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ナパ・ヴァレーのエレガンス <Screaming Eagle>(特別無料公開)

世界に名だたる銘醸地ナパ・ヴァレーでも、最もカルト的と言えるステータス。

ボルドー左岸メドック地区公式格付け第一級シャトーを遥かに上回り、シャトー=ペトリュスにすら迫る販売価格

有力評論家による、複数回の満点評価

富裕層のSNSに定期的に登場する、メーリングリストによるケース買いの特別感。

猛々しい鷲のラベルと、どこまでも力強い印象の銘柄名。


これだけ要素が揃ってしまうと仕方もないのだろうか。


Screaming Eagleというワインは、かなり誤解されているように思える。


一度もこのワインを口にしたことの無い人は、イメージだけを元に、口を揃えてこう言うだろう。


Screaming Eagleは、ナパ・ヴァレーで最も濃厚で力強く、ナパ・ヴァレーのテロワールとは関連性が薄い、最先端技術の粋を集めたワインである、と。


しかし、残念ながらそのような論評の全てが間違っている


Screaming Eagleとは、ナパ・ヴァレーの中では明確にエレガントなタイプに属し、テロワールを緻密に表現し、ハンズオフな古典的手法で造られたワインである。


では、なぜScreaming Eagleは、ナパ・ヴァレーを代表するカルトワインへと「成った」のだろうか。


その問いには、ワインという飲み物にとっての、普遍の真理が答えてくれる。


優れたテロワールと優れた造り手が交わった時に、偉大なワインが生まれる


Screaming Eagleもまた、例外では無いのだ。


Screaming Eagleの葡萄畑は、Oakvilleのスポット的に冷涼な窪地にあり、この場所にはかねてから、ナパ・ヴァレーの中でも「特別な畑」とされてきた歴史がある。


さらに、Screaming Eagleのチームは、極めて厳格な葡萄栽培に従事し、優れたワインメーカーである以上に、最高の農家であるという哲学を頑なに貫いてきた。


収穫の際には、細かく分けられたブロック毎に、必ず24時間以内に摘みきるという厳しい自主規定を設けている。


ブロック毎に丁寧に小仕込みされたワインが、時に40通りにも及ぶブレンディング候補の中から、難解極まりないパズルの果てにScreaming Eagle Cabernet Sauvignon、もしくはThe Flightとなるのだ。



そして、Screaming Eagleにはもう一つの誤解がある。


Screaming Eagle Cabernet Sauvignonと、The Flightに関してだ。


元々、The Flightは2015年ヴィンテージで変更するまで、Second Flightという名前でリリースされていた。


Screaming EagleがSecondという言葉に込めた意図は、「もう一つの側面」であったのだが、リリース価格の差と、Secondという言葉がボルドーなどのセカンド・ラベルに直結してしまった事から、The Flightは、一般的にScreaming Eagleのセカンド・ラベル、つまり「格下げ」ワインであると認識されてしまった


しかし、2つのワインの実態を紐解くと、その認識が真実では無いことは明らかだ。


Cabernet Sauvignonは、アメリカ合衆国のワイン法が品種名の記載に関して定める通り、最低75%のカベルネ・ソーヴィニヨンが含まれているのに対し、The Flightメルローが主体のワインとなる。


主体となる品種が異なれば、ワインの性質が異なるのも当然のこと。


重厚だが軽やかさも宿したアロマ、幾重にも重なった果実味にたっぷりと溶け込んだ酸、引き締まった体躯、驚異的な複雑性が、決してパワーに頼らない形で表現されたCabernet Sauvignon。


華やかだが繊細さも兼ね備えた明るいアロマ、柔和な果実味とコントラストを描くフレッシュな酸、しなやかな体躯、球体を思わせるバランス感が、極めてエレガントに表現されたThe Flight。


このように、両者には明らかな性質の違いが見受けられるが、それは品質の優劣とは少々ベクトルが違うように思える。


異論反論を承知で書くが、両者の違いは、「好みの問題」に十分収まるものだと私は考える。


実際に、来日したエステイト・ディレクターのアルマン・ド・メグレ氏によれば、将来的には2つのワインが同じ価格帯でリリースされることになる可能性もある、とのことだ。


それはつまり、The Flightの品質に対する、絶対的な自信の表れでもある。




テイスティングでは、2012、2014、2015、2016、2019、2020年のThe Flightに加え、2021年のCabernet Sauvignonを比較した。


The Flightでは特に、メルローの優美さが完全開花した2014年、驚異的な多層性と3次元的ストラクチャーが圧巻の2019年が強烈な印象に残った。


もちろん、2021年のCabernet Sauvignonも極上。極微細なディテールまで徹底的に磨き上げられたようなストラクチャーは、偉大な彫刻を連想させるものだった。


Screaming Eagleを飲む幸運に、誰しもが恵まれるわけでは無いことは重々理解している。


だからこそ、本稿がScreaming Eagleについてまわる誤解を解くきっかけになることを、切に願う。



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