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  • ナチュラル・ワインという偶像 <ナチュラル・ワイン特集:序章>

    ナチュラル・ワインは偶像と成り果てたのだろうか。原理主義の信奉者が押し付けた「らしさ」は、いつしか厳格なレシピと化し、人と自然の共生関係を再構築するというナチュラル・ワインの本懐は、重要視されなくなっていった。偶像としてのナチュラル・ワインと、その本来の在り方の間に、決定的な解離が生じている現状を放置し続ければ、その先には不可避な死が待ち受けているのかも知れない。私には、今のナチュラル・ワインが、まるでカート・コバーンの様に思えてならないのだ。 カート・コバーンはロックそのものだった。しかし、その先進性に保守派は行き場の無い戸惑いを抱き、グランジという新しいカゴをわざわざ創り出して、カート・コバーンを偶像化した。歴史的名盤「ネヴァーマインド」の発表から30年が経過したが、今でもカート・コバーンはグランジという小さなカゴの中に閉じ込められている。より広義で見たとしても、オルタナティブ(本流では無い)・ロックの一派で止まっている。 保守派は往々にして、自らが守ろうとしている価値観自体が、様々な進化の結果として生まれたという事実から目を背け、新たな進化を徹底的に否定するという自己矛盾に陥っている 。その厄介極まりない無自覚な拒絶が、ありのままの自分でいることを望んだカート・コバーンと、偶像として求められた彼の在り方の間に破滅的解離を生んだ。享年27歳、偶像であり続けることを拒んだカート・コバーンは自ら命を絶った。 名曲「Smells like teen spirit」を聴きながら、ナチュラル・ワインの行末に想いを馳せた。ナチュラルワインにも、同じ運命が待ち受けているのだろうか。オーガニック・ワインというオルタナティブ・ワインの一派として、終わってしまうのだろうか。極端な異臭と欠陥を「らしさ」として求められたまま、冷徹な懐疑者と熱狂的な信奉者の狭間を漂い続けるのだろうか。約8000年もの間、無農薬、無添加物がデフォルトであった過去を無かったことにするクラシック派の矛盾と、自らをアナーキズムやアンチカルチャーと紐付け、まるで本流ではないかのような自己演出を続けるナチュラル派の矛盾が解消しない限り、この二極化に歯止めはかからないだろう。 筆者には、多くの人々が見て見ぬふりをしているように思えてならない。クラシックとは常にアップデートされていくものであるということを。香りや味わいの清濁は、ナチュラル・ワインの本質とは一切の関連性が無いということを。そして何より、 クラシックもナチュラルもすべからず、ワインそのものである ということを。 定義 計4回に渡る本特集をより正確に理解していただくために、以下の言葉に関して、SommeTimesとしての定義を明確化しておく。定義を明確化する目的は、偶像化された狭義以外を知り、その可能性を広げていくためであり、新たな偶像を生み出すことでは無い。そして、以下に述べた定義は、 全てが重複可能 なものでもある。つまり、ワイルド・ナチュラルでありながら、クリーン・ナチュラルでもあるワインや、ナチュラル・ワインでありながら、クラシック・ワインでもあるワインも存在するということだ。 オーガニック・ワイン ビオロジック、ビオディナミ、パーマカルチャー、自然農法等に準じた栽培を行った葡萄で造られたワイン。認証の有無と醸造方法は問わない。 ビオロジック・ワイン ビオロジックの認証を取得し、栽培、醸造共に、認証団体の規定に準じて行われたワイン。 ビオディナミ・ワイン ビオディナミの認証を取得し、栽培、醸造共に、認証団体の規定に準じて行われたワイン。 サステイナブル・ワイン オーガニックワインの諸条件に加え、減農薬農法(リュット・レゾネ)を含めた、持続可能型農業を採用したワイン。認証の有無、醸造方法は問わないが、カーボン・ニュートラル等でワイン造りに関連したあらゆる環境負荷への対策をとっているワイン。 ワイルド・ナチュラル 栽培はオーガニック・ワインに準ずる。醸造に関しては、以下の点が遵守されている。 1. 何も足さない(必要最小限の亜硫酸添加を例外とする)。 2. 何も引かない(混入物を除去するための粗い濾過を例外とする)。 3. 何も止めない(自然な発酵工程を阻害するあらゆる人為的介入を行わない)。 クリーン・ナチュラル 栽培はオーガニック・ワインに準ずる。醸造に関しては、以下の点が遵守されている。 1. 何も足さない(必要最小限の亜硫酸添加、シャンパーニュ製法のように製法上、亜硫酸以外の添加が必須である場合を例外とする)。 2. 必要最小限しか引かない。 3. 必要な場合にのみ止める。 4. 上記の項目が全て、ワインに過度の欠陥的特徴が生じ、テロワールの個性を失する結果を防ぐために行われる。 ナチュラル・ワイン ワイルド・ナチュラル、クリーン・ナチュラルの双方を含む。 クラシック・ワイン 特定の産地において、長期間に渡って形成され、一般的にその産地の総体的個性として認知されたスタイルが、明確に現れているワイン。広く認知されることが重要であるため、そのスタイルは必ずしも恒常的なものでは無い。 認証は得ていないが、パーマカルチャーを基軸とした葡萄畑 ナチュラル・ワインとテロワール 極端な原理主義的ナチュラル・ワインが、テロワールの精緻な表現に至るケースは極めて稀である 。特にワイルド・ナチュラルの多くは、可能な限り自然な栽培によって純化されていたはずのテロワールを、 過度に生じた欠陥的特徴が多い尽くしてしまっている 。ビオロジックやビオディナミで健康に育った葡萄は、ワインとなるために必要と考えられるほぼ全ての耐性を自然に備えているが、一つだけ致命的に耐性に欠けている部分がある。それは、稚拙で怠惰な醸造に対する耐性だ。「何もしない」という原理主義に造り手の稚拙さと怠惰さが迫るほど、葡萄の数少ない脆弱性は、限りなく自然のままであろうと願う造り手の想いとは裏腹に、深刻な欠陥を生じさせる。 テロワールとは、放置すれば勝手に立ち現れてくれるような、生易しいものでは無い のだ。 そもそも、テロワールという要素に人は介在すべきではないという論理は、根本的に破綻している。自然は放置すれば、自然のままであり、何ものにも転化することはできない。「ただそこにあるだけ」、それが自然の本質だからだ。人が自然の中に葡萄畑という境界線を引き、葡萄品種を選んで葡萄樹を植え、様々な畑仕事を行い、収穫し、葡萄を破砕してワインにする。ワイン造りとは、そのどの段階においても、人無くしては成り立たない。 行き過ぎた原理主義は、ワイン造りそのものを否定している と言っても過言では無い。 筆者はナチュラル・ワインの一部、もしくは大部分がテロワールを失している要因は、極端な放置型醸造による欠陥的特徴の過剰な現出だけでは無いとも考えている。もう一つの重大な要因は、 ワイン文化の軽視 にある。ここでいうワイン文化とは、何千年にも渡って磨き上げられてきた、テロワールを形作り、ワインとして表現するという文化のことである。 ワインは嗜好品だ。つまり必需品では決してない 。少なからず自然を変形させ、農薬を過度に使用すれば生態系を破壊し、電気を使用して醸造し、ガラス瓶に詰め、温室効果ガスを排出しながら輸送する。地球規模の気候変動に歯止めがかからない中、ワイン造りという行為が自らを正当化していくためには、その場所に葡萄が植えられ、ワインとなることの価値を改めて見直していく必要がある。その価値とは、その場所に葡萄があったからこそ生まれた、絶対的な価値である。つまり、 テロワール のことだ。 ナチュラル・ワインが原理主義に縛られている限り、テロワールの精緻な表現を放棄し続ける限り、その存在意義は緩やかに、だが確実に失われていくだろう。 時代はすでに、あらゆる局面におけるサステイナブルな在り方を最重要視している のだから。 だからこそ、人と自然が共生関係を築きつつ、ワイン文化の根幹たるテロワール表現を重視する クリーン・ナチュラルは、ワインそのものの未来を担っている 。クリーン・ナチュラルはアンチカルチャー的に生じた新たなカテゴリーということでは無い。 ワインという存在が、地球と、社会と、文化と共生していくための導き手 なのだ。 完全に森と一体化した、自然のままの葡萄畑。このような極端な例も存在している。 クラシック・ワインとテロワール 全てのクラシック・ワインがテロワールを精緻に表現しているわけでは無い 。特定のワインがクラシックな例として認められるには、ある程度纏まった範囲での総体的個性が認知される必要がある。そして、その全ての個性が、テロワール主導で作り上げられたものでは無い。クラシック・ワインの中には、 人為的介入の範囲が非常に大きいものも多々存在している ため、介入を最小限に留めた際に大きく異なる味わいとなることも少なくない。例えば、ブルゴーニュのムルソーは、コート・ドールの白ワインの中でも際立って芳醇な味わいで知られてきたが、バトナージュと新樽を排したムルソーは、煌びやかなミネラルに満ちたワインとなり、一般的に認知されているムルソーのスタイルとは大きく異なる。カリフォルニアのシャルドネも、過熟と新樽を控えたら、シャブリのような味わいになるAVAもある。ニュージーランドのクラシックなソーヴィニヨン・ブランは、パッションフルーツや青草の香りの元となるチオール類を最大化させるために、栽培、醸造が最適化されている。 テロワールを真に表現するために、人為的介入は必須であるが、 行き過ぎた介入もまた、テロワールを湾曲させてしまう のだ。 欠陥か個性か 欠陥的特徴を一括りにして善悪二元論で論じると、様々な語弊が生じる。正しい調和の中に存在していれば欠陥ではなく美点となるものもあれば、僅かな現出でも破棄の対象となるような深刻な欠陥まであるからだ。しかし、テロワールの純粋な表現という観点から見ると、欠陥的特徴の多くは醸造上のエラーであるため、僅かな現出でもテロワールを失する要因となり得る。 【ブレタノマイセス】 酵母菌の一種である腐敗酵母菌ブレタノマイセス(通称ブレット)は、葡萄畑や醸造所に潜んでいる。その繁殖力は強力で、支配的になった場合は、 馬小屋臭 とも表現される強烈な異臭を生じさせる。葡萄畑にも潜んでいることから、特にヨーロッパの伝統産地においては、調和の中にある 少量のブレタノマイセスは、複雑な テロワールを形成する要素の一つ として考えられることも多い 。その場合は、 野性味やなめし革 と言った好意的な表現が用いられる。フランスのシャトーヌフ・デュ・パプやラングドック・ルーションの様に、ブレタノマイセスの痕跡が当然の様に見受けられる産地は、実際に数多く存在している。 ブレタノマイセスは亜硫酸の添加によって、容易に抑制することができる 。 ブレタノマイセスが支配的になったワインに対して、瓶詰め後の決定的な対処法は存在しない。デキャンティング等の即効性を求める対処法は、非常に限定的な効果に留まる。リリース時には支配的であったブレタノマイセスも、5~10年程度の熟成によって、美点とも捉えることができる変化に至るケースがある。 【ネズミ臭】 発酵中、もしくは熟成中のワインが過剰に酸素にさらされたときに起こると考えられている、細菌汚染の一種。現時点での研究では、乳酸菌が主因である可能性が高いとされているが、酵母菌のブレタノマイセスとの関連を指摘する研究結果も報告されている。葡萄畑からではなく、醸造過程におけるエラーであることから、 テロワールとの関連性は認められない 。好気的環境や、ラッキングや瓶詰め等の液体の移動の際に発生してしまうことが多いとされている。海外では「 ネズミ小屋 」、「 腐った牛乳 」とも表現される強烈な異臭を放つため、 テロワールを完全に破壊する最悪の欠陥的特徴 とされている。日本においては、「 マメ臭 」という俗称が定着しており、原理主義的愛好家からは、深刻な欠陥と捉えられていないが、筆者は、 ネズミ臭はブショネと同レベルどころか、むしろ明らかな人的エラーであるため、不可抗力的側面もあるブショネに比べると遥かに悪質な欠陥 だと考えている。 ネズミ臭は通常のワインのpH値では揮発できない という特性があるため、香りからの検出は不可能とされているが、主因物質の一つとして特定されている アセチルピロリン という化合物は、ワインのpH値が高い状態の場合、僅かながら揮発し、 だだちゃ豆やポップコーン を思わせる香気を発する可能性が指摘されている。また、 アセチルテトラピリジン は、弱アルカリ性である人間の唾液との接触により中和された際に揮発する。なお、人の唾液のpH値は個人差が大きいため、軽度のネズミ臭は全ての人が感知できるわけではない。 ネズミ臭は亜硫酸の添加によって、容易に抑制する事ができる 。 ネズミ臭に侵されたワインは、基本的には 抜栓後にネズミ臭がより強く顕在化 していく。これはワインが酸素と接触することによって、徐々に酸度が下がっていくため、結果的にネズミ臭が容易に揮発できるレベルまでpH値が上昇するからだ。長期間の瓶熟成をした場合、抜栓後からネズミ臭が現出するまでの時間を遅延させることができる場合があるが、ワインの汚染レベルとpH値によって必要な熟成期間には大きな差が生じる上に、正確な予測を立てるのは不可能に近い。なお、完全に消失する可能性は極めて低いため、あくまでも 発生の遅延 であるという認識に留めておくべき。 抜栓後、かなりの時間を経てネズミ臭がほとんど消失するケースが稀にあるが、ワインそのものが劣化しない範囲内での消失は、非現実的である。これは抜栓後のワインが一旦は酸化によってpH値を上昇させた後、ワインの酸化のもう一つの作用である、空気中の酢酸菌がワインに含まれるエタノールを酢酸へと変える作用によって、再びpH値が降下することが原因だと推測される。 銅イオンはネズミ臭の影響を僅かに抑制することが可能であるが、ワインに銅を浸すことによって、銅イオンとワインに含まれる他の成分の結合も起こる得る為、非推奨。過度にネズミ臭が生じたワインに対する最も現実的な手段は、pH値を下げるために、強い酸性のもの(レモン果汁等)を料理に加える、もしくはより強い刺激(特にニンニクが効果的)のある味わいでマスクする、の二通りが考えられる。それでも難しい場合は、破棄するしかない。 【酸化】 ワインが酸素に過剰に晒された時に発生する。極めて頻繁に混同されているが、 酸化は欠陥であるが、醸造上の酸化的特徴は欠陥では無い 。酸化したワインは、 強くローストしたナッツや醤油の様な香りを発し、果実味を大きく失う のに対し、酸化的特徴は フレッシュなナッツや林檎の蜜の様な香りとなり、果実味が失われない 。欠陥としての酸化は、自然の酸化作用に耐えうるだけの酸、タンニン、フェノール類等が備わっていない葡萄を、不用意に亜硫酸無添加醸造した際に頻出する。完全に酸化したワインを復元する手法は現状存在していない。 産膜酵母が自然発生する様な環境で酸化的特徴が生じた場合は、 テロワールの一部 として捉えることもできる 。 【還元臭】 ワインが嫌気的環境に晒された時、及び発酵中のワインに窒素が欠貧した際に発生する。軽度の場合は、 火打ち石 の様な香りを発し、欠陥とはされず、クラシック・ワインの中にこの香りが出ているワインは多々存在している。重度の場合は、亜硫酸の揮発に由来する腐った卵を思わせる 硫黄臭 (白ワインで特に顕著)や、チオールに由来する 焼けたゴム の様な強烈な香り(赤ワインとオレンジワインで特に顕著)が生じる。 デキャンティングやスワリング等の手段で、ワインを空気に触れさせると、不快臭を揮発させることも可能ではあるが、現実的な時間内で揮発するとは限らない。また熟成によって、還元的特徴が潜むことがあるが、逆により強まってしまうケースもあるため、確実な予測を立てた対処は非常に難しい。銅との接触によって還元の影響を抑制することができる場合もあるが、ネズミ香への対処と同様に、銅イオンと他の成分の結合も起こり、ワインを変質させてしまう可能性がある。還元臭は醸造過程において発生する欠陥であるため、 テロワールとは関連性がない 。 【揮発酸】 発酵が長期に渡った場合、好気的環境下におかれた場合等に発生し、支配的になると、 除光液 の様な鋭い香りとなる。 最悪の場合はワインを酢に変えてしまう ため、各国の原産地呼称制度で含有量が規制されているケースも多い。ワインに含まれる揮発酸の中でも、不快臭として欠陥扱いされることが多いのは、 酢酸と酢酸エチル 。実際には、ワインの香味を構成する重要な要素の1つであり、正しい調和の中で存在している場合は、梅、ラズベリー、パッションフルーツを思わせる香味をもたらし、ワインに複雑性を与える要素として、 必ずしも欠陥として捉えられるわけではない 。揮発酸はデキャンティングや瓶熟成等によってある程度緩和することは可能であるが、消失させるための決定的な対処法は知られていない。 ナチュラル・ワイン(特にワイルド・ナチュラル)には揮発酸含有量が高いワインが多く見受けられるが、揮発酸はあくまでも醸造時に生じたものであり、葡萄が自然にもつ酸では無い、つまり テロワールとの関連性はない 。  【ローピネス】 ワインに 強い粘性を伴った糸状の物質 が生じる欠陥。ローピネスが生じた場合、ワイン自体も相当程度の粘性を伴う。発生は極めてレアではあるが、近年報告例が増えている。乳酸菌から生じた欠陥と考えられており、亜硫酸添加によって抑制できる可能性が指摘されている。味わいそのものには影響がほとんど無いが、質感が変異するため、明らかに正常ではなくなる。 過度の欠陥がもたらすもの 筆者自身は、ネズミ臭以外の欠陥的特徴に対しては、調和を破壊する強度のものでさえなければ、例えそれがテロワールを失するものであっても、相当程度寛容である。しかし、今回の論点はそこではない。ネズミ臭が発生したワインは即破棄する、という認識が広く一般化するのはおそらく不可避だ。そうなった場合、造り手がどれほど自然に対する敬愛をそこに込めようと、彼らのワイン造りは、「破棄=無駄」という無慈悲な現実の前に根底から否定されるだろう。無意味なワイン造りをいつまでも許容し続けられるほど、既に地球の自然環境には余裕が無いのだから、テロワールの表現という確かな価値の再評価を含めて、ワインは自らの存在意義を改めて問い直していく必要がある。 次章では、人為的介入に関してより深く考察していく。

  • 葡萄を知る <9> カベルネ・ソーヴィニヨン:New World後編

    New Worldでも、最も人気の高い国際品種の一つとして、様々な国や地域で栽培されているカベルネ・ソーヴィニヨン(以下、CS)。晩熟な品種であるCSは、Old WorldよりもむしろNew Worldの国々の方が、明確な違いが生じて、非常に興味深い。また、国によっては、驚くほどのコストパフォーマンスを誇るCSもある。これらのCSが、葡萄そのものの名声に関わらずハイコスパワインとなるのは、それらの国に、他の象徴的な品種が存在している場合に、相対的に価格が上がりきらないことが主な要因となっている。New World後編では北アメリカ以外の国々を紹介していく。

  • ボバルが切り開く新時代

    この度、世界第一号 ボバル大使に任命されました! といきなりスミマセン。。 と言いましても ボバル って何??という方も多いかと思います。 ボバルはスペイン地場品種。今スペイン国内で最も新しい動きをしていて、まさに 世界に羽ばたき始めている品種 です。これからスペイン国外で目にすることが多くなるかと思いますので、ぜひよろしくお願いいたします。 ボバル、とは 地中海沿いマドリッド、バルセロナに次ぐ第3の都市、そして美食の港町として知られる バレンシア 。そこから西へ内陸70km程内陸に入った、標高700mから900mの乾燥した台地、厳しい寒暖差、スペイン内陸の大部分が占める大陸性気候のエリアで主に栽培されています。 そこにある ウティエルレケーナ は、歴史のある小さなワイン産地で、ボバルは産地全体の85%を占めています。 フィロキセラの被害を受けなかった古樹 も多く、他の産地が効率の良い若木に植え替えたり、国際品種化が進む中、産地全体で古樹を守る運動もしています。 果皮は厚くて硬く、タンニン、アントシニアニンといったポリフェノールを多く含み、酸も多く含む。健康にも非常に良いと言われていて、血圧の抑制や心筋梗塞の防止などの効果があると言われています。ボバルは粒が密に詰まったコーン型の房になり、乾燥に強く、芽吹きの時期が遅いことから遅霜(春先)の害にやられるリスクが少ないのもボバルの特徴。病気にも強い。まさにスペインの過酷な大地に打って付けな品種です。 長年扱いづらいとされてきた ボバルの特徴はその大きな房。通常のワイン用品種の房の2倍から3倍、重さにして800g超まで巨大化してしまう。巨大化により、ブドウの粒が同時に完熟することは難しく、また晩熟型という性格がその難しさに拍車をかけていました。持ち前の色素も強く、酸化に強くアルコールも上がりやすい。また多産型の品種のため、長くバルクワインとして使用されてきました。フィロキセラ時にはフランスをはじめ、多くの産地にワインを輸出し手助けをしたとも言われています。 生産者 :Vera de Estenas / ヴェラ デ エステナス ワイン名 :El Bobal de Estenas / エス ボバル デ エステナス ブドウ品種 :Bobal / ボバル ワインタイプ :赤ワイン 生産国 :スペイン 生産地域 : ウティエル・レケーナ ヴィンテージ :2019 インポーター :サス 希望小売価格 :3520円 「世間から笑われたよ・・」 1919年設立の ヴェラ デ エステナス も、御多分に漏れず当初バルクワインで生計をたてていた生産者ですが、バルクワインからボトルワインへの移行をいち早く考えていました。国際品種を植え試行錯誤が繰り返される中「家族や周りからは偏見の目で笑われたよ」と苦笑いしながら語ってくれ、98年あたりからはボバルに注力。そのポテンシャルにいち早く目をつけ品質を追及した ボバル生産者の先駆け です。ドライファーミング(*1)をとり入れ、まずは房を少しずつ小さくし、完熟を促しました。また今世界中で叫ばれている地球温暖化も晩熟型のボバルには追い風になり、ボバルの完熟期と収穫のタイミングが合うようになりました。 自社畑32haの半分以上が50歳以上の古樹で齢80歳も使用。古樹のブドウの房は小さく、また粒も凝縮されたもので、ボバルの短所と一ずつ向かい合い、そして解決していきました。その取り組みの姿勢、ボバルの品質の向上で、2013年からベラ ディ エステーナ全体が ヴィノデパゴ (畑単位に認定された原産地統制地。スペインで最高ランクに値)に認定、一気にスペイン国内で注目を集め、ワイナリーの数も少しずつ増え活性化に繋がっていきました。 ボバルはその 濃い色調 が持ち味で、コールドマセレーション(*2)でボバルのもつ鮮やかな色調をだし、その後14日間ゆっくりとアルコール発酵をかけていきます。そして古くからこの地に伝わるアンフォラを使用し、強くなりがちなタンニンや酸もゆっくりと角をとっていきます。 色鮮やかな若々しさを保つガーネット。香りはボバルの持ち味であるすみれ香が広がり、ボジョレーを思わせる赤いフルーツ香も親しみやすさを感じます。野苺のような赤い果実の香りに、ほのかにメントールのような清涼感、そしてアンフォラ(*3)故かハイビスカスやドライフラワー、湿った土のニュアンスもとれます。 口に含むと華やかな果実が広がり、タンニンは抑えられ、赤い果実の余韻が広がります。パエリアが生まれ、肉と魚どちらも食す風土に適した味わいです。 よくボバルは現地の生産者にじゃじゃ馬と表現されますが、ならされたじゃじゃ馬はまさにサラブレッドの風格さえ感じさせます。 テンプラニーリョだけ、ではない時代 。 30〜10年ほど前の注目産地は、リオハやリベラデルドゥエロ、ビエルソと行ったマドリッドから北がほとんどでした。世界的な嗜好が「アルコールが高くて濃厚な」味わいから「冷涼感でエレガント」に変わってきたせいもあるかもしれません。では南スペインはというと、一般的にアルコールが高く濃厚なワインになりがちですが、ブドウ栽培から改善に取り組み、清涼感のあるエレガントなワインを生み出すことに成功しています。その筆頭がボバルと言って良いでしょう。 地球温暖化をも追い風にして、時空を超えてその奇跡のように残った古樹、オーガニックを基本にした農法から生まれた完熟したボバルを生かすために生産者の意識を変え、その個性を損なうことなく洗練された今を表すスペインワイン。逆にその古樹の貴重さ、そして説得力が安易に走りやすい生産者の意識を変えさせたのかもしれません。 様々な料理に合わせやすいスタイルは、家族団欒を何よりも大切にするスペインで必然的に生まれた、スペインの大地からの贈り物。米、野菜、海と山の食文化を持つ日本の食卓にもふさわしいワインだと思います。日本同様、お米の文化のある産地のワインとして、お値段的にもバルでもレストランでもそしてご家庭でも楽しんでいただける、新しいワイン産地の登場です。 (*1)ドライファーミング:灌漑(水分の供給)を行わない農法 (*2)コールドマセレーション:発酵が始まらない程度の低温にブドウ果汁と果皮を維持して、色素やアロマを抽出する手法 (*3)アンフォラ:近年世界的に流行している、素焼きの土器の発酵槽。古代は運搬用や保存用としても用いられていた。 <ソムリエプロフィール> 菊池 貴行 / Takayuki Kikuchi  ヒノモリ シェフソムリエ 1978年 東京 深川生まれ。 大学在学中、月島の「スペインクラブ」でスペインワインに目覚める。 本場のワイン、料理を触れにスペインへ。 帰国後2004年のオープンから日本橋サンパウにソムリエとして勤務。 バルセロナのサンパウ本店での研修を経て、2006年、同店のシェフソムリエに就任。 その間スペイン政府貿易庁が主催した第1回「ICEX」(シェフ要請プログラム)の日本代表、世界唯一のソムリエとして選ばれ、2007年10月からスペインに国費留学。リオハの二つ星「エチャウレン」や南スペインの二つ星「アトリエ」で研修を積みながら、ワインの作り手と交流を重ねる。 第4回マドリッドフシオンのソムリエコンクールでは、実技試験審査員。 2010年5月、第1回の「カヴァ騎士団(シュバリエ)」に選ばれる。 2020年7月、三重県アクアイグニス内「ヒノモリ」のシェフソムリエに就任。松坂牛などに代表される地元の熟成肉や伊勢の魚介類など三重の豊かな食材に惹かれ、現職。 ワイン雑誌への寄稿やワインセミナー多数。 ワインスクール、レストランマナー講師も勤める。

  • 美味しいワインが飲みたい!ってとき

    「美味しいワインが飲みたい!!」 はじめての生産者やまだ知らない土地のワインを飲むときのワクワク、ドキドキもいいけど今日は絶対に美味しいワインが飲みたい! そんな風に思った3度目の緊急事態宣言下。 アルコールありきでのお店づくりをしてきたもんだから、今回の「酒を提供する飲食店に休業要請」の文言に仕事に対する戦闘意欲が完全に打ち消された。 自粛。休みとはいえワインセラーの整理や掃除、毎日それなりにやることがあるもんだと思いながら、でもやっぱりいつもより少し長く寝たり、遅くまで起きてみたりとちょっとづつ生活がだらけていくのに罪悪感を感じながら、でもなんとなく客観的に見れてる自分がいることに少し安心したり(まあ、だからどうしたという感じだけど)。時間があるし、毎日仕事や学校にでかける家族のために美味しいごはんをつくろうと、なれない揚げ物コースや鯛づくしの晩御飯をつくってみるものの、想定内。理想とはほど遠いパッとしないできばえと、家族の普段と変わらないであろうリアクションに勝手に気持ちを落としたりもした。 生産者 :Domaine Jean Chartron / ドメーヌ ジャンシャルトロン ワイン名 :Puligny Montrachet 1er Clos du Cailleret / ピュリニーモンラッシェ プルミエクリュ クロデュカイユレ 葡萄品種 :Chardonnay ワインタイプ :辛口白 生産国 :フランス 生産地 :Bourgogne / ブルゴーニュ ヴィンテージ :2017 インポーター :㈱ファインズ 参考小売価格 :¥17,100 (税抜) 「このままじゃダメだな。」 なぜだかそう思ってこのワインを選んだ。背筋が伸びるような美味しいワインが飲みたい!と(基本的に毎日ワインは飲むのだけど、家で飲む場合は初めての生産者や生産地のものか新しいビンテージの確認作業と試飲の意味合いが多い。) こういうワインを自分のためにあけることで、なんとかだらけた自分に喝を入れてくれるのでは、と自分勝手な解釈を頼りに開けてみた。高揚感はある。ひとくち口にふくむと、 「美味しい!」 「そうそうコレコレ!もう色合いから香り、アタック、ボディ、アフター!深いのに上品、でも複雑な感じもあって、あー!もー!うまい!!」 自分は本当にワインに携わる仕事をしているのだろうかと、疑いたくなるコメントの数々。でもこういうワインが飲みたいなっていう気分の時に期待通り、もしくはそれ以上を味わえた時のよろこびはやっぱり最高だ。 先日、日本の自然ワインの生産者が話してくれた内容がふと思い出された。「僕らはできたブドウに対して出来上がるワインのイメージにある程度幅をもたせてます。自然酵母だけで、酸化防止剤も使わずにつくるワインを完全にコントロールすることは不可能だと思ってるから。逆に作りたいワインはコレだっていう決まった目標がある人は、多少の酸化防止剤や温度コントロールを使った方がいいと思う」と。 その通りだと思う。一度だけその生産者さんのところでブドウの収穫と醸造(仕込みの部分だけ)を手伝わせてもらったことがあるけど、ブドウを収穫しながらも食べて「どうつくる?」と仲間たちと相談してたのが、とても印象的だった。 同じ生産者の同じブドウ品種でも、毎年色々な顔を見せてくれるワインもワクワクして楽しいし、今回のこういうワインが飲みたいっていうシチュエーションに答えてくれるのも、やっぱりワインの醍醐味。ワインは勉強すればするほど楽しさが膨らむし、どんなワインでも最善のシチュエーションがあるはず、それを探すのもやっぱり楽しい。 まだまだ飲んでみたいワイン、もう一度飲みたいワインはたくさんある。これからも新しいワインがたくさん出てくるだろうし。 コロナに負けてる場合じゃないね。 ※テイスティングノート 綺麗な艶のあるイエロー。グラスから香る様子は熟したグレープフルーツや洋梨、アプリコットの圧倒的なフルーツの凝縮感。まだまだ抑えられた雰囲気を感じながらも口に含むとフルーツが一気に解放されたように香り、それを上品にまとめ上げる豊かな酸、上質な樽のかすかなバニラの甘さが溶けあって見事なバランス。アルコール度数は13.5%と通常ながらしっかりとしたボディと複雑さ。長い余韻も心地いい。 まだまだ若いヴィンテージだけど十分に楽しめる状態。もちろん熟成できるポテンシャル。 <ソムリエプロフィール> 岡城 武士  / Takeshi Okajo Le Chat Noir 1979年大阪生まれ。1997年から心斎橋にてバーテンダーとして修行を開始。 2002年フランスに渡り、2年間カンヌでワインサービスに従事。 2011年大阪心斎橋にて自店シャノワールを開店、現在も営業。 JSA シニアソムリエ資格/WSET Level.3 資格保持 Level.4 挑戦中。 フランスワインを中心に食前・食後酒を幅広く取り揃えております。 フランスの家庭料理などと一緒に大切な人と心地いい時間をすごしていただけたらと思い日々営業しております。

  • 有為転変のミュスカ

    世界で最も古いワイン産地の一つであるギリシャ共和国。 固有品種は300種を超えるとされ、一時衰退していたものの1980年代のEU加盟を皮切りに再び隆盛を取り戻し、大量生産されているものからナチュラルワインに至るまで、ラインナップは多岐に渡る国である。 クシノマヴロやアギオルギティコ、アシルティコ などの固有品種が注目されがちではあるが、今回はあえて国際品種である ミュスカ(マスカット) にスポットを当てていきたい。 エーゲ海諸島地域 で伝統的に生産されている マスカット・オブ・アレキサンドリア 及び ホワイト・マスカット のワインは O.P.E. (甘口ワイン、デザートワインに関しての原産地呼称ワイン)及び O.P.A.P. (ギリシャにおける原産地呼称ワイン)として登録がなされている。 上記地域以外でもミュスカは食用を含めギリシャ全土で栽培されており、非常に同国ではポピュラーな存在。 一説にはミュスカという葡萄品種がギリシャに起源があると言われている 。 一般的にはミュスカのワインというと、 マスカット の分かりやすい香りに 白い花や洋ナシ など明度の高い香りが感じられ、味わいはドライなものから甘口まで様々である。 生産者 : Tetramythos / テトラミソス ワイン名 :Muscat Sec Nature / ミュスカ・セック・ナチュール 葡萄品種 :Muscat 100% / ミュスカ 100% ワインタイプ :白ワイン 生産国 :ギリシャ 生産地 : Western Greece Achaia / 西ギリシャ アハイア県 ヴィンテージ :2019 インポーター :ヴァンドリーヴ 参考小売価格 :¥3,366 今回紹介するワインは西ギリシャエリア、 ペロポネソス半島 に位置するアハイア県で生産されている辛口のミュスカで、 その一般的なミュスカのイメージとはかけ離れている 。 まずミュスカに感じられるマスカット・フレーヴァーがかなり控えめである。 もちろんそれが失われているわけではないが、 金属的な若干の還元と豊かな青々とした若草の香り が核を形成している。嗅いだだけでふわーっとなるような一般的なミュスカのワインと比べるとかなりいぶし銀な印象を受ける。 味わいも、いや味わいこそがいぶし銀だ 。 まずかなり高めの酸度がずしりと感じられる。特にこの2019年ヴィンテージは100%マロラクティック発酵(*1)が起こっているにも関わらず、酸が柔らかくなりすぎずしっかりと1本芯の通った味わいに仕上がっている。 そして散々その正体が議論されてはいるが、あえて言うならミネラル感も強めだ。 総SO2(*2)量は僅か30mg/lに抑えられているのに、この硬質なテクスチャーは非常に興味深い(ミネラル感を得るにはSO2の添加が効果的、というメソッドも存在するほどにSO2のテクスチャーへの影響はとても大きい)。発酵も 野生酵母 によるもの、マロラクティック発酵も自然に任せている所謂ナチュラルワインだが、ペアリングの側面から見ると食材への浸透力を保ちつつテクスチャーをもったワインというのは貴重だ。 このミュスカが育つ畑は、 人が住まない標高915mの場所 にある。ギリシャでも標高が最も高い産地の一つで、そこに 北向きの超急斜面 という条件が合わさった稀有な畑だ。本来別の品種が植えてあったそうだが、僅かこの7haしかないクリマにミュスカの新たな可能性を感じ植樹した テトラミソス のセンスには脱帽する。更に加えると、このアハイア県内にあるアノ ディアコプトという村内ではたった2ヶ所しかミュスカ単一の畑はない。 また、標高及び人口60人という人の少なさから、 光害 についても無縁の畑だ。光害は夜に開花する植物やそれに寄って来る蛾の生態系、紅葉の遅れ、植物の短寿命化などについて問題視されており、近年では日本・アメリカ・ヨーロッパで深刻化している。 夜は正しく闇に包まれる、という畑はある意味で真の葡萄の姿を表現出来るのではないだろうか。 ミュスカというとあまりにも分かりやすいそのフレーヴァーの個性故に、逆に没個性的な印象を抱かれがちな品種かも知れない。 そんな中でこのワインは明らかに異彩を放つ1本であり、ミュスカに対する考え方を大きく修正する機会に十分なり得る。 ミュスカという品種個性も、当然ではあるが、テロワールが変わればそれもまた有為転変なのだ。 (*1)マロラクティック発酵:鋭角なリンゴ酸を柔和な乳酸に変える作用。温度管理や添加物によって容易にコントロール可能なため、醸造手段の一部としてワインメーカーによって様々な判断がされる。ナチュラルワインは「何も止めない」ことが基本の一部であるため、自然に起こるマロラクティック発酵は阻害しない。 (*2)SO2:亜硫酸、酸化防止剤と様々な呼称がある。抗酸化と殺菌という二つの大きな役割がある。 <ソムリエプロフィール> 菅野 浩和 / Hirokazu Kanno H -acca- Drink Director・Manager 1987年福島生まれ。大学進学後プロオーボエ奏者として活動。 オーケストラでの公演やレッスンを行いながら、傍らでWakiya一笑美茶楼にてアルバイトとして勤務。 多種多様なグランヴァンに触れワインの魅力に目覚める。 Wakiyaグループ在籍中に現La Mer Inc. CEOである梁世柱氏が加わり、彼によりナチュラルワインへの造詣を深める。 その後ナチュラルワインの専門スタッフとしてフレンチ食堂ぶどうにて勤務。 2017年からは梁世柱氏がシェフソムリエとして在籍していたS'accapauに合流後バトンタッチ。 専門誌に寄稿する傍ら、ナチュラルワインオンリーのペアリング及びノンアルコールペアリング、飲料全般の管理や外部委託された商品開発などを担当。 現在は神楽坂H -acca-にてドリンクディレクター及びマネージャーとして勤務。 社内の飲料関係全般を取り仕切る。

  • 偉大な畑の継承者たち

    ワインテイスティング の仕方には様々な方法があることは、ご存知の読者の方々もいらっしゃると思います。 最もよく見聞きする方法は、ソムリエ試験や各コンクールなどでも採用されている ブラインドテイスティング といって、グラスに注がれたワインを一切の事前情報なしに、外観・香り・味わいなどから、生産地や葡萄品種、ヴィンテージなどを考察し、「このワインの葡萄品種は何か、そしてそれはどのような気象条件で、どのように醸造されたか」を、目の前の液体と真正面から向き合いながら分析していく方法です。 次が オープンテイスティング といって、生産地や葡萄品種、場合によっては生産者や生産年までオープン(開示)にされた上で行うテイスティング方法です。 我々ソムリエが仕入れを目的に参加する試飲会は、通常この方法で行われます 。オープンテイスティングの場合、ブラインドの時とは違ってある程度情報が公開された状態でのテイスティングなので、同一品種の生産者ごとの味わいの違いや、同一生産者の品種違い、ヴィンテージごとの味わいを考察しながら前述のブラインドテイスティングよりも、現場でワインをサーヴする時の情報収集または確認という意味合いが強くなります。又、生産者が来日しているタイミングではより踏み込んだ情報を得られる場合もあります。 上記二つが、我々ソムリエが日常的に行うテイスティングであり、プロとしての視点からワインを”試飲”する方法です。 そして今回私が行ったテイスティングは、上記二つとは少し趣旨の異なったテイスティングであります。 「ある偉大な生産者から畑を譲り受けた4人の生産者と、それぞれが作る同一ヴィンテージ同一品種ワインの違い」 今回クローズアップする生産者はフランスのロワール地方で、オーガニックな農法やできる限り自然に任せたワイン醸造を若手に教える重要な役割を担っていた偉大な生産者、クロ ロッシュ ブランシュ(以下「CRB」という)の畑を引き継いだ4人のうち、現在も同じ畑で葡萄栽培を行う3人。 ノエラ モランタン、ローラン サイヤール、ジュリアン ピノー による、 ソーヴィニヨン・ブラン の 2018年 です。 ノエラ・モランタン 2001年、それまでマーケティング関係の会社に勤めていた彼女は、デスクワークではなく以前から興味があった栽培・醸造を学ぶためワイン学校へ通い始め、ディプロマを取得。同時に現場で学ぶためドメーヌ・モスで修行(2003まで)。その後フィリップ・パカレやマルク・ペノーの元で収穫、醸造を手伝い、2004年にドメーヌ・ボワルカの当主である新井順子さんと出会いすぐに意気投合、栽培醸造責任者として働き始める。(2008年までの4年間) ボワルカの畑は以前 CRB が所有していた畑ということもあり、ノエラは CRB の所有者カトリーヌとディディエの夫妻とすぐに知り合うことができた。 2008年 CRB が畑の規模を縮小するのに伴い、代わりにノエラが管理することになり、自らのワイン醸造をスタートするため、ドメーヌ・ノエラ・モランタンを立ち上げ今に至る。 生産者 :Noëlla Morantin / ノエラ・モランタン ワイン名 :Chez Charles / シェ・シャルル インポーター :ヴァンクール 参考小売価格 :¥3850 【Chez Charles 2018 / シェ・シャルル 2018】 香りには炒ったアーモンドのような香ばしさや、暖かいヴィンテージや温暖な産地のリースリングに現れるペトロールの様なオイリーさがあり、味わいも同様酸味は穏やかで乳酸系、古樽熟成を思わせる心地よい参加のニュアンスがあります。 合わせる料理もこれまたドイツやアルザス系の、シュークルートや豚肩ロースのソテーにリンゴを添えたものなどがオススメですよ。 ローラン・サイヤール フランスの専門学校でホテル・レストランマネージメントを学んだ後、1995年、24歳の時にブルックリンやマンハッタンのレストランでマネージャーとして働き、当時 NY で最初のナチュラルワインに特化したレストランを立ち上げる(2004年)。2008年にレストラン経営を妻へ譲り、ワインメーカーとなるためフランスへ帰りノエラの元でワイン醸造を学ぶ。ノエラと CRB 両方の手伝いをしながら2012年には自らのワイン醸造をスタートし、2013年念願の自身のドメーヌを立ち上げる。 ノエラ同様、教科書に捉われずフィーリングで醸造を行うローラン曰く、 「学校には通っていないけど、レストランで働いていた人生のほとんどの時間を、食べて飲んで未知なるフレーヴァーを探してきた。だから自分の感覚で自分が飲みたいと思えるワインを作っている。」 ちなみに彼が初めて飲んで感銘を受けたナチュラルワインは、Les Cailloux du Paradis / Racines Rouge 1995。 生産者 :Laurent Saillard / ローラン・サイヤール ワイン名 :Blank / ブランク インポーター :ヴァンクール 参考小売価格 :¥4000 【Blank 2018 / ブランク 2018】 香りはレモン、フレッシュグレープフルーツの様な酸味が主体の果実と、熟した柑橘系やパイナップルの甘みが渾然一体となり、かすかにコリアンダー様の爽やかなハーブを感じます。 味わいはノエラ同様、酸味は穏やかでまろやか、ノエラと比べると幾分か凝縮感とボリューム感を感じる味わいです。 合わせる料理としては、開栓間もない段階だとシンプルなグリーンサラダや新鮮な白味魚を使ったセビーチェなどの前菜系、魚や豚肉の香草パン粉焼きも良し。 個人的には、インドやネパールでよく食べられるコリアンダーを使ったマトンカレーがオススメ。 ジュリアン・ピノー 大学で経済学を学んだ後アメリカへ留学。フランス帰国後いくつかのワイナリーで働いた後、2014年ノエラの所で働いている時にローランと意気投合し、2015年にローランと共に CRB の畑を引き継ぐ。(12ha を半分ずつ) 将来はワインバーを持つことが夢だったが、ワイナリーでの仕事をしている内に自分の関心が、植物や土壌、花やその地に居住する虫や微生物たちへと移っていった。 2015年がファーストヴィンテージ。 生産者 :Julien Pineau / ジュリアン・ピノー ワイン名 :Roche Blanche / ロッシュ・ブランシュ インポーター :ディオニー 参考小売価格 :¥3400 【Roche Blanche 2018 / ロッシュ・ブランシュ 2018】 香りは完熟グレープフルーツや完熟オレンジ、マンダリンといった柑橘系の中でも熱帯地域でよく食べられる熟度の高いものを連想させるオリエンタルな香り。 前述二つのワインは二日目三日目とさほど大きな変化は出なかったが、こちらのワインは三日目に、果実の強さと酸化が良いバランスで落ち着き、べっこう飴の様な複雑味が出てきました。 味わいは上述2アイテム同様乳酸系で、かすかにクミン様のスパイス感を強く感じます。 料理は、ワイン前半なら鴨を使った前菜やサラダから、牛肉と青梗菜のオイスターソース炒め、食後にシェーブルチーズなんてあれば最高のお家ディナーが楽しめると思います。 総括 今回は同じ生産者から畑を引き継いだ生産者という、それぞれが互いに影響し合っている生産者のワインを同時にテイスティングすることで、CRB 含めそれぞれの考え方やワインの醸造の違いを、立体感をもって”楽しむ”ことができました。 皆様にも、決して評価するための飲み物じゃなく、心や生活を豊かにしてくれる飲み物としてこれからもワインを飲んで頂きたいなと思っております。 <ソムリエプロフィール> 森本 浩基 1989年 大阪府生まれ 大阪のイタリア料理店でソムリエのキャリアをスタートし、その後はフランス料理店、スペイン料理店などで研磨を積み、2017年カリフォルニア ナパヴァレー Matthiasson で醸造を経験後、当時 Asia 50 Best Restaurant 4年連続 No.1 のインド料理店 Gaggan でソムリエを務める。 2020年東京兜町にオープンする Caveman ヘッドソムリエに就任。

  • 最も新しいニュー・ワールド生産国⁉️ イギリス 「ガズボーン」

    今年の桜は平年より2週間近くも早く咲きました。4月上旬の今日は、まるで5月の陽気。空気も乾いて、キリッと冷えたスパークリング日和です。スパークリングワインの需要はますます増えそうだし、イングリッシュ・スパークリングがより多くの方に飲んでいただけるチャンスと期待に胸膨らみます。ただ、この暖かさは手放しで喜べることなのでしょうか。 昨今の気候変動は私たちに与えられた最大のチャレンジの一つです 。多くのワイン産地にとってはまぎれもなく脅威であり、いかに対処するかによって、ワインの品質に大きな影響をあたえることでしょう。一方、この気候変動を歓迎している産地もないわけではありません。その一つが北緯50度以上にブドウ畑が広がる イギリス です。ワインを心から愛する文化を持ち、ワイン業界を牽引する市場をもちながらも、ワイン生産国としては目立たぬ存在でしたが、この気候変動を大きな恵として、大きく躍進しようとしています。すでに自国内では大きな支持を得ており、このコロナ化でも、ワイナリーは活発なオンライン・セールスに支えられています。 イギリスでは、 20世紀後半まで夏であっても30度を超える日はありませんでした 。それが、 21世紀になってからは、2007年を除く全ての年で30度越えの暑さが記録されるようになり 、この夏の暑さは春や秋まで暖かさを引き延ばし、より長い生育期をもたらすようになりました。温暖化がすすんでいることは肌で感じ取れるほどで、私自身、2008年渡英直後は夏でも長袖を着ていたのが、2012年オリンピックイヤーの夏には「暑い」と半袖を着たのを鮮明に覚えています。30度を超えると「異常気象!耐えられない」とイギリス人のランニンングメイトが茹だる日が年々増え、ロンドンの新築フラット(日本でいうマンション)にはエアコンが搭載されるようになりました(イギリスの大半の家には今でもエアコンはついていません。私の家にもありませんでした)。 この10年でイギリスのブドウ栽培面積は3倍にも拡大 し、ワイナリー数も一気に増加しました。 ポメリーやテタンジェ といったシャンパーニュからの参入もあり、 イングリッシュ・スパークリングワイン が多様化し、産地として成熟してきているのを実感します。 しかしながら、自社畑のみでワイン生産を行っているワイナリーはまだまだ多くはありません。そんな中、自社畑のみを信条とする生産者、 ガスボーン をご紹介します。スタイリッシュなラベルが印象的なこのワイナリーは、”凝縮したフレッシュな果実味、厚みと深みのある”一貫性のあるスタイルを生み出しています。 ガズボーンの信条は以下の3つ。 1. 自社畑のみ 2. ヴィンテージワインのみ 3. 長期間の熟成 自社畑 ガスボーンは、 イギリス南東部のケント州アップルドア に拠を構えます。ケントは、 ドーヴァー海峡 に面するイギリスの玄関口であり、イギリスで 第一位の栽培面積を誇る州 です。テタンジェがブドウ畑を購入したことでも注目を浴びました。 イギリス南部といえば、セブンシスターズ宜しく、 シャンパーニュと同じ白亜の土壌 が広がる画を思い描かれるかと思いますが、 ケントは砂質、粘土質、頁岩とかなり多様 で、 アップルドアの畑は、砂質埴土土壌 です。海岸からわずか10キロに位置する緩やかな起伏のある南向き斜面の畑には 暖かい海風 がダイレクトに吹き込み、寒い年でもブドウを完熟させることができます。 2013年 には ウエスト・サセックス にも畑を購入。この 白亜の畑 は、日照時間はより長いのですが、標高が少し高いこと、より雨が多いことなどから、アップルドアのように毎年コンスタントにブドウを完熟されることは難しく、総じて、出来上がるワインは酸味が高い軽やかなスタイルとなります。暖かいヴィンテージにはブレンディング・コンポートネントとして大きな役割を果たします。 ヴィンテージワインのみ イギリスでヴィンテージワインのみの生産というと、マルチ・ヴィンテージを生産するだけの土台がないと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。これこそが、ガズボーンの妥協を許さないワイン造りへの自信の現れです。「自分たちに与えられた各年の最高ワインを造るために努めたい」が故にヴィンテージワインに拘っているのです。北限の地においてこの大仕事を可能にしているのは、気候と土壌が異なったケントとウエスト・サセックスの二つの畑の存在です。 更なる自社畑の拡張、ブドウ樹の高樹齢化、そして、彼らの自身の畑への理解と経験の蓄積により、ガズボーンの品質は一層向上していくことでしょう。 長期間の熟成 自分たちに与えられた各年の最高ワインを造るために使用するのは クール・ド・キュヴェ (*1)のみです。120の区画別に毎年200種類以上のベースワインを巧みにブレンドすることによって、ガズボーン・スタイルを達成しています。 ブリュットリザーヴでも3年以上もの間澱とともにゆっくりとコンタクトし、さらに、デゴルジュメント(*2)後にも熟成されていてからリリースされます。ガズボーンの一連のラインナップをテイスティングすると、“ 凝縮したフレッシュな果実味、そして、厚みと深みのある ”一貫性のあるスタイルが明確に感じ取れるでしょう。 Blanc de Blancs 2013 Chardonnay 100% 熟したレモン、アプリコット、黄桃、ジンジャーブレッド、アーモンドと共にペイストリーの香ばしいアロマ。滑らかなテクスチャーとは相反する緻密な高い酸味が美しく伸びやかに持続。 ガズボーンというとBlanc de Blancs(*3)が有名かと思いますが、ロゼも秀逸。 Rose 2013 Pinot Noir 100% 輝きのあるサーモンピンク。ラズベリー、イングリッシュ・ワイルド・ストロベリーの赤系ベリーのフレッシュなアロマがダイレクトに感じられ、トースト、シナモン、ブリオッシュが重なる。高いながらも角張っていないフレッシュな酸味は伸びやかで、余韻に重なるベリーの皮のほろ苦さが味わいを引き締めている。 Brut Reserve, Late Disgorged 2009 Chardonnay 77%, Pinot Noir 14%, Meunier 9% 深みのあるゴールドの色調。溶け込んだムース。黄リンゴ、アプリコット、洋梨、そして、長期の熟成に由来するブリオッシュ、カラメル、アーモンド、ジンジャーブレッド、アニス、パンデピスと複雑なアロマ。ほんのり甘みを帯びた滑らかなアタック。艶のあるテクスチャー。カラメルやナッツの複雑な余韻が長く持続。 6年以上熟成させてからリリースさえる特別なワイン。イギリスにもこんなに熟成されたワインがあるということを知ってもらいたくてアカデミー・デュ・ヴァンのイングリッシュ・スパークリングワインの講座でも使用しています。みなその味わいには一驚の逸品です。 最後に イギリスは 生産量の約7割をスパークリングワイン が占めています。しかしながら、この気候変動によって高品質なスティルワインが産出されるようになり、今までスパークリングに特化していた生産者からも徐々にスティルワイン生産が増えてきています。 ガスボーンのピノノワール2018、ぜひ飲んでみてください。2018年は質、量ともにグレートヴィンテージ。イギリスのピノノワールの進化が味わえます。 (*1) クール・ド・キュヴェ:葡萄の圧搾時に流れてくる果汁の中から、最も品質の高い果汁のみを、厳格にタイミングを見極めて分けたもの。 (*2) デゴルジュマン:瓶内二次発酵で生じた澱を瓶口に移動させて冷却し、瓶内の気圧を利用して凍った澱を取り除く工程。 (*3)Blanc de Blancs:白葡萄のみを用いて作られたワインのこと。シャンパーニュを中心に主にスパークリング・ワインで使用される用語。 <プロフィール> 青山 敦子 / Atsuko Aoyama DipWSET WSET® Level4 Diploma WSET® Certified Educator アカデミー・デュ・ヴァンWSET資格取得コース主任講師 ギリシャワイン・オフィシャル・アンバサダー 2018年 Wines of Greece World of Greek Wine Program 最優秀賞 IWCインターナショナル・ワイン・チャレンジ・ロンドンAssociate Judge WSET ディプロマコースをロンドン本校で学び最速最短の1年半で取得。ロンドン本校にて認定講師と認められた唯一の日本人。 英国スパークリング専門誌 “Glass of Bubbly”のライター、WSET Level 3筆記・テイスティング試験採点官を務め、約8年過ごしたロンドンから2016年に帰国。 スティーヴン・スパリュア氏の紹介でアカデミー・デュ・ヴァン講師となり、2016年12月WSET日本語コースをゼロから立ち上げる。現在アカデミー・デュ・ヴァンWSET講座は常時14クラス程度開講。

  • SommeTimes Académie <5>(ワイン概論1:酒税法と統計)

    SommeTimesは、従来の短期集中型の暗記に頼った勉強、試験に合格することのみを目的とした勉強法に、強く異を唱えます。 試験後に忘れてしまった知識に意味はありません 。ワインの勉強は、難しい外国語由来の単語との戦いでもあります。そういった単語をただの「 記号 」として覚えることにも、意味はありません。その単語が「 何を意味するのか 」を知ってこそ、本来のあるべき学びとなります。SommeTimes Académieでは、ワインプロフェッショナル、ワイン愛好家として「 リアル 」に必要な情報をしっかりと補足しながら進めていきます。試験に受かることだけが目的ではない方、試験合格後の自己研鑽を望む方に向けた内容となります。 SommeTimes’ Viewをしっかりと読み込みながら進めてください 。 酒税法と酒類分類 区分(醸造酒) ワイン&シードル:種類(果実酒) 日本酒:種類(清酒) 区分(蒸留酒 ) ブランデー:種類(ブランデー) ウォッカ、ジン、ラム等:種類(スピリッツ) 甲類焼酎:種類(連続式蒸留焼酎) 乙類焼酎:種類(単式蒸留焼酎)) 区分(発泡性酒類 ) ビール:種類(ビール) 発泡酒:種類(発泡酒) 第三のビール等:種類(その他発泡性酒類) 区分(混成酒 ) 酒精強化酒:種類(甘味果実酒) ヴェルモット等:種類(甘味果実酒) クレームドカシス、アマレット等:種類(リキュール) SommeTimes’ View ・ 酒類区分の知識そのものが実際に役に立つシチュエーションは極めて稀 なため、第三のビールや、各種焼酎等、区分と種類の把握の先にある知識を身につけるべき。 ・ 焼酎 の中でも 原料の味わいが強く出ているものは単式蒸留の 乙類 。国税庁によって規定された原料と製法を守れば、 本格焼酎と名乗ることができるのも 乙類 。一方で、 甲類 はクセの少ない味わいから、 酎ハイ等のベースとして使われることが多い 。 ・第三のビールが含まれる「 その他発泡性酒類 」は、 麦芽か麦を原料の一部としている必要がある ため、スパークリング・ワイン等は含まれない。 ・シェリー等の酒精強化酒は、区分上は混成酒となるが、あくまでもワインの一種として考えるべき。 統計 国別ワイン生産量順位(2018年:O.I.V.による統計) No.1:イタリア No.2:フランス No.3:スペイン No.4:アメリカ合衆国 No.5:アルゼンチン No.6:オーストラリア No.6:チリ No.8:ドイツ No.9:南アフリカ No.10:中国 SommeTimes’ View ・ 上位三カ国で全世界の生産量の約半分 を占めている。 ・近年はイタリアが一位になる年が多いが、 フランスとイタリアは頻繁に順序が入れ替わる 。つまり、特定の年の順位を覚えても無意味。 ・アメリカ合衆国の四位は、しばらくは不動と思われる。 五位から十位までは、年によって頻繁に入れ替わる 。また中国の生産量データは正確では無い可能性が高く、順位が年によって大きく変動する。 ・ 今後大きく生産量が伸びる可能性が最も高いのは中国 。高級ワイン生産へのシフトも目覚しく、10年後にはアメリカ合衆国のポジションを脅かす存在になっている可能性がある。 国別ワイン消費量順位(2018年:O.I.V.による統計) No.1: アメリカ合衆国 No.2:フランス No.3:イタリア No.4:ドイツ No.5: 中国 No.6: イギリス No.7: ロシア No.8:スペイン No.9:アルゼンチン No.10:オーストラリア SommeTimes’ View ・この統計の順位を覚えることにあまり意味はない。 ・ どの国における消費が、世界のワイン市場に大きな影響力をもっているか を把握することが重要。 ・ アメリカ合衆国、イギリス、中国、ロシア の四カ国は特に高級品への影響が大きく、需要と供給のバランスが崩れることによって、特定のワイン(特筆してフランスのブルゴーニュ産ワイン)が驚くほど高騰するケースが生じる。 ・フランスやイタリアは自国消費率が群を抜いて高く、市場への影響力が小さい。 ・ 国単位で一まとめにすると、実情が見えにくくなる 。例えばアメリカ合衆国では、ニューヨーク州やカリフォルニア州のワイン消費量は、テキサス州よりも遥かに多く、日本でも東京都と広島県とでは大きな開きがある。このように、 実際は都市単位で考えた方が、リアルな情報源として有用となる 。 国別葡萄栽培面積と葡萄生産量(2018年:O.I.V.による統計) 2018年時点では、栽培面積はスペインが一位、中国が二位。 葡萄生産量は中国が一位、イタリアが二位。 SommeTimes’ View ・この統計の順位を覚えることにあまり意味はない。 ワイン用以外の葡萄も統計に含まれているため である。 ・生産量が一位である中国は、全生産量の89.7%が食用葡萄であり、ワイン用は10.3%なのに対し、栽培面積が一位のスペインは、全生産量の96%がワイン用葡萄となっている。 ・葡萄畑の高密植が一般的なフランス等の国と、低密植の畑が多く残るスペイン等では、単純に栽培面積だけを比べることに、重要な意味が生じない。 フランス(ブルゴーニュ)の高密植の葡萄畑 ポルトガルの低密植の葡萄畑 次回のワイン概論2では「スティルワインのカテゴリー」に関してお話ししていきます。

  • SommeTimes Académie <6>(ワイン概論2:スティルワイン)

    試験後に忘れてしまった知識に意味はありません 。ワインの勉強は、難しい外国語由来の単語との戦いでもあります。そういった単語をただの「 記号 」として覚えることにも、意味はありません。その単語が「 何を意味するのか 」を知ってこそ、本来のあるべき学びとなります。SommeTimes Académieでは、ワインプロフェッショナル、ワイン愛好家として「 リアル 」に必要な情報をしっかりと補足しながら進めていきます。試験に受かることだけが目的ではない方、試験合格後の自己研鑽を望む方に向けた内容となります。 SommeTimes’ Viewをしっかりと読み込みながら進めてください 。

  • SommeTimes Académie <7>(ワイン概論3:スパークリングワイン)

    試験後に忘れてしまった知識に意味はありません 。ワインの勉強は、難しい外国語由来の単語との戦いでもあります。そういった単語をただの「 記号 」として覚えることにも、意味はありません。その単語が「 何を意味するのか 」を知ってこそ、本来のあるべき学びとなります。SommeTimes Académieでは、ワインプロフェッショナル、ワイン愛好家として「 リアル 」に必要な情報をしっかりと補足しながら進めていきます。試験に受かることだけが目的ではない方、試験合格後の自己研鑽を望む方に向けた内容となります。 SommeTimes’ Viewをしっかりと読み込みながら進めてください 。

  • 南アのピノ・ノワールは本当に注目に値するのか?

    南アフリカ共和国。アフリカ大陸の最南端に位置し、 アフリカ大陸各国の中でも、最もヨーロッパの影響が色濃い国の一つ である。 大航海時代の初期である15世紀末頃 にはポルトガル人が 喜望峰 に到達。 1655年に最初の葡萄園が開かれた 南アは、ニューワールド産地の古参組でもある。日本においても、近年じわじわとブームの兆しを見せており、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、チリ、アルゼンチンに並ぶ ニューワールドの代表的産地として、既にそのポジションを確立しつつある 。 そんな南アでは、かつてはスティーンとも呼ばれていた シュナン・ブラン 、南ア発祥でありながらも、近年ようやく理想型とも考えられる優美な表現を見出した ピノタージュ 、ステレンボッシュの カベルネ・ソーヴィニヨン 、スワートランドの シラー 辺りが注目されてきた。 ソーヴィニヨン・ブランやシャルドネ も高水準のワインが多い。しかし近年、新たに3つの葡萄品種が大きな注目を集め始めている。 セミヨン、サンソー 、そして ピノ・ノワール である。前者2つは、原産国ですら希少となった超古樹が、南アに少なからず残っていたことが注目の主因であるが、 ピノ・ノワールに注目が集まり始めた理由は全く異なる 。 そう、どうやら、 南アのピノ・ノワールは、桁違いのポテンシャルを秘めているようなのだ 。 2021年4月21日、WOSA(Wines Of South Africa)主催のウェビナーは、南ア産ピノ・ノワールの核心に迫る内容であったので、SommeTimesにてレポートする。 現在、南アの中でもピノ・ノワールの産地として評価が高いのは、 Elgin(エルギン)、Overberg(オーヴァーバーグ) 、そして Walker Bay(ウォーカー・ベイ) の三産地。今回のウェビナーでは、Overbergに含まれる小地区である Elandskloof(エランズクルーフ) と、Walker Bayに含まれる小地区(さらに3つのエリアに別れる)である Hemel-en-Aarde(ヘメル・アン・アールダ) が題材となった。 ©︎WOSA 左下の円に含まれるエリアがピノ・ノワールの適地 南アフリカにおけるピノ・ノワールの歴史は、 ステレンボッシュのMuratie Estateが1927年に植樹したことが始まり とされている。しかし、初期に導入されたピノ・ノワールのクローン( スイス系のBK5 )は、スパークリング・ワイン用に選定されたものであり、高品質なスティルワイン用としては少々役不足であった。長い不遇の時を経て、南アのピノ・ノワールに真の夜明けが訪れたのは、 1990年代に入りディジョン系のクローンが導入された時 からだ。つまり、 実質的に南アフリカにおけるピノ・ノワール発展の歴史は、30年程度とも言える 。そして、1976年のパリの審判以降に世界中で巻き起こったインターナショナル・スタイルへの転換という巨大なブームからは、完全に出遅れてしまったとも言えるだろう。しかし、結果だけを見れば、 出遅れたことが逆に功を奏したのでは無いだろうか 。南アのピノ・ノワールは、テロワールの表現を鈍化させるインターナショナル化も、パーカリゼーションに引っ張られたビッグ・ワイン化も、相当程度回避することができた。そしてそこには、南アフリカ人の、 自己の特性を魅力ある個性として強固に認識することができる冷静な国民性と穏やかな自己愛、そして合理的な思考が背景にある ことも、南アワインのこれまでとこれからを理解していく上で、重要な要素として認識しておくべきだ。 巨大な流れから逸れ、冷静に自己研鑽を続けてきた南アのピノ・ノワールは、果たして本当に注目すべき存在へと成れたのだろうか。その価値を証明するだけのクオリティを得るに至ったのだろうか。検証していこう。 Crystallum, Cuvée Cinéma Pinot Noir 2018 Crystallum(クリスタルム) が本拠地を置くWalker BayのHemel-en-Aardeは、 現在南アの中でも最もピノ・ノワールの産地として期待がかかる産地 である。海に近い方から内陸の高地へと順に、Hemel-en-Aarde Valley(以降 Valley )、Upper Hemel-en-Aarde Valley(以降 Upper Valley )、Hemel-en-Aarde Ridge(以降 Ridge )の小地区に別れている。Hamilton Russel Vineyardsや、Bouchard Finlaysonといったパイオニア達はValleyに、若い世代はUpper ValleyやRidgeへの進出が顕著に見られる。クリスタルムは Storm Wines(ストーム・ワインズ) と並び、新世代の二大巨頭の一角として、カルト的人気を集めている。 ©︎WOSA 今回テイスティングしたCuvée Cinémaは、Hemel-en-Aardeの中でも 最も冷涼なRidgeにある単一畑 。標高300mの南東向き斜面は1.6haに11,000本という高密植の畑となっている。頁岩(けつがん)と鉄を含む保水性の高い粘土質土壌、凝縮度を高める高密植、暑すぎず寒すぎない程よいミクロ気候、はっきりとした構造とアロマティックな性質が特徴的なディジョンクローン、全房50%でソフトな抽出をする Peter-Allan Finlayson (Finlayson家の三代目)の手法は、見事な透明感と共にワインに反映されている。フローラルかつスパイシーなアロマ、柔軟さと剛健さが同居した複雑な構造、力強い核となる豊かな酸、滑らかなテクスチャーは、 ブルゴーニュ至高のグラン・クリュであるミュジニーすら想起させるような性質 を持っている。 ©︎WOSA Saurwein, Nom Pinot Noir 2019 Elandskloofは内陸のOverberg内にある小地区。 標高600mを超える花崗岩の多い高地 に広がる葡萄畑の多くは、かつては リンゴ畑 だった。近年では、南アを代表する造り手である Mullineux(マリヌー) 夫妻のプロジェクトの一つ Leeu Passant(リーウ・パッサン) がElandskloofのシャルドネでワインを手掛けており、 冷涼気候に適した葡萄の産地として、非常に高い期待が集まっている 。 ©︎WOSA 2015年設立という若いワイナリーである Saurwein(サワーヴァイン) では、CrystallumのPeter-Allanの父でもあるPeter Finlaysonの元でマーケティングを担当しながらワイン造りを学んだ Jessica Saurwein (Saurwein=酸っぱいワイン、という奇妙なファミリーネームは、彼女のファミリーがルーツであるオーストリアで、酸っぱいワインを造っていたことに由来する)が、Elandskloofの標高700m(南アにおける葡萄畑の最高標高に限りなく近い)に位置する畑から、 新人であることを疑ってしまうほどの、極めて高い完成度を誇るワイン を手掛けている。冬には雪が積もることもあるほどの冷涼気候、周りを山に囲まれているが故の日照時間の少なさと、昼夜の寒暖差の大きさは、Elandskloofのテロワールを明らかに特異なものにしている。 短い日照時間はライトな色調を、冷涼なミクロ気候は堅牢なタンニンと充実したフェノールを、大きな寒暖差はヴィヴィッドな酸をもたらし、13.5%というライトタッチのボディを、鮮やかに彩っている。オレンジやスミレのタッチが可憐な飛翔感のあるアロマも、蠱惑(こわく)的な魅力を放っている。 ©︎WOSA テロワールの声 Crystallumが手がける標高300m近辺のRidge、Saurweinが手がける標高700m近辺のElandskloofのワインは、造り手のスタイルの違い(新樽比率は共に25%で熟成期間も1ヶ月しか違わないが、Crystallumの方が浸漬期間が長く、Saurweinの方が全房比率が低い)を鑑みても、 明らかに異なるテロワールが宿ったワイン だと断言できる。たった30年のピノ・ノワールへのチャレンジで、既にこれほどまで明確にテロワールが宿っていることが、どれだけ稀有なことなのか、長年ニューワールドワインを追いかけているファンであれば、驚くことだろう。それを可能のしたのはやはり、ワイン産地としては完全な「僻地」でもある南アフリカの、 自らの個性を尊重し、海外の知見を自らのフィルターにかけながら、冷静に必要なものだけ取り入れることができるカルチャー だろう。 花開くポテンシャル 本記事のテーマは、 南アのピノ・ノワールは本当に注目に値するのか 、であるが、その点については、 もはや疑い用が無いほど南アのピノ・ノワールは優れている 、と回答しておく。むしろ、優れている、という表現では不十分だ。その品質は既に、アメリカのカリフォルニアやオレゴン、ニュージーランドのワイパラ・ヴァレーやセントラル・オタゴ、オーストラリアのヴィクトリアやマセドン・レンジズの 最上位レベルと比肩する領域 に達しており、今後葡萄の樹齢が高くなれば、ブルゴーニュすら脅かす可能性を秘めている。 つまり、 南アはピノ・ノワールの最高品質産地として、世界のワインマップに堂々とその名を刻むべきである 、ということだ。

  • 埋もれた可能性の発掘

    今回 フォリアス・デ・バコ 、または造り手である ティアゴ・サンパイオ のことを書こうと考え始めたが、つくづく簡単には語れない面白い生産者である。 ポートワインの生産で有名な ドウロ の中で、 ポート用のぶどうとして考えるなら最悪のテロワール 。代々引き継がれた畑は、ポート用のぶどう生産のメッカたるドウロ川とその支流から遠く離れた、 標高の高く涼しい場所 にあり、熟度が重要視されるポート用としては二束三文でしか売れない。 今ではこの国の「ヴァンナチュール」を代表する造り手として、今年にはポルトガルを代表するワイン雑誌で、数ある生産者の中からEnólogo Revelação do Ano(ワインメーカー・オブ・ザ・イヤー)にまで選ばれたティアゴだが、今では彼のキュヴェの中でも人気となった、アルヴァリーニョやモスカテル、ラビガトなどの白品種に力を入れ始めた頃には、周りの生産者から「白なんて作ってどうするんだ」と半ば呆れられたそうだ。腐っても、ではないが、やはり昔からのポートワインの産地である。昔からこの地域はモスカテル(マスカット)の栽培では有名だったが、それもMoscatel do Douroという、モスカテルから造る酒精強化ワインのため。 スティルワインの可能性なんて誰も考えていなかったのだ 。 適地適品種 と言われるが、産地の気候的/土壌的条件と品種特性が合致した時に優れたぶどうが出来る。とはいえそれだけではダイヤの原石に過ぎない。そこにワインメーカーを始めとした人の手がどう加わるのかによって、出来上がるワインが輝かしく光るのかどうかを決定的に左右する。その点において、ティアゴは慧眼があったのだろう。 誰も見向きもしなかった産地と品種を使い、今まで誰も意識していなかった可能性を見出した 。結果としてワインメーカー・オブ・ザ・イヤーとして選ばれたことはそのことを如実に表していると思う。 生産者: Folias de Baco / フォリアス・デ・バコ ワイン名:UIVO Pinot Noir / ウィヴォ ピノ・ノワール 葡萄品種 :Pinot Noir / ピノ・ノワール ワインタイプ :赤ワイン 生産国 :ポルトガル 生産地 :Douro / ドウロ ヴィンテージ :2015 インポーター :BMO 参考小売価格 :¥4,600 さて、そんな彼のピノ・ノワールである。 いうまでもなく、ドウロに昔からあった品種ではない。オレゴンで5年間ワインの勉強をした彼が植えた品種である。暑いドウロでピノ?と思われるかもしれないが、昨今のドウロではピノ・ノワールに限らずリースリングなどでもこういったピンポイントで冷涼な場所で成功例があるので(ラインガウを思い出すような素晴らしい品質のものも!)、栽培自体は今ではそれほど違和感はない。 それがクローンによるものなのか醸造によるものなのか、どこかオレゴンを思わせるやや黒系のフルーツと全房由来の僅かにスパイシーな香り。やや強めのタンニンと深い味わいはこの産地のピノ・ノワールに対する可能性がどれほどあるのかを、端的に知らしめてくれる。 ぱっ、と頭に浮かんだのは南部チリのピノ・ノワール。こちらも冷涼かつピノ・ノワールの適地として昨今注目度が上がっている地域だが、ティアゴに飲んでもらったら何と言うだろうか。個人的に惜しむべくはドウロのピノの生産者は未だ片手で足りるほどしかおらず、ひとり試行錯誤の中にあるのではということだ。オレゴンではなくブルゴーニュやニュージーランド、またはシュペートブルグンダー(*1)を範にしたらどのようなピノ・ノワールになるのだろうか。歴史ある産地であるドウロだが、ポートの生産が長く、スティルワインの可能性が探求され始めたのはほんのこの20~30年だ。この産地の埋もれた可能性を探すワイン造りは、まだまだ始まったばかりである。 (*1)シュペートブルグンダー:ドイツにおけるピノ・ノワールの別名 <プロフィール> 別府 岳則 / Takenori Beppu AWMB認定オーストリアワイン大使(ゴールド) ポートワイン・コンフラリア(ポートワイン騎士団)カヴァレイロ(騎士) アカデミー・デュ・ヴァン講師 都内ポルトガル料理レストラン、インポーターを経て現職。ポルトガルとポルトガルワインに15年以上前から魅せられ、渡航歴は10回以上。ポルトガル各産地を回り、TOP10 Portuguese Wine (Essencia do VInho)やBest of Vinho Verdeなどの現地コンクールでも海外審査員として度々招聘されている。興味対象も業務対象もポルトガルに留まらず、世界中のワイン生産者とワインを飲みながら話すのが一番の楽しみ。

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