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葡萄を知る <1> シャルドネ:Old World編 (無料公開)

このコーナーでは、ワインの葡萄品種をより深く(なるべく公平な視点で)理解していくために、様々な角度から検証していく。

第一回の主役はシャルドネ。今回はオールド・ワールドの産地を検証していく。


なお、「至高の一本」として挙げたワインは、一般的な評価に筆者の独断を加味して選択したものとなる。


          

① 特徴

シャルドネ最大の特徴は「没個性」という点にある。つまり、シャルドネは究極のカメレオン俳優のような存在なのだ。シャルドネ「らしさ」というものは、基本的に無いに等しく、テイスティングコメントの際のその様な言葉は、常にパラドックスを抱えていると言えるだろう。その代わりにシャルドネは「テロワール」、「農業」、「醸造」、「熟成」から非常に大きな影響を受けることができる。そういった点からも、シャルドネという葡萄は、上記の4つの要素がどのように最終的な影響をワインに及ぼすかを学んでいくための、最高の研究対象とも言える葡萄品種だ。


② 起源、歴史

確認が取れる最初のシャルドネに関する記述は、16世紀後半。当時は「ボーヌからきた」という意味をもつBeaunois(ボーノワ)として記述されていた。しかし、ボーノワにはアリゴテも混同されていたとの見解も根強い。信頼に足る最初の記述として17世紀後半のChardonnetという表記が挙げられる。またChardonnetは最上の葡萄としても当時から評価されていた。Chardonnayという現代の表記は、南ブルゴーニュ・マコネにある「シャルドネ村」が由来であるという説が有力とされている。

遺伝子的にはピノ系葡萄とグエ・ブランの自然交配と考えられているが、葡萄の遺伝子研究は頻繁に覆されるので、確定とは言い切れない。


③ 主要な別名

Melon d’Arbois(ムロン・ダルボワ):ジュラ・フランス

Morillon(モリヨン):シュタイヤーマルク・オーストリア



各国のスタイル


フランス


1. ブルゴーニュ言わずと知れたシャルドネの聖地。痩せた果実味と強いミネラル、キリッとした酸が主体となる「シャブリ」、果実味、ミネラル、酸、樽の影響が調和した王道の「コート・ド・ボーヌ」、伝統的にやや強めの樽感とたっぷりとした果実味が親しみやすい「マコネ」、際立った特徴が無いが、それ故に中庸のバランス感覚とコスパに優れた「コート・シャロネーズ」が主要なエリアとその大まかな特徴。


シャブリ

淡麗辛口シャルドネの代名詞として、不動の人気を誇るのがシャブリ。古代の牡蠣の化石が含まれるキンメリッジ土壌と強く紐付けて語られることが多いが、キンメリッジはそこまで珍しい土壌という訳でもなく、シャブリ全土がキンメリッジ土壌ということでもない。また、「シャブリに生牡蠣」というステレオタイプなペアリングは、美食的観点から見ると、完成度は決して高くない。土壌と食材を結びつけた、ロマンス志向のペアリングと理解すべきだ。コストパフォーマンスは全体的に良好で、最下層格付けのPetit Chablisから特級畑まで、段階的に分かりやすく品質が向上していく。シャブリも近年のブルゴーニュワイン高騰の煽りを受け、価格が上昇傾向にあるが、他産地のシャルドネと比べても、現時点では価格と品質のバランスをギリギリ保てている特級畑に至っては、未だに過小評価されていると言っても過言ではない。

<至高の一本>

Domaine Moreau-Naudet, Chablis Grand Cru “Valmur”


コート・ド・ボーヌ

モンラッシェの丘に連なる特級畑群とコルトン・シャルルマーニュは、世界で最も高名なシャルドネとして確固たる地位を築いている。一級畑であっても、ムルソー村のいくつかの一級畑のように特級と比べても遜色ないものが存在している。品質面において、現在でも変わらずに世界最高であることは、疑いようもない。しかし、問題はその常軌を逸した高価格である。価格と品質のバランスは、完全に崩壊しており、凡庸な村名格のワインですら、一本1万円を超えてしまうことが多々ある。マーケティング面においても、「比べるものが無い」特級畑に関しては、どれだけ高騰しても苦戦知らずであるが、村名格と一級畑の多くは、厳しい価格競争に晒され、その価値は失墜の瀬戸際にあると言える。近年は、有名生産者の価格が上がりすぎたために、旧来からの価格を維持する生産者のワインが続々と取り上げられているが、それらの生産者の中には「かつて見向きもされなかった」凡庸な生産者が少なからず含まれていることを忘れるべきではない。優れたワインが低価格を維持できるほど、この地に働いている市場原理は甘くない。とはいえ、St-Aubinや、Pernand-Vergelessesのように、今でもリーズナブルさをなんとか維持しているエリアも存在はしているので、コストパフォーマンスを度外視できる余程の富者でもない限り、マイナー産地から探すか、Puligny-MontrachetやMeaulsaultといった有名産地のワインを求める際には、「ワインを飲んでいるのか、ラベルを飲んでいるのか」という疑念を忘れずに抱くべきだ。

<至高の一本>

Domaine d`Auvenay, Grand Cru “Chevalier Montrachet”


マコネ

かつてブルゴーニュ産ヴァリュー・ワインの宝庫として知られたマコネも、高騰化の波から完全に逃れられているとは言い難い。とはいえ、未だに価格と品質のバランスにおいて、強い国際競争力を維持しているのも事実であり、コート・ド・ボーヌ産で1万円を超えるような村名格ワインの半額程度の価格で、品質面ではそれらを大きく上回るワインも多々存在している。全体的には、ヴォリューム感とコクの豊かな果実味、しっかりと効かせた樽によって、飲み応えのある味わいとなっていることが多い。

<至高の一本>

Domaine La Soufrandière, Pouilly-Vinzelles “Les Quarts”


コート・シャロネーズ

ブルゴーニュのシャルドネ産地の中でも、際立って影の薄い存在であり、その「中庸」な味わいも、特徴が掴みにくいと敬遠されてきた不遇の産地がコート・シャロネーズ。しかし、隣人達の高騰化と、優れた生産者の参入によって、近年その価値が大きく見直されている。コストパフォーマンス面においては、現在ブルゴーニュで最も優れていると言えるが、ブルゴーニュに「らしさ」を求める顧客に対して、今後どのように応えていくのか、試練と挑戦の時は続くだろう。

<至高の一本>

Domaine Vincent Dureuil Janthial, Rully 1er Cru “Le Meix Cadot V.V.”



2. シャンパーニュブレンドにおける主役級であり、単一品種としてブラン・ド・ブランの名でも作られるシャンパーニュ地方のシャルドネ。限界生育環境で育まれた強靭な酸は、シャンパーニュに驚異的な長寿をもたらすと共に、味わいが華開くまでの忍耐も要求してくる。ル・メニル・シュール・オジェ、アヴィーズ、クラマン、オジェ、シュイィは、かつてのグラン・クリュ格付け(エシェル・デ・クリュと呼ばれたこの格付けは、自由競争を阻害するとして、1999年に禁止された)の中でも、特にシャルドネの品質が特筆に値するエリア。伝統的には、様々なエリアから集めた葡萄をそれぞれワインにした後、リザーヴワインとブレンド(アッサンブラージュ)して一つのシャンパーニュに仕立ててきたが、小規模生産者(レコルタン・マニピュラン)の躍進により、現在では大規模メーカーであっても、単一畑、単一品種、単一ヴィンテージで仕込むことが増えている。この流れによって、長きに渡って総体としてのテロワールしか見えてこなかったシャンパーニュ地方の、細かいテロワールの差異が感じられるようになった点は非常に興味深い。品質と価格のバランスにおいては、唯一無二の個性も相まり、高騰傾向とは言え、競争力を十全に保っている。

<至高の一本>

多エリアブレンド:Taittinger, Comtes de Champagne

ル・メニル・シュール・オジェ:Salon

アヴィーズ:Jacquesson, Avize Champ Cain

クラマン:Jacques Selosse, Lieux Dits Cramant “Cheim de Chalons”



3. ジュラ:ジュラでは古典的な酸化的特徴(ちょっとシェリーを思わせるような)スタイルのシャルドネも、近代的なクリーンなシャルドネも両方存在している。「Ouillé(ウイエ)」という表記がラベル上にある場合は、僅かに酸化的特徴を伴った、クラシックとモダンの中間的スタイルとなることが多い。小規模生産者が多く、人気も高いため、入手困難に陥りがち。非常に特殊なスタイルのため、他産地との比較は難しいが、総じてコスト・パフォーマンスは高い。ジュラにおいては、サヴァニャンの補助的品種としてブレンドされることも多い。

<至高の一本>

Domaine Macle, Cotes du Jura “Sous Voile”



4. その他:サヴォワでは、若手を中心によりナチュラルで強めの酸を残した瑞々しいスタイルが人気。たっぷりとした完熟風味が独特の魅力を放つ南仏エリアのシャルドネや、近年急激に品質が上がってきた、北のアルザス地方のシャルドネも要注目。



イタリア


1. フランチャコルタ:ロンバルディア州で作られるシャンパーニュ方式のスパークリングワイン。ここでもシャルドネは主役級の役割を果たしている。特にフランチャコルタ独自のカテゴリーである「サテン」は、ほとんどの場合が100%シャルドネから造られ(たまにピノ・ビアンコをブレンドする蔵もある)、通常よりやや弱めのガス圧も合わせて、独特かつ非常に高品質のものが多い。また、イタリアならではのプレゼンテーションの巧みさも秀逸であり、その「お洒落感」は時にシャンパーニュをも凌駕する。近年は非発泡性のワインも積極的に作られるようになり、驚異的なシャルドネも続出している。

<至高の一本>

Berlucchi, Palazzo Lana Saten Brut


2. その他 トレンティーノ=アルト・アディジェ州、ピエモンテ州、トスカーナ州、フリウリ州、シチリア州等でシャルドネから高品質のワインが産出されている。ただし、イタリアのシャルドネの場合は、エリアによるテロワールの特性よりも、造り手の醸造面からくる特徴の方が全面的に出やすいため、造り手のスタイルに関する情報が重要となる。イタリアではシャルドネは長年に渡って栽培されているため、優れたワインは枚挙に暇がない。一部のワインを除いて、全体的にコストパフォーマンスも非常に良好。

<至高の一本>

Miani, Chardonnay “Zitelle” (Friuli Colli Orientali)



オーストリア


南シュタイヤーマルクが、オーストリアにおけるシャルドネの主産地となる。現地では「モリヨン」とも呼ばれるシャルドネは、この地方の石灰質土壌の影響を色濃く受けた、厳格で力強いミネラルが特徴。造り手のレベルも総じて高く、オールド・ワールドのシャルドネにおける隠れた銘醸地の一つとして注目が高まっているが、小規模生産者が多く、入手困難となる傾向がある。また、この地は総じてナチュラル・ワインの品質が高く、新たなホットゾーンの一つとしても、大きな注目を集めている。

<至高の一本>

Maria & Sepp Muster, Graf Morillon



ドイツ


バーデン地方を中心に、近年シャルドネの品質が急上昇している。多くのワインは、非常にブルゴーニュ的なスタイルであり、同価格帯のブルゴーニュと比較すると、品質面で圧倒することも珍しくない。コストパフォーマンス面においては、全ヨーロッパでも随一の存在だ。リースリングやピノ・ノワール(シュペートブルグンダー)の影に隠れているが、シャルドネの産地としても間違いなく銘醸地の一つ。

<至高の一本>

Friedrich Becker, Chardonnay “Mineral”



その他ヨーロッパ

1. 西ヨーロッパ 西ヨーロッパ:スペイン、ポルトガル、ギリシャ、スイス等でシャルドネのワインが多く見られる。一貫した特徴というよりは、補助的に使われたり、生産者のスタイルが強く出ていることが多いので、生産者やワインのブレンド情報などを知っておくと良い。


2. イギリス:イギリス南部で、スパークリング・ワインの原料として使用される。「ブリット・フィズ」の愛称で近年大きく注目されているイギリスのスパークリングは、強烈な酸による極辛口のスタイルが特徴。通常のシャンパーニュだと甘く感じるという方には、ジャストフィットするだろう。


3. 中央、東ヨーロッパ:スロヴェニア、スロヴァキア、モルドバ、クロアチア、チェコ等々の国で、シャルドネは多く見られる。産地としての個性が確立しているエリアは少なく、やはり生産者のスタイルに大きく左右されることが多い

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