しみいただけるお茶のペアリングもご用意しております。
- 暗記の時代は終わったのか
ソムリエやワインエキスパート、WSET等のワイン関連資格試験にチャレンジしたことのある人なら、 理不尽なほどの膨大な暗記 に苦しんだ記憶があることだろう。 終わりの見えない暗記によって、ワインが嫌いになってしまった人も少なくないはずだ。 中には、「重箱の隅をつつくような知識」が本当に役に立つのかと激しい疑問を覚えながら、苦行を乗り切った人もいるだろう。 それに、 せっかく暗記した知識が、霞のように消えていく虚しさ も、多くの人が味わったに違いない。 暗記に意味がないとは決して言わない。それだけの奥深い世界が広がっていることを実感すること自体には、確かな意味があるからだ。 検索エンジンや電子書籍が高度に発達する前は、一流のワインプロフェッショナルとはつまり、「 歩く百科事典 」的な人のことを意味している側面があった。 驚異的に詳細な情報を、大量に記憶したワインプロフェッショナルこそが、尊敬の対象だったのだ。 しかし、時代が変わった。
- 祝福の鐘は、葡萄畑から鳴り響く <オーストラリア・クラフト・ワイン特集:後編>
過ちを正すのは難しいことではない。だが、正したことを理解してもらえるかは、全く別の問題だ。「 他人の不幸は蜜の味 」という底知れぬ悪意は、カソリック教会における「 七つの罪源 」や、ダンテの叙事詩「 神曲 」などにおいて、人を罪へと導くものとして常に描かれてきたように、残念ながら、人という種にとって、極めて自然発生的なものだ。だからこそ、 消し去りたい過去ほど、他者によって消えない烙印のように刻まれてしまう 。だからこそ、「農」のワインであれば許されたはずの失敗は、「人」のワインであったが故に、許しを得る可能性が著しく制限されてしまった。 だが、それで良いのだろうか。失敗した人間の成長を認められないほど、人の心に善と許しは無いのだろうか。 決して違う、と私は信じていたい。 悪意ではなく、善意でもって、受け止めて欲しい 。 オーストラリアの、 自然を愛する造り手たちの想いと、結果に対する責任を 。 矛盾からのそれぞれの脱出 極端な醸造的欠陥が生じたワインは、テロワールを表現する能力を失う 。葡萄畑のありのままの自然な姿を表現しようという想いが暴走し、そのための手段を決定的に誤った結果として、オーストラリアだけではなく、世界中の多くのナチュラル・ワインが、テロワールを見失うという矛盾に陥った。この矛盾は、そもそもテロワールを表現しようとしていないのであれば問題にすらならないのだが、実際には、 彼らの想いは葡萄畑の表現にあった 。変わらないままでは、すぐにでも行き止まりに当たる。不可避に思える未来の可能性をしっかり受け止めたからこそ、彼らは 前に進むこと を選んだ。 それぞれの方法で、それぞれの想いや誠実な心と共に 。 オーストラリア・クラフト・ワイン・ムーヴメントの先頭に立っていた アントン・フォン・クロッパー(Lucy Margaux) は、醸造所を新設し衛生環境を向上させると共に、レストラン(アントンは元々シェフでもある)も開業した。亜硫酸無添加への拘りは相変わらずだが、以前と比べると欠陥的特徴が抑制され、ディテールが見えるようなワインが増えてきた。特に、自らのレストランで自らのワインを提供するという方法は、不安定になる可能性が捨てきれないワインを、最も良いコンディションで味わうための、最良の選択肢の一つだ。非常に高く評価できる試みだと、筆者は強く思う。 アントンと並んで、このムーヴメントの象徴的存在となっていた ジェームス・アースキン(JAUMA) は、生産量を半分以下に落とし、カーボニック・マセレーションに独自のアレンジを加えた醸造方法の精度を高め、格段に品質を向上させた。亜硫酸は相変わらず無添加だが、以前に比べると圧倒的に安定している。また、赤ワイン造りにおける抽出も以前より強まっているため、品種の個性や葡萄畑のテロワールも、はっきりと見えるようになった。
- 再会 <6> 違いを知り、追求するという楽しさ
William Downie, Pinot Noir “Baw Baw Shire” 2018. ¥10,000 世界中のワイン、産地、品種、造り手に日々めまぐるしく接していると、どうしても 「小さなマイブーム」の波 が生じてしまい、特定のワインに集中的に接する時期がある一方で、しばらく接することがなくなるワインも出てきます。 特にマイナー産地、マイナー品種のような特殊性の高いワインは、公平公正がポリシーの筆者であっても、一過性の興味から抜け出せないことが少なくありません。 いや、本音で言うと、そういったワインの追求をもっともっと深いところまでやりたいのですが、そもそも造り手も生産量も少なく、俯瞰して比較しながらの検証がとても難しいという実情があります。特定の造り手の、見知らぬ品種を使った特殊なワイン、というのは飲む分には最高に楽しいのですが、その産地と品種の相性や、浮かび上がってくるテロワールの個性を知るには、どうしても不十分になってしまいます。 さて、筆者のそんなストレスをいつも軽快に吹き飛ばしてくれる品種こそ、 ピノ・ノワール です。 世界中で生産され、テロワールや醸造の特徴を忠実に反映するピノ・ノワールは、 多様性の宝庫 な上に、 比較検証が非常に簡単 にできます。 ブルゴーニュとカリフォルニアのピノ・ノワールは、どう違うのか。 カリフォルニアのサンタ・リタ・ヒルズとアンダーソン・ヴァレーのピノ・ノワールは、どう違うのか。 農薬や添加物に依存して作ったものと、そうでないピノ・ノワールは、どう違うのか。 伝統派のおじいちゃんと、コンテンポラリー思考の若者が作ったピノ・ノワールは、どう違うのか。 どのような疑問にも、ピノ・ノワールは必ず答えてくれます。
- 真・日本酒評論 <4> ヴィジョンと結果
<花の香:純米大吟醸 桜花> 先日公開した 「而今」に関する記事 にて、「 地元の米を使った酒は全ての要素がより一体感を増す 」という仮説について述べたが、この仮説の検証対象となる日本酒を試す機会があったため、「真・日本酒評論」にてレヴューすることとする。 1902年、神田角次・茂作の親子によって創業された神田酒造は、熊本県和水町地方にて、地域に密着した酒蔵として成長し、1952年には、蔵の周辺に自生する梅の木から、春になると蔵に梅の香りが満ちることから、現在の「 花の香酒造 」へと名を改めた。 2011年、6代目蔵元の神田清隆さん の代になり、世界へ羽ばたく「Sake」を目指し、継続的な改革に取り組んできた。 2015年頃からは、 地元米への全面的な転換 がスタート。 産まれた土地、土地の神々を意味する古語「 産土(うぶさな) 」をヴィジョンとして掲げ、 和水町のテロワール (ミクロ気候、知識、水質)と、この地特有の 微生物群ネットワーク が酒にもたらす個性を、醸し手として「 導く 」ことに重きを置く。 筆者の唱える仮説と同じ想いがあるのだろうか、ラベルの脇には「 唯一無二の独自の個性を目指し、古代より水稲文化が二千年続くこの和水町で、土地にこだわり、仕込み水と同水域の水田で育てた米だけで酒を醸しています。 」と綴られている。
- 開拓し、牽引し続ける、カタルーニャの地元愛
スペインワインにおいて、 カタルーニャ は特に重要である。 その歴史は古く、港町としても栄えたバルセロナ、タラゴナでカタルーニャワインの交易が記録された古い文献が残っている。 フィロキセラ禍 の際には、 フランスへのワイン輸出で大きな利益 を生み、自国の被害の際にはちょうどシャンパーニュから技術を学んだタイミングと重なり、被害を受けた黒ブドウから カバの原料となる白ブドウ植樹へ大きく舵を切った。今でもカバは生産量の95%以上はカタルーニャ産 で、多くの愛好家を魅了し続けている。 また、20世紀に入り、最初にスペインで ステンレスタンク を使用したのは、カタルーニャの造り手であり、国際品種を植え始めたのもカタルーニャとされている。 カタルーニャではこれを機に、 量から質へと生産体制が徐々に移り変わり、品質は劇的に向上していった 。 一躍カタルーニャワインの名が世に広まったきっかけは、 1979年 ゴーミヨ誌主催でパリにて開催された ワイン・オリンピック において、カタルーニャ最大のワイン生産者 トーレス社のグラン・コロナス・ブラックラベル が、ボルドーの メドック格付け第一級シャトーを超える評価を獲得 し、世界の注目を集めたという出来事(この際、 トーレスは内緒でボルドー部門に参加した らしい。ちょっと憎めないところがいかにもカタルーニャ人!)。 そして近年では、世界中に スーパースパニッシュ という言葉を広めた プリオラート も、カタルーニャにある産地だ。 そう、 時代と文化とともに、常にスペインワインを牽引し走り続けてきたのは、カタルーニャなのだ 。独特の言語、文化をもち、カタルーニャ人は真面目で商売気質旺盛。結束力も強い。たびたび独立運動がニュースになるが、その結束力、団結力は一国のそれを凌駕するほどにもなる。 絶滅危惧種とされる土着品種の復活 カタルーニャワインが隆盛の一途を辿る中、スペインワイン、いや特にカタルーニャワインを国際舞台へ短い期間で一気に押し上げた 代償 も現れ始めた。 フィロキセラ禍以降の、カバへの大体的な切り替え により、カタルーニャの葡萄畑は、カバ用の白ブドウが大半を占めるようになった。またスペイン中で、パリでのワイン・オリンピックを引き金に、1980年前後から その地に古くから根ざしている土着品種が、より経済的に計算できる国際品種にその場を奪われる場面が少なくなかった 。決してカタルーニャも例外ではなく、というより、積極的な活動を行なってきたカタルーニャに、 その傾向はより多く見受けられた 。 この手の話は、国際品種がもてはやされる市場に翻弄された、他の伝統国でも良く聞くものだが、「 ワインにおいて旧世界でありながら、新世界の性格をもつ 」と言われるスペインでは、 より顕著だった気がする 。 国際品種への急速な植え替えが進む中、滅びゆく土着品種が数多く出てきたのは、当然の流れだろう。 絶滅危惧種とされる葡萄品種は、カタルーニャにも数多くあるが、今回取り上げたのが、 チャレロ・ベルメル (カタルーニャではどちらかというと、“ベルメイ”という発音が正確)だ。この品種は、 チャレロの突然変異種 とも言われ、チャレロに比べると 僅かに果皮が厚く、ピンク色がかっている (Vermell=ロゼという意味)。 フィロキセラ禍以前には多く栽培されていたようだが、それ以降は栽培面積は一気に少なくなり、古いチャレロの畑に数本混じったまま、地元の生産者もそれに気づかず、一緒くたにされる扱いを余儀なくされてきた。 ヴェールに包まれたかのようなチャレロ・ベルメルだが、長くチャレロと時を共にしたある生産者により、この世に再び産声を上げ始めた。 スペインにおいて屈指のスパークリンワイン生産者である グラモナ の歴史は、1850年、現グラモナ兄弟の高祖父、ジェセップ・バトレから始まる。その息子であるパウの時代には、栽培した葡萄で造ったワインを、フィロキセラ禍に苦しんでいたフランスのスパークリンワイン生産者に向けて売っていたが、当時フランスまで送っても品質が保てたチャレロのポテンシャルに目をつけ、チャレロを中心に品質の向上と、事業の展開を始めた。 チャレロを熟知した一族は、当時前例が無かった長期熟成カバ造りでも成功を収め、2011年からオーガニック栽培、2016年からは100%ビオディナミとなった。 カバを牽引し、すでに代表する立場だったが、更なるスペインのスパークリングワインの向上と発展を目指し、 コルピナットというカテゴリーを新しく作り、D.O.カバを脱退 したという 信念と哲学を持った生産者 だ。 チャレロと150年近くにわたり向き合ってきた彼らが、 わずか2haしか残っていなかった地元の古来品種の復活 をかけ、満を持して世に送り出したワインが、今回ご紹介する「 マルト 」。 グラスに注ぐと心踊るような、チャーミングな色合い。 フルーティーな表情、さわやかな柑橘系の果物、桃、野生のイチゴをベースに、ローズマリーやフェンネルなどの地中海のニュアンスもあり、スパイスが絶妙なバランスを醸し出す香りの構成。 繊細なピンクペッパーを感じるフルーティーな味わい、余韻にチャレロを思わせるシトラス系の香りとほのかな塩味、苦味。 そして、柔らかく微かな甘みに後ろ髪を引かれる。 非常に親しみやすく、この地中海を想わせる造りは、ワインエントリー層の方にも、ワインラバーの方にも楽しんでいただけるだろう。 食事との相性も広そうで、繊細な料理からスパイスを使用するエスニック系まで楽しめる。 ちなみに今働いているレストランでは、サーモンのサンドイッチから地元の熊野地鶏まで幅広くサービスでき、そのポテンシャルや将来性を高く感じることができる。 ワインという表現方法がどこまでがエゴで、どこからかテロワールなのか。永遠のテーマとも言えるが、チャレロ・ヴェルメルのようなカタルーニャに多くある絶滅危惧品種が、変わらぬ生産者の想いと現代の技術によりどのような姿を見せるのか、楽しみと好奇心が絶えない。 生産者:Gramona / グラモナ ワイン名:Mart / マルト 葡萄品種:Xarello Vermell /チャレロ・ベルメル ワインタイプ:ロゼ 生産国:スペイン 生産地:Penedes, Catalunya / ペネデス、カタルーニャ ヴィンテージ:2020 インポーター:白井松新薬 希望小売金額:3,500円 <ソムリエプロフィール> 菊池 貴行 / Takayuki Kikuchi ヒノモリ シェフソムリエ 1978年 東京 深川生まれ。 大学在学中、月島の「スペインクラブ」でスペインワインに目覚める。 本場のワイン、料理を触れにスペインへ。 帰国後2004年のオープンから日本橋サンパウにソムリエとして勤務。 バルセロナのサンパウ本店での研修を経て、2006年、同店のシェフソムリエに就任。 その間スペイン政府貿易庁が主催した第1回「ICEX」(シェフ要請プログラム)の日本代表、世界唯一のソムリエとして選ばれ、2007年10月からスペインに国費留学。リオハの二つ星「エチャウレン」や南スペインの二つ星「アトリエ」で研修を積みながら、ワインの作り手と交流を重ねる。 第4回マドリッドフシオンのソムリエコンクールでは、実技試験審査員。 2010年5月、第1回の「カヴァ騎士団(シュバリエ)」に選ばれる。 2020年7月、三重県アクアイグニス内「ヒノモリ」のシェフソムリエに就任。松坂牛などに代表される地元の熟成肉や伊勢の魚介類など三重の豊かな食材に惹かれ、現職。 ワイン雑誌への寄稿やワインセミナー多数。 ワインスクール、レストランマナー講師も勤める。
- SommeTimes Académie <4>(おすすめのワイン入門書 Vol.3)
おすすめのワイン入門書、Vol.3をお届け致します。上手に学ぶコツは、楽しみながら学ぶことにあります。この一連のシリーズで、読者の皆様が、ワインを楽しいと思えるきっかけが少しでも増えることを、切に願います。
- 栄光の落日 <オーストラリア・クラフト・ワイン特集:前編>
2015年頃から約3年間、熱狂していたと言っても決して大袈裟ではないワインが、私にはあった。一人のプロフェッショナルとして、常に公正公平であれるようにと、 ワインと造り手に対して感情移入することを徹底して避けてきた 筆者にとって、それは 極めて例外的な出来事 だった。どこか 停滞感 が漂っているように感じていた オーストラリア という国に、突然変異的に発生した、底抜けに明るく、親しみやすく、どこまでも人懐っこいワインたち。ヨーロッパ伝統国ではすでに一大勢力となりつつあったナチュラル・ワインとはどこか違う雰囲気を纏った、未知の魅力に溢れたワインに、私はまさに虜になった。新しいワインを試すたびに、驚きと発見がある。ワインそのものも、それらのワインを使ったペアリングも、私の知的好奇心を、これでもかと刺激した。だが、私と オーストラリア・クラフト・ワイン の蜜月の日々は、長続きしなかった。 本特集では、筆者がなぜオーストラリア・クラフト・ワインに熱狂し、激しく失望し、数年を経て、また愛するようになったのかを、パーソナルな視点と客観的な視点を織り交ぜながら、追っていく。前編となる本編では、現在から遡った「 過去 」にのみ、焦点を当てる。構成上、前編はやや批判的な内容が多くなるが、ご承知いただきたい。現在と未来を真っ直ぐ受け止めるためには、過去を冷静に振り返ることは、避けて通れない。 熱狂 バロッサ・ヴァレーのシラーズ、ヤラ・ヴァレーのピノ・ノワール、クナワラのカベルネ・ソーヴィニヨン、マーガレット・リヴァーのシャルドネ、イーデン・ヴァレーのリースリング。 適地適品種の考えが古くから浸透 し、すでに成熟の域に達していたオーストラリアのワインは、 各生産エリアのスタイルが強固に確立 され、極めて正確な予測を立てることができる予定調和的なものへと成り果てていた。それは、それらの産地と品種の組み合わせが、「 クラシック 」として、すでに成立したことも同時に意味していたが、クラシック偏重があまりにも長く続くと、筆者のような移り気な飲み手は、どうしても冷めてしまう。それに、高度な栽培、醸造技術で練り上げられたワインからは、ヴィンテージの特徴も薄れ、毎年同じような味わいのワインが、壊れたリピートボタンのように、無機質に再生され続けているようにも感じていた。オーストラリア・ワインは、筆者がその魅力を多くの人に伝えたいと思う対象から、すっかり外れてしまっていたのだ。 そんな中で出会った一連の オーストラリア・クラフト・ワイン は、 目が覚めるような衝撃 を私に与えてくれた。よく知っている産地のよく知っているはずの品種が、全く知らない味わいになり、聞いたことも飲んだこともないような異質なブレンドはどこまでも興味深く、常識破りの醸造法は新たな扉を開き、非フレンチ系のマイナー葡萄には、新たな時代の到来を感じた。オーストラリア・クラフト・ワインには、どこか強迫的性質をもってしまっていたクラシック・ワインとは真逆の、 強烈なアナーキズムと無制限の自由 があった。
- 銘酒・而今が示す、日本酒の新たな価値
三重県名張市にある 木屋正酒造 が醸す銘柄「 而今 」は、当代随一の人気銘柄として、極めて高い評価を得ている日本酒。 酒蔵の創業は1818年。造り酒屋であった「ほてい屋」を、木材屋を営んでいた初代大西庄八が譲り受け、「木屋正」と改めた。木屋正酒造は長らくの間「高砂」と「鷹一正宗」の二銘柄を醸造し、地元を中心に販売してきたが、徐々に業績が悪化し、廃業の危機も間近に迫っていた。 転機となったのは 2003年 。理系エリートとして大手メーカーで技術職についていた6代目蔵元の 大西唯克 氏が、家業を引き継ぐ決意を固め、蔵に戻ってきたのだ。そして大西唯克氏は、2年間先代の杜氏と仕事をした後の2005年、自らが 杜氏 となり、「而今」銘柄を立ち上げた。 今でこそ1200石(1石 = 一升瓶 x 100本)の規模にまで成長した而今だが、発足当時の生産量は僅か30石。搾りたての而今が入った酒瓶を片手に、酒屋に営業周りをする日々が続いた。 惰性で造っていた酒から、名張の地を表現したアルティザナルな酒へ 。 徹底的に妥協を許さない完璧主義者 。そのような印象を周囲に与える大西唯克氏が醸した而今は、瞬く間に人気銘柄へと駆け上がった。 華やかで鮮烈な香り、アタックの濃厚な甘味、とろりとした独特のテクスチャー、長く力強い余韻へとシームレスに続く旨味。「 而今節 」とでも表現したくなるような特異な個性を纏った而今の味わいは、極めてセンセーショナルで、魅惑的なものだった。 大西唯克氏は、極めて優れた造り手であると同時に、稀代の ヴィジョナリーでもある 。成功にあぐらをかくことは一切なく、利益を設備投資へと回し、モチベーションの高いチーム造りを行い、徹底した品質向上に邁進し続けてきただけではない。 日本酒の魅力を細部まで見つめ直し、新たな価値創造も同時に行ってきた 。











