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埋もれた可能性の発掘

今回フォリアス・デ・バコ、または造り手であるティアゴ・サンパイオのことを書こうと考え始めたが、つくづく簡単には語れない面白い生産者である。


ポートワインの生産で有名なドウロの中で、ポート用のぶどうとして考えるなら最悪のテロワール。代々引き継がれた畑は、ポート用のぶどう生産のメッカたるドウロ川とその支流から遠く離れた、標高の高く涼しい場所にあり、熟度が重要視されるポート用としては二束三文でしか売れない。


今ではこの国の「ヴァンナチュール」を代表する造り手として、今年にはポルトガルを代表するワイン雑誌で、数ある生産者の中からEnólogo Revelação do Ano(ワインメーカー・オブ・ザ・イヤー)にまで選ばれたティアゴだが、今では彼のキュヴェの中でも人気となった、アルヴァリーニョやモスカテル、ラビガトなどの白品種に力を入れ始めた頃には、周りの生産者から「白なんて作ってどうするんだ」と半ば呆れられたそうだ。腐っても、ではないが、やはり昔からのポートワインの産地である。昔からこの地域はモスカテル(マスカット)の栽培では有名だったが、それもMoscatel do Douroという、モスカテルから造る酒精強化ワインのため。スティルワインの可能性なんて誰も考えていなかったのだ


適地適品種と言われるが、産地の気候的/土壌的条件と品種特性が合致した時に優れたぶどうが出来る。とはいえそれだけではダイヤの原石に過ぎない。そこにワインメーカーを始めとした人の手がどう加わるのかによって、出来上がるワインが輝かしく光るのかどうかを決定的に左右する。その点において、ティアゴは慧眼があったのだろう。誰も見向きもしなかった産地と品種を使い、今まで誰も意識していなかった可能性を見出した。結果としてワインメーカー・オブ・ザ・イヤーとして選ばれたことはそのことを如実に表していると思う。



生産者:Folias de Baco / フォリアス・デ・バコ

ワイン名:UIVO Pinot Noir / ウィヴォ ピノ・ノワール

葡萄品種:Pinot Noir / ピノ・ノワール

ワインタイプ:赤ワイン

生産国:ポルトガル

生産地:Douro / ドウロ

ヴィンテージ:2015

インポーター:BMO

参考小売価格:¥4,600


さて、そんな彼のピノ・ノワールである。

いうまでもなく、ドウロに昔からあった品種ではない。オレゴンで5年間ワインの勉強をした彼が植えた品種である。暑いドウロでピノ?と思われるかもしれないが、昨今のドウロではピノ・ノワールに限らずリースリングなどでもこういったピンポイントで冷涼な場所で成功例があるので(ラインガウを思い出すような素晴らしい品質のものも!)、栽培自体は今ではそれほど違和感はない。


それがクローンによるものなのか醸造によるものなのか、どこかオレゴンを思わせるやや黒系のフルーツと全房由来の僅かにスパイシーな香り。やや強めのタンニンと深い味わいはこの産地のピノ・ノワールに対する可能性がどれほどあるのかを、端的に知らしめてくれる。


ぱっ、と頭に浮かんだのは南部チリのピノ・ノワール。こちらも冷涼かつピノ・ノワールの適地として昨今注目度が上がっている地域だが、ティアゴに飲んでもらったら何と言うだろうか。個人的に惜しむべくはドウロのピノの生産者は未だ片手で足りるほどしかおらず、ひとり試行錯誤の中にあるのではということだ。オレゴンではなくブルゴーニュやニュージーランド、またはシュペートブルグンダー(*1)を範にしたらどのようなピノ・ノワールになるのだろうか。歴史ある産地であるドウロだが、ポートの生産が長く、スティルワインの可能性が探求され始めたのはほんのこの20~30年だ。この産地の埋もれた可能性を探すワイン造りは、まだまだ始まったばかりである。


(*1)シュペートブルグンダー:ドイツにおけるピノ・ノワールの別名



<プロフィール>

別府 岳則 / Takenori Beppu


AWMB認定オーストリアワイン大使(ゴールド)

ポートワイン・コンフラリア(ポートワイン騎士団)カヴァレイロ(騎士)

アカデミー・デュ・ヴァン講師

都内ポルトガル料理レストラン、インポーターを経て現職。ポルトガルとポルトガルワインに15年以上前から魅せられ、渡航歴は10回以上。ポルトガル各産地を回り、TOP10 Portuguese Wine (Essencia do VInho)やBest of Vinho Verdeなどの現地コンクールでも海外審査員として度々招聘されている。興味対象も業務対象もポルトガルに留まらず、世界中のワイン生産者とワインを飲みながら話すのが一番の楽しみ。




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