“熟成のポテンシャル”と言うと、様々な角度からの見解があります。
どんな年のものか?
醸造によるアプローチは?
生育環境の特徴は?
これらはつまり、“いつ・誰が・どこで”というキーワードに集約できますし、そのポテンシャルを図る上でそれはとても重要です。
今回ご紹介するイランシーというアペラシオンは、多くのソムリエにとってそれ程魅力を秘めたアペラシオンではないかもしれません。
シャブリの南西部、グラン・オーセロワ地区にあり、石灰岩質の土壌からは限りなくピュアで、やや内向的ながらチャーミングな表情のピノ・ノワールが生み出されます。しかし、1999年にヴィラージュとして認定されるまでレジョナルの1つであり、ブルゴーニュという産地からこの土地だけを切り取ってみた時、果たしてこの偉大な産地を愛して止まないワインラヴァー達の目にどう映るか、というのは明白です。
話を元に戻します。
“いつ・誰が・どこで”
2003年から。
ドーヴィサ(*1)が。
イランシーで。
生産者 : Vincent Dauvissat / ヴァンサン ドーヴィサ ワイン名 : Irancy / イランシー
葡萄品種 : Pinot Noir / ピノ ノワール
ワインタイプ : 赤ワイン 生産国 : France / フランス 生産地 : Bourgogne / ブルゴーニュ
地区 : Chablis(Grand Auxerrois) / シャブリ(グラン・オーセロワ) ヴィンテージ : 2018 インポーター : Luc Corporation
参考小売価格:7,000円
ご紹介しているのは2018年ですが、私の手元にあった2006年との比較を楽しみながら、彼のワインの魅力について。
お食事との組み合わせについて。
あれこれ考えてみました。
2018年はコート・ドール(有名な村が集まるブルゴーニュの中心地)同様、イランシー擁するシャブリ地区も恵まれた明るいヴィンテージだった様です。
私の経験上、彼の赤はどの年もこの土地の赤としては色調が濃いと感じますが、実際口にしてみても、集中力のある果実の充実感が感じられます。
余韻までも、一定の緊張感を保つ所は未だに、幾重にも織り重なった糸の如く、簡単にはほどけてくれない予感がします。
2006年のヴィンテージは、コート・ドールの難解さとは異なり、この土地の評価は比較的良好です。
12年の経過というと、いわゆる偉大なワイン達にとってはまだまだ序の口でありますが、ピノ・ノワールは熟成のどの段階で楽しみたいか、という飲み手の趣向がとても前向きに捉えられる点も、良い葡萄だと思っています。
このワインに関しては、抜栓直後より濃密な黒い果実のキャラクターがしっかり表現され、それも限りなくリキュールの様に滑らかな溶け込み方をしていた事に、とても驚きました。
決して後ろ向きな意味でなく、味わいがシンプルな構図である事にも笑みが零れます。
何故、この様な熟成の経過であったのか。
それを解いてゆくのは、答えのない考察かもしれませんが、この時ほどワインの本質に触れていると感じる事はありません。
彼のイランシーのみで、コース料理にデギュスタシオンを組んでみたいと思えるほどの味わいの幅を感じましたが、季節の食材との組み合わせ、という点では南瓜(カボチャ)を合わせてみたいと思います。
若々しさとシリアスさが伺える2018年は、加熱していない極薄くスライスにした南瓜、アンディーブ、胡桃に鴨や鹿の生ハムを使ったサラダ。
入荷して2日目までの、新鮮な白トリュフをかけても良いかと。
2006年であれば、熱を加えて甘味を引き出した方が良いでしょう。
飴色玉ねぎ、カーボロネロ、菊芋、厚切りのベーコンとキッシュにするととっても美味しい組み合わせになりそうです。
誰が言ったか
“たかがイランシー。されどイランシー。”
今、私が言ったものです。すいません。
“熟成のポテンシャル”とは、自身の経験値とセンス、そして一口含んだその瞬間の閃きから感じる、あるいは予測するもので、対象がグランヴァンである必要は無いと思います。どんなワインにも、その可能性はあるのかもしれません。
それは4年かもしれませんし、15年かもしれませんし、50年かもしれませんが、金額と関係なく、自分の手元で熟成させる。もしくは時の経過を待つ。
そんな喜びを、より多くのワインラヴァーと共有したいものです。
(*1)ドーヴィサ:シャブリ地区最高の生産者の一人。葡萄畑ではビオディナミ農法を採用し、熟成にはシャブリ伝統のフュイエット(132ℓの小樽)を用いる、シャブリきっての伝統派として知られる。
<ソムリエプロフィール>
Sourire de cheucho Inc.
Sommelier
若山 程映(ワカヤマ ノリアキ)
1986年 神奈川県出身。
目黒ホテルクラスカにてサービスマンとしてキャリアをスタート。
ブルゴーニュ地方で修行経験があり、当時からシェフであった湯澤秀充氏からの影響が大きく、ソムリエを志す。
その後、赤坂のセレブールでソムリエとしてのキャリアをスタート。
銀座のレストランエール、中目黒のCRAFTALEにてシェフソムリエ、支配人として勤務。
株式会社スーリールドシュシュの本部ソムリエとして、アサヒナガストロノーム、レグリス、ランベリーに勤務する傍ら、自由が丘ワインスクールの講師や他企業のワイン監修などコンサルタント業務、プロ向けのワインセミナーなども行っている。
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