赤酢の鮨とブルゴーニュ

今回は、ブルゴーニュ赤の一級畑を3種類、マイアミ(米国南東部フロリダ州)のお鮨屋でテイスティングするという企画にしてみた。


マイアミもコロナ禍の影響で、ただの避寒地ではなくなり、NYなどの大都市から人が流れてきている傾向もあるので、本格的なワインラヴァーの需要が今後高くなると予想している。大都市流に、高級鮨とワインを楽しむブルジョワ層も増えるに違いない。今のうちに良いワインを集める準備をしていないといけなくなったのだ。

(ただ、現状マイアミはまだどうしてもパーティー需要が強く、そういった場ではワインよりもカクテルなどの度数の高いアルコール類の人気が高い。)


ところで、気温と湿度は、私たちの味覚に大きく影響してくると感じている。LAやNYは夏は暑く、冬は寒いが、湿度は一定して低い。一方で、マイアミは、年中温暖で湿度が高い。不思議なことに、マイアミのような場所だと、味わいの感じ方が違うのだ。温暖で湿度が高いと発汗量も多くなる。つまり、人は塩分不足に陥りがちになり、より濃い味わいを求めるようになるのではないだろうか。


アメリカ屈指の避寒地として人気のマイアミ


ずっと住んでいるとその差を感じにくくなるが、訪れてすぐに注意深く観察するとはっきり分かる面白い現象で、かく言う自分もこの職に就いて初めて実感した。


これを肌感覚で感じているマイアミの鮨職人は、じめっとしたマイアミの気候の中でも味わいをハッキリさせるために、舎利を赤酢で仕上げる。


それなら!と、赤酢の強い酸味に合わせてピノ・ノワールを選択した。



一級畑を選択したのは、純粋に今飲んで、販売して楽しんでいただけるものであるから。


高級ワインを仕入れ始めたとき、まず最初に注目したのが、今回ご紹介させていただくオリヴィエ・バーンスタイン


今やアメリカだけでなく日本でも、いや世界中で熱烈なラブコールのかかる彼のワインは、ひと昔前にブルゴーニュのライジング・スターとして取り上げられて以降、今なお止まる事を知らずに高騰し続けているワインで、その実力は折り紙付き。


確かに高価なワインだが、もちろん私自身は、その価値は十分あると思っている。もし読者の皆様が、幸運にもバーンスタインのワインに出会うことができ、この中から一本だけ選んだり、さらなる幸運でまとめて開ける機会に恵まれるということがあれば、是非参考にしていただきたい。


今回は16年ヴィンテージをテイスティングの20分前に同時抜栓した。


1級畑シャンポー

色合いはクリアな中に、周りの方からオレンジ色が少し入り始めてとても綺麗な色彩になっている。

香りは赤いイメージのフルーツや干した肉、錆のようなミネラル感、もうすでに熟成のニュアンスが入って来ている。

味わいは肉付きが少なく、これがピノ・ノワールとわかっていても、どことなく北イタリアのネッビオーロのそれに似たような渇いたタンニンと酸味が印象的で、ついつい意識してしまう。(これは今回いただいたワインのコンディションなのかもしれない。)

シャンポーは、一級畑ではジュヴレ=シャンベルタン村の、最も北側のエリアにあり、標高がやや低い。偉大さや深みというより、カジュアルがさ魅力。


1級畑カズティエ

カズティエのある東向きの急斜面は、特急畑が連なる斜面の反対側に位置し、急勾差も60メートルほどあるため、区画によって多彩な仕上がりになる。

決して色合いは強くはならないが、好奇心を掻き立てる味わいをもっている。

色合いは今回テイスティングした3種類の中では最も中庸的で、まさにブルゴーニュらしい色。

香りは森の下草や黒のベリー系フルーツ。もう少し複雑味が欲しいと思うほど、まだ熟成を感じさせる香りは少なかった。これからがもっと楽しみなワインだ。

味わいは透き通った酸が印象的で、心地よいタンニンは、量こそ多くないが、口の中にへばりつく感じもある。どちからと言うとシャンポーの方がタンニンを強く感じたが、ほぼ同じ量のタンニンだろう。

余韻もほどよく、この3種では1番飲みやすさを感じた。


1級畑ラブロット

今のところ知る限りでは、有名生産者の中でラブロットを単一でボトリングしているのは、バーンスタインとドメーヌ・ルロワのみ。

改めて村の個性の違いを感じさせる。ジュヴレとは全く違った方向性で、色合いは淡く、完全なクリアではなく、すこしだけモヤのかかったような色調。

全房発酵(*1)由来のハーブの香りに、少しだけ梅干しを感じさせる香りや、よく熟したスモモ、あと藁を感じる香りは複雑だがよくまとまっている。

味わいは僅かな甘みを感じさせる果実味に、長く伸びる酸が輪郭を印象付け、全体的に華奢なイメージに仕上がってる。

タンニンも穏やかで、この3種の中では1番余韻が長い印象を持った。


©︎Jeroboam

生産者: Olivier Barnstein/ オリヴィエバーンスタイン

ワイン名:Gevrey-Chambertin 1er Cru Champeaux & Cazetiers, Chambolle-Musigny 1er Cru Les Lavrottes

葡萄品種:ピノ・ノワール

ワインタイプ:赤ワイン

生産国:フランス

生産地:ブルゴーニュ

ヴィンテージ:2016年

インポーター:Jeroboam


全てのワインに共通して、非常に綺麗な仕上がりで、各畑の個性がしっかりと出ている。当たり前のことだが、この当たり前が上手く出来ている生産はそう多くないと思っている。


そして、それぞれに合わせやすいネタやおつまみがあったのでここで少しご紹介させていただく。マイアミならではの強めの味だからこそ成立する、ペアリングの妙だと思う。


シャンポーには、オイスターにウイスキー風味の三杯酢合わせた料理の相性が良かった。シャンポーの枯れたニュアンスが、ウイスキーの熟成風味と合わさって、牡蠣の味わいを心地よくまとめてくれていた。


ガズティエには、戻り鰹の旬の味わいに甘めの玉葱醤油、濃いめのチャツネと醤油の香りを合わせた一皿が良かった。


ラヴロットネタ全般に合わせやすい傾向があった。


総じて赤酢の舎利とマグロは相性が良かったが、他のタイプの和食にも幅広く合わせてみたいという好奇心を掻き立てられる、実りあるテイスティングとなった。


以前、お会いした時にバーンスタインが和食が好きだと言っていたのを思い出した。


きっと彼の味覚は、日本人に近いのではないだろうか。


(*1)全房発酵:葡萄を発酵させる過程で、果実だけではなく果梗も含めて発酵させる手法のこと。果梗から抽出される酸によって、酸度が増し、水分によってアルコール濃度が下がるが、独特の「青い風味」もワインに加える。どれだけの割合で全房を使用したのかという意味で、「80%全房発酵」といった表記をすることが一般的。反対に、果実のみを使用する手法は「完全除梗」と呼ばれる。


<ソムリエプロフィール>

松本 昭生 / Akio Matsumoto

1988年熊本出身

2015年より東京 西麻布のL’effervesence にてソムリエとして自然派ワイン、日本酒を中心にワインの仕事をスタートさせる。

2019年L’effervesenceを海外移住のため辞職。11月よりニューヨークでビバレッジコンサルタントとして職を開始する。{Torien NY}


受賞歴

World of Fine Wine List 2017

Most Original Wine List in the World 2018

Best Champagne & Sparkling Wine List in the world 2018