サペラヴィに見出した「綺麗」な魅力

こんにちは。バルニバービの岩崎です。 普段はもっぱらスパークリングワインか白ワインばかり飲むのですが、寒くなるとわかりやすく赤ワインが飲みたくなります。 ということで(?)、寒い冬に美味しい赤ワインをご紹介します。 今回ご紹介するのは、世界最古のワイン産地ジョージアの赤ワインです。クヴェヴリという素焼きの壺で醸したオレンジワインが有名ですが、個人的に可能性を感じているのが、“サペラヴィ”という土着品種で造られる赤ワインです。 このサペラヴィという黒ブドウは『染料』という意味があり、非常に色素が濃いです。“タントゥリエ品種”といってブドウの果肉まで赤いのが特徴です。(通常黒ブドウは果皮は赤紫色でも果肉は白ブドウと同じく黄緑色をしています) 2018年に現地を訪れる機会をいただき、今回ご紹介するパパリ・ヴァレーにお伺いした際に、造り手であるヌクリ・クルタジ氏が『ちょっと見てごらん』と、その色の濃さをわかりやすく伝えるためにパフォーマンスをしてくれました。


テイスティングをしているサペラヴィの入ったグラス(ワインはグラスの4分の1程度入っていました)に、500mlのペットボトルから水をグラスに注ぎ始め、そしてなんと全て注ぎ切ってしまったのです(!!) その場にいた我々日本人一同は一瞬『え、なに…!?』というリアクションだったのですが、 ヌクリ氏がグラスの向こうから光をかざしているのにその光がこちらに届いていないことに気づきました。 そうなんです、500mlの水で薄めても光を通さないほどの色の濃さだということです。 サペラヴィはこのように非常に濃い色合いをしており、酸とタンニンが豊富で果実の厚みもしっかりとあります。他のワイナリーでもサペラヴィのワインをテイスティングさせていただきましたが、造り方によって非常にバリエーション豊かだという印象を受けました。 Semi Sweetのタイプも多くありますし、クヴェヴリを使わずにステンレスタンクで発酵したものや樽発酵・樽熟成のものではまた味わいが大きく異なります。 ただ正直なところ、全体にどこか野性的なニュアンスが感じられ、何となくクセがある気がしてそこまで興味を惹かれてはいませんでした。 ところが、こちらのパパリ・ヴァレーサペラヴィを飲んでそれまでのイメージが大きく変わりました。まず、アルコールが非常に高いことに驚きます。 その時にテイスティングしたものは何と17%以上(!) アマローネのようにブドウを干しているわけでもなく、過熟したブドウを使っているわけでもないようですが、とても糖度が高くなり、またその豊かな糖をアルコールに変えることができるような酵母が働くとのことでした。ただ、アルコールボリュームがやたらと目立つわけではなく、酸がきちんとバランスを取っています。ふくよかでたっぷりとした果実味がありますが、パワーで押してくる感じではなく、どこか優しくとても綺麗な質感です。 そう、“綺麗”なんです。 その理由は、ヌクリ氏の徹底した衛生管理、そしてデータ分析に基づくワイン造りにありました。 彼はブドウを有機栽培で育て、発酵は自然由来の酵母を使用し、無濾過で瓶詰めをする自然派の造り手です。醸造施設には古代から伝わるクヴェヴリが並び、更に現代技術を投入した最新の設備が整っています。 クヴェヴリにブドウを入れて、たまにテイスティングしてあとは自然に任せる、というのではなく、元物理学者であるヌクリ氏は数字データをしっかりと分析し、感覚だけに頼らないワイン造りを行っています。 彼らのマラニ(*1)は3層構造になっており、地上で施設内の砂に埋めて温度管理をした壺と、地下に埋め自然の温度環境に任せた壺の2種類を使用しています。グラヴィティフロー(*2)でワインを移動させながらじっくりと熟成させることで、ワインに負担をかけず、また、密閉できるステンレス製の蓋を用いて微生物による汚染を防いでいます。 ワイン醸造の過程で何かを加えることはほとんどしないけれども、ブドウの良さを十分に発揮させるためにきちんと管理をしているのです。 この“綺麗”なワインはこうして生まれるんだ、ととても納得しました。

そして、サペラヴィのポテンシャルを感じる上で大きな経験となったのが、2007年ヴィンテージのサペラヴィをテイスティングさせていただいたことです。 やや発展的な色調が見えましたが、若々しい果実味は残しつつアルコール感がやや落ち着き、タンニンがきれいに溶け込んでいてとてもなめらかな質感になっていました。 綺麗なワインが、より美しく昇華していたのです。 若いうちはパワフルすぎてちょっと荒々しさがあるサペラヴィは、熟成させることで程よく落ち着き、更に奥行きが出てくるのでは、と感じました。 残念ながら現地でも他に熟成したワインを飲むことがなかったのですが、こちらのパパリ・ヴァレーのワインは小売り価格3300円とお手頃なので、まとめて購入して寝かせておくのも良さそうです。


生産者:Papari Valley /パパリ・ヴァレー

ワイン名:Three Qvevri Terraces Saperavi

/ スリー クヴェヴリ テラスズ サペラヴィ

葡萄品種:Saperavi / サペラヴィ

ワインタイプ:赤ワイン

生産国:ジョージア

生産地:カヘティ

ヴィンテージ:2018

インポーター:Mottox

参考小売価格:¥3,300 現地で2017年のワインを分けていただいたので、そちらは今もまだセラーでお休みさせています。より深みを増した新たな魅力を備えたサペラヴィをお客様と分かち合うのが楽しみです。


【パパリ・ヴァレーについて】

ジョージアの東、カヘティ地方のアハシェニ・ヴァレーに位置し、2004年に設立されたワイナリーです。ワイナリー名のパパリは「馬のたてがみ」という意味があり、ワインラベルのモチーフにも使われています。

9.3haのブドウ畑が広がる緩やかな台地は、コーカサス山脈が見渡せる程の広大さで、世界で最も美しいワイン産地の一つに数えられています。


(*1)マラニ:ジョージア語で「クヴェヴリの埋まる場所」つまりワイナリー、もしくはセラーを意味する言葉。


(*2)グラヴィティフロー:醸造プロセスの中で液体を移動させる際、酸化や負荷によるショックのリスクが伴うポンプでの汲み上げではなく、重力を利用して自然落下によって移動させる手法。ワインはより繊細なバランス保つことができ、最終的な品質に大きく関与する。


<ソムリエプロフィール>

岩崎 麗 / Rei Iwasaki

株式会社バルニバービ 飲料統括


1983年茨城県生まれ。一橋大学経済学部卒業後、様々なシーンをプロデュースできるレストランでのサービスに魅せられ飲食の世界へ。

2012年株式会社バルニバービ入社。現在90を超える店舗のワインリストを監修する。

一店舗一業態、というコンセプトのバルニバービに合わせ、ワインリストも店舗により異なる。誰でもネットで世界中のワインを手に入れられる時代だからこそ、ソムリエというワインのプロフェッショナルの視点でのセレクト、ブランド力や人気の品種にとらわれない提案をモットーとしている。

ワインスクール レコール・デュ・ヴァンの講師も務め、ワインの裾野を広げるべく精力的に活動している。


<株式会社バルニバービ>

1991年創立の飲食グループ。


■バルニバービという名前の由来■

幼い頃、誰もが一度は読んだことのあるスウィフトの「ガリバー旅行記」。その第3篇、第4章に出てくる島の名前、それがバルニバービです。そこには研究所機関が国王の命でいたるところに設けられ、様々な馬鹿げた研究が行われていました。キュウリから逆光合成により太陽エネルギーを抽出する方法、永遠エネルギー、不老不死、蜘蛛に織らせる織物、等々…。これらの研究は絶対机上の論でなければならない、実現は堕落であるといったものでした。ここでスウィフトは当時の頭でっかちの英国の風流を痛烈に批判しているのです。21世紀を目前とした今(バルニバービ設立当時)、スウィフトの提示した「バルニバービの教訓」を踏まえ、机上の空論ではなく、実体(アナログ)を伴った真の飲食ビジネスを推進するべく、あえてこの逆説的ネーミングを引用しました。