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オーストラリアワインの多様性と可能性

Australian Food & Beverage Showcase Japan ブラインド・テイスティング


オーストラリアは広い。

国土面積では世界6位。ヨーロッパがほぼすっぽりと入ってしまう大きさ。


だからオーストラリアのワインは多様だ。

ニュー・サウス・ウェールズ、ヴィクトリア、南オーストラリア、西オーストラリア、そしてタスマニアと、東西は約4,000kmにも及ぶ広大な範囲に65のリージョンが広がる。


パワフルなシラーズという一面的な理解では語りきれないことは、おそらく今更言うまでもない。カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネ、リースリングなどに留まらず、昨今ではオルタナティヴ系品種とも呼ばれる、ネッビオーロやサンジョヴェーゼ、テンプラニーリョ、グリューナー・フェルトリーナー、トゥーリガ・ナシオナルにサペラヴィなど、正に幅広い品種の可能性が花開く。まるでヨーロッパ全土が南半球にもある、ともいえそうな多様性。


今世界のプロフェッショナル百人に、オーストラリアで注目している産地/品種 は?と聞いたら、百通りの答えが返ってきそうな、そんな国が今のオーストラリアである。


だから面白いというのは、未知のワインを色々飲んでみたいと思うワインファンらしい感想だが、とはいえ、販売するとなるとどうだろうか。例えば上述したような品種は、既にオリジナルの国のワインが日本でも広く流通している。

オーストラリアの新しいキーワードとしてよく耳にする「多様性」とは、どのくらい日本での可能性を有しているのか。今、そもそもオーストラリアワインをプロや消費者が選ぶ理由とはなんだろう。オーストラリアこその強みや特徴とは?



豪州大使館商務部と在大阪豪州総領事館の主催による、Australian Food & Beverage Showcase Japanが、2022年6月30日まで開催されている。これはオンラインで未輸入のオーストラリア製品を日本向けに紹介する目的で、輸入業者向けに行われているもので、ワイナリーは40社が出展。200本程度のワインが展示されている。



Australian Food & Beverage Showcase Japanのページはこちらから

登録対象は酒類・食料品の輸入業者や仕入れ調達企業のバイヤー担当者となっている。


以下は登録の手順。

①「招待コード」取得オンラインフォームから必要事項を入力し、送信すると、「招待コード」が発行される。


② 新規ユーザー登録展示会サイトの「REGISTER」からユーザー登録し、IDとパスワードを設定する。(①の招待コードが必要)


③ ログイン展示会サイトの「LOGIN」からログイン。(②で設定したIDとパスワードが必要。)


2021年3月の展示会で登録済みのユーザーは同じID とパスワードで閲覧可能。





今回の取り組みは日本国内における予想希望小売価格とワインタイプをベースにした4カテゴリーと、価格制限無しの合計5カテゴリーを設定し、トップ3の合計15本を選ぶというもの。上記の出展者の128本のエントリーワインからWANDS誌が書類選考で90本を厳選し、提供された合計90本を、日本を代表する経験豊富な4名のテイスターが、二日間に分けてブラインドでテイスティングした。初日はそれぞれが90本を試飲して予備審査を行った。その中で高得点だった計40本を、翌日再度ブラインドでテイスティングした


SommeTimesでは、二日目のトップ3を決するテイスティングを取材した。特に本記事をご覧いただいて興味を持っていただいたインポーターの方、是非このオンライン展示会をご覧いただきたい。今回のテイスティングは、オーストラリアの多様性の強みと弱みをとても反映した内容だったと感じている。



カテゴリーとテイスターは以下の通り。


カテゴリー

1:赤 予想希望小売価格 ¥1,000 - ¥1,999

2:白 予想希望小売価格 ¥1,000 - ¥1,999

3:赤 予想希望小売価格 ¥2,000 - ¥2,999

4:白 予想希望小売価格 ¥2,000 - ¥2,999

5:一推しワイン 価格制限なし


最終的な日本国内での小売価格は、為替や輸送費の変動などに大きな影響を受けるため、予想希望小売価格は、あくまでも参考とご理解いただきたい。



テイスター(敬称略)

井黒卓  ミシュラン3つ星レストラン『L’Osier』ソムリエ

高橋佳子 DipWSET ワインコンサルタント、通訳

太田賢一 ミシュラン2つ星レストラン『ESqUISSE』シェフソムリエ

宮下愛  DipWSET THE Winery店長



15ワインや本企画に関する問い合わせ先

オーストラリア大使館商務部






カテゴリー1:赤 

予想希望小売価格 ¥1,000 - ¥1,999


第1位

ワイナリー:Corryton Burge

ワイン名:Corryton Burge SA Shiraz

品種:Shiraz

ヴィンテージ:2018

GI:South Australia

平均点:89.8P


ボトルショット:©︎WANDS



紫の色合いに濃厚な果実味、まさに従来からのオーストラリアの顔であるお手頃価格シラーズのお手本となるようなワイン。プルーンのような果実味は艶があり、とてもピュアで葡萄の品質の高さを感じる。スミレの花を連想させる香水のような香りとうまく溶け合う。アルコール感が多少余韻に残るが、この価格なら素晴らしいコストパフォーマンス。(宮下)



第2位

ワイナリー:Rymill Coonawarra

ワイン名:Rymill Coonawarra The Yearling Cabernet Sauvignon

品種:Cabernet Sauvignon

ヴィンテージ:2019

GI:Coonawarra(SA)

平均点:89.5P


ボトルショット:©︎WANDS


凝縮感に富んでいて、この価格帯に多くみられるグリーンのトーンは穏やか。高いアルコール度数と甘く熟したタンニン。

オークの香りとフルーツのバランスがお互い強いながらも均衡を保っている。グリップのあるタンニンがタイトなフィニッシュを作っている。(井黒)



第3位

ワイナリー:Swan Wine Group

ワイン名:Red Deer Station 30 Cabernet Shiraz

品種:Cabernet Sauvignon, Shiraz

ヴィンテージ:2019

GI:Langhorne Creek(SA)

平均点:88.0P


ボトルショット:©︎WANDS



ダークチェリーのコンポート、ユーカリ、メントールの精油。

全体的にオイリーなニュアンス。

凝縮度、中盤の広がり、余韻の豊かさ、とAUSの赤に求められるものが、カジュアルレンジにして全て備わっている。CP抜群。(太田)



改めてその個性と品質の高さに驚く

小売から気軽なレストランのバイザグラスまで広く活躍するのがこのカテゴリーだが、出展されていたのはサンジョヴェーゼが一つあったのを除いて、全てシラーズ、もしくはカベルネ・ソーヴィニヨンを含むボルドー系。


テイスター各氏によると、前日のテイスティングではかなり出展ワインの良し悪しがはっきりしていたそうだが、最終のテイスティングに残ったワインはどれも価格を考えると価値の高いワインばかりだった。


オーストラリアに一般的に期待されるような、果実の熟度、フルーツのアロマ、そしてメントールなどのグリーンなニュアンスがあるものも多い。ティピシティがこの価格帯でしっかりと反映されているのは、世界中のワインと並べて比べられる日本のマーケットでは大きな優位点。オーストラリアだからこその味わいが、きちんと表現されているといえよう。


アルコール濃度は全般的に高めだが、酸などときちんとバランスが取れているワインが上位に選ばれており、単純で飲み疲れするような退屈なワインではない。この価格帯のオーストラリアワインに「甘くて強いだけ」といった印象をおもちの方がいるなら、是非この機会に改めて頂きたいと思う。


「全部よくできている。世界トップクラス(井黒)」、「ボルドーの同価格帯と比べても優位性がある(太田)」などと、他の国とも比べても全く遜色がなく、寧ろキャラクターがはっきりしていてポジショニングがしやすい。味わいだけでなくラベルなども含めて、良いワインを選べば、まだまだポテンシャルの高いカテゴリーだと思う。





カテゴリー2:白 

予想希望小売価格 ¥1,000 - ¥1,999


第1位

ワイナリー:Tempus Two

ワイン名:Tempus Two Silver Series Pinot Gris

品種:Pinot Gris

ヴィンテージ:2020

GI:South Eastern Australia

平均点:90.0P


ボトルショット:©︎WANDS



香りは爽やかな柑橘系主体。

ジューシィなピンクグレープフルーツやネクタリン。

甘みを残したスタイルが親しみやすさを演出している。

丸みのあるクリーミーな食感が余韻まで続く。(井黒)



第2位

ワイナリー:Corryton Burge

ワイン名:Corryton Burge South Australian Chardonnay

品種:Chardonnay

ヴィンテージ:2021

GI:South Australia

平均点:89.5P


ボトルショット:©︎WANDS



香り、パレット共に充実のウエイトがあり、この価格帯なら十分に競合できる。

蜜っぽさや程よいオークのニュアンスも複雑さに寄与している。(高橋)



第3位

ワイナリー:Handpicked Wines

ワイン名:Versions by Handpicked Chardonnay, Victoria

品種:Chardonnay

ヴィンテージ:2018

GI:Victoria

平均点:87.3P


ボトルショット:©︎WANDS



グリーンがかったレモンイエロー。

還元的でオイリー。洋梨、花梨、アカシア、菩提樹。

ボディと厚みがパワフルな印象を与える。(太田)



ウェルメイドを超えるか

オーストラリアの低価格帯に求める味わいとはなんだろうか。先程見ていただいたように、赤はシラーズやカベルネの力強い味わいだろう。では白は?


ノミネートされたうち約半分はシャルドネ。その他はピノ・グリ、リースリング、ソーヴィニヨン・ブラン、グリューナー・フェルトリーナーだった。

2日目のテイスティングに残ったワインは、テイスターからもコメントがあったように「クリーン(宮下)」で「欠点のない(高橋)」ものが並んだ。


フレッシュでフルーティ、やや酸が高くバランスに優れる。ボディのあるシャルドネなどもあり、価格を踏まえてよくできたワインが多い


とはいえ、裏を返せばそれほど特徴がないとも言える。「フレッシュでフルーティ、クリーン」なワインは、世界中どこでも造ることができる。それだけでは、オーストラリアの特徴にはなり得ない。


例えばニューワールドを見回してみても、ニュージーランドのフルーティでグラッシーなソーヴィニヨン・ブランや、カリフォルニアの樽やボディの強いシャルドネ、低価格が強みのチリなどと比べて、オーストラリアにはこのカテゴリーにこれといって確立したイメージがない。トップ3に並んだワインはどれも、品質的にもコストパフォーマンス的にも非常に優れたワインだが、消費者は何を期待してオーストラリアのこの価格帯の白ワインを積極的に選ぶのだろう。


一つの可能性として挙げたいのはピノ・グリージョだ。正にフレッシュ&フルーティなキャラクターで世界的にも人気が高まっている。それほど強いフレーヴァーもなく、日常の食事の中で黒子のように振る舞うワイン。マリアージュなどと言わなくても、どのような食卓にも馴染む。


良い意味で特徴のないこのカテゴリーは、品種を問わず、そのような楽しみ方を提案したい。スクリューキャップも多く、気軽さがあるのも良い点だ。考えてみると意外とそのような産地は他の国にもないものだ。特徴のある赤と比べると全く逆、中庸の魅力、つまりカジュアルなシチュエーションであれば、どのような場にも自然に溶け込める汎用性の高さこそが、このカテゴリーの白ワインの特徴であり強みである。





カテゴリー3:赤 

予想希望小売価格 ¥2,000 - ¥2,999


第1位

ワイナリー:3drops

ワイン名:3drops Cabernets 2018

品種:Cabernet Sauvignon, Cabernet Franc

ヴィンテージ:2018

GI:Mount Parker(WA)

平均点:90.3P


ボトルショット:©︎WANDS



個性的なミンティでハーバルなトップノーズ。

カシス、シダ、セイバリーなスパイス、腐葉土、なめし革と続く。

がっしりしたストラクチャーに溶け込んだダスティなタンニン。

やや垢抜けないラスティックさ(田舎っぽさ)が好印象。(井黒)



第2位

ワイナリー:Wills Domain

ワイン名:Wills Domain Mystic Spring Cabernet Sauvignon

品種:Cabernet Sauvignon

ヴィンテージ:2019

GI:Margaret River(WA)

平均点:89.5P


ボトルショット:©︎WANDS



しなやかさと力強さの両方を感じるモダンなスタイル。カベルネ・ソーヴィニョンらしい力強さは完熟果実のフレーヴァーに支えられているが、吹き抜けるオレンジピールのようなニュアンスが“抜け感”となって爽やかささえ感じさせ、濃厚だが次の一杯もついつい飲み進めてしまいたくなる。その品質の高さは余韻の長さからも一目瞭然。(宮下)



第3位

ワイナリー:DOWIE DOOLE

ワイン名:DD Shiraz Grenache

品種:Shiraz 85%, Grenache 15%

ヴィンテージ:2017

GI:McLaren Vale(SA)

平均点:89.3P


ボトルショット:©︎WANDS



中心に黒みを帯びた、明るめのガーネット。

濃縮感がありながら全体的に抑えが効いている。

心地よく木樽由来のスパイスが混じる。

豊潤さと力強さ。非の打ち所がないワイン。(太田)



クラシックとモダン 売れるのはどちらか

このカテゴリーに出展されたのは、ピノ・ノワールとテンプラニーリョが1つずつ、それ以外は全てシラーズかカベルネの単一もしくはブレンド。2日目のテイスティングに残ったワインはシラーズとカベルネのみとなった。


このフライトでトピックとなったのは、クラシックとモダンの二つのスタイルについてである。熟度が高く酸化的、樽の香りも比較的強めでパワフルな印象の強い「クラシック」と、適熟での収穫で酸が高め、還元的な「モダン」。「点数をつけるのが難しかった(宮下)」といったコメントもあったが、赤ワインの低価格帯では見られなかった二つのスタイルが入り混じり、テイスターとしてはそれぞれの優劣をどう点数に反映するのか苦慮していた。


大柄で力強いクラシックスタイルは、世界的にも類を見ないオーストラリアらしい赤ワインだ。オーストラリア=濃い赤ワイン、といったイメージは古臭いと言われるかもしれないが、このテイスティングでも高く評価されたように、見逃してはいけないこの国ならではの味わい。グラス一杯でも満足感が高く、小売から飲食店まで幅広い可能性がある。ペンフォールズなどのビッグ・ブランドの得意とするカテゴリーでもあるので、販売する上ではそこと比べた対比や興味を惹くストーリーなどは必要だろう。


対してタイトで酸の高いモダンスタイルは、ペアリングなどを行うレストラン向けだと言える。熟度の高さがありながら緻密。価格を超えたクオリティのワインがいくつも見られた。とはいえこのカテゴリーの難しさは、ペアリングにおいてオーストラリアのワインでないといけないというシチュエーションをどう見つけるか、だ。ペアリングの舞台では世界中のワインと並べられ比較される。そのワインを選ばなくてはいけない、という必然性が欲しい。


また、今回のテイスティングでは、上位2つをカベルネ・ソーヴィニヨンが占めた。改めてこの国のこの品種の品質の高さを示したが、世界中のカベルネと比べてどう売るのか。「カベルネ系が評価されていたが売る理由が見つかりづらい。(井黒)」といったコメントもあった。品質だけでなく、ストーリーなども含めて考える必要があろう。





カテゴリー4:白 

予想希望小売価格 ¥2,000 - ¥2,999


第1位

ワイナリー:Peos Estate

ワイン名:Peos Estate Four Kings Chardonnay

品種:Chardonnay

ヴィンテージ:2020

GI:Manjimup(WA)

平均点:92.5P


ボトルショット:©︎WANDS



グリーンがかった、やや明るいイエロー、粘性やや高め。

白桃、ヘーゼルナッツ、貝殻、石灰、アカシア、澄ましバター、トースト、ヴァニラ。

中程度のアタックから、フレッシュさ、リッチさ、塩味の引き締め。それら一連が綺麗に繋がる。

丁寧な栽培と醸造プロセスがうかがえる、非常に高品質。(太田)



第2位

ワイナリー:Zilzie Wines

ワイン名:Platinum Edition Arinto

品種:Arinto

ヴィンテージ:2020

GI:Australia

平均点:90.5P


ボトルショット:©︎WANDS



よく熟した果実がオーストラリアのイメージと合致する。程よい酸味や苦味が厚めの果実とバランスしていてワイン全体をワンランク上げている。

オルタナティブ品種としてのポテンシャルを感じる好例。(高橋)



第3位

ワイナリー:Peter Drayton Wines

ワイン名:Peter Drayton Wildstreak Semillon

品種:Semillon

ヴィンテージ:2020

GI:Hunter Valley(NSW)

平均点:89.8P


ボトルショット:©︎WANDS



夏みかんやはっさくのようなアロマが印象的で、オーストラリアのセミヨンの特性をうまく表現している。低めのアルコール度でスムースに杯がすすむフードフレンドリーなワイン。柑橘のアロマから始まり余韻のオイリーさまでストーリー構成のよくできた構造が素晴らしい。(宮下)



多様なスタイルを理解する

「多様だ」と言われるオーストラリアを、最も反映したフライトである。出展された品種は多い順に、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、リースリング、セミヨン(ブレンドを含む)、ピノ・ブラン、アリント。上位3つはご覧の通り。


この中で、多様性というキーワードで特に取り上げるべきなのはアリントだろう。ポルトガルでは広く作られている高い酸をもつ品種だが、そもそもオーストラリアで造られていることを知らなかった。このような一般的には知られざる品種から高く評価されるワインが生まれているのは、オーストラリアの今の面白さを端的に見せてくれていると思う。干魃などの問題に直面しているオーストラリアにおいて、こういった南欧のウォーターストレスに耐性のある品種は今後より広がっていくだろう。是非一度テイスティング頂きたいワインだ。


ハンター・セミヨンは、JSAのソムリエ試験やWSETで勉強したけどその後飲む機会がない、とよく言われてしまう。価格がそれほどカジュアルではなく、熟成しないとその本質が分かりづらい。故に中々輸入もされない。とはいえアルコール濃度の低さは今求められているポイントだし、上記したように資格試験を受けた多くのプロや消費者には認知されていることを考えると、このような適当な価格のものは十分ポテンシャルがありそうだ。若くても十分楽しめるスタイルであることも是非ご注目頂きたい。


そしてシャルドネ。

オーストラリアのシャルドネは一般的に、樽のニュアンスがあっても、やや控えめなフレーヴァーと高い酸、リーンな印象のワインが多いと思う。

今回選ばれたシャルドネは、更に進化するこの品種の好例だ。「酸のバランスの変化。リーンからボディのあるものへとシャルドネが変わっていっている(井黒)」というコメントが表すように、ややタイトだったスタイルに適度に肉付けをしたような味わい。フルーツや樽の強さはあるもののまとまりがあり、酸の高さがバランスを取る。やや通向けだったものが、誰にでも愛してもらえそうな分かりやすさと、それを支える繊細さが同居しており面白い。高い技術を感じ、この国のシャルドネに改めて注目したくなるワインだ。





カテゴリー5:一推しワイン

価格制限なし


第1位(同点)

ワイナリー:Chateau Yaldara 1847 Wines

ワイン名:Grand Pappy's Shiraz

品種:Shiraz

ヴィンテージ:2017

GI:Barossa Valley(SA)

平均点:93.8P


ボトルショット:©︎WANDS



凝縮感のある果実味はブラックベリー、ブルーベリーなどの熟した黒果実のアロマに溢れている。その上に上品かつ存在感のある樽香、それら全体を引き締める酸味。それら全ての要素はそれぞれ非常に強いが、きれいな正三角形のように均衡が取れていて美しい。また、アタックからフィニッシュまでの階層が深く、堂々たる構成のワイン。品質はピカイチ。ただ、この価格になると世界にはライバルも多くなるので、味わいや品質だけでなくこのワインの背景、物語含めたマーケティング要素も必要になってくる。(宮下)



第1位(同点)

ワイナリー:Purple Hands Wines

ワイン名:Planta Circa Ancestor Vine Shiraz

品種:Shiraz

ヴィンテージ:2019

GI:Barossa Valley(SA)

平均点:93.8P


ボトルショット:©︎WANDS



重層的な香りと味わい。しなやかでよく溶け込んだタンニン。抑制が効いていて、上質な酸味が全体を洗練された印象に纏めている。(高橋)



第3位

ワイナリー:Scotchmans Hill

ワイン名:Scotchmans Hill Pinot Noir

品種:Pinot Noir

ヴィンテージ:2020

GI:Geelong(Victoria)

平均点:91.8P


ボトルショット:©︎WANDS



官能的。全房発酵由来の複雑なアロマ。

ブラウンマッシュルーム、上質なレザー、腐葉土、ウーシャンフェン(五香粉)。血液のような鉄っぽい雰囲気がフルーツでも柘榴を思い起こす。ピンと張ったテンションを感じる緊張感のある酸味。

ボディに溶け込んだ艶やかなタンニン。

うっとりするような色香を感じる余韻。(井黒)



世界のワインと比較して

何でもありのこのカテゴリーにノミネートされたワインは、最多の25種類。しかし、シャルドネが1種類入った以外は全て赤ワインだった。シラーズを中心にカベルネ系かピノ・ノワールが出展され、オルタナティブ系の品種は全くなかったのはやや意外なようでもあるが、「世界のワインと比較してのテイスティング(井黒)」というコメントを聞いて考えを改めた。オーストラリアにおいて世界と伍する大きなポテンシャルがある品種は、やはり先ずは出展されたこの3つなのだ。


同点一位に選ばれた2つのワインは、共にオーストラリアらしさに溢れたクラシックなバロッサ・ヴァレーのシラーズ。「この価格帯のシラーズはやはり他にないクオリティとキャラクター(高橋)」との言葉通り、熟度が高く、クリーンでブレットのないスタイルはオーストラリアならでは。「料理はシンプルなものが合わせやすい。ローヌとは違う。(太田)」というように、シラーといってもフランスとは明確にスタイルが異なるので、ペアリングの方向性も異なる。価格のバランスも考えつつ、ピンポイントでレストランでの立ち位置を探りたいワインだ。


そしてピノ・ノワール。2日目に残った8種類のうち、3つがピノ・ノワールだった。モーニントン、ジーロング、タスマニア。どれもオーストラリアを代表するピノ・ノワールの産地である。トップ3に残ったのはジーロングだったが、どれも引けを取らない高品質なワインだったといえよう。


とはいえ、「他のピノ・ノワールの産地と比べて競争力はあるのか(高橋)」といったコメントがあったことも是非付け加えておきたい。いうまでもなく世界中で栽培されているピノ・ノワール。競争力といっても品質やコストパフォーマンスだけの話ではない。例えばこの、モーニントン、ジーロング、タスマニアのテロワールの違いについて、どの程度理解がされているだろうか。それぞれの産地の個性や生産者のストーリー、醸造の特徴などについて深めていかないと、マーケットで埋没してしまうのは間違いないだろう。




今回のワインは全て日本への輸出向けということで生産者がセレクトしたワインだ。また出展されたワインも90種類であるので、偏りもあり、オーストラリアの今を網羅しているとは言い難い。とはいえ価格ごとに分けることで、それぞれのカテゴリーの特徴や強み/弱みを見ることができた。


オーストラリアは広い。今回のテイスティングも、フランスの産地のワインを並べてテイスティングするようなものとも言える。「多様性」と一言で言うのはたやすい。しかし多様性だけでワインは売れないのではないだろうか。今回選ばれたような品質の高いワインを、一つ一つ丁寧に見つめ、適正な方法で流通させることが今求められていることだと感じている。



問い合わせ先

オーストラリア大使館商務部




<筆者プロフィール>

別府 岳則 / Takenori Beppu

Wine in Motion代表


WSET®Level 4 Diploma

オーストリアワイン大使(Austrian Wine Marketing Board)

ポートワイン・コンフラリア カヴァレイロ (Institute dos Vinhos do Douro e Porto)

International Personality of the Year 2018 (ViniPortugal)

Award of Excellence (Austrian Wine Marketing Board)

J.S.A.認定ソムリエ


レストラン、インポーター、ワインショップを経て独立。

海外ワイン協会や生産者の様々なプロモーションに携わる。

プロフェッショナル向け、ワインラバー向けのセミナーやウェビナーも多数。



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