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ペロポネソスのダイナミズム <西ギリシャ特集>

ギリシャワインというと、近年、日本でもその存在感がじわりと出てきているのではないだろうか。今から10年ほど前、サントリーニ島のアシリティコAssyrtikoが国際的に評価されたと同時に、その強烈な個性を印象付けた。


エーゲ海の島、海と空のブルーのコントラストに、くっきりと浮かび上がる真っ白い建物、強風からブドウを守るためにバスケット状に仕立てられたユニークなブドウ畑の風景、火山由来の極端に痩せた土地のテロワールが産み出す強靭な酸味と塩味を帯びた凝縮した果実味。


これらの要素は、視覚的効果を伴いながら、見知らぬ土地の固有品種から造られるワインにとって、少なくとも専門家の注目を集めるのに余りあるインパクトと付加価値を与えた。


それに続いたのが、対照的な山のワイン、ナウサのクシノマヴロXinomavroだろうか。北イタリアのネッビオーロに特徴が似ているという点が、アピールポイントとなった。(ナウサのレポートは10月にアップデート予定)


世界的ワイン教育プログラムWSET®のLevel 3の教本では、これらにネメアのアギオルギティコAgiorgitikoを加えた3つが、ギリシャのページに記載されている。耳慣れない固有名詞が並び、頭を抱える受験生の姿が目に浮かびそうだが、実際、ギリシャには300種にも及ぶ固有品種からワインが生産されており、まだ解明されていないものも多いという。


7月に来日したギリシャ人初のマスターオブワイン、コンスタンティノス・ラザラキスMWは、西ギリシャワインのマスタークラスの中でこう語った。


「イタリアはギリシャの60倍のワインを生産していて、固有品種は900種類と発表しているが、これ以上増える可能性は少ない。一方、ギリシャの固有品種は、今、解っているだけで300種類あり、まだまだ増える可能性を秘めている。言わば、”ヴィティス・ヴィニフェラのジュラシックパーク”だ!」と。


そんなギリシャワインに関して、教科書に記載されている3つの重要産地の次に、ワイン通なら知っておくべき産地として、西ギリシャを紹介しよう。




アハイアとイリア

ヨーロッパにこの夏最初の熱波が押し寄せた2022年6月中旬、西ギリシャのワイン産地を訪問するプレスツアーに参加した。成田からドーハ経由でアテネ空港へ、そこからバスに乗り込み、西へおよそ3時間という長旅も、2年半ぶりの海外ワイン産地視察に心躍り、夏のヨーロッパの青空に地中海から吹く風が、新型コロナ禍の憂を一瞬で吹き飛ばしてくれた。


バルカン半島の最南部、ギリシャの首都アテネから西へ向かい、コリントス運河を渡ればペロポネソス半島だ。



その北西部に位置するパトラは、アテネ、テッサロニキに次ぐギリシャ第3の都市で、「西への玄関」と呼ばれる港湾都市というだけあって、高級ホテルばりの巨大なクルーズ客船Queen of the Oceansが出迎えてくれた。


パトラを県都とするアハイアAchaia県が、西ギリシャワインの中心産地となる。



そして、もう一つの産地がイリアIlia県。

アハイアの西隣で、ここは古代オリンピック発祥の地オリンピアが位置し、その遺跡からは「レノス」というブドウのプレス小屋が発見されている。


ギリシャ神話には、イリアにあるフォロイ高原で「ヘラクレスとケンタウルスがアンフォラを奪い合った」との記載があり、この地におけるブドウ栽培やワイン造りの豊かな歴史を物語っている。


PDOとPGI

ギリシャワインはEU諸国のワイン法に従っており、全体の約80%は、PDO(原産地保護呼称)と、PGI(地理的表示保護)に分類される。フランスワインに置き換えると前者がAOC、後者はIGP(Vin de Pays、VdP)と同義となる。前述のサントリーニ、ナウサ、ネメアはいずれもPDOで、それぞれ使用可能品種や醸造方法などが定められている。一方、PGIは特定の原産地名をラベルに記載できるテーブルワインのカテゴリーで、PDOエリアで生産されたものでも、PDO規定外のワインはPGIを名乗る場合もある


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