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コルク&スクリューキャップでの20年熟成比較

コルクとスクリューキャップによる熟成の違い。ワインラバーなら一度は抱く疑問に対する問いを検証する「コルク&スクリューキャップでの20年熟成比較:オーストラリア5生産者全15ワイン試飲セミナー」が、開催された。

 

主催はインポーターのヴィレッジ・セラーズ。講師は日本ソムリエ協会常務理事の森覚氏が務め、ゲストスピーカーにはラスボーン・ワイン・グループオーナーCEO兼醸造家のダレン・ラスボーン氏が参加した。



ヴィレッジ・セラーズ代表のリチャード・コーエン氏によると、本セミナーにかけた準備期間はなんと約20年。今日この日の検証を想定し、同一生産者・同一ヴィンテージの2通りのクロージャ―のワインを輸入、長年にわたり自社定温倉庫で少量ずつ保管し熟成させていたという。

 

 

セミナーで供されたのは、オーストラリアの5生産者。2000〜2003年ヴィンテージ(コルク&スクリュー)と同一ワインの現行ヴィンテージだ。世界に先駆けて、スクリューキャップを採用してきたオーストラリア。現在スクリューキャップの採用率は、9割以上に達している。

 

今回試飲で供されたヴィンテージである2000年前後は、生産者たちがスクリューキャップへの移行を検討し始めた時期。同一ワインを、コルク栓とスクリューキャップの2通りのクロージャーを用いて、瓶詰めしていた生産者が多かったのだ。

 

 

まず初めに留意しておきたいのが、森氏もたびたび強調していたように、コルクとスクリューキャップ、どちらがいい悪いではないということだ。

 

本セミナーを受講したあとに題名を見て感じ入ったのだが、「コルク&スクリュー」であって、「コルクVSスクリュー」ではないのだ。

 

双方にメリットがあり、生産者は自身のワイン造りの哲学やマーケットに合わせて選択している。売り手や飲み手がどちらを選ぶかも、ワインを開けるシチュエーションや嗜好によって異なるだろう。

 

試飲のレポートに入る前に、まずは本セミナーで言及されていた、スクリューキャップの利点について簡単にまとめてみたい。

 


・ブショネ対策

生産者がスクリューキャップを採用する最大の理由は、ブショネ対策だろう。コルク臭=ブショネの発生率は、天然コルク使用のワインの約2~5%といわれているが、スクリューキャップの場合はそのリスクがほぼゼロになるのは大きな利点だ。今回のセミナーでもコルク栓のワイン30本のうち2本はブショネだったとのこと。バックヴィンテージなど希少なワインの場合、損害は計り知れない。

(ブショネについてはこちらの記事を参照)

 

 

・瓶差が少ない

今回のセミナーで、森氏がたびたび強調していたのが、瓶差の少なさだ。コルク栓のワインはメーカーによって瓶差が大きいものと少ないものが分れたが、スクリューキャップの場合は、ほぼ味わいが一貫していたという。ボトルによって品質や味わいがあまりに違うと、クレームに繋がる恐れもある。

また、テイスティングができるプロのソムリエがいないお店でも、品質が安定していれば、状態の良いワインを常に提供できる。

 


・フレッシュさを保ちながら緩やかに熟成する

スクリューキャップを使用すると、ワインの熟成による変化を愉しめないのではと心配する人もいるかもしれないが、その心配は無用だ。今回試飲した20年物のスクリューキャップのワインは、どれもコルク栓に比べて果実味や新鮮さを保ちながら、熟成による変化も楽しめた。

一方で、コルクにはコルクならではと言える、熟成がもたらす独特の色気を醸し出す魅力がある。時間とともに朽ちていく色気をスクリューのワインで感じたい場合、通常のコルク栓よりもより長い時間が必要となるだろう(それまで生きているかどうか…)。

 


・抜栓・保管のしやすさ

ソムリエナイフを必要とせず、素人でも一ひねりで簡単に抜栓できるのも大きなメリットだ。特に人手が足りないワインショップや、大量のワインを抜栓するイベント・セミナー等でも大きな時間の短縮になる。余談だが、いまだに抜栓が苦手な筆者は、焦って抜栓しようとして何度も流血したことがある。開栓後も栓を閉めて再保存できることや、横にして保管できるという点でもコルクよりも扱いが圧倒的に楽だ。

 

一方で、コルクを抜栓する行為は、ワインを開ける楽しみの一つでもある。レストランやワインバーでソムリエが優雅にコルクを抜く一連の所作は一つのアートでもあり、非日常気分を高めてくれる要素であることは間違いない。哀しきかな、スクリューキャップには依然“安ワイン”のイメージがつきまとうため、レストランでさっさと抜栓されるとがっかりする人もいるだろう。

 

 

それでは具体的なフライトを見ていこう。試飲は5種類のワインごとに3種類:現行(スクリュー)、20年以上熟成(スクリューキャップとコルク)、合計15種類が供された。

 

グラスは一人15脚×100名=1500脚。裏での苦労が偲ばれる。

 

 

フライト1

フライト1はグロセットのポーリッシュヒル・リースリング

 

クレア・ヴァレーのグロセットは、世界最高のリースリング生産者の一人。スクリューキャップ栓導入に尽力した、パイオニアでもある。デリケートな風味が命のリースリングでは、ブショネによる影響が強く出るため、クレア・ヴァレーの生産者たちは、2000年頃から率先してスクリューキャップを採用するようになったのだ。



現行ヴィンテージの2022年は、まだ若く固い状態で、搾りたてライムのような強烈な酸とミネラル。ただ、とてつもない熟成ポテンシャルを有していることはわかる。

 

期待通り、20年ものは素晴らしく熟成していた。スクリューキャップのワインは、グリーンハーブの爽やかな香りを残しつつ、蜂蜜レモンやアカシアなど華やかな香りに、オイリーさやナッティさなど香ばしいニュアンスも加わる。

 

対してコルク栓は、より酸化熟成的な要素が強くなり、アプリコットなど黄色い果実のニュアンスに加えて、質感の滑らかさが印象的だった。「よりフレッシュさを保っているスクリューに比べ、コルク栓の方は香りが発散して穏やかにまとまっている」と森氏。いずれにせよ、双方20年以上たってもフレッシュな酸が保たれているのには恐れ入る。

 

 

特筆すべきは色調の違い。どちらもレモングリーンの色調なのだが、スクリューキャップの方が、より緑がかっており、熟成が緩やかなのが一目瞭然だった。「シャンパーニュにもたまに見られるが、還元状態で熟成させると緑を保ったまま深みを増す」という。



 

フライト2

フライト2は、マーガレット・リヴァーの雄ルーウィン・エステート

 

優美なラベルのアートシリーズはご存じの方も多いだろう。価格も現行で14,500円(税別)とプレミアムなシャルドネだ。



現行ヴィンテージは、まだ若々しいが白桃などのみずみずしい果実味と酸のバランスが取れた丸みのあるスタイルで、余韻のほろ苦さが味わいを引き締めている。フレンチオークの新樽100%熟成だが、樽香も上品でエレガントな造りだ。

 

スクリューとコルクを比較すると、スクリューの方がやはり僅かにグリーンがかった色調。どちらも熟成に香りが開き、黄桃やアプリコット、甘いスパイス、蜜香を呈し、リッチな口当たりなのだが、より香りが強く出ているのがコルク栓。

 

森ソムリエは「白檀」と表現したが、妖艶なオリエンタルスパイスの香りや、ナッティーな香ばしいニュアンスが強くなり、蜜香もスクリューが花の蜜だとすれば、コルクは蜂蜜のような濃密さを増す。輪郭がぱきっと鮮やかなスクリューに対し、コルクのほうが果実味とアルコールが溶け込んで穏やかに落ち着いた印象。

 

ただどちらもまだ若々しさを保っており、ルーウィン・エステートの熟成のポテンシャルを見せつけられた。

 

 


フライト3

フライト3はダーレンベルグ

 

4世代110年以上にわたり、マクラーレン・ヴェイルでワインを造る老舗で、樹齢100年以上の古樹も保存している。



今回は現行ヴィンテージで2,800円(税別)の、比較的カジュアルな「ダリーズ・オリジナル・シラーズ・グルナッシュ」を比較。プレミアムワインばかりでなく、カジュアルなフライトを差しはさんでくる配慮も心憎い。

 

現行ヴィンテージはいわゆる南オーストラリアらしい典型的なローヌブレンドで、果実味とアルコール(14.5%)がしっかりとしたタイプ。すみれや赤系果実、甘いスパイスに動物的なニュアンス。まだ若々しいタンニンが暴れていて、飲み頃は少し先だろう。

 

20年熟成の方は、やはりスクリューよりもコルクのほうが発展した色調で、エッジに褐色がかったオレンジ色の外観が見て取れる。香りの違いも明らかで、コルクの方が早く熟成している印象。どちらも紅茶や腐葉土、タバコなど熟成香が発達しているが、コルクの方がより複雑で、ドライフルーツや鉄っぽさ、リコリスなど甘いスパイスが強く感じられた。少し引き締まって緊張感のある印象のスクリューに比べ、コルク栓は滑らかな質感。

 

ちなみにコルク熟成で最もボトル差があったのが、ダーレンベルグだそう。

 

 


フライト4

フライト4は、エルダトンのシラーズ比較。

 

バロッサ・ヴァレーのヌリオッパという町に畑と醸造所を構えるワイナリーだ。



現行ヴィンテージの「コマンド・シングル・ヴィンヤード2018」はまだまだ力強いが、みずみずしさと凛とした酸により、14.6%というアルコールの高さを感じさせない。このみずみずしさは、ヌリオッパの北部のシラーズの特徴だという。

 

香りはシラーらしい黒系果実、スミレやブラックペッパーに、ココナッツ系の甘い香りが入り混じるのは、熟成にアメリカンオークを併用し、新樽率も高い(2002年ヴィンテージは100%、最近は80%)ためだろう。

 

スクリューの熟成物は、プラムのコンポートやドライフラワー、ハーブの香りに様々なスパイスやコーヒーなど燻香も加わり非常に複雑。このワインの魅力でもあるジューシーさやみずみずしさを保ちながら複雑さが増し、非常に良い状態だった。

 

一方、コルクの方は、外観はスクリューとほぼ変わらないが、香りはスクリューより穏やかで、果実も煮詰めたというよりは、ドライフルーツなど、より乾いた印象。アルコールの強さも落ち着いて、バランスがよくまとまりがある。

 

「香りがスクリューよりも穏やかなのは、抜栓後空気と触れてから落ち着くのがコルクの方が早かったといえるのかもしれない。テクスチャーが滑らかで、より甘みを感じるのはコルク栓。」と森氏の解説。

 

 


フライト5

フライト5は、今回ゲスト生産者として登場したマウント・ランギ・ギランのシラーズ比較。

 

マウント・ランギも現在はすべてスクリューキャップへと移行している。



「まず大事にしているのは一貫性、すなわち均一に熟成すること。私としては、スクリューキャップの熟成の方が好みなんだ。」とダレン・ラスボーン氏。

 

実はスクリューへ移行した理由は、2002年に入荷したコルクの質がかなり悪く、瓶詰後すぐに酸化してしまうという問題が起こったためだ。2003年にコルクとスクリュー半量ずつでテストを行い、2004年からすべてスクリューに移行したという。

 

葡萄畑は、グレート・ディヴァイディング・レンジの最南端にある、ヴィクトリア州グランピアンズ。南極海と標高のどちらの影響も受けるこのエリアはかなり冷涼で、標高350m、1969年植樹の畑から生産されるランギ・ヴィンヤードは、冷涼地ならではのスパイシーさをもったシラーズだ。

 

現行ヴィンテージを飲むと、その冷涼さがよくわかる。クリーンでピュアな果実にフローラルさもあり、何よりロタンドンが顕著に出たスタイルは、冷涼シラーズそのもの。フレッシュな酸味が味わいを引き締め、アルコールの高さを感じさせない。

 

そして気になる2003年比較は、どちらもオレンジのトーンが入り、かなり熟成が進んでいる。

 

スクリューのワインには煮詰めたコンポートやスパイス、たばこ、腐葉土など多彩なニュアンスが加わりつつ、やはり15%とは思えない綺麗で整った味わい。適度に残った酸が輪郭を際立たせている。

 

一方コルクのワインには、より酸化的な要素が加わり、干し肉やマッシュルームなど複雑さが増している。「コルク栓のほうは、酸味が溶け込んで、ドライいちじくのような甘みを感じる。複雑なのは後者だが、スクリュー熟成の適度なバランスが好みという方ももちろんいらっしゃると思います。」と森氏。

 



総括

味わいの違いを総括すると、スクリューは果実味とフレッシュさをある程度保ちながらも、熟成による変化も楽しめるのに比べ、コルクはより酸化熟成が進み、複雑な香りや質感のなめらかさ、いうなれば“こなれ感”が共通して感じられた。特に赤ワインでは、白ワインよりも差がはっきりと感じられた。

 

瓶差が少なく熟成がゆっくり進むスクリューか、不均一に熟成し色気を醸し出すコルクか…どちらを選ぶかは人それぞれだろう。

 

生産者側にとっては、ブショネのリスクや均一性を優先するならばスクリューに軍配が上がるだろうが、実際、スクリューキャップを導入するには設備投資が必要になり、小規模なワイナリーにはハードルが高いケースもある。そのためスクリューではなくディアムなど代替コルクを使用する場合も多い。自社にとって何が最優先事項なのか、様々な要因を検討してみる必要があるだろう。




<プロフィール>

水上 彩

ワインライター

WSET Diploma


ワイン愛が高じて通信業界からワイン業界に転身。Forbes JAPANはじめ諸メディアへ寄稿するほか、『日本ワイン紀行』ライターとして日本全国のワイナリーを取材。


またWOSA Japan(南アフリカワイン協会)のメディアマーケティングを担当し、南アフリカワインのPRにも力を注ぐ。J.S.A認定ワインエキスパート。


2022年WSET® Level 4 Diploma取得。


趣味はアルゼンチンタンゴ。




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