このコラムの締め切りがそろそろですよ〜、と連絡がきたちょうどその日に3回目の緊急事態宣言、そして酒類の提供禁止を検討しているというニュースが流れてきました。いっこうに落ち着かない現状に思うところある方も多いかと思います。
こんな状況下ですが私、長年勤務していた銀座レカンを退職いたしました。
そして元上司でワインテイスターの大越さんと働いております。
今回の事態で痛感したのは、飲食店で働いている事への不安。
緊急事態宣言発令で飲食業界への休業、時短要請、そして今回の酒類提供禁止措置。
レストランを運営することが出来ず、私たちの仕事を否定されているような感覚になってしまいました。
今までに経験したことのない事態。
コロナ禍の前と後では、世界が変わってしまいました。
これまで日々の仕事に没頭していたのですが、時間ができると色々なことを考えてしまいます。今のスタイルで仕事していて続けられるのだろうか、と。
ネガティブに考えても前に進まないので、この状況をきっかけに変えられることはないかを考えるようになりました。
そんな時に相談した元上司から持ちかけられた提案。
一緒に働かないか?
うちにきて働きつつ、自分の仕事もやればいい。
ソムリエの新しい働き方を実践していこう。
正直レカンを辞めることは全く考えていませんでした。
現代の働き方として、一つの会社で生涯を終えるのはかなりのレアケースです。
むしろそんな珍獣的な扱いをされようかな・・なんて考えておりました。
何と言っても御常連のお客様からのご期待もありました。
それに応えなければ、というプレッシャーは常にあったと思います。
タイミング、ですね。
まさにターニングポイントだったと思います。
しばらく考えさせてください、と返事したにもかかわらず、確実に心が動いていました。背中を押してくれた家族とレカンの皆様には本当に感謝しております。
前置きが長くなり恐縮です。
そんな今の私がオススメするワインがこちら。
生産者:Domaine des Accoles / ドメーヌ・デ・ザコル
ワイン名:/Miocène / ミオセヌ
葡萄品種:Grenache, Carignan / グルナッシュ70%、カリニャン30%
ワインタイプ:赤ワイン
生産国:France / フランス
生産地:Rhône Ardèche / ローヌ アルデッシュ
ヴィンテージ:2013
インポーター:AMZ
参考小売価格:¥4,670
前回私がご紹介したワインのドメーヌ ラルロ。こちらを2011年まで手掛けていたオリヴィエ・ルリッシュ氏が、コートデュローヌ地方アルデッシュにて始めたワイナリーがこのドメーヌ・デ・ザコル。
ラルロの醸造家として名声を得ていた彼がその地位を捨て、自身の夢であったワイナリーを築く。
新たなチャレンジを始めた私とリンクするところがありました。
ラルロ時代からの彼のワインの素晴らしいところは、ナチュールらしい造りですがオフフレーバーなどが無くピュアなワインであること。
そのバランス感覚は健在で、こちらのワインは温暖な地域らしいジューシーさがありつつ、綺麗な果実感と滑らかで染み入るようなテクスチャーがあります。
もちろん以前までのワインとはスタイルが全く違いますが、共通する柔らかさやエレガントさを感じられるのは、造りたいワインのイメージがしっかりしているからなのでしょう。
ラルロ時代の彼のワインは、ブルゴーニュのヴァン・ナチュールが好きな方にとても人気がありました。
ヴァン・ナチュール、と言われるワインに対する捉え方は飲み手によっても、提供する側であるソムリエによっても違うかと思います。
提供する側である私達が必要なことは、ワインを分析し、何が特徴か、どういった点が素晴らしいかを把握し、お伝えすること。
そしてオフフレーバー、欠陥とされる要素があるかを把握し提供できるかを判断すること。
この線引きが難しいかもしれません。
例えばナチュールで問題になることの多いオフフレーバーである豆香。
フランス語ではgoût de sourisグー ド スーリ(直訳するとネズミ味!)なんて呼ばれる欠陥臭です。
原因とされる物質 (2-アセチル3,4,5,6-テトラヒドロピリジン2-Acetyl-3,4,5,6-tetrahydropyridine、など)や発生するメカニズム(醸造時に乳酸菌とブレタノマイセス(野生酵母の一種)が反応してできてしまう)などもわかってきています。
そしてこれが厄介なのが、この物質が揮発する(香り成分が大気中にでる)にはワインのpH(アルカリイオン値)では低く、香りを嗅いだだけではわかりません。
飲んだ時に唾液によってpHが上がることで揮発し感知できるようになります。
上記の知識が無いと、この香りがなぜワインの余韻に強く出るのかが説明できません。またこの香りに対する閾値(人が感知できる最少の量)も人によって違うため、極端に苦手な方もいれば少量なら気にならない方もいます。
また余韻に感じられるということは、お料理とのペアリングを考えた時に強敵となってしまいます。
ワインを飲んだ後の余韻に料理の風味が乗ってくる、というペアリングでとても大事な部分が台無しにされてしまうからです。
やっかいなのが、ワインの状態によって発生することがあります。
コンディションが悪い、抜栓してから時間が経った、など。
逆に瓶熟成させる事によってなくなることもあります。
なかなか不安定で危ういワインに出会うこともありますね。
その状態をきちんと見極め、ご提供する必要があるかと思います。
ヴァン・ナチュールをお好きな方はそんな不安定さにも魅力を感じているような気がします。
攻めてるワイン、なんて表現される方もいらっしゃいました。
どこをどう攻めるのでしょう・・笑
クリーン・ナチュラルという表現がありますが、本来ワインはナチュラルですしクリーンなものが一般的です。
ヴァン・ナチュールが登場したことによって、表現が広がっていますね。
私もこういったワインが好きですが、ご提供する時には色々気をつけております。
話がだいぶ脱線しましたが・・。
造り手のフィロソフィを感じられるワインだと思います。
自身の道をしっかりと見据えて進んでいく。
そんなイメージを持つことができるワインです。
こんな状況だからこそ、できること、やりたいことをしっかり考えて進んでいきたいですね。
<ソムリエプロフィール>
宇佐美 晋也
Ăn Điアンディ マネージャー
1980年東京生まれ。
2002年レカングループ入社ブラッスリーレカン上野を経て2006年「銀座レカン」へ。15年勤務し最終的にはエグゼクティブソムリエを務める。
2021年銀座レカンを退社し現職。
Ăn Điに所属し現場に立ちつつ、ワインスクール講師など外の仕事もするソムリエの新しい働き方を実践。
長くグランメゾンで働いた経験を活かし、その知識やサーヴィスを伝えていきたいと思っております。
JSAソムリエエクセレンス。
<Ăn Điアンディ>
ベトナム語で「召し上がれ」を意味する、モダンベトナム料理とヴァンナチュールを主体としたドリンクのペアリングを楽しめるレストラン。
銀座レカンのシェフソムリエを経て独立し、現在は日本を代表するワインテイスターとして活躍する大越 基裕氏がオーナー。
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