ワインはその長い歴史の中で、存在価値を少しずつ変化させてきた。有史以前から造られていたと考えられるワインは、コーカサス地方からカナンを経由して古代エジプトへと渡り、ファラオが来世へと行くための供物として献上され、古代ギリシャ時代にはディオニュソスを「豊穣とワインと酩酊の神」とし、エタノール(古代ギリシャ語の“エーテル(天空)”が語源とされる)による意識の変化(酩酊)は神との繋がりをもたらすと考えられるようになった。古代ローマ時代には、ディオニュソスへの崇拝は、「ワインの神」とされたバッカスへと受け継がれ、後の聖書時代においても、ユダヤ人の間で儀式的な価値が伝えられていたワインは、イェス・キリストの登場と最後の晩餐において「キリストの血」としての決定的な宗教的意味を得たことによって、その象徴性が極地に達することとなる。その後、カソリック教会でミサを祝うために必要なワインを確保するために、ベネディクト会やシトー会といった修道会がワイン造りの中心を担うようになり、15世紀になってようやく、ヨーロッパ全土で世俗的な飲用が可能になるほどの産業へと発展した。やがて大航海時代に突入し、植民地における葡萄樹の植樹とワインの生産は、新天地での儀式的飲用のためという名目を超え、植民地支配の象徴となった。
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