Inglenookの名を見た時、カリフォルニアワインファンは、随分と複雑な気持ちになるのだろうか。
かつて、ジョン・ダニエルJr.という天才の元に栄華を誇ったInglenookは、長らくの間、高品質ワインとはかけ離れた大衆ブランドへと成り下がっていたからだ。
私も一度だけ、1954年ヴィンテージのInglenook Cask Cabernet Sauvignonを口にしたことがある。
そのワインは、まるで時が止まったままかのように若々しく、優美で奥深い味わいだった。
一生の記憶に残るワイン。
そう言い換えても良いだろう。
1879年に、フィンランド人の大富豪グスタフ・ニーバムによって設立されたInglenookは、1908年にグスタフが急逝した後、禁酒法時代には一度閉鎖されたが、1933年にグスタフの未亡人となったスザンヌ・ニーバムの手によって再建され、グスタフの又甥にあたるジョン・ダニエルJr.がワイナリーを引き継いでから、ニューワールドワインの歴史に残る偉大な黄金期へと入った。