【リースリングの聖地ドイツのグランクリュは、本当に世界最高か?】

リースリングが大好きだ。

そうアツく語るプロが非常に多いことには、当然いくつもの理由がある。

葡萄品種の明確な個性

スタイルの多様性

高貴品種の名に恥じぬ品質

料理との幅広い相性(特に魚介類に対する無敵ぶりは圧巻)

コストパフォーマンスの高さ

これらはプロが熱狂する理由の最たるものだ。

でも、一つだけ違和感がある。

リースリングの品質に関して、どれだけの人が理路整然と語っているのだろうか。

今回はなるべく分かりやすい「格付けという記号」を用いて、その品質の真価に迫ってみよう。

ボルドー左岸に高名な格付け(*1)があるように、ブルゴーニュに広域から特級までの格付け(*2)があるように、リースリングの産地においても、格付けが存在するケースがある。

最も良く知られた格付けは、フランスのアルザス地方(*3)のものだろう。


51というアルザスの特級畑の数は、正直なところ多すぎると感じるし、実際にワインを味わっても、特級畑としての格にふさわしいか少々懐疑的なものも少なからず含まれてはいるが、中には明らかに他とは隔絶した品質を誇るワインも存在する。

アルザス屈指の名門であるトリンバックの旗艦ワイン「Clos Sainte Hune」は、特級畑Rosackerの中心部にある石垣に囲まれた区画から生み出される、リースリングという葡萄の世界最高峰のワインの一つだ。


平地から丘へと広がるアルザスの葡萄畑


リースリング銘醸地の一つであるオーストリアはどうだろうか。

端正な辛口スタイルで知られるこの地のリースリングであるが、格付けという分かりやすい「記号」の導入はまだまだ進んでいない。

オーストリア屈指の産地であるヴァッハウ(*4)には、ヴィネア・ヴァッハウという強力無比な生産者団体があり、その団体が主導し、ようやく単一畑の認定が始まったが、どこまで客観性が保たれた認定となったのかには、疑問が残る。

しかし、ヴァッハウではLoibenbergやKellerbergが(他にも多数)、少し離れたカンプタール(*5)では、HeiligensteinやGaisbergといった畑が、昔から「特別な畑」として認識されてきた歴史がある。


ヴァッハウの美しい段々畑

さて、長い前振りは程々にしておいて、本題に入ろう。

リースリングの聖地、ドイツはどうだろうか。

あえて、聖地という言葉を用いたのは、ドイツという国のリースリングにおける歴史もあるが、やはり低価格から高価格まで、辛口から極甘口まで、どの価格帯、どのスタイルにおいても、圧倒的な完成度を誇るそのワインそのものへの、私なりのリスペクトだ。

ドイツが本気を出したら、他のどの国がどれだけリースリングで頑張っても、遠く及ばないのでないか。とすら時々本気で思ってしまうほど、この国のリースリングは飛び抜けている。

「記号」の話に戻そう。


ドイツにも「ブルゴーニュ・モデル」(*2を参照)に準じた格付けが存在していることは、まだあまり知られていない。葡萄の糖度によって定めれた全く別尺度の格付けの方が、遥に有名だからだ。

ドイツにはVDP(ドイツ高品質醸造所連盟)という、ヴィネア・ヴァッハウも真っ青な、超強力な生産者団体があり、全ドイツの最も優れた生産者のほとんどが加盟しているVDPが提唱した、4段階の「自主的」な格付け(*6)は、現在非常に多くのドイツワインのラベルに見受けられるようになった。

注目すべきは、この最上位格付けの畑から造られ、厳格な規制を突破した辛口ワインのみに与えられるGroßes Gewächs(グローセス・ゲヴェクス)というワインである。

この通称G.G.は、聖地ドイツの誇り高き造り手たちが、世界の辛口ワインブームに遅れをとるまいと、ありったけの気概を込めて作った格付けであるはず(と言っても、20年以上の前の出来事なので)なので、それは当然、リースリングから造られる辛口ワインとして、世界最高でなければならないという使命を背負っている。

果たして、実際はどうなのだろうか?

結論から言うと、全てのG.G.がその名にふさわしいワインかと問われると、「そうでもない」と答えるだろう。

しかしそんなことは、ブルゴーニュに行っても、ボルドーに行っても同じなのだから、さしたる問題ではない。

重要なのは、G.G.の中に、王者の風格に満ちた圧倒的なワインが存在しているどうか、だ。

そしてその問いには、心から「Yes」と答える。

今回ご紹介するワインは、

全ドイツでも頂点の一角である至高の造り手DönnhofのG.G.「ヘルマンスーレ」。


傾斜角40-60度という急斜面にもなる、ナーエの葡萄畑

リースリングらしい白い花(というか巨大な花束!)から始まり、

朝露に濡れた川辺の石、

様々なハーブと花の蜜が交錯するオーガニック農園、

とだんだん妄想トリップして行ってしまうような、奥深い芳香に圧倒される。

口に含むと、岩清水の如き澄み切った果実味と酸が折り重なる中心部に、

巨大なミネラルが王様のように鎮座している。

あぁ、これは間違いない。

リースリングの頂だ。

こんな桁違いのワインが、

たったの12,000円なら、何一つ文句は無い。

ブルゴーニュの低い格付けのワインが、このワインと同価格帯とは。

つくづくワインの世界とは、知れば知るほど、奥深く沼にはまっていくミステリアスなものだと、痛感した。



生産者:Dönnhoff / デーンホフ

ワイン名:Hermannshöhle Riesling Grosses Gewächs  / ヘルマンスーレ・リースリング・グローセス・ゲヴェクス

葡萄品種:Riesling / リースリング

ワインタイプ:白ワイン

生産国:ドイツ

生産地:Nahe / ナーエ

ヴィンテージ:2018

インポーター:Jeroboam

参考小売価格:12,000円






(*1)第五級から第一級までの格付けとして広く知られている。格付けである以上、下から上へと段階的に品質が明確に上がるべきであるが、現代においては第一級シャトーの頂点たる品質は揺るぎないものの、第二級以下は玉石混交となっている。

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(*2)より広い範囲から狭い範囲へと格付けが上昇するシステムは、「ブルゴーニュ・モデル」と呼ばれ、世界中で採用されている。実際に、広域から特級畑までの品質は、段階的に(ほぼ)比例関係で上昇していくと考えることができるため、非常に分かりやすい。

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(*3)フランスの北東部に位置し、ドイツとの国境地帯でもあることから、(歴史的に戦争等の様々な事情もあり)フランスの中にあっても、非常にドイツ文化の影響を色濃く残す特殊な地域。葡萄品種やワイン造りにおいてもドイツの影響が極めて強く、アルザスの象徴的な葡萄品種としてリースリングが筆頭に挙げられる。

詳細はこちら(英語)

(*4)ドナウ川沿いの段々畑の美しさが良く知られる産地。主要品種はリースリングとグリューナー=ヴェルトリーナーであるが、地場品種であるノイエブルガーや、ゲルバー・ミュスカテラーの素晴らしさも捨てがたい。

(*5)知名度ではヴァッハウに劣るが、オーストリア最高峰の名産地。迫力のあるワインは、この地ならではの個性。

(*6)

格付けの下から順に

Gutswein(グーツヴァイン)

Ortswein(オルツヴァイン)

Erste Lage(エアステ・ラーゲ)

Große Lage(グローセ・ラーゲ)

産地によっては、エアステ・ラーゲが無く、グローセ・ラーゲに統合されている。

<ソムリエプロフィール>

梁 世柱 / Seju Yang

La Mer Inc. CEO

1983年大阪生まれ。2003年にNYに移住後、様々なレストランにてソムリエとして研鑽を積む。

2011年starchefs.comよりRising Star NYC Sommelier Award受賞。

2012年Zagat SurveyよりZagat 30 under 30 NYC Sommelier Award受賞。

同年、Wine Enthusiast紙より、America’s 100 Best Wine Restaurant Award受賞。

世界最大のソムリエ激戦地での連続受賞は日本出身のソムリエとして唯一の快挙となった。

2012年に日本帰国後は、ミシュランガイド三ッ星店も含め、都内のレストランでシェフ・ソムリエを歴任。

2017年、オーストラリアにて開催されたSomms of the Worldに、World’s 50 Best Sommeliersの一員として招聘。

2018年、La Mer Inc.設立。代表取締役社長兼CEOに就任。

ワインジャーナリストとしてワイン専門誌に多数寄稿。




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