ワインテイスティングの仕方には様々な方法があることは、ご存知の読者の方々もいらっしゃると思います。
最もよく見聞きする方法は、ソムリエ試験や各コンクールなどでも採用されているブラインドテイスティングといって、グラスに注がれたワインを一切の事前情報なしに、外観・香り・味わいなどから、生産地や葡萄品種、ヴィンテージなどを考察し、「このワインの葡萄品種は何か、そしてそれはどのような気象条件で、どのように醸造されたか」を、目の前の液体と真正面から向き合いながら分析していく方法です。
次がオープンテイスティングといって、生産地や葡萄品種、場合によっては生産者や生産年までオープン(開示)にされた上で行うテイスティング方法です。
我々ソムリエが仕入れを目的に参加する試飲会は、通常この方法で行われます。オープンテイスティングの場合、ブラインドの時とは違ってある程度情報が公開された状態でのテイスティングなので、同一品種の生産者ごとの味わいの違いや、同一生産者の品種違い、ヴィンテージごとの味わいを考察しながら前述のブラインドテイスティングよりも、現場でワインをサーヴする時の情報収集または確認という意味合いが強くなります。又、生産者が来日しているタイミングではより踏み込んだ情報を得られる場合もあります。
上記二つが、我々ソムリエが日常的に行うテイスティングであり、プロとしての視点からワインを”試飲”する方法です。
そして今回私が行ったテイスティングは、上記二つとは少し趣旨の異なったテイスティングであります。
「ある偉大な生産者から畑を譲り受けた4人の生産者と、それぞれが作る同一ヴィンテージ同一品種ワインの違い」
今回クローズアップする生産者はフランスのロワール地方で、オーガニックな農法やできる限り自然に任せたワイン醸造を若手に教える重要な役割を担っていた偉大な生産者、クロ ロッシュ ブランシュ(以下「CRB」という)の畑を引き継いだ4人のうち、現在も同じ畑で葡萄栽培を行う3人。ノエラ モランタン、ローラン サイヤール、ジュリアン ピノーによる、ソーヴィニヨン・ブランの2018年です。
ノエラ・モランタン
2001年、それまでマーケティング関係の会社に勤めていた彼女は、デスクワークではなく以前から興味があった栽培・醸造を学ぶためワイン学校へ通い始め、ディプロマを取得。同時に現場で学ぶためドメーヌ・モスで修行(2003まで)。その後フィリップ・パカレやマルク・ペノーの元で収穫、醸造を手伝い、2004年にドメーヌ・ボワルカの当主である新井順子さんと出会いすぐに意気投合、栽培醸造責任者として働き始める。(2008年までの4年間)
ボワルカの畑は以前 CRB が所有していた畑ということもあり、ノエラは CRB の所有者カトリーヌとディディエの夫妻とすぐに知り合うことができた。
2008年 CRB が畑の規模を縮小するのに伴い、代わりにノエラが管理することになり、自らのワイン醸造をスタートするため、ドメーヌ・ノエラ・モランタンを立ち上げ今に至る。
生産者:Noëlla Morantin / ノエラ・モランタン
ワイン名:Chez Charles / シェ・シャルル
インポーター:ヴァンクール
参考小売価格:¥3850
【Chez Charles 2018 / シェ・シャルル 2018】
香りには炒ったアーモンドのような香ばしさや、暖かいヴィンテージや温暖な産地のリースリングに現れるペトロールの様なオイリーさがあり、味わいも同様酸味は穏やかで乳酸系、古樽熟成を思わせる心地よい参加のニュアンスがあります。
合わせる料理もこれまたドイツやアルザス系の、シュークルートや豚肩ロースのソテーにリンゴを添えたものなどがオススメですよ。
ローラン・サイヤール
フランスの専門学校でホテル・レストランマネージメントを学んだ後、1995年、24歳の時にブルックリンやマンハッタンのレストランでマネージャーとして働き、当時 NY で最初のナチュラルワインに特化したレストランを立ち上げる(2004年)。2008年にレストラン経営を妻へ譲り、ワインメーカーとなるためフランスへ帰りノエラの元でワイン醸造を学ぶ。ノエラと CRB 両方の手伝いをしながら2012年には自らのワイン醸造をスタートし、2013年念願の自身のドメーヌを立ち上げる。
ノエラ同様、教科書に捉われずフィーリングで醸造を行うローラン曰く、
「学校には通っていないけど、レストランで働いていた人生のほとんどの時間を、食べて飲んで未知なるフレーヴァーを探してきた。だから自分の感覚で自分が飲みたいと思えるワインを作っている。」
ちなみに彼が初めて飲んで感銘を受けたナチュラルワインは、Les Cailloux du
Paradis / Racines Rouge 1995。
生産者:Laurent Saillard / ローラン・サイヤール
ワイン名:Blank / ブランク
インポーター:ヴァンクール
参考小売価格:¥4000
【Blank 2018 / ブランク 2018】
香りはレモン、フレッシュグレープフルーツの様な酸味が主体の果実と、熟した柑橘系やパイナップルの甘みが渾然一体となり、かすかにコリアンダー様の爽やかなハーブを感じます。
味わいはノエラ同様、酸味は穏やかでまろやか、ノエラと比べると幾分か凝縮感とボリューム感を感じる味わいです。
合わせる料理としては、開栓間もない段階だとシンプルなグリーンサラダや新鮮な白味魚を使ったセビーチェなどの前菜系、魚や豚肉の香草パン粉焼きも良し。
個人的には、インドやネパールでよく食べられるコリアンダーを使ったマトンカレーがオススメ。
ジュリアン・ピノー
大学で経済学を学んだ後アメリカへ留学。フランス帰国後いくつかのワイナリーで働いた後、2014年ノエラの所で働いている時にローランと意気投合し、2015年にローランと共に CRB の畑を引き継ぐ。(12ha を半分ずつ)
将来はワインバーを持つことが夢だったが、ワイナリーでの仕事をしている内に自分の関心が、植物や土壌、花やその地に居住する虫や微生物たちへと移っていった。
2015年がファーストヴィンテージ。
生産者:Julien Pineau / ジュリアン・ピノー
ワイン名:Roche Blanche / ロッシュ・ブランシュ
インポーター:ディオニー
参考小売価格:¥3400
【Roche Blanche 2018 / ロッシュ・ブランシュ 2018】
香りは完熟グレープフルーツや完熟オレンジ、マンダリンといった柑橘系の中でも熱帯地域でよく食べられる熟度の高いものを連想させるオリエンタルな香り。
前述二つのワインは二日目三日目とさほど大きな変化は出なかったが、こちらのワインは三日目に、果実の強さと酸化が良いバランスで落ち着き、べっこう飴の様な複雑味が出てきました。
味わいは上述2アイテム同様乳酸系で、かすかにクミン様のスパイス感を強く感じます。
料理は、ワイン前半なら鴨を使った前菜やサラダから、牛肉と青梗菜のオイスターソース炒め、食後にシェーブルチーズなんてあれば最高のお家ディナーが楽しめると思います。
総括
今回は同じ生産者から畑を引き継いだ生産者という、それぞれが互いに影響し合っている生産者のワインを同時にテイスティングすることで、CRB 含めそれぞれの考え方やワインの醸造の違いを、立体感をもって”楽しむ”ことができました。
皆様にも、決して評価するための飲み物じゃなく、心や生活を豊かにしてくれる飲み物としてこれからもワインを飲んで頂きたいなと思っております。
<ソムリエプロフィール>
森本 浩基
1989年 大阪府生まれ
大阪のイタリア料理店でソムリエのキャリアをスタートし、その後はフランス料理店、スペイン料理店などで研磨を積み、2017年カリフォルニア ナパヴァレー Matthiasson で醸造を経験後、当時 Asia 50 Best Restaurant 4年連続 No.1 のインド料理店 Gaggan でソムリエを務める。
2020年東京兜町にオープンする Caveman ヘッドソムリエに就任。
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